22話 悩める教師
チビと遭遇してから一ヶ月。
早いものでイガルト王国に召喚されてから、三ヶ月が経過した計算だ。
俺の生活はというと、相変わらず最底辺の生活をぶっちぎっている。リズムもスタイルもクオリティも、まるっきり変わんねぇのが逆にスゲェよ。
変わったことと言えば、チビに出会った次の日から洗濯をするようになったってことと、スキルレベルくらいだな。
一発目の洗濯は学ランを浸けた水が一瞬で茶色く濁ってトラウマもんのヴィジュアルになってた。
ってか、あれはもはやヘドロだ。風呂はあきらめてるが、洗濯くらいは定期的にやっとこうと思った瞬間だった。
で、スキルは『冷徹』と『高速思考』と『並列思考』がマックスになった。
初期に覚えたスキルだったが、カンストするまで三ヶ月もかかったのはちょっと遅い気もする。いや、感情系のスキルが異常に早すぎたのか?
他には『不屈』、『失神』、『悪食』、『不眠』、『覚醒睡眠』もレベルが最大になった。理由は単純で、『悪食』以外はチビとの戦闘による後遺症で、スキルレベルが勝手に上がったからだ。
『不屈』は筋肉痛にひたすら耐えたから、『失神』は痛みで眠れなかったので睡眠導入剤代わりにしてたから、『不眠』と『覚醒睡眠』はそれでも無理矢理眠ろうとして失敗したり成功したりしたから。
ってわけで簡単に経験値が一定値を超えたんだと。
『悪食』? イガルト人のよこす生ゴミだよ、くそったれが。
後は地獄の筋肉痛と頭痛の影響で、『麻痺』と『過負荷』がスキル取得後一週間でどんどん上がっていった。
特に『過負荷』は酷かった。痛みが軽減される効果の『麻痺』よりもレベルアップが早く、日に日に増す頭痛に嫌気が差したぜ。
途中から小爆発よりもきつくなり、ハンマーで頭をプレスされるくらいの痛みになってた。『不屈』で我慢できちまったから泣けてくる。
二週間が経つとだいぶ楽になってきたんだが、『過負荷』の成長は止まらず今でも頭痛は残ってる。後半のレベルアップは俺の行動で上がってたから、完全に俺の自業自得なんだがな。
今もこう、ガーン、ガーン、ってな感じで、定期的に鐘が鳴るように頭痛がくるんだよ。マジで鬱陶しいわ、これ。
効果は即行消したんだが、いかんせん『解析』さんの説明にも出ていた痛みの継続がなかなか消えなかった。
『ある程度』継続する、っていつまでだよ?
『ある程度』が長すぎんだろ?
何か? これも俺のステータス値が低いせいかそうなのか?
きっとそうなんだろうなそれしか考えられねぇこいつは愉快だあっはっはっはふざけろ。
しかも、その間中勉強も訓練も欠かさずやってきたから、ステータスチェック役の『解析』さんを始め、細々としたスキルも上がったな。
いろんな痛みが苛む中体力づくりをしてたからか、もうすぐで『限界突破』がマックスになる。
上げたくて上げたんじゃなくて、イガルト王国の奴らに弱ってる姿を見せたくなかったっつう、やせ我慢の成果なんだけどな。
まあ、変わったことと言えばそんな感じか。
変えたいことならまだまだある。
ステータス値は相変わらず変化はなし。いくら鍛えても『1』から抜け出すことが出来ねぇ。
これに至っては、もうレベルアップを期待するしかねぇんじゃねぇかと思っている。
体力的な変化はあっても、三ヶ月やって一個も増えねぇとなると、ステータス値の変動条件がレベルアップのみ、って線が濃厚だしな。
まあ、こればっかりは仕方ねぇ。
元がゴミ過ぎて話になんねぇんだ。
気長に待つしかねぇ、ってことで自分を納得させてる。
後は、日本人とはぱったり会えてねぇし、勉強用の本も読み尽くしてっから、その時間がすげぇ暇になった。
サボったフリしてうろついててもメイドくらいしか会わねぇし、遭遇する確率が低いなら情報収集してぇが未読の本がねぇ。
経験上、ペース的にはもうそろそろ別の日本人と会えても良さそうなんだが、こっちは根気よく待つしかねぇか。
一方、本は頼めば出してはくれんだろうが、頭がパーなフリしてる今、新たな本を要求する理由がねぇ。もっともらしい理由が思い浮かぶまでは、こっちも保留にするしかねぇ。
最近ちょっとした暇つぶしを思いついて、今はそっちにはまってるからいいけど。
ってわけで、今日も今日とて城内散策だ。
何回通ったかわかんねぇ、無駄に装飾を施してる廊下を歩き、体力づくりもかねて早歩きでうろつき回る。
あ、ちなみに三ヶ月の鍛錬で20メートルを全力疾走できるようになったぞ。
興味ない? だろうなぁ……。
「んあ?」
なんて、『並列思考』の大半を使った、スピーチ俺、聴衆俺という現状説明風な一人遊びをしていたところ、誰かが廊下の端で壁を向いて体育座りしてた。
色が壁の色と違って明らかに鮮やかで、丸くこんもりしてっから置物じゃねぇ。ついでに、頭が黒髪っぽい色で長髪を団子にしてんのが見えてっから、日本人説濃厚。
一応、待ち人現る! って状況なんだが、何やってんだ、コイツ?
