32話 望まぬ再会
貞子とよくわからん時間を過ごしてから、一ヶ月が経過した。
すなわち、異世界召喚五ヶ月目に突入したわけだ。
すっかり鬱気分も吹き飛んだ俺は、より一層精力的に活動するようになった。
といっても、肉体訓練の方向じゃねぇ。
より貪欲に、この世界の知識を求めるようになったんだ。
今までは、この国を脱出する手段として、直接的な『力』を求めてきた。
が、『種族』に『異世界人』が追加された俺は、無理にステータスの強さを求める必要性がなくなった。
よって、俺が検討しなければならないのは、この国を脱出し、それ以降も生活するための『計画』だ。
それには膨大な知識が必要になる。
今ではもう懐かしい、自称貴族の下っ端と出会った図書館の知識じゃ、脱出はできても今後の生活に不安が残る。
俺の出自は特殊だ。出来損ないとはいえ『異世界人』という立場は、大なり小なり争いに巻き込まれるだろう。
魔王への戦力としての役目が終われば、魔物の掃除屋みてぇな雑用。果ては人同士の戦争の道具にさせられてもおかしくねぇ。
俺らがやられかけた、『契約魔法(仮)』みてぇな存在もあるんだ。
どこにどんな脅威があるのかを知らねぇことには、平穏なんざ夢のまた夢。
だから、今のままじゃ知識が全然足りねぇと思ったわけだ。
というわけで、俺は『異世界人』捜索に充てていた時間も、訓練で汗を流していた時間も、すべて知識の探求に費やすようになった。
具体的には、王城内にあった『禁書庫』を漁っている。
その場所を見つけたのはたまたまだ。
『異世界人』を探してあっちこっちをフラフラしていた時に、いかにもな怪しい場所にあった部屋なんだな。
俺の牢屋があるような地下に存在し、いかにもな感じで鍵がかかっていた。
ダメもとでメイドに頼んでみたら、すんなり開けてくれたのは嬉しい誤算だった。
おそらく、この城の中にいる奴らも『禁書庫』の中身がどんなものか把握してねぇから、重要性が理解できてねぇんだろう。
もしくは、扉の上に書かれていた『禁書庫』の文字が読めなかったか、だな。
扉の枠の上にあった石材の一つに、すっげぇ古い文字で書かれてたんだが、俺が調べた限りイガルト語圏の言語じゃなかった。
何にせよ、城にある書庫のネームプレートの文字を、貴族出身だろうメイドが読めてねぇ時点で、ここがクソ王が所有していた城という信憑性が減ったわけだ。
これでまた一つ、この城がイガルト人のものではなかったという根拠になる。地に落ちたイガルト人への好感度が、また一つ下がったな。
それはさておき。
『禁書庫』の中にあったのは、おっそろしく古い本ばかりだった。物質を保存する魔法でもかけられてたのか、持っただけで崩れ落ちる、みたいなことにはならなかったが。
で、中身を開いてみると、案の定、初見じゃ内容はさっぱりわからなかった。
おおよその言語体系は理解できるんだが、全部俺の知ってる言語の古語みたいな扱いらしい。
日本語で言えば、あれだ。『平家物語』とか『源氏物語』とかで使われている、やんごとない言葉だ。
そうなりゃ当然、現代語と同じ音の言葉でも、意味がまるっきり違う可能性もある。教科書みてぇに現代語訳がねぇ原本じゃ、解読まで相当かかりそうだな。
ってわけで、俺の最近の時間の過ごし方は、もっぱら脳内での古書解読だ。
『禁書庫』の中には一回しか入ってねぇが、そん時に本の中身は全部覚えた。
後は、普通の図書館の中にあった本の解読と同じ要領で、『高速思考』と『並列思考』と『究理』先生をフル活用して解読作業に当たっている。
この城本来の持ち主だった人種は優秀だったのか、『禁書』と呼ばれる本の蔵書量でも結構あった。
中にはぱっと見で同じ言語が使われてるだろう、別の内容が書かれた本も存在していたから、同じ形の文字を比較検討することで大まかな意訳ができそうだ。
俺の目的を考えると、現代の生きている知識の優先度が高かったんだが、これ以上の情報が得られそうなところが、そこしかなかったんだよ。
まあ、これだけ古い記述だ。もしかしたらクソ王たちがやってのけた、『勇者召喚』の魔法が記載された本があったのかもしんねぇし、それ以上の脅威な魔法が残ってるかもしんねぇ。全部が無駄にはなんねぇだろう。
ってわけで、今日も今日とて、すでに王族が使うだろう隠し通路まで把握した王城内をお散歩中だ。
なんでんなもんまで? って思っただろうが、【普通】の察知する『異常』って、隠し通路にも適用したらしく、その近くを歩くだけで壁の中の空間とかわかっちまったんだよ。
あれだ。不可抗力だ、不可抗力。
俺的、王城散策のあるあるネタだ。
それはそれとして、イガルト人には、今の俺は勉強も訓練もしねぇクソ野郎に見えていることだろう。
ふふん。精々侮っていればいいさ。
能ある高は爪を隠す、っていうしな。
俺は、何も考えていねぇような格好で歩いているが、水面下で爪を研ぎまくってんだよ。
証拠に、『気配察知』と『魔力察知』のスキルもレベルが上がり、この調子で行けばレベルマックスも夢じゃねぇ。
