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24話 【再生】

 だが、この様子じゃ残念先生もユニークスキルの強みについて、気づいちゃいねぇな。


 日本人のステータスはわかんねぇままだったが、アホな現状については教えてもらったし、駄賃代わりに指南してやってもいいかな?


 イガルト王国への貸し借りを意識してたら、個人的な借りを作りっぱなしだと気持ち悪ぃ感じになってきたし。


 おそらく、俺の予想じゃ残念先生が【再生】の特性を知ったら、相当化ける。


 いずれ敵戦力になるって考えれば、教えんのは怖ぇんだがな。


 ……まあ、いいか。


 バカはバカでも真っ直ぐすぎるバカだし、すぐには襲ってこねぇだろう。


 ってわけで、ネガティブこじらせてる残念先生に視線を向けた。


「なんだ、そんな便利なユニークスキルがあるんだったら、簡単じゃないですか」


「……え?」


 俺は意識してなんでもないことのように振る舞うと、残念先生は驚いたように振り向いた。


 が、すぐにその表情を苦笑に変え、(かぶり)を振って否定する。


「何を言っているんですか。【再生】ですよ? どんな深い傷でも(いや)し、元の健常な身体を取り戻してくれる優秀なスキルではありますが、それだけです。後方支援の治療魔法師である私に、戦う力なんてあるはずが」