俺のぼっち遊びをリスペクトした、新手の一人遊びか?
…………ねぇな。うん。
「おーい、ちょっと~?」
とりあえず、声をかけてみた。
いや、普段だったらぜってぇ声かけねぇよ? こんな怪しい奴。
でも、声かけねぇ訳にはいかねぇじゃん?
今回逃せば次の機会は一ヶ月後だぞ、多分?
んな待ってられっかよ。
「…………」
が、俺の呼び声に気づいてねぇのか、日本人のお団子頭はうずくまったまま反応なし。
マジで何してんだ? と思ってお団子頭に近づくと、小声で何事かをしゃべっていた。
「どうしてみんな言うことを聞いてくれないの? 私は教師として、年長者として、まだ高校生でしかないみんなをよりよい方向に導こうとしていただけなのに。この世界おかしいよ。自分の能力が、才能が可視化されるなんて、争いの種になるに決まってる。なのに、誰もそれをおかしいと思わないし、あまつさえステータスの高さが絶対って考え方だけはあっさりとみんな受け入れている。受け入れた上で、好き放題しようとして、色んな人に迷惑をかけても全く気にしなくなってる。この国の人にも、同じ異世界人にも、暴力暴力暴力暴力。これが異常じゃなくて、なんだっていうのよ。こんなの、あっていいはずがない。ありえちゃいけない。若者の間違いを正すのが、私たち教師の役目。そう、私たちは先生。あの子たちに真っ直ぐ生きるように、人の道に反しない生き方ができるように導く義務がある。それなのに、誰も私たちの言葉なんて聞いてくれない。戦闘力が低い人の意見はないものと同じにされている。他の先生たちもそれに従って、もう意見すら言おうとしない。むしろ、力の強い学生に媚びている人までいる。信じられない。本当に信じられない。大人としての責務はどうしたの? 教師としての誇りはどこにいったの? 人が人らしく生きることが、そんなに難しいことなの? こんなの、基本的人権の尊重を無視してる。力がすべてなんて、野蛮なのに、みんなこの世界にきて狂っちゃってる。どうすればいいんだろう? どうすればみんな正気に戻ってくれるんだろう? 私はあの子たちにどう接すればいいんだろう? 日本にいた頃のみんなに戻すために私に何ができるんだろう? わからないどうしようわからないどうしよう…………」
う~わ~。
絡みたくねぇ~。
チビとは違うベクトルで回れ右してぇタイプの人種だわ、これ。
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名前:平渚
LV:1【固定】
種族:日本人▼
適正職業:なし
状態:【普通】▼
生命力:1/1【固定】
魔力:0/0【固定】
筋力:1【固定】
耐久力:1【固定】
知力:1【固定】
俊敏:1【固定】
運:1【固定】
保有スキル【固定】
【普通】
『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV7』『詐術LV8』『不屈LV8』『未来予知LV5』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV6』『究理LV6』『限界突破LV9』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV8』『省活力LV8』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV6』『過負荷LV7』『失望LV10』『弁駁LV10』『気配察知LV2』『魔力察知LV2』
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