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18話 底辺vs出来損ない

 警戒心丸出しで杖を突きつけるチビに、俺は(ひる)まず見返す。


 とりあえず何かやられんのもマズいし、近づいていた足も止めてチビと相対した。


「出来損ない、ねぇ? ユニークスキルがあっただけでもラッキーなんじゃねぇの? まあ、そのスキルが使えるか使えねぇかは運だったんだけどな?」


 ちなみに、俺のユニークスキルは見事に外れだったよ、という本音は出さない。


 チビがどういう意味で自分を『出来損ない』と称したのかは知らねぇが、とりあえずチビよりも上位だと思わせるようにデカい態度で話すことにした。


 俺が日本人を探していたのは、そいつと仲良くする為じゃなくて情報収集のためだ。


 すでに【勇者】である会長に喧嘩を売っちまった以上、誰にどう思われようがどうでもいいって考えになってる。


 直接危害を加えられない限り、同郷だろうがなんだろうが他人は他人と割り切る。今さら誰かに嫌われた程度でへこむほど、繊細なハートじゃねぇしな。


 親近感をわかせるために、俺が正真正銘の出来損ないだと教える、って手もあったが、チビが俺に共感するかどうかは賭けだ。


 逆に、下には下がいるってことを認識したチビが、俺へ怒りの矛先を集中するかもしんねぇから、リスクも高い。


 だったら、俺もチビもお互いのことを知らない状態を利用し、俺が上位の存在だと思わせることで会話の主導権を握った方がいい。


 俺を勝手に脅威(きょうい)に思ってくれたら下手に手を出さねぇだろうし、会話も優位に事が進められるだろうからな。


「うっさい! アタシだって、使えないユニークスキルしかないんだったら、いっそ上位スキルを複数欲しかったよ! でも仕方ないじゃん! 使えないスキルしかもらえなかったのは、アタシが悪いんじゃないんだから!」


 まったくその通りだな。


 (あざけ)りの笑みの浮かべた表情の裏で、俺はこっちを睨みつけてくるチビに激しく同意する。


 やっべ、ここまで共感できる奴とか初めてじゃね? 冗談抜きで、親近感バシバシ感じるわー。


 イガルト王国の密偵がいなかったら、肩でも組んで(なぐさ)め合いながらグチ合戦としゃれ込みたいぜ。


 で、最初のチビは自称使えねぇユニークスキルを一つしか所持していなくて、ユニークスキル保持者はほとんどが俺やチビみたいに初期の保持スキルはそれ一つ、ってことか?


 ついでに、他の連中はユニークスキルなしだと上位スキルを複数持っているのが通常で、このチビは王城にいる中じゃ相当下に扱われてる、ってことか。


 ユニークスキルは、本の知識じゃかなり強力な部類のスキルだったはずだ。俺の【普通】みてぇなのは例外だろう。


 だったら、チビや他の連中のいう『使えない』って根拠は何だ?


 何をもって使えないと判断している?


 チビの出で立ちからして、魔法系に分類されるスキルなのは間違いねぇはずだ。


 だとしたら、魔法の何かが使えないってことなんだろうが、この世界の明確な力の象徴である魔法が『使えない』なんてありえんのか?


 効果が実戦的じゃない?


 補助的な意味合いしか持たない?


 発動までの詠唱時間やクールタイムが長すぎる?


 もしかしたら、逆に制御ができないから、危なっかしくて『使えない』ってことか?


 でも、訓練してたにしては綺麗すぎる訓練場が気になるし……。


 考え出したらキリがねぇな。今のままじゃ情報が少なすぎて、どうしようもねぇ。


「で? 勉強時間も削って魔法の練習か? そりゃ、ご苦労さんだな」


 同じ外れ組のよしみで、生き残れるようなアドバイスでもできれば、と思ったが今のままじゃ何もわかんねぇ。


 俺はこの時点で、もっと情報さえあればさりげなく助言も残してやれる、と思ってしまっていた。


 気にしていないと思っていたが、同じ様な境遇の奴がいることに、存外嬉しかったらしい。


 すでにチビを手助けする気満々だった。


「っ! 黙れ! 邪魔するだけだったら出てってよ!!」


 だが、俺の内心なんてわかるはずもねぇチビは、俺の上から目線の言葉が挑発に聞こえたらしく、急にヒスった。


 威嚇のために突き出していた杖を振りかぶり、俺をブン殴ろうとしやがった!!