「いや、先生? お言葉ですけど、【再生】が回復専門だなんて()()()()()んですか?」


 なんかまたネガティブモードに入りそうになったので、俺は内心だけで慌てて先生の言葉を遮った。


 やべぇ。


 この先生のネガティブ、俺の思ってる以上にトラウマになってんのかもしんねぇ。


 なんかこう、視線が俺から離れて地面を見た時に、背筋がゾクッとしたんだよ。


 原因は、初対面で見ちまった闇背負い体育座りの長文独り言だ、ぜってぇそうだ。


 身体は治療して心に傷を残してどうする、治療魔法師。


 もう色んな意味で、俺が今まで会った中じゃアンタが日本人最強だよ。


「それは……、そうですけど。ならば君が考えた【再生】の力って、何なんですか?」


『高速思考』で残念先生の存在そのものを脅威に思い始めた頃、当の本人は困惑を隠せないようだった。


 俺の台詞がよほど嘘くさく感じたのか、眉間に(しわ)寄せてほとんど睨んできてるし。


 まあ、ユニークスキルは世界にただ一人しかいない、強力だけど希少なスキルだ。


 使ってみないと能力の全容なんてわかんねぇし、スキルに触れて三ヶ月の先生はおろか、現地人であるイガルト人でもすべてを教えるのは不可能だろうよ。


 だが、推測はできる。


 何せ、俺らが認識しているスキルの名称は、単一の意味を持つ言語じゃなく、複数の意味を持つことが多い漢字だ。


 言葉の語源を知ることさえできれば、自ずとスキルの内容もわかってくる。


「その前に、先生は『再生』って言葉で思いつくイメージって、何だと思います?」


 最初から答えを教えてもよかったが、この人説明を聞くだけじゃ納得しねぇだろう。


 そう思ったのもあって、ちょっとしたクイズ方式で誘導していくことにした。


 すると、先生は俺の思惑通り、顎に人差し指を添えて考え出す。


 にしても、ホントいちいち子どもっぽいな、この先生。


「う~ん……、一つは、回復とか蘇生(そせい)とか、怪我や病気を治す言葉ですよね?」


 それは残念先生が使えている【再生】の力の一つだな。


 日本人なら誰でもぱっと思いつくことから、おそらく【再生】の能力の基幹(きかん)はこれだ。


 元の状態から欠損・消失した異常から復元し、回復させる。


 適正職業で示されたように、治療や回復が主たる力なのは否定しねぇ。


「なるほど。では、他には?」


「ほ、ほか? う~ん、う~ん……!」


 正解だったし頷いて続きを促すと、残念先生は途端に頭を抱えだした。


 グーにした手から両手の人差し指だけをのばしてこめかみあたりにつけ、目をぎゅっと(つむ)って必死に考えている。


 あ~、マンガやゲームだったら頭から湯気だしてんな、これ。


 どうやら、残念先生は文系じゃなく理系っぽい。


 ついには俺の存在を気にせず、膝を曲げてその場にしゃがみ、本格的に考え出した。


「再生、さいせい、サイセイ? 怪我とか、病気を治す以外に、何かあるの? そんなの知らないし、気にしたこともないし……、あっ! わかった! 中国語だ!!」


「違いますし、俺が中国語なんてわかる訳ないでしょうが」


「あぅ……」


 その上敬語までどっかに放り投げた残念先生は、どうだこれが正解だろう、という輝かしい笑顔で見当外れな答えを口にした。


 めちゃめちゃ上がったテンションに水を差す形で、俺が思いっきり冷めた表情で上から不正解を叩きつけてやると、残念先生は笑顔から一転、しょぼんと頭と肩を盛大に落とした。


 ……どうしよう、小学生と話をしてる気分になってきた。


「えぇ~っとぉ~、それじゃあ~、あれだ! もっとも盛んなこと!」


「それは『最盛』。同音異義語じゃないですか」


「えぇ~? な、なら~、あっ! お金のやりとり!」


「それは『財政』。響きが遠のきましたよ」


「う、うぅ~んと、お、おくさん?」


「それは『正妻』。音を逆にしないでください」


「うぇ~? もうないよぉ~……、ま、またあいましょう?」


「それは『再見(ツァイツェン)』。結局中国語ですか」


「……う、うがぁ~!! じゃ、じゃあ何だって言うのよ!!」


 結局答えられなかった先生は、立ち上がって開き直った。


 手をグーにしたままバンザイって、今時幼稚園でもしねぇぞ、そんな怒り方?


 それに、またしても無意味に粘ったな、この残念先生。


 そもそも、これは大喜利じゃねぇぞ?


 何でも答えりゃいいってもんじゃねぇっつうの。


 ちなみに、座布団は全部没収な。


「一つは音楽プレーヤーとかで使われますよね? 録音したデータを音に変換するときに、『再生』するっていいません?」


「…………あっ」


「それに、リサイクルって意味でも使われたりしますよね? 『再生紙』って言葉なら、聞いたことありますか?」


「……………………えぅ」


「後は、ちょっとした心理学の専門用語になりますが、記憶に関する用語としても『再生』って使われるんですよ。記録のプロセスは情報を脳に入力する『記銘(きめい)』、脳内に情報を保存しておく『保持』、そして『保持』した情報を引き出す『再生』。

 この三つの働きが、情報を脳に記憶するメカニズムになります。まあ、『再生』は『想起(そうき)』と呼ばれることもありますけどね」


「………………………………はぅぅ~」


 俺が『再生』の意味について解説していく度に、残念先生はどんどん小さくなっていった。


 まずは知ってた内容だったからか顔を赤くし、次に肩を落として身を(すぼ)め、最後は俺に知識量で負けた羞恥心からかしゃがみ込んで顔を隠してしまった。


 ……勝った。


 いや、何に勝ったのかは俺もわかんねぇけどさ。


 で、物理的に小さくなっちまった残念先生に、最後の意味を教えてやる。


「最後に、『再生』って言葉には、非行から立ち直らせる『更生』に近い意味があるってこと、知ってましたか? 精神的、あるいは社会的に悪い状態になった人を、正常に近い状態に戻すことですね。

 たとえば、暴力的になって問題を起こすようになった子どもが、説得やカウンセリングなどを受けて心を改め、まともになって立ち直ること。それも、『再生』って言うんですよ」