新規スキルはねぇが、もう焦る必要もねぇんだ。
もらえたら儲け物、程度の認識だ。
あ、あと、一ヶ月前にスキルアナウンスを聞いてぶっ倒れた後、改めて『異世界人』のステータスは確認したぞ。
その値を見て、そして実際にその力を感じて、マジでホロリときちまったよ。
『異世界人』、恵まれすぎだろ。
んで、『日本人』、カスすぎだろ。
そう、しみじみ思って目から汗が流れるくらいには、嬉しかったなぁ……。
とはいえ、クソ王が俺を捨てるように誘導するためには、この国にいる限りは『異世界人』のステータスは使えねぇ。
少しでも俺が有益だと思われると、物理的に囲い込まれる可能性がある。
クソ王のことだ。
俺に力があるとわかれば、あっさり手のひら返しをしてごますりをし、逃げないように俺への監視を増やし、『契約魔法(仮)』で奴隷化させようとするだろう。
んなことは死んでもごめんだ。
だから、余程のことがねぇ限り、俺がイガルト王国内で『異世界人』になることはねぇ。
今も『種族』は『日本人』だしな。
少なくとも『異世界人』の俺は魔力がある。
ずっと魔力が0だった俺が、魔力を放つのは明らかに怪しまれる。
下手に『異世界人』でいることで、魔力を感知されると厄介だからな。
最低でもこの城から抜け出し、監視の目がなくなるまでは、『日本人』で押し通すしかねぇ。
ただでさえ、俺は少し目立ってきてるんだ。
貞子の【結界】について教えてから、俺への監視が五人に増えてんのがその証拠。
理由は大体予想できる。
おそらく、俺がユニークスキルを教えた奴らが、『異世界人』の中でも実力を伸ばしてきたんだろう。
そいつらに劇的な変化が起こる前には、必ず俺と接触したという共通点が判明している。
だったら、クソ王が俺の【普通】に『異世界人の力を引き出す力がある』と予想したとしてもおかしくねぇ。
イコール、俺単体は生意気でクズなハズレ扱いでも、『異世界人』相手のドーピングアイテムとしたら有益だと思われてる可能性がある。
極力、『異世界人』への情報提供はバカを演じた偶然の気づきを装っちゃいたが、三度も続けばさすがに怪しまれるか。
これからは、あまり『異世界人』と接触しても、助言みてぇなことはしねぇ方がよさそうだ。
ただでさえ、『異世界人』遭遇パターンである一ヶ月周期の節目にきてんだ。
俺の目的のためにも、警戒しすぎることに越したことはねぇ。
「ふんふんふ~ん♪」
ってなことを『並列思考』領域の1%で考えつつ、残りの領域で古書の解読をしていた俺は、鼻歌交じりに王城の廊下を歩き続けた。
時刻はおおよそ夕方頃。
朝からずっと歩き回ってたから、そろそろ足が痛ぇ。
それに、感覚的に『異世界人』の戦闘訓練も終わるくらいの時間帯だ。
動き回って察知系のスキルを全開にしてると、『異世界人』の行動パターンもわかるようになった。
『異世界人』が訓練を終えるのは午後六時頃。
で、察知系スキルで捉えた訓練場にいた人間が移動を開始している。
っつうことは、今が午後六時頃だな。
そろそろ、時間稼ぎも潮時か。
『異世界人』に遭遇しないよう、さっさと自分の牢屋に戻ることにしよう。
「あ」
「ん?」
そう思って、進行方向を百八十度変えた矢先だった。
「何してんの、渚?」
「げ」
目の前にいたのは、またしても女。
しかし、今までの『異世界人』とは、ちょっと違う。
何故なら。
俺を呼び捨てにしやがったソイツは。
俺の知り合いで。
俺の妹で。
俺の天敵。
平紫。
その人だったのだから。
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名前:平渚
LV:1
種族:日本人▼
適正職業:なし
状態:【普通】▼
生命力:1/1【固定】
魔力:0/0【固定】
筋力:1【固定】
耐久力:1【固定】
知力:1【固定】
俊敏:1【固定】
運:1【固定】
保有スキル【固定】
【普通】
『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV10』『詐術LV10』『不屈LV10』『未来予知LV10』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV10』『究理LV10』『限界突破LV10』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV10』『省活力LV10』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV10』『過負荷LV10』『失望LV10』『弁駁LV10』『気配察知LV8』『魔力察知LV8』『歓喜LV10』『抱腹絶倒LV10』『安堵LV10』『教授LV10』『慟哭LV10』『怠惰LV10』『沈鬱LV10』『共感LV10』
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