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25話 スキル調査その7

 訓練を終え、日課の書き物を終わらせた後で、俺は今日の出来事を思い出していた。


 ……俺、体力ねぇなぁ。


 いやいや、違う違う、そっちじゃなかった。


 変に力入った訓練の倒れた後が地獄過ぎて、その前の印象が薄くなっちまってたよ。危ねぇ危ねぇ。


 改めて思い出すのは、残念先生が最後に見せた、真っ青の表情。


 ありゃ、戦う覚悟がなかった目だ。


 俺が出会った日本人、会長やチビも抱いていた戦意が、全く感じられなかったのもその証拠。


 おそらく、適正職業が後方支援だったから、戦う場所には出なくていいと考えてたんだろう。ユニークスキルを持っててもそう思っちまうくらい、あの先生は人と争うことを忌避(きひ)していたんだろうな。


 甘い。


 クソ王がそんな(ぬる)いことを考えているわけがない。


 後方支援は名目で、どうせこの国の連中の兵士よりは前線に立たされることは確定しているはずだ。


 そうなった時、戦闘訓練を何もしてなかったら、残念先生は死んでただろうな。


 そうはさせるか。


 クソ王の思惑も、残念先生の死に方も。


 俺の気に食わねぇことは、可能な範囲で邪魔してやる。


 それが俺にできる、せめてもの抵抗だ。


 惨めで、ちっぽけで、みっともねぇ悪足掻(わるあが)きだが、な。


 ちなみに、俺が残念先生のユニークスキルである【再生】の言葉について、何であんなに知ってたのかというと、俺が取得した『究理』()()のおかげだ。


====================

『究理』

 未知なる知識を開拓する。レベルにより情報処理速度が上昇する。LV1につき10%処理速度が上昇する。任意で解除可能。未知の情報に対する理解力、記憶力、発想力に補正がかかる。ただし、未知の情報における関与は基礎知識が不可欠。既知の情報に対する派生知識を引用可能。

====================


 これは『解析』さんのレベルが上がり、情報量が増えた『究理』先生の説明だ。


 まあ色々と説明が()っているが、重要なのが最後の一文だ。


 ざっくり説明すると、俺が知っている概念の意味を、俺が知らない範囲も理解できる、っつうこと。


 ま、要するに、『究理』先生は一種の辞書としての性質があった、ってことだ。


 この効果は『解析』さんがレベルアップし、増えた説明を参考に『究理』先生を意識して使って発覚した。


 最初は『解析』さんの説明の意味が分からなかったが、実際に使用したらまー便利なこと。


 なんたって、『究理』先生における『既知』ってのは、その存在の大枠さえ知っていれば、その全部の範囲を『派生知識』として仕入れることができるんだぜ?


 例えば、俺は『日本語』という概念を知っている。ひらがな、カタカナ、漢字、和製英語などなど、それら全部をひっくるめた『日本語』っつう概念だ。


 それが『究理』先生を通して『日本語』の『派生知識』を引用すると、国語辞典みてぇに単語の一つ一つの意味を知ることができるようになった。俺が残念先生に説明した【再生】も、この辞書機能で検索したらヒットしたんだよ。


 それだけじゃなく、『日本語』の『派生知識』は類語辞典や対義語辞典、四字熟語辞典なんかにも対応している。


 さらにさらに、古語辞典や漢語辞典、果ては和英辞典とかの外国語の翻訳辞書にまで対応している、グー〇ル先生並の高性能さだ。


 おまけに、『日本語』の『派生知識』で和英翻訳をし、英単語を一文字でも認識したら『英語』も『既知』の知識としてカウントされる。


 ってわけで、『究理』先生は理論上、時間さえかければ芋蔓(いもづる)式に知識を増やすことができ、この世界だけでなく地球に存在する知識をも掌握することができる優良スキルだったんだ。


 もちろん、制約もある。


『究理』先生の知識は、あくまで辞書的なものであり、俺が知りたい知識を選んで調べ直さなきゃいけねぇこと。


 知識の調査速度はレベルで上がる処理速度に依存するんだが、元が俺の不出来な頭だからかなりの時間がかかること。それも、『高速思考』と『並列思考』を併用しても、簡単な単語でさえ数分以上必要なんだから相当だ。


 まあ、少しは意味を知ってたら時間短縮になるみてぇで、【再生】の検索もまあまあ早かった。あの大喜利みてぇな問答も、『究理』先生の検索の時間稼ぎっつう意味でも必要だったんだよ。


 最後に、『究理』先生に備わった記憶力の補正は『記銘(きめい)』と『保持』にしかかかんねぇこと。さっき説明した記憶のメカニズムの内、知識を引き出すプロセスである『再生』に関しては自力で思い出さなきゃいけねぇ。