「…………ぇ?」


 すると、残念先生の表情が一変した。


 俺の前でさらした醜態(しゅうたい)への落ち込みが一気に吹き飛び、大きく目を見開いて俺を見上げてきた。


「そういうことなんで、おそらく【再生】のスキルを使えば、暴走した男子を止められるかもしれませんよ? 肉体だけじゃなく、精神も正常に戻してくれるんですから」


 俺はほぼ百パー確信を持って、残念先生に提案する。


【再生】の意味を考えりゃ、むしろ出来ねぇ方がおかしい。


 スキル効果の方向性としては似たようなもんだから、対象を強く意識すりゃ『精神の歪み』も簡単に修正できんだろ。


【幻覚】でもそうだったが、やっぱユニークスキルってのはすげぇ強力だな。


 あ、俺の【普通】は除く。


「そ、そういわれても、本当にそんな効果があるのか、わからないじゃない!」


 せっかく日本人の問題に対する解決策を提示してやったってのに、残念先生は抵抗しだした。


 気持ちはわからんでもないが、無駄な抵抗だな。


「試すだけ試しゃいいじゃないですか。先生の【再生】は、基本的に誰かを傷つける効果はないですし。リスクもねぇなら、やるだけやればいい」


「だとしても、『今の』彼らは暴力的で手がつけられない! 初めて(こころ)みることだし、きっとすごく集中力が必要になる! それを、彼らが大人しく待ってくれるはずなんてない!」


「戦闘が得意な奴に任せばいいじゃないですか。【勇者】やってる会長とか、色々いるでしょ? それに、伝手(つて)がないなら先生がやればいい」


「無茶を言わないで!! 私に力があれば、こんな悩みなんて……っ!!」


「あるじゃないですか? 俺が説明した【再生】の内容、よ~く思い出してくださいよ?」


 どんどんヒートアップしていく中、俺は残念先生の腕をつかんで無理矢理立たせ、俺より上になった怯える瞳と視線を交差させる。


 それとは正反対に、一向に現実から目を背けようとする残念先生へ言い聞かせるように、俺は言葉を重ねた。


「録音で言った【再生】。これは『情報を現象化させる』って意味だとしたら、先生が知っている武器なんかも再現できますよね?

 ナイフとか、刀とか、銃とか、大砲とか、核兵器とか、……『()()()』とか?

 まあ、【再生】の再現率はスキル所持者である先生が、どんだけ元の情報を把握しているかにもよりそうですから、地球の知識の再現は難しいでしょう。

 が、少なくとも先生は色んな生徒の『スキル』を見てきたはずだ。それを【再生】すんのは、不可能じゃない」


「っ!」


『情報』という設計図だけを頼りに、魔力で物質や事象を再構築させる。


 ともすれば『創造』の域に達しているのが、【再生】の力の側面。


 万能に無限の物質を生み出せる【再生】は、万能で無限の凶器を所持しているに等しい。


 武術の心得がなくても、武器が優秀なら人なんて簡単に殺せる。


「リサイクルの【再生】。これは『役に立たないモノや廃棄されたモノを、価値あるモノに(よみがえ)らせる』ってことだ。

 そこらに落ちてるゴミを武器に【再生】させることも、『誰かがその場所で使ったスキル』を【再生(リサイクル)】させることもできるんじゃないですか?

【再生】に質量保存の法則が適応されるのか? 足りない質量は魔力で補えるのか? 『スキル』の再現に制限はあるのか?

 色々懸念材料はありますが、『再利用』って言葉を広くとらえると、先生の攻撃手段はほぼ無限に広がることになる」


「そ、それはっ!!」


 特にスキルの再利用は有用だろう。


 相手が使ったスキルの残滓(ざんし)を【再生】で蘇らせ、自分の力として振るえる。


 相手のスキル数が多いほど、残念先生は殺す手札(スキル)を増やすことができるんだ。


 相手が磨いてきた技術で、な?


「記憶の【再生】。これは『記銘』し、『保持』されたその人の記憶を『無理矢理引きずり出す』んでしょうね。

 例えば、楽しかった記憶や辛かった記憶。他には『覚えているはずのない幼児期の記憶』とか『忘れないと心が耐えられなかった記憶』なんてのも、ね?

 そりゃあ、幼児期の記憶を引き出して対象が無力となる保証も、対象がエグい過去を持ってる保証もありません。

 が、もしそういう(たぐい)の記憶を強く引き出してやれば、その人に【再生】をかけた瞬間、対象の精神はどうなるんでしょうね?」


「やめてっ!!!」


 精神退行を促して、体の動かし方を忘れさせる。


 あるいは、心的外傷(トラウマ)を呼び覚まし、心を壊す。


 それを、戦闘中にやられればどうなる?


