21話 スキル調査その6
「ぅ、ぐ」
で、さらに何時間か経った後。
ようやく俺は痛みを我慢できるようになった。
ええ、そうですよ、どうせ精神論ですよ。
『不屈』、『限界突破』、『麻痺』のスキルごり押しやせ我慢ですよ。
激痛は休み知らずで今も絶賛営業中ですが何か?
「経験値が一定値を超えました。『不屈』がLV8になります」
「経験値が一定値を超えました。『不眠』がLV7になります」
で、我慢した報酬がこれかよ!?
結局、俺は耐えるしかねぇってか!?
ありがたすぎて涙が出てくるわ!!
誰に言えばいいのかわからない文句を吐きつつ、俺はよろよろと石のベッドに横たわる。
どんな体勢でも辛ぇなら、せめて横になってた方がまだマシだろ、と思ったからだ。
一応、新しく取得したスキルだけは確認しとくか。
『解析』さん、頼んます。
====================
『麻痺』
あらゆる痛覚刺激を麻痺させる。レベルにより麻痺が深化する。LV1につき1%深化する。任意で解除可能。麻痺効果は身体全体、一部を問わず常にLV%の効果が働く。麻痺の効果対象に温度覚による刺激は含まない。
====================
====================
『過負荷』
脳に処理が追いつかない程度の負荷を与える。レベルにより頭痛の程度が増大する。LV1につき最低で思考領域の5%が使用不能となる。任意で解除可能だが、痛みそのものはある程度継続する。効果中は他の干渉による解消を妨害する。一部、思考系統のスキルの使用を妨害する。
====================
====================
『失望』
どんな相手でも感情を失望で満たす。レベルにより密度が増加する。LV1につき1分加算される。効果中は他の干渉による解消を妨害する。ただし、『冷徹』以上の鎮静効果を持つスキルの使用で上書きされる。感情が一方向に定められ、効果中は自然には反転しない。
====================
====================
『弁駁』
既知の知識を用い、論理的に対象の認識を挫く。レベルにより記憶再生能力が向上する。LV1につき10%の威圧効果を与える。弁論対象の理論を把握することが必要。自発的な発動も可能だが、効果は半減する。対象の持つ知識以外の知識を用いると成功率上昇。
====================
====================
『気配察知』
生物の気配を察知できる。レベルにより精度が上昇する。LV1につき10mの範囲内を察知できる。任意で解除可能。気配を隠蔽する効果のスキルと効果が相殺される。自分との距離、範囲内の人数、対象の害意の有無をある程度察知できる。
====================
====================
『魔力察知』
生物の魔力を察知できる。レベルにより精度が上昇する。LV1につき10mの範囲内を察知できる。任意で解除可能。魔力を隠蔽する効果のスキルと効果が相殺される。自分との距離、魔力の大まかな量、魔法発動の予兆をある程度察知できる。
====================
これが新スキル一覧になる。
『麻痺』はさっき予想したのと似たり寄ったりだ。任意解除が可能なのは、痛覚遮断効果で感覚が鈍るからだろうな。
が、温度覚は対象外? 熱さ寒さは関係ねぇ、ってことか? じゃあ火や氷とかには効果ねぇってことか。
『過負荷』もほぼ予想通り。ただし、頭痛がメインじゃなくて、脳を使用不可にするバステらしい。思考系スキルってのは『高速思考』、『並列思考』、『未来予知』、『完全記憶』、『究理』あたりか?
そう考えれば、結構俺にゃ不利だな。
確かに、『解析』さんの情報通り、さっきまで『並列思考』で正気を保ってたのは1%くらいだったし、使用不可になるってのは頭痛で、って意味だったんだな。うん、こりゃ使えねぇ。死にスキル決定だな。
『失望』も感情系バステスキルだな。もう、俺のスキルって、こんなんばっかなのか?
っつうか、よりによって『失望』って……。まるで俺がチビに何かを期待してたみたいじゃねぇか。
いや、仲間だってことを勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になってんだから、間違いじゃねぇのか。
次の『弁駁』だが、聞いたことねぇ単語だな?