 これらが『究理』先生の問題点なんだが、三つ目の問題については『完全記憶』で解決している。


====================

『完全記憶』

 一度見たものを記憶する。レベルにより情報貯蔵量が増加する。LV1につき10%の記憶領域が拡張される。記憶した情報は意識操作でのみ削除可能。ただし、記憶容量を超えた情報が蓄積された場合、古い記憶から自動で削除される。任意で記憶貯蔵庫に接続・検索・閲覧が可能。接続・検索・閲覧の形式は使用者のイメージに依存する。

====================


『解析』さんの説明にゃごちゃごちゃ書いているが、簡単に纏めると『完全記憶』はオートデリート機能が付いた外付けハードディスクドライブ、って感じなんだな。


 このスキル、名前だけ見れば『記銘』と『保持』に特化したように見えたが、実際は記憶の検索や閲覧といった『再生』にも対応している素敵スキルだったんだ。


 その範囲は、俺が『完全記憶』を取得する以前も含んでいる。よって、地球にいた時の記憶も思い出すことができるようになった、ってわけだ。


 一応、他にも『弁駁(べんばく)』における記憶再生補助効果もあるが、『完全記憶』と比べると弱い。頼りは『完全記憶』の方しかねぇ。


 なんつったって、『弁駁(べんばく)』は他者を言い負かすときに力を発揮する、カウンタースキルだからな。自発行動にゃ補正が半減すんだよ。


 ま、検索機能がややポンコツで、思い出なんかの抽象的な記憶は探しにくいのと、初期の閲覧項目が時系列順になってんだけど、そっから知りたい記憶を探すのも結構大変、って欠点はあるけどな。


 が、そんなデメリットを補って余りある効果が、『完全記憶』にも備わってっから、問題にすらならねぇ。


 いやー、最初はふざけんなと思ったもんだが、わけわからん異世界語の原本を読んでてよかったぜ。


『究理』先生と『完全記憶』の黄金コンビには、今後『解析』さんと同様お世話になりそうだからな。


 足向けて寝れねぇよ、ホント。


「すぅ~、はぁ~……」


 と、俺のスキルに感謝を込めつつ、俺は最後の日課である【普通】の解除の準備をする。


 最近の【普通】解除のトレンドは『限界突破』と『過負荷』のレベル上昇だ。前者は訓練での筋肉痛、後者は『究理』先生と『完全記憶』の使いすぎだな。


『限界突破』は、まあいつも通りだ。それはいい。


 ただ、『過負荷』についてはちょっと考えがあり、『究理』先生と『完全記憶』を使い、日本で過ごしていた記憶を漁ることが多くなった。


 それが最近思いついた『ちょっとした暇つぶし』な。


 ただ、脳を酷使する二つのスキルの併用は結構な負担になってるようで、『過負荷』の経験値がどんどん上乗せされてる臭い。


 まあ、取得時は理不尽だったが、今の『過負荷』は必要経費だと考えている。


 だって、チビのタイミングで『過負荷』を取得しなくても、『究理』と『完全記憶』の多用が原因で、いずれ取得してただろうしな。


 ってわけで、暇つぶし兼小細工を思いついて、現在進行形で実践中なわけ。


 意味があんのかないのかは、そん時になってのお楽しみ、ってとこだな。


 今んところ、無駄になる確率が非常に高い、個人的な遊びみてぇなもんだけど。


 俺の気晴らしにはなってっから、全くの無駄じゃねぇ、って思っとくか。


 それはさておき。


 俺はすでに見慣れたクソ穴をのぞき込んで、目を閉じる。


 どうせ何かしらで苦しむんだ。


 一気にやろう。


 ほい、【普通】解除。


 カチリ。


 もう聞き飽きた脳内のスイッチが移動し、俺の【普通】が効力を無くす。


 で、しばらくは『冷徹』の効果時間内で、変化はねぇ。


 あ、今の『冷徹』はこんな感じだ。


====================

『冷徹』

 どんな状況でも冷徹になれる。レベルにより効果時間が延長される。LV1につき1秒の維持が可能。『冷徹』を阻害する、スキル以外の要因をある程度排除する。思考系スキル使用に補正がかかる。思考妨害系スキル耐性に補正がかかる。感情系スキル耐性に補正がかかる。

====================


『冷徹』の効果中は筋肉痛も頭痛も意識してねぇから、それらは『冷徹』の説明にある『スキル以外の要因』に含まれんだろう。


 今まで気づかなかったが、一ヶ月前の筋肉痛と頭痛が時間差できたのも、『冷徹』が抑えてくれていたからだったようだ。


 気づいてねぇだけで、俺って結構スキルに助けられてたんだなぁ。ちょっとしみじみするわ。


 ……っと、そろそろ時間だな。


 さぁこい! 今日の反動!!