「おっと。危ねぇなぁ、おい? コブでもできたらどうしてくれんだ?」


「くっ! どこまでもアタシをバカにしてぇ!!」


 あっぶねぇだろうがクソチビがぁ!! 当たったらこっちは死んでたんだぞわかってんのかぁ!?


『高速思考』で知覚速度が上がっていたため、余裕を持ったバックステップで杖を(かわ)した俺は、演技を継続させつつ内心でチビへの罵詈雑言(ばりぞうごん)を並べ立てる。


 こっちは本気で命かかってんだ! 大げさなんていわせねぇよ!?


 なんせ、『契約魔法(仮)』の黒い(もや)は日本人同士の争いじゃ発生しねぇ。理由は単純で、『契約魔法(仮)』はあくまでイガルト国王と日本人との間に結ばれた契約だからだよ。


 何の制約も(もう)けていない日本人同士での争いじゃ、下手をしなくても油断すりゃ死ぬ。


 前回の会長とのやりとりでもそうだったんだが、日本人との接触は無条件で俺にとっちゃ圧倒的に不利なんだ。


 会長は俺に対する嫌悪感こそあれ、敵対意思はまだそれほどでもなかったから、ステータス判定が成されなかったが、今回は違う。


 チビは明らかに俺を敵視し、倒すつもりで杖を振り回してきた。あれは確認するまでもなく、ステータス判定が適用される攻撃だ。


 黒い靄がストッパーとして機能してくれない以上、俺にとってチビは貴重な情報源であるとともに爆弾でもあるってことだ。


「何だ、お前の適正職業って魔法使い系だと思ってたが、戦士系だったのか? 杖を武器に勇ましいなぁ?」


 チビの魔法、ってか俺以外のユニークスキルについての情報を知りたかった俺は、チビに魔法を出させるようにさらに挑発を重ねる。


 まだ、ほんのちょっとだが、チビへの助言もしてやろっかな~? って思いもあったが。


 すると、イガルト王国の連中並に(あお)り耐性がねぇのか、チビは顔を真っ赤にして握った杖を震わせていた。


「だったら、食らってみなさいよ!」


 この二ヶ月で毒舌が板に付いてきた成果か、チビは俺の思惑通りに魔法を使うために雰囲気を変える。


 多分、魔力とやらを練って魔法の準備をしているんだろう。


 俺は魔法に関しての才能は全くのゼロだから、直接それを感知することは出来ねぇ。が、何となくチビの雰囲気が変わった、ってことだけはわかった。


 この感覚は覚えておかねぇとな。


 魔力を感知できなくとも、魔法発動の前兆を肌で感じて察知することができるかもしんねぇからな。


「『ファイアボール』!」


 だが、ビリビリと肌を打つ何かの感覚をはっきり覚えようとする間もなく、チビの魔法が完成したようで視線を上へと向ける。


「でけぇな」


 杖を掲げたチビの頭上には、名の通り一つの火球ができあがっていた。


 ただし、サイズがやべぇ。直径二メートルはあるんじゃねぇのか? とにかく、俺の全身を丸焦げにできるくらいは簡単にできそうな大きさだ。


 それを、大した詠唱時間も必要とせず、一瞬で出現させて見せやがった。


 ……おいおい、マジかよ?


 このチビで『出来損ない』レベルだと?


 日本人どもの戦力って、どこまで上にいってやがんだよ?


「食らえっ!」


 チビの『ファイアーボール』と日本人の戦闘能力の高さに意識を取られている間に、チビは杖を振りかぶって俺を指し、魔法で作り出した火球をけしかけてきた!


 やべ、はやっ!?


