33話 天敵
表情には出さず、俺は紫との再会で盛大な舌打ちをしたい気分になった。
一応、血が繋がった兄妹ではあるが、俺と紫の顔は微塵も似た要素がねぇ。
平凡を絵に描いたような俺と違い、両親の良質遺伝子すべてを引き継いだ紫はかなりの美少女だ。
家族の贔屓目抜きにな。そもそも俺、家族と仲悪ぃから、贔屓のしようがねぇし。
ジャンル的には、残念先生と同じ感じのクール系。全体的にきりっとしたメリハリのある顔立ちは、男子はもちろん女子からの好感度が圧倒的に高い、そうだ。
切れ長で格好いいと取るか、目つきが悪ぃと取るかは人それぞれだろう。異世界生活で荒んでんのか、心なしか前より目つきが悪ぃ気がする。
他に特徴的なのは、紫が歩く度に揺れる、うなじあたりで結んだ、いわゆる一本結びだな。よーわからんが、昔から髪の毛を伸ばしていて、手入れが大変そうだとつくづく思う。さすがに貞子よりは短いが。
身長は俺のちょい下くらいで、女子にしてはまあまあ高め。160そこそこだったか? スタイルも普段から気を使ってんのか、モデル並の細いシルエットをしている。胸も。
俺と違って成績も優秀だそうで、中学では学年十位以内には確実に食い込む学力だったんだと。
高校が俺と同じなのは、うちに私立に行かせる金がなかっただけ。俺さえいなけりゃ紫を私立に行かせられたのに、というのが毎日両親から聞かされる恨み言だ。知らんがな。働け大人。
運動も得意で、確か中学二年生から空手部の主将を張ってた実力だったそうだ。
紫についての情報が全部伝聞口調なのは、小うるせぇ両親から聞かされたからだよ。俺自身にゃ、紫のことなんて微塵も興味ねぇから、知りたいとも思わなかったしな。
で、今まで俺が遭遇した『異世界人』はやや魔法使い寄りの装いが多かったが、紫はかなり軽装だ。
この城の兵士や騎士と比べれば薄い装甲の胸当てに、皮っぽいブーツと手甲。後は現地服っぽい半袖半ズボンの、かなり薄手な格好だった。
典型的な前衛タイプの職業だろうな。
見て呉れからして、格闘家関連。紫の格闘技経験を考えれば、空手に類する徒手空拳か。
ゲームイメージ的には、手数で押すタイプの速攻アタッカーだな。筋力よりも俊敏にステータスが割り振られ、スキルも連撃やコンボ数を伸ばすのが多そうだ。
何が言いたいのかって?
俺への心証としても戦闘スタイルとしても、完全に天敵だっつうことだよ。
「何が『げ』よ? それはこっちの台詞だし。今まで全然姿を現さなかったと思ったら、ろくな装備もなしに学生服でフラフラしてんのなんて、あんたくらいじゃないの? 恥ずかしくないの? 死ねば?」
俺からしたらお前らみてぇにファンタジー感あふれるコスプレしてる方が恥ずかしいんだがな。
ま、こいつが言いてぇのは『みんなに合わせなくて恥ずかしくないのか?』ってことだから、そういう話じゃねぇのはわかってる。
こいつ、容姿も成績もいいから周りからちやほやされることに慣れてる上、人からどう見られてるのかをかなり気にするタイプだからな。
俺が紫から嫌われてんのは、俺の存在が紫の評価を下げかねねぇからだろうし。
えー? 紫の兄貴って、いじめられてんのー? ウケルー!
ってのがどうしても許せんらしい。
知らんがな。
「おいおい、久しぶりに会った家族に対して、死ねはねぇだろ? この世界じゃわりかし洒落になんねぇぞ、その台詞?」
「は? 誰と誰が家族なわけ? あんたは名字が一緒なだけの他人でしょ? それに、洒落や冗談で言うわけないじゃん。私だって、この世界にきてから、その言葉の重みは知ってるつもりだし」
なら俺に軽々しく使ってんのはどういう了見だ、あ?
