表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/165

17話 二人目の日本人

 水川会長とのやりとりから、さらに一ヶ月が経過した。光陰矢の(ごと)し、とはよく言ったもんだ。


 あれから俺の生活は一変した。主に精神面で。


【普通】の特性の一端を知ることができ、日中は『冷徹』を使用した後で【普通】をかけることによって、俺の思考はかなりすっきりさせることができた。


 それまでの俺の脳は、イメージで言うと不必要なアプリを入れまくったパソコンがメモリー不足になり、動作がクソ遅くなってたようなもんだ。今までどれほど窮屈で無駄なことをしてきたのか、よ~くわかって嫌になったよ。


 その影響か、必要以上にイガルト王国の連中に絡むこともなくなった。心に余裕ができた証だな。


 今までの反応から、『契約魔法(仮)』の大まかな内容については把握できたから、検証の優先順位が低くなった、って側面もあるがな。何はともあれ、また一つ大人になった気分だぜ。


 書庫での情報収集の効率も、使用可能になった思考領域の増加につれて格段に向上した。おかげで、もう書庫の中身は九割読破したし。


 保存状態が悪ぃのか、ところどころ文字が読めなくなってた本もあったが、常識から高等知識まで、結構幅広く身につけることができた。


 反面、やはり体力づくりの訓練では成果が表に現れねぇ。


 無人での訓練になってからも【普通】は維持したまま、密偵(みってい)の監視を受けながらやっていた。が、息切れになるまでの時間が多少長くなるだけで、はっきりとした変化は正直なかった。


 もちろん、ステータスに変化はねぇ。


 俺の体は、異世界じゃどうしても虚弱体質から抜け出すことは出来ねぇらしい。まあ、歩くだけで呼吸困難になってた初日よりはマシだと思えば、訓練を続ける意味はあるんだろうと思えるから続けるけど。


 スキルに関しては、常時『冷徹』を展開しているおかげか、それだけレベルが一気に上がった。他のスキルも、ちょいちょいずつレベルが上がっているから、順調っちゃ順調だな。


 ただ、変化のない生活が続いたせいか、新規のスキルは覚えられていない。


 数だけはそろったが、だいたい四分の一が精神異常系のバステスキルで、残りも戦闘向きじゃねぇスキルだ。このままのスキル構成じゃ、この世界を生き残るには不安が残る。


 本音を言えばもっと身の安全を保証できるスキルが欲しいんだが、俺に与えられた自由時間が短く、新規スキルを覚えられる環境にねぇ。


 さらに、訓練でどんな動きをしてもスキル取得の気配さえねぇから、護身用の戦闘系スキルについては半ば諦めかけている。


 今は現状のスキルの上位スキルを取得することを目標としているが、書庫の本の情報はスキルについて列挙したものがなく、上位互換への条件なんかは判明していない。


 俺がまだそうした本に触れていないだけかもしれねぇが、未読の蔵書量を考えてもそうした内容の本に出会える可能性は低そうだ。


 スキルについては手探りでやっていくしかねぇ。【普通】のこともあるし、そういう意味じゃスタンスはこれまでと変わらねぇってことだな。


 で、あと気になってんのは日本人の成長と動向だ。


 勉強時間に本を漁りつつ、時折サボるフリで城内を徘徊(はいかい)し、他の日本人を捜すがやっぱ見つかんねぇ。一ヶ月前の会長との出会いは奇跡だったんじゃねぇのかと思えるくらいだ。


 体力が付いたから探索範囲も伸び、色んなところに顔を出すようになったが、見かけるのはイガルト人の嫌そうな顔ばっか。俺だっててめぇらの辛気くせぇツラなんて見たいと思わねぇよ。


 ついでに、俺の徘徊行動を不審に思ったのか、俺を尾行している密偵の数が増え、日中も密偵による監視の目が光ることとなった。


 窮屈だった生活が、より窮屈になっちまったよ。自業自得とはいえ、ウゼェことこの上ねぇな。


 まあ、それはいい。問題は日本人と出会えない、ってことだ。


 俺を除く日本人たちの勉強部屋や訓練場自体に変更はねぇだろうから、単に俺の運が悪ぃだけなんだろうか? 1だしな、俺の運。


 もしかして、城内をうろつく動きから俺の目的を推測したクソ王が、他の連中と接触しないようにその都度場所を変えている可能性もあるが、それだったらマジでクソだなクソ王の奴。


 とはいえ、会長との接触例がある以上、クソ王の管理も完全じゃねぇってことはわかってんだ。適当にぶらついていれば、またラッキーミートがあるかもしんねぇし、勉強時間を使った徘徊は続けている。


 ちなみに、今も城内探索中だ。


 すでに見慣れた場所を何度も何度もうろつくのは地味で暇で飽き飽きしてんだが、俺が城内の構造を把握していると思われんのも面倒だからな。何回通ってもおのぼりさんよろしくきょろきょろする演技は忘れねぇ。


 俺はちくちく感じるイガルト王国の密偵と思われる視線を感じながら、初めてこの場所を歩いているように装いつつ、日本人の人影を求めてさまよう。


「こっこはどっこで俺は誰~? ……お?」


 アホさを演出するためにド下手なオリジナルソングを歌いつつ、俺にあてがわれる訓練場とは別の訓練場の入り口を通りかかった時だ。


「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」


 明らかに、訓練場の方から疲弊した荒い息づかいが聞こえた。


 誰かが鍛錬をしている証拠で、声の質からして女。イガルト王国の兵士や騎士の中には女がほとんどいねぇから、日本人の可能性が高ぇ。


 ってわけで、迷うことなくその訓練場に足を踏み入れる。


 背中から感じる視線がかなり強まったのを感じ、イガルト王国側が俺と会わせたくねぇ人物がいることも察せられたから、行かないという選択肢はねぇしな。


「ちーっす」


 知り合いじゃねぇだろうが、あえて気安く接するように声をかける。


 これは中にいた奴に対する配慮じゃなく、イガルト王国の監視に対するポーズだ。


 訓練場にいた奴がどんな反応をしようが関係ねぇ。俺には、日本人相手に親しく接する奴がいる、ってことを示すことができるからな。


 そうすることで、俺には孤立させても日本人として召喚前の繋がりがある奴がいた、と臭わせられる。


 そこから、俺を消すとそいつらの心証が悪くなり、戦力として使うことに悪影響があるってことをイガルト王国側に誤認させることができる、かもしれねぇ。


 イコール、自然と俺の生存率が上がるかもしんねぇ、ってことだ。


 やっても無駄かもしんねぇが、やらねぇよりはいいだろう。


 どんな些細(ささい)なことでも、人生やっぱ積み重ねだもんな。


 小さなことからコツコツと。


 俺は死なねぇためなら、どんなことでもやってやらぁ。


「……え?」


 そんな思惑を(つゆ)にも出さずに気安く手を振り、入り口に背を向けていた人物がこっちに振り返る。


 そいつは、当然ながら初対面の相手で、声の印象通りに女だった。


 俺の知らねぇ内にずいぶんとファンタジー感あふれるローブと服に替わっていたそいつは、かなりかわいい部類の女だった。会長が大和撫子的な和風で正統派美少女だとしたら、目の前のこいつはいかにもな読モ系美少女、ってところか。


 染めてんのか地毛なのかは知れねぇが、明るい茶髪のショートヘアーに、驚いて見開かれた目にはぱっちりとしたまつげが揺れている。


 見た目の印象は活発な元気娘、って感じがするが、装備からして魔法使い系の職業なんだろうな。ギャップがすげぇ。


 女だから当たり前かもしれねぇが、俺より小柄だな。俺の身長がだいたい170くらいだが、あっちは150くらいか?


 服の中の体型はローブやら現地服やらのせいでわかんねぇ。会長と比べちゃかわいそうだから、これ以上観察するのは止めとこう。


 で、そいつは何か知らんが、めっちゃ汗かいていた。あんな動きづらい格好で運動でもしてたのか?


 にしては、俺が聞こえたのはこいつの息づかいだけで、運動とかをしていたような音は一切聞こえなかったんだが?


「…………誰よ、アンタ?」


「おいおい、同じ故郷を持つ仲間だろ? つれねぇこというなって」


「アタシ、アンタみたいな軽い奴は知り合いでもないし、そう思われたくもないんだけど?」


 ちょっとの沈黙の後で返ってきたのは、存外冷たい声だった。


 感情全部を押し殺した風で、視線や表情から自分以外は敵だと思ってるような拒絶感をビシビシ感じる。


 初対面なのに、相当俺のことを警戒してやがんな。


 こりゃ、すでに日本人かイガルト人と、何かひと悶着(もんちゃく)起こした口か?


 会長にも色仕掛け戦術があったみてぇだからな、背がちっさくてもこんだけの容姿だったら、引く手数多(あまた)だろう。特に貴族だったら、こういうガキっぽいのにしか欲情しねぇ変態も多そうだ。偏見だがな。


 っつうわけで、こいつがそっち方面でのトラブル抱えててもおかしくねぇ。


 何かややこしいのを引いちまったか、俺?


「まあまあ、細けぇことは気にすんなって。で? こんなとこで何やってんだ?」


 内心のハズレ感を隠しつつ、俺は会長との接触でもしていた軽薄野郎を演じて近づく。


 さりげなく周囲を見渡すが、特にこの場が荒れている様子はねぇ。訓練をしていたにしちゃ、靴跡すらもほとんどねぇほど地面が綺麗すぎるんだよなぁ?


 会話の糸口的な感じで聞いたんだが、マジで何やってんのかわかんなかったから聞いたのもある。


 すると、こいつ、…………ああ、もう面倒だ。


 チビでいいや。


 チビが俺を牽制(けんせい)するように、持っていた杖の先端を突きつけてきやがった。


「うっさい! アンタもアタシを笑いにきたんだろ!? ハズレユニークスキルを引かされた、出来損ないってさぁ!?」


 …………何?


 まさかまさかの、本当の意味で俺のお仲間なのか?




====================

名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV7』『高速思考LV6』『並列思考LV6』『解析LV6』『詐術LV6』『不屈LV6』『未来予知LV4』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV5』『究理LV4』『限界突破LV5』『失神LV4』『憎悪LV10』『悪食LV5』『省活力LV5』『不眠LV5』『覚醒睡眠LV5』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』

====================



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