 思考が他に流れていた俺は、火球の予想以上に速さに対抗できなかった。


 棒立ちになったまま火球を見上げることしかできず、眼前まで迫った『ファイアーボール』に成すすべもなく飲み込まれた。


「……………………あ?」


 これは死んだ、と『冷徹』によって客観的に自分の死を悟った俺だったが、しばらく経っても火に飲み込まれたような感覚はなかった。


 火傷(やけど)を負うどころか、火球が発していた熱すらも感じられない。


 そのまま火球が体を通り過ぎ、すぐに開けた視界に俺は困惑する。


「でぇりゃあ!!」


 次の瞬間、俺の視界にはチビの気迫に満ちた表情と、天高く両手で掲げられた杖が飛び込んできた。


 助走でもつけたのか、チビ自身も飛び上がっていて、走った勢いも乗せた杖の振り下ろしで俺の頭を狙っていた。


「っ!」


 今度は即座に反応し、俺は横っ飛びに逃げてチビの奇襲を回避した。


 ガツン! という音が俺のいた場所で生じ、チビの杖が地面を殴ったのが察せられた。


 今のはヤバかったな。『冷徹』がなかったら、ここまで瞬時の対応はできなかっただろう。


 一ヶ月前に【普通】の特性に気づいてなかったら、今頃俺はチビの殴打で頭蓋骨を砕かれて死んでたんじゃねぇか?