まあ、下級スキルが「論破」って聞こえたから、相手を言い負かすとかそういう意味だろう。
原因は【幻覚】の説明だろうが、テレビのにわか知識で言い負かしてもなぁ……。
一応、言葉が通じそうな相手にゃ使えそうなスキルだが、微妙な気分になるだけだ。
『気配察知』と『魔力察知』は、言葉通りだ。人が発する存在感や魔力を察知できるようになったらしい。まあ、周囲10mじゃたかが知れてるけどな。
ないよりマシだが、何となくでも今まで人の気配にゃ気づいていたから、今更感が強いスキルだ。
「…………っ!!」
っと、そこまで考えたところで、『過負荷』の残り香が思考を中断させた。
今はメインよりも副作用が辛ぇ。
まだ脳の奥からズキンズキンすんだよなぁ、これ。
例えるなら、脳の中で小さな爆発が連続している感じだな。ハンマーもきついが、こっちもかなりきつい。
っつか、よくこんな痛みを長時間耐え切れたな、俺?
まあ、もしかしなくてもレベルが上がった『不屈』の効果なんだろうがな。ただし、すぐに狂えなかったのも『不屈』が原因なんだよなぁ……。
で、『不眠』がレベルアップしたってことは、もうすぐ夜が明けるんじゃねぇか?
やべぇな、『覚醒睡眠』も使えねぇでのたうってたから、今日は一睡もしてねぇことになるぞ?
今日の訓練とか、大丈夫なのか? 主に眠気、疲労感、筋肉痛とかで。
気休めにしかなんねぇだろうが、ゴミみてぇな朝食の時間まで、横になっているのがいいだろう。意識が寝れるかは知らんが、『覚醒睡眠』は使っとこ。それこそ、ないよりましだろうけどな。
【普通】は使わん。
他の所持スキルん中で、『冷徹』みてぇな効果の、肉体をリフレッシュしてくれるようなスキルはねぇし、最悪この筋肉痛が【固定】されちゃ敵わねぇしな。
「…………」
しかし、【普通】といや、さっきからマジで密偵の気配がわからなくなってんな。
さっき取得した『気配察知』と『魔力察知』はあるが、今までと比べりゃ薄ぼんやりとしか感じられねぇ。
それも、【普通】を切る前に感じていた気配の位置を覚えていたから確認できただけで、情報なしだったらあいつらの気配なんざ全く気づけなかっただろう。
今まで俺は、自分が人の気配に敏感になってたのは、敵だらけっつう環境が緊張感を生み、感覚を鋭敏にさせてたんだと思ってた。
だから、人の気配に鈍感だった会長やチビに内心で呆れてたんだが、もしかしてそれは【普通】が原因だったのか?
よくよく考えてみれば、俺は生まれてからずっと、誰かに狙われるみたいなデンジャラスな人生だったわけじゃねぇ。
ちょっと、いや、かなり身の危険がある状況だからっつっても、たった数日か数ヶ月程度で目に見えない人間の気配がわかるなんてことが、そもそもおかしかったんじゃねぇか?
気配を読む的なことができるっつう、マンガやゲームのキャラが言うみたいな『勘』は、そいつが長年身を置いてきた世界で生じた出来事を、無意識に思い出して現在の状況と比較して生まれている。
いわば、経験則っつう脳内データがもたらす、れっきとした根拠に基づく推測が『勘』だ。
それを、俺みたいなどこにでもいる高校生のガキが、短時間で身につけられるなんてありえねぇ。
ほぼ一日【普通】を起動したまま生活してて、ずっと人の気配に敏感だった状態が続いてたからか、そんな違和感にも気づかなかったんだろう。
が、それにしちゃ気づくのが遅すぎじゃねぇか、俺?
まあ、それはいい。
問題は、人の気配を感じられることが、どうして【普通】の恩恵なのか? だ。
常識的に考えて、んなどこかのゴ○ゴさんみたいな奴が『普通』のはずがねぇ。
『解析』さんが調べてくれた【普通】の効果が、【普通】にする、っつってんだから実状とかなり矛盾しているはずだ。
それが、矛盾じゃないとしたら。
俺の解釈の仕方が問題なのか?
「…………ぁ」
と、俺が思考を巡らせたところで、ヒラメキが降りてきた。
そうだ、逆だ。
『普通』じゃねぇから、【普通】に引っかかったんだ!
いや、何いってんのかわかんねぇだろうが、そう考えたら辻褄が合うんだよ。
まず、前提は【普通】は俺の全てを【普通】にする。
だが、一日中生活を監視されるなんてこと、俺にとっちゃ『異常』もいいところだ。
だから、【普通】は俺の『異常』を浮き彫りにさせて、俺に感知させていた。
つまり、【普通】は『普通』じゃねぇ状態、つまり『異常』や『異変』を敏感に感知できる、レーダーみてぇな側面を持ってる、っつうことだ。
なんかめっちゃ副次的なもんっつうか、こじつけみてぇな効果だが、これはかなり有用性の高い能力なんじゃねぇか?
俺が【普通】を起動している間は、相手が『敵意』や『殺意』を俺に向けた時点で、そいつが自分からどれくらいの距離の場所にいるか、即座にわかるってことだぞ?
イコール、俺がどこまで動けるか次第だが、奇襲の危険性が大幅に減った、ってことなんだからな。
しかも、たとえそいつが群衆の中に紛れていようが、ピンポイントにそいつだけを感知することもできる。
なんたって、俺が感知すんのは『人の気配』じゃなくて『俺にとっての異常』だ。
俺が見つけた気配はすなわち、高確率で俺にとっての『異常』=『敵』ってことだから、敵味方無関係を考える時間もなくせる。
そう考えたら、人の気配に敏感だと思っていた俺が、今まで日本人と接触できなかったのも納得だ。
あいつらは俺にとっちゃ日常にいた奴ら、すなわち『普通』の一部だ。
もちろん、度が過ぎた『敵意』や『殺意』を向けてくりゃ別なんだろうが、向こうが特に俺へ何も感じていない状態じゃ、気配なんてわかるはずもねぇ。
まあ、この効果に気づかねぇまま、気配に従って日本人と出会ってたら、結構やばかったかもしんねぇけどな。出会った瞬間即死亡とかもありえた、ってことだし。今日気づけてよかったよ、マジで。
一方、この効果は【普通】状態の俺限定の効果で、他人から他人への『敵意』なんかは感じられねぇ可能性が高い。
チビと接触して話をするまで、チビについてた密偵の存在に気づかなかったのがその証拠だ。
恐らく、あの時チビの密偵が俺の存在に気づき、俺を意識したから【普通】に『異常』と判断されて、そいつらを感知できたんだろうからな。
俺がチビを訓練場の外から見つけた段階で、密偵の気配は三人のままだったからまず間違いねぇ。
……ははっ!
初めて【普通】のメリットが見えてきたな。
っつうことは、他にも俺にとってメリットとなる効果があるかもしんねぇ、ってことだ。
あのチビに出会ったことは、結局俺がイライラさせられて、ついでに激痛ももらって最悪だ、って思ってたが、撤回だ。
いくつかのスキルと、【普通】の使い道。
報酬がこれだけありゃ、お釣りが出るってもんだ。
あいつは幸運の女神、もとい幸運のチビだったんだな。
届きゃしねぇだろうが、感謝はしとくぜ、チビスケ。
だがまぁ、チビへの振る舞いを今思い返せば、俺も偉そうにはいえねぇよなぁ。
チビに指摘した、ユニークスキルへの理解の浅さがもたらした勘違いって問題は、俺にも該当したってことなんだし、な。
チビが腐ってなかったから【幻覚】の強みに気づけたように。
チビに出会えたから、俺は【普通】の強みに気づけた。
だから、あいつはハズレじゃなかったんだよな。
「…………ぅ~」
それに気づけた瞬間から、俺は顔を押さえて身を縮こませる。
会長の時ほど強くはねぇが、偉そうにしてた俺が恥ずかしいんだよ。
ちょっと調子に乗ったら、ろくでもねぇな俺。
二度目だぞ、俺?
ちょっとは反省しようぜ、なぁ?
と、少し羞恥と自嘲で落ち込んだ後は、前向きに思考をシフトさせる。
俺も、チビを見習って、もっと前向きに【普通】の考察をしてみるとすっか。
案外、俺の【普通】にも俺が知らねぇチートがあるかもしんねぇし。
そう思いながら、俺はずっと残ってる酷い頭痛と筋肉痛に苦しんでいた。
どうせなら、俺の悩みだけじゃなく、俺を襲ってきてるしつこい苦痛も取ってくんねぇかな?
そこんとこどうよ、幸運のチビスケちゃんよぉ?
====================
名前:平渚
LV:1
種族:日本人▼
適正職業:なし
状態:空腹、悪臭、疲労、過負荷、筋肉痛
生命力:1/1
魔力:0/0
筋力:1
耐久力:1
知力:1
俊敏:1
運:1
保有スキル
【普通(OFF)】
『冷徹LV8』『高速思考LV7』『並列思考LV7』『解析LV6』『詐術LV7』『不屈LV8』『未来予知LV5』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV5』『究理LV5』『限界突破LV7』『失神LV5』『憎悪LV10』『悪食LV6』『省活力LV6』『不眠LV7』『覚醒睡眠LV6』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV4』『過負荷LV2』『失望LV10』『弁駁LV10』『気配察知LV1』『魔力察知LV1』
====================