しっかし、認めたくはねぇが、見た目も境遇も真反対だが、俺らは結局血の繋がった似たもの兄妹ってことか。
何せ、お互いにお互いを家族だなんて認めてねぇんだもんな。
俺と紫の関係は、この世界の奴らとはちょい違うが、殺伐感は負けてねぇと思う。
「あー、そうかい。んで? そういうお前は何してんだよ? こっちにゃお前の部屋はねぇだろ?」
俺の服装に関してや、『死ね』発言を軽くスルーし、俺は呆れながら紫に聞いてみた。
俺の牢屋は地下にあるんだが、『異世界人』にあてがわれた部屋は二階以上の階にある。何日も城ん中を散策して得られた、確かな情報だ。
で、紫の進行方向にゃ上階へ行く階段はねぇ。一応、いけねぇことはねぇけど大分遠回りになる。
他の『異世界人』は『気配察知』からして、真っ直ぐ階段の方に向かってんだがな。この先にあるもんと言えば、『異世界人』用の勉強部屋か訓練場くらいだぞ?
「別に。教室に忘れ物したから、取りにきただけだし。ってか、何? 私の部屋とか覚えてんの? マジでキモいんだけど……」
ちっ! っつうことは、完璧偶然に出会っちまった、ってことか。
運が悪ぃ。1しかねぇ運は伊達じゃねぇな。
いくら『気配察知』や『魔力察知』があっても、どの反応が誰に当たるのかまではわかんねぇ。
察知系のスキルは、ざっくりとあっちらへんにどんだけの生物、魔力がある、ってだけしかわかんねぇからな。特定の誰かを避けるなんてできるはずがねぇ。
一方で、【普通】によるレーダーはというと、相手が俺を意識してくんなきゃ発動しねぇ。
今は紫が俺への嫌悪か敵意で反応してるが、俺に気づくまでは一切反応なかったしな。不意の遭遇に弱いってのは、【普通】の弱点かもしんねぇな。
ちなみに、こいつ個人の部屋なんざ知らねぇよ。調べる気もねぇし。自意識過剰は相変わらずかよ、鬱陶しい。
「そういうことかよ。だったらさっさと行けばいいじゃねぇか。俺だって自分の部屋に戻るとこだし、さっさとお互いの視界から消えようや。そう長々と顔を合わせたいと思ってねぇだろ?」
「ふん。言われなくてもそうするし。あと、あんま近づかないでよね。バカが伝染るから」
バカは空気感染しねぇっつーの。
ってか、誰がバカだ。
これでもインテリ系のスキルは結構持ってんだぞ、俺?
「へいへい。じゃあな、紫。今後は顔を合わせねぇことを祈るよ」
こいつの際限のねぇ悪口に付き合ってたら日が暮れちまう。
ここは適当にあしらってスルーするのが正解だ。
ったく、誰に似たんだよ、この口の悪さは? ちょっとは俺の品行方正さを見習えよな。
ほんと、俺と正反対な奴だよ。
ま、こいつの悪口は俺限定で、他の奴らには人当たりのいい八方美人で通ってるらしいがな。
「そっちこそ。今度からは私の視界に許可なく入ってこないでよね。ほんと、死ねばいいのに」
どうやって事前に許可を得ろってんだよ不可能なことを言うんじゃねぇよバカなのか?
それに、また『死ね』っつったな。
マジでその言葉の意味が分かって使ってんのかよ、このボケナス。
何度か死にかけた俺に対して使うにゃ、お前の言葉は軽いんだよ。
いっぺん死にかけてから出直してこいや。
「ああ、最後にもう一つ」
終始しかめ面で会話を交わし、ようやくお互いすれ違って距離が離れたところで、紫がぽつりと呟いた。
「あ? 一体なん……」
今度はどんな罵倒が飛んでくるんだ? なんて辟易しながら、俺は足を止めて背後を振り返った。
(っ!!!!)
その瞬間。
俺の【普通】が。
今までにないほどの。
強烈な『異常』を俺に訴えかけてきた。
「な…………っ!?」
そして。
振り返った。
その先に。
紫の姿はなく。
代わりにあったのは。
あいつの。
すらりと伸びた。
凶器だった。
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名前:平渚
LV:1
種族:日本人▼
適正職業:なし
状態:【普通】▼
生命力:1/1【固定】
魔力:0/0【固定】
筋力:1【固定】
耐久力:1【固定】
知力:1【固定】
俊敏:1【固定】
運:1【固定】
保有スキル【固定】
【普通】
『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV10』『詐術LV10』『不屈LV10』『未来予知LV10』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV10』『究理LV10』『限界突破LV10』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV10』『省活力LV10』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV10』『過負荷LV10』『失望LV10』『弁駁LV10』『気配察知LV8』『魔力察知LV8』『歓喜LV10』『抱腹絶倒LV10』『安堵LV10』『教授LV10』『慟哭LV10』『怠惰LV10』『沈鬱LV10』『共感LV10』
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