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16話 スキル調査その4

 さぁて、と……やるか、【普通】の解除。


 初日からとんでもない目に()いながら、今日も今日とて【普通】解除をすんのは当然理由がある。


 一つにスキルのレベル上げ、もう一つに新スキルの確認だ。


 ステータス表記にちょいちょいある【固定】ってのは、文字通り【普通】有効状態だったらこの項目は一切変化しない、ってことを示している。


 よって、俺がスキルの経験値や取得の更新をしたけりゃ、【普通】の解除は絶対にしなきゃいけねぇんだ。


 他の理由として、【普通】を解除するとストレスで失神するってパターンが多発することから、【普通】の状態で身に降りかかった出来事は常に蓄積されてる、って考えられるからだな。


 つまり、あんま長時間【普通】状態を維持してっと、次に解除したときの反動(リバウンド)がより大きくなる……かもしれねぇんだよ。


 まだ確証はねぇが、定期的に【普通】を解除してガス抜きしてやんねぇと、精神的ダメージがヤバいんじゃね? と予想して行動してるわけだな。仮説がマジなら洒落(シャレ)になんねぇし。


 あとは、【普通】解除を繰り返しときゃ、スキルとかで補助されない精神的に耐性がついて、反動(リバウンド)の負担にもいずれ慣れるんじゃねぇかと期待してる節もある。


 すでに『不屈』もあるし、なんだかんだで今の生活にも順応してきた。全部が楽観的な考えじゃねぇはずだ。


「よ――っと」


 実際、一ヶ月もすりゃ【普通】解除にも慣れたもんで、すぱっと上着を脱ぎ捨て上半身裸になると、クソ穴の前に座り込む。


【普通】を解除するとだいたい、ストレスマッハで冷静さを失い絶叫するか、飯が(まず)すぎて吐くか、トレーニングの加減を間違えた疲労で吐くか。


 この三択に選択肢(まつろ)が絞られてきてんだよな……三択中二択が『吐く(ゲロ)』っつう、六割を超えた圧倒的ゲロ率の高さよ。


 案の定、解除の(たび)に服がゲロまみれになっちまってたもんだから、事前に服を脱ぐくらいの予防はすぐに思いついたっけな。


 さらに、被害を最小限に抑えられるよう目を付けた設備がこのクソ穴だ。


 俺の上と下を含む排泄物をブチ込んできたせいで、穴から漏れだす臭いはかなりキツい。


 だが、この穴の上で口をもってけば、自分の意思じゃ止めらんねぇ大声や嘔吐(おうと)に多少対応しやすくなる。全部防げるわけじゃねぇが、平場(ゆか)にぶちまけるよりまだマシだ。


 ぶっちゃけ、俺だってこんなことに慣れたくはなかったが、慣れざるを得なくなったよ……。


 人は環境に適応する生き物なんだ、ってつくづく感じたね。


「すぅ~、はぁ~」


 ってわけで、まずは恒例の深呼吸を一つ。


 ……いや、マジでそれくらいの覚悟がいんだよな、この作業。


 なんせ、一日の締めくくりが『失神』か『ゲロ』の確定二択だぜ? そりゃ憂鬱にもなるっての。


 どっちみち疲れることになんのに、やらなきゃ命に関わるかもしんねぇからサボれもしねぇこのジレンマ。


 ちょっとルーティーン挟んで気合い入れるくらいの準備をしてもいいだろ?