「……ぶっ!!」


『冷徹』が終わり、俺の感情が正常に戻る。


 で、反動がきたは良いんだが…………、


「ぶっ、くくく「経験値が一定値を超えました。『解析』がLV8になります」くくくっ! ぶわぁっはっはっ「経験値が一定値を超えました。『不屈』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『未来予知』がLV6になります」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『完全記憶』がLV8になります」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『究理』がLV8になります」はっは!! はぁっ! ひっ! いひひひ「経験値が一定値を超えました。『限界突破』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」ひひひっ、あーっはっはっ「経験値が一定値を超えました。『悪食』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『省活力』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『麻痺』がLV7になります」はっはっ「経験値が一定値を超えました。『過負荷』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」はっは!!!! あ、やべ、これ、きつ……っ!! はっ、ははっ、あははははは「経験値が一定値を超えました。『気配察知』がLV4になります」ははははは「経験値が一定値を超えました。『魔力察知』がLV4になります」ははははは「条件が満たされました。スキル「喜びLV1」を取得します」ははははは「条件が満たされました。スキル「大笑LV1」を取得します」ははははは「条件が満たされました。スキル「安心LV1」を取得します」ははははは「条件が満たされました。スキル「解説LV1」を取得します」ははははは「条件が満たされました。スキル『歓喜LV1』を取得します。なお、「喜び」は『歓喜』に結合されました」ははははは「条件が満たされました。スキル『抱腹絶倒LV1』を取得します。なお、「大笑」は『抱腹絶倒』に結合されました」ははははは「条件が満たされました。スキル『安堵LV1』を取得します。なお、「安心」は『安堵』に結合されました」ははははは「条件が満たされました。スキル『教授LV1』を取得します。なお、「解説」は『教授』に結合されました」ははははは「経験値が一定値を超えました。『歓喜』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」ははははは「経験値が一定値を超えました。『抱腹絶倒』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」ははははは「経験値が一定値を超えました。『安堵』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」ははははは「経験値が一定値を超えました。『教授』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」ははははは!!!!!!!!!!」


 俺は二ヶ月前と同じように、クソ穴の前を転がり回った。


 一人で唐突にツボに入り、大笑いしながらな。


 色んなもんがくるのは予想してたけどよ、これはさすがに予想外だったわ。


 俺は妙に()えきっている『並列思考』領域で自分の痴態を客観視しつつ、わき上がる衝動に従って笑い転げていた。


 その裏で、『限界突破』をレベルマックスにした筋肉痛と、あっさりレベルマックスになった『過負荷』の頭痛も、きっちり復活している。


 が、新たに取得したスキルのせいか、激痛よりも強い笑いの波に支配された俺は、構わずその場で腹を抱えて笑っていた。


「ぶふっ! ふうっ! ふうっ! ふうっ! く、くくくくく……」


 あ~、だいたい一時間、ってところか?


 さすがに笑うことが辛くなってきたため、『冷徹』を使わずに理性で抑え込むため、息を整え出した。『冷徹』+【普通】じゃ、どうせ反動が強くなるだけだから、むしろ逆効果だしな。


 長時間笑いまくっていたせいで、訓練でもそこまで鍛えてなかった腹筋が痛ぇ。比喩表現じゃなくよじれるかと思ったぞ。


 加えて、笑うってことは相当体力を使う。


 日々消費する体力は『省活力』で誤魔化(ごまか)してたが、今ので一気に持って行かれた気分だ。自転車操業でやりくりしていた貯蓄分のエネルギーがすっからかんだよ、くそったれ。


 その上、俺は状況的に、無闇に気分を高揚させるわけにはいかねぇ。


 喜怒哀楽のプラス感情は心のゆとりを持てる反面、度が過ぎれば気の緩みや油断、集中力の欠如に繋がる。周りが敵だらけの現状、気を抜きすぎる感情に支配されるのは自殺行為だ。


 だから、他人から見たら愉快な姿なんだろうが、俺はかなり必死に感情を抑えようとしている。


【普通】を切っているため、イガルト王国側の密偵の動きは『気配察知』と『魔力察知』の弱ぇ反応でしか追えてねぇ。


 そいつらの存在を見失わまいと、理性を総動員して集中力を絞り出す。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」


 ようやく笑いが収まった頃には、俺の体力はほぼ尽きかけていた。


 ある意味、今までの反動の中で一番きつかったかもしんねぇ。


 ちょっと緊張を緩めると密偵の気配が遠ざかっていき、慌ててスキルに力を入れ直すってのを繰り返してたからな。


 おかげで察知系のスキルレベルが一気に2も上がった。普段は【普通】が索敵をやってくれてっから、レベルが上がりにくいスキルなんだけどな、この二つ。


 少し落ち着いてきたのを見計らい、俺は壁に背を預けて天井を(あお)いだ。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:空腹、悪臭、疲労、過負荷、筋肉痛、笑い上戸


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV8』『詐術LV8』『不屈LV10』『未来予知LV6』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV8』『究理LV8』『限界突破LV10』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV10』『省活力LV10』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV7』『過負荷LV10』『失望LV10』『弁駁(べんばく)LV10』『気配察知LV4』『魔力察知LV4』『歓喜LV10』『抱腹絶倒LV10』『安堵LV10』『教授LV10』

====================



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