 答えは、致命的な隙を生み出せ、無防備な敵をあっさりと殺せる、だ。


「そして、『更生』の【再生】。これは記憶のそれに近いんですよね。

 だって、『更生』を言い換えれば『過去の性格を強くさせ、現在の性格に上書きする』ってことなんですから。【再生】で行うのは改善ではなく、むしろ『改竄(かいざん)』です。

 社会的な善し悪しでプラスのイメージがある言葉ですが、本質は『精神の塗り替え』に変わりはありません。

 それを本人のためになる『支援』ととるか、社会に適応させるための『洗脳』ととるか。先生は、どう思います?」


 人生の過程で成長していく人格。


 その中で、残念先生にとって都合のいい『過去』の人格を引き出し、そいつが本来歩んで得た『現在』の人生観を否定する。


 いわば、人格の『殺人』だ。


 残念先生の【再生】は、いとも簡単にそれができちまうんだよ。


「違うっ!!!! 私にはっ、そんなことっ!!!!」


 俺は【再生】の力を懇切丁寧に教えてやってたが、どうやら最初の説明ですでに気づいてたらしいな。


 それでも、現実から目を背けるように、聞く耳を持とうとしない残念先生。俺から視線をはずし、俺の声から逃げるように耳を塞ごうとした。


 が、俺は弱いステータス値で残念先生のもう片方の腕もつかみ、壁に押しつけて逃げ場をなくす。


 そして、俺から視線を外せないように、お互いの顔を至近距離に寄せて、涙で潤んだ目をじっとのぞき込んだ。


「できますよ? 先生の適正職業は『治療魔法師』ですが、勘違いしちゃいけません。ステータスで表示された職業は、あくまで『適正』ですよね? それ以外の力を使えない、使っちゃいけないなんて制限がどこにあるんですか?」


「ひっ!?」


「そろそろ認めろよ、先生?

 アンタの力である【再生】は『人を癒す力』だけじゃない。

『人を壊せる力』もある、ってことを」


 チビよりも強い、自身の持つユニークスキルへの恐怖で震える残念先生だが、俺ははっきりと事実を突きつけた。


 他人のことしか考えず、自分の『力』から目を逸らすなんて、許さない。


 自分の『力』から逃げて俺より早く死ぬなんて侮辱(ぶじょく)、許せない。


 会長やチビの時にも感じた怒りを、そっくりそのまま瞳に乗せて、残念先生の瞳を射抜く。


「よく考え直した方がいいぞ、先生? アンタにできることと、できないこと。何が最善で、最悪か。その判断が、アンタの好きな子どもの生き死にを決めることになるかもしんねぇんだからよ?」


「……ぁ、……ぅぁ」


 ついにまともな言葉すら出せなくなった残念先生。


 俺は言いたいことを全部言い終え、残念先生の両手を解放して壁から離れた。


 瞬間、残念先生は膝から崩れ落ち、座り込んでしまう。


 が、俺はもう残念先生に視線を向けず、その場を後にした。


「…………ちっ」


 日本人は、贅沢な奴ばかりだ。


 すぐに死なない恵まれた環境と、誰をも屈服させられる恵まれた『力』があるのに、自分のために使おうとしない。


『ある』ものを『使わない』のと、『ない』から『使えない』のじゃ、天と地ほども違う、ってのに。


 残念先生たちには『あって』、俺には『なかった』。


 いつまで経っても、それは俺の大きなしこりとなり、消えない。


 最悪だ。


 何度も差を見せつけられるのも。


 何度も誰かに八つ当たりするのも。


 …………本当に、クソみてぇに最悪だ。


 俺はもう城内を散策する気になれず、さっさと訓練場に向かった。


 ちなみに、今日は訓練開始五分でぶっ倒れた。


 俺の『ない』は、まだまだ続きそうだ。




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名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV7』『詐術LV8』『不屈LV8』『未来予知LV5』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV6』『究理LV6』『限界突破LV9』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV8』『省活力LV8』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV6』『過負荷LV7』『失望LV10』『弁駁(べんばく)LV10』『気配察知LV2』『魔力察知LV2』

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