「――よし!」


 意識して声を出すことで残った迷いを取っ払い、真っ暗なクソ穴の上に頭を移動させて目を閉じた。


 そして、コツをつかんで可能になった思考によるスキル解除を強く意識し、カチリ、という感覚とともに【普通】が解かれる。


「…………っ!!?」


 瞬間。


 襲いかかってくる衝動(しょうどう)に、俺はいつも通り口を押さえて目をかっ(ぴら)く。


 しかし、今回のリバウンドは『いつも』と様子が違った。


「うわあああああ「経験値が一定値を超えました。『冷徹』がLV4になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『高速思考』がLV5になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『並列思考』がLV5になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『解析』がLV5になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『詐術』がLV5になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『不屈』がLV4になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『激昂』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『恐慌』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『限界突破』がLV4になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『憎悪』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『悪食』がLV2になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『省活力』がLV3になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『不眠』がLV3になります」あああああ「経験値が一定値を超えました。『覚醒睡眠』がLV2になります」あああああ「条件が満たされました。スキル「羨望LV1」を取得します」あああああ「条件が満たされました。スキル「恥LV1」を取得します」あああああ「条件が満たされました。スキル「優越感LV1」を取得します」あああああ「条件が満たされました。スキル「軽率LV1」を取得します」あああああ「条件が満たされました。スキル『嫉妬LV1』を取得します。なお、「羨望」は『嫉妬』に結合されました」あああああ「条件が満たされました。スキル『羞恥LV1』を取得します。なお、「恥」は『羞恥』に結合されました」あああああ「条件が満たされました。スキル『傲慢LV1』を取得します。なお、「優越感」は『傲慢』に結合されました」あああああ「条件が満たされました。スキル『無謀LV1』を取得します。なお、「軽率」は『無謀』に結合されました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『嫉妬』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『羞恥』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『傲慢』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああ「経験値が一定値を超えました。『無謀』がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」あああああっ!!!!!!!!!!」


 ――()っず~~~~~~~~~~っ!!!!


 俺、()っず~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!


 なに会長相手に説教垂れてんだ、俺?!


 なに日本人最強相手に優越感に(ひた)れたんだ?!


 なに『俺よくやったすげぇ』って自画自賛できたんだ?!


 俺はこの世界じゃ最弱の生物だぞ!?


 吹けば飛んじまうくらいマジでゴミみてぇな人間なんだぞ!?


 そんなクソみてぇな俺が、会長に向かってデケェ(ツラ)して『この世界の常識をわかってますよ~』とか、えっらそうにご高説垂れてたんだぞ?!


 ――思い出しただけで恥ずかしすぎて恥死(ちし)するわ!!


 なんならすでに勢い余って悶死(もんし)しそうだわ!!


 そりゃあ!?


 会長の発言が(しゃく)(さわ)ったのも事実だし!?


 俺の苦労なんざ知らねぇんだろうなクソ死ねって十割増しで思ったよ!?


 恵まれた奴の余裕を見せつけられた感じがしてめっちゃ腹立ったけどさぁ!?


 結果、精神的ブーメランが半端ねぇとか考えなしかよ俺ぇっ!?


 あぁ~、やべぇ!!


 今思い出しても五回は死ねるわ!!


 もうやだ!! 時間を巻き戻したい!!


 いや、マジで!! 切実に!!


 ……なんて、今までわき上がったことのない感情に従い、頭を押さえてその場をぐるぐるとのたうち回る。


 横回転の往復を繰り返し、俺は自らの体を張ってクソ穴周辺の床を綺麗にしていく。そのせいで腕や背中に固い石の床が(こす)れて傷が増えていくが、内心それどころじゃねぇ。


 ――こんだけ恥ずか死にたいと思ったのは生まれて初めてだ!


 ――いや、もうなんか、生まれてきてごめんなさい!


 ごっろごろ転がり、心身ともにしっちゃかめっちゃかなりながら、()き上がる羞恥から逃れようと悶絶を繰り返す。


 その上、ちょいちょい別れ際に見た会長の顔面ドアップも頭にちらつき、余計顔に熱が集まっていく。


 ――視界いっぱいの美人って破壊力高過ぎだろ!! グチばっかりの妄想垂れ流し高校生には目に毒すぎんだよあん時の俺大胆すぎだっつうのうらやまけしからグッジョブ!!


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 嬉し恥ずかし一対九の割合でもだえていた俺だが、そろそろ『この衝動から逃れたい』って思うくらいには冷静さを取り戻せてきた。


 かれこれ一時間くらいはドタバタしてたんじゃねぇのか? そろそろ上半身すっぽんぽんが完全に裏目に出てて、腕も腹も背中も傷だらけで痛みが増してきた。


 かといって、俺の感情がその場にとどまって冷静になることを許してくれない。もう、このまま一生自責の念で過ごしてもおかしくないくらい、俺の頭はパンク寸前だった。


 だから、俺はとりあえず平静を取り戻すために【普通】のクソ野郎を頼ることにする。


普通(コイツ)】を当てにすんのは異世界生活で何気に初めてだから快挙だよ。


 っつうわけで、【普通】よ、初めて仕事しろやぁ!!


 ――カチリ。


 脳内で何かが切り替わった感覚とともに、【普通】が起動したのはわかった。


「――うおおおおおおおおおっ!!!!!」


 ――なのにさっきと変わんねぇじゃねぇか!!


 安心したところに変化なしだったから、また無意味に叫んじゃったよ!?