 にしても、さっきの『ファイアーボール』ん時は俺も油断しまくっていたと言わざるを得ない。


 他人から見たら日本人同士のじゃれあいでしかねぇが、俺にとっちゃマジもマジの実戦なんだ。戦いの最中に考えごとしてて死ぬなんて、洒落(しゃれ)にもなんねぇ。


 これからは、きちんとその辺も気を引き締めねぇとな。


 俺にゃ『並列思考』があんだ。情報分析は、メイン思考領域以外のサブ領域でやっとかねぇと。


「くそっ! 逃げるなぁ!」


 結構ギリギリで飛び退()き、バランスを崩していた俺だったが、体勢を立て直したタイミングはチビと同じだった。


 見た目通り魔法使い系の職業なのは間違いなく、運動能力はそこまで高い訳じゃねぇみたいだな。


 再び立ち上がってチビに向かい合うと、再び杖で殴りつけようとしてきていた。


 フェイントもねぇ素直な一撃に、俺は目を細める。


「やあっ!!」


 右肩に入る軌道で袈裟懸(けさが)けに振り下ろされた杖を、俺は『高速思考』と『未来予知』を併用(へいよう)した。


『高速思考』で遅くなった知覚速度の中、『未来予知』でチビの動きの先読みを実行する。


『高速思考』は常日頃から使用してはいるが、一つの思考に集中すればそれだけ思考時間が短縮し、体感時間が延びる。


 その特性を利用し、サブ領域に回していた分をメインの思考領域に集中させ、チビの動きに関する情報のみに『高速思考』を絞る。


 また、『未来予知』は対象を限定させれば、より精確な未来を見ることができる。


 すでに行動した後の魔法使い(チビ)の動きなら、動作の中断も変更もできねぇから、予知の精度もさらに上がる。


 結果、予測したチビの動きがはっきりと見えた。


 俺は攻撃が体に叩きつけられる前に、しゃがむことで杖の軌道から自分の肉体を逃がした。


『高速思考』は知覚速度が上がるだけで身体能力は上がらないため、俺の目線からはかなりゆっくりした動きで避けることになった。


「なっ!?」


 で、チビの杖が振り切られて、力が乗らなくなったタイミングに合わせ、俺は杖が握られていた腕を右手で掴む。


 体格差のある男女ではあるが、ステータスの問題で力で押さえ込むことなんて不可能だ。


 が、チビは俺の絶望的なステータス値を知らねぇ。俺の適正職業も知らねぇから、戦闘職かどうかも判断できねぇはず。


 つまり、チビにとって俺の行動は、大なり小なり何もかもが未知の恐怖を生むものに思えるはずだ。


 何をされるかわかんねぇってのは、とっさの思考を鈍らせるのに十分な要素になる。


 所詮(しょせん)ハッタリだが、ハッタリだと気づかれなければ効果はある。


 案の定、チビは俺に腕を掴まれたことで驚愕の声を上げ、体が(こわ)ばり動きが一瞬固まる。


 力の向きも流れも消えたこの瞬間が、ステータスによる勝負をしなくてもいい俺の勝機だ。


「しっ!」


 チビの反応を確かめた直後、俺はがら空きだった左手を振り回し、杖を横から殴りつけた。


「あっ!!」


 強ばった体は瞬時の判断を遅らせ、チビは俺の左手により呆気なく杖を弾き飛ばされてしまった。


 地面に杖を叩きつけて握力が弱まってたんだろうな。物自体も軽かったのが幸いし、結構な勢いで杖が吹っ飛んだことを、遠くでカラカラと地面を転がる音を聞いて確かめる。


「そこまでだ」


「くぅっ!?」


 んで、得物を失って動揺したチビの隙を突き、俺は背後に回って腕を(ひね)りあげる。


 何か警察の捕り物みたいな感じで、チビの片腕を背中に回して拘束した俺は、痛みで(うめ)くチビに戦いの終了を宣言する。


「魔法使いが杖を失った上、捕縛された状態で何ができる? 無駄な抵抗はやめるんだな」


「……ち、くしょうっ!」


 もちろん、魔法使い系の筋力であっても、この状態で暴れられれば俺はあっさりと返り討ちにあったんだろう。


 が、チビは敗北を悟って抵抗をやめてくれた。


 悪態をついてうなだれる姿を冷めた目で見下ろしながら、俺は内心で安堵のため息を長く重く吐き出している。


 やっべー、綱渡りばっかじゃねぇか、この戦い。


 よく運が1で渡りきったな、俺?


 もう一回やれっていわれたら、五、六回は死ねる自信あるぞ?


「にしても、何だあの魔法? 見た目は派手だが、ぜんぜん威力がねぇじゃねぇか?」


 抵抗をやめたチビだが、油断せずに腕を捻ったまま、俺は魔法についての情報を聞き出そうとする。


 俺は魔法関連のスキルについては取得も出来ねぇし、当然初見だ。


 基本の魔法もよく知らねぇし、チビの魔法がなんて種類の魔法に分類されるかも、正直わかんねぇ。


 いや、魔法に関する基礎的な知識はあるんだぞ?


 基本の属性が火・水・風・土みたいな属性魔法で、中級スキルではそれらが強力になり、上級スキルでは複合属性が使えて超強力なる、ってのが常識的な情報だな。


 ただ、ユニークスキルに属する魔法は情報が少なく、ほとんど記録が残ってねぇんだよ。


 魔法を見りゃわかるかとも思ったんだが、チビが使ったのは火属性魔法の形をした何か、って印象しかねぇ。発動スピードと魔法操作は大したもんだったが、威力がてんでねぇのも気になるしな。


 名前さえ判明すればある程度推理できなくもないが、現状では情報が少なすぎる。


 いっぺん殺されかけてんだから、このチビを助ける義理はねぇ。


 でも、ここまでくれば乗りかかった船だ。同じ出来損ない仲間を励ますくらいはしてやろう。


「うるさいっ!! しょうがないでしょっ!? アタシの【幻覚】は、どこまでいっても幻を見せることしかできないんだからっ!!」


 だが、そんな俺にとっては珍しくも献身的だった考えは、こいつが吐き捨てたスキル名で一気に反転した。


 …………【幻覚】、だと?


 それが、出来損ない?


 何言ってんだ、こいつ?


 もし、俺が考えた内容が【幻覚】で実現可能だったとしたら…………、


 こいつ、とんだチートじゃねぇかよ?




====================

名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV7』『高速思考LV6』『並列思考LV6』『解析LV6』『詐術LV6』『不屈LV6』『未来予知LV4』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV5』『究理LV4』『限界突破LV5』『失神LV4』『憎悪LV10』『悪食LV5』『省活力LV5』『不眠LV5』『覚醒睡眠LV5』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』

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