27話 予期せぬ出会い
残念先生との遭遇からまた一ヶ月。異世界召喚から四ヶ月が経った。
経験上は、そろそろ次の『異世界人』と遭遇する時期になる。
改めて思えば、なんだこのルーティーン? 誰か陰でセッティングしてんじゃねぇだろうな? 変な作為を感じるぞ?
まあ、それはいいや。
この一ヶ月で変わったことと言えば、いくつかのスキルが上がったことくらいだな。
『解析』はステータスチェック、『詐術』はクソ王や『異世界人』側に見せる演技、『完全記憶』と『究理』は暇つぶしで多用するようになったから、もうすぐでレベルがカンストする。
特に上がりやすかったのは『未来予知』だったな。
っつうのも、最近俺、ネガティブな予想がとまらねぇんだよなぁ……。
一ヶ月前に気づいた【普通】の特性で、ステータスの脆弱性が判明してから、本当にこの世界を生きていけるのか? っつう不安が強くなってんだよ。
だってそうだろ?
どれだけ鍛えたところでステータスの上昇は期待できず。
新しく覚えるスキルは基本的に直接的な攻撃にも防御にもならねぇ。
中には使えば行動不能になるもんまである始末。
この状態が続いたと仮定してシミュレーションしてみっと、十中八九死ぬよな、俺?
ステータスが低いままだと、着の身着のまま放り出されりゃ魔物に襲われて死ぬ。
町の外に出なくとも、まず働くことができるかどうかも怪しい。
その上自衛できるスキルがないままだと、ステータス差で一般人にすら怯えて生きてかなきゃならなくなる。
下手すりゃ相手に悪意があって肩と肩がぶつかった瞬間、俺だけ交通事故みてぇに死んじまうかもしんねぇんだからな。
一応、『過負荷』の影響で上がった『麻痺』で多少痛覚は誤魔化せっし、【普通】を解除している間に鍛えた『気配察知』と『魔力察知』で人の気配には少し敏感にはなった。
が、そんなもん問題の根本の解決になってねぇし、何の慰めにもなってねぇ。
この頃はまた平坦な生活パターンになっちまったから、新規スキルを覚える兆しもねぇし、ステータスの値も変化なし。
当初は俺に唯一あったチートっぽいところとして、スキル取得の早さがあった。それを見越して、もっと使えるスキルがたくさん取得できて、低ステータスでも生き残れる抜け道が見つかるかもしんねぇ、と思ってた。
だが、ここにきてそれも頭打ちになりつつある。
取得するスキルといえば、ほとんどが感情に由来したスキルであり、内容もほぼバステ。
また、有用なスキルもカンストした後で上級スキルになる感じもなく、レベル10から変化はない。
言っちまえば、スキルだけが俺の生きる希望だったんだが、それすらも失った気がしている。
このまま無為に時間を過ごしちまえば、『契約魔法(仮)』が切れたその時点が俺のタイムリミットに思えてならねぇ。
何より、そんな暗い予想をしていって『未来予知』のレベルが上がってんだ。すなわち、俺の予想はかなり高い確率で当たってる、ってことになる。
これ、スキルから『あんた死ぬよ!』って言われてるようなもんだよな?
六星占術のあの人に言われるよりも、ずしっとくるわ。
「……はぁ」
そんな感じで、俺は最近めっきり気分が落ち込んでいる。
勉強の時間とか、寝る前の時間とかは特にそうだ。
読む本もなくなり、一人で真っ暗な部屋にぽつんといると、考えるのは自分の将来のことだけ。
下手に『高速思考』とか『並列思考』とか『未来予知』なんてスキルもあるもんだから、何パターンもの死に方が想像できるのが余計にキツい。
それでも死にたくねぇから、ステータスを少しでも上げるために肉体訓練には積極的になった。
考える時間をなくすために、本来勉強の時間とか日記を書いた後とかにも、体を動かすようになったくらいだ。
変に落ち込んだりするよか、頭を空っぽにしてステータスの上昇を図った方がいいだろ?
まあ、それでもステータスに変化はねぇから、落ち込むことに変わりはねぇんだが。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
で、今日も今日とて一人しかいない訓練場で運動をしている。
運動で気を紛らわせるようになってからは、日本人捜索もしなくなった。なんか色々動いたところで、無駄なんじゃねぇかと思えるようになっちまったしな。
だから、ってわけじゃねぇが、今日は午前中からずっと訓練場で走り回っている。
半ば自棄を起こしてた俺は、『省活力』でせこせこ貯めたエネルギーも発散しながら、ゆっくりとした速度でランニングを続ける。
何も実らない日々。
何も見えない日々。
何もかもが無駄になる日々。
目の前に広がるのは、俺にあてがわれた牢屋よりも真っ暗な世界しかなかった。
「はっ、はっ、は、っ、あぁ!?」
大分センチメンタルな気分になり、空を見上げながら走っていたからだろう。
気づけば俺は、ランニングコースを思いっきり外れ、訓練場の隅の方へと足を向けていた。
で、機械的に足を前へ運ぶことだけになっていたためか。
俺は右足を前に出したところで、盛大に何かにつまづいた。
「ってぇ!」
なんかでっかい箱を蹴飛ばしたような感触を覚え、そのままバランスを崩して前に転倒しちまった。
「いてて……」
スピードが出てなかったから、ほぼその場に倒れた形になり、身体を持ち上げる。見ると、もう少しで訓練場の壁に顔面から突っ込むところだった。
これはさすがに、いくらなんでも注意力散漫すぎるか。
こんなんじゃ、『契約魔法(仮)』が終わる前に死んじまうかもな。
「はぁ…………、ん?」
またネガティブな考え方になりつつ、ゆっくり立ち上がった俺は、結局何につまずいたのか確認するために後ろを振り返った。
「ぐずっ! ふうぅぅぅ、ひっぐ! えぐっ、うえぇぇぇ……」
すると、なんかいた。
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名前:平渚
LV:1【固定】
種族:日本人▼
適正職業:なし
状態:【普通】▼
生命力:1/1【固定】
魔力:0/0【固定】
筋力:1【固定】
耐久力:1【固定】
知力:1【固定】
俊敏:1【固定】
運:1【固定】
保有スキル【固定】
【普通】
『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV9』『詐術LV9』『不屈LV10』『未来予知LV8』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV9』『究理LV9』『限界突破LV10』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV10』『省活力LV10』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV8』『過負荷LV10』『失望LV10』『弁駁LV10』『気配察知LV5』『魔力察知LV5』『歓喜LV10』『抱腹絶倒LV10』『安堵LV10』『教授LV10』
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