 羞恥心が俺のガラスのハートを支配しまくって、ぐっさぐっさと内から外から攻め立ててきやがる!!


 あぁ~っ、死にてぇ~っ!!


 会長、ナマいってすんませんしたぁ!!!!


「ふおおおおおおおおおっ!!!!!」


 ――って、マジでどうなってんだクソ!?


 牢屋の壁に頭をゴンゴン何度も打ち付けながら、俺はとうとう本気で『自殺したい』って衝動にまで(さいな)まれだす。


 額から血を流しつつ、わずかに残っている理性で【普通】の違和感を考える。


【普通】って、俺を【普通】の状態にするスキルだろ!?


 こんな恥ずか死にたい欲求が【普通】なわけねぇだろうが!?


 俺が今まで【普通】を使ってきたのは、どういう状況だ?!


 思い出せぇ~、思い出せぇ~!!


「おおお――っ!!」


 …………そうだ。


 ずっと無視してたけど、俺が【普通】を起動していたのは、決まってメイドが呼びに来る時間。


 つまり『朝』だ。


 言い換えると、失神したりゲロ吐いたりして、一晩過ごして一時的にでも『落ち着いてから』だ。


 ただし、今回だけは例外。


【普通】を解除した途端に襲われた、恥ずか死にたい気持ちから逃げ出したくて【普通】を再起動した。


 そん時の俺の状態は、何度も言うように『恥ずか死にたい』気持ちで頭が支配されていた。


 つまり、そっから言えることって……


「ほああああああああああっ!?!?」


 ――くっそ!!


 このままじゃマジで自殺するぞ、俺!?


 死因が恥死(ちし)とか、ダサすぎっだろ!?


 考えてる時間はねぇ!!


 試すだけ試してやらぁ!!


「あああああっ!?」


 ――カチリ。


 まず、【普通】を急いで解除した。


 頭の中で何かが切り替わった感覚を感じ、きちんと【普通】が解除された感覚を捕まえる。


「――っ、はぁ、はぁ、はぁ」


 次にすぐ、『冷徹』を起動!


 自殺願望までに至った羞恥心は一瞬で消え去り、俺は自傷行為を止めてその場に四つん()いになってうずくまった。


 だが、まだ安心はできねぇ。


 俺の『冷徹』はレベル1につき1秒しか効果がねぇんだ。


 それが切れると、また自害必至の恥ずかしさが(よみがえ)ってきちまう。


 だから俺は――再度【普通】を起動する。


 ――カチリ。


 朝から含めて、本日三度目の【普通】がオンになった感覚を取り戻す。


 俺の仮説が正しければ、これでひとまずマシになるはずだ。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 四秒。


 …………………………なにも、変化はねぇ、な?


「……はぁ~~っ!!」


 ところどころ出血した肉体の痛みに顔をしかめながら、俺は仰向けになって倒れ込んだ。


 どうやら、俺の仮説はドンピシャだったらしい。


 何はともあれ、助かった、な……。


 擦り傷だらけの身体に、じゃりじゃりとした石の感触は不快でしかないが、ちゃんと痛みを感じるってだけで『生きてる』という実感を得られる。


 ……あぁ、それと、俺が立てた仮説ってのは【普通】における俺の『状態』に関してのこと。


【普通】の起動で得られる効果は『平静だった状態に戻す』じゃなかった。


 本当は――『スキルを起動した瞬間の『状態』に【固定】する』、っつうことだったんだ。


 今まで気づかなかったが、そう考えたら納得できることもいくつか出てくる。


 その一つが、異常なまでに早かった『激昂』と『恐慌』、『憎悪』のレベル上昇だ


 この一ヶ月、俺のステータスにあるスキルのレベルが全体的に上がってたんだが、中でも突出して伸びがよかったのが『バステ系感情スキル』だった。


 俺の性格的な適正か? とこれまでは思ってたんだが、【普通】による影響だとしたら説明が付く。


 よくよく考えればおかしかったんだ。


 怒りも恐怖も憎しみも、たいてい一過性のものだ。それがどれだけ強い感情だったとしても、一カ月近くも『同じレベル』で持続するはずがねぇ。


 なのに、そんな状態がずっと続いてる原因があったとしたら、【普通】が何かしら作用していたとしか考えられねぇ。


 この仮説が事実だったら、俺は毎日大半の思考を他の奴らへの『怒り』と、クソみたいな現状に対する『恐れ』、こんな状況に追いやったすべてに対する『憎しみ』で満たされた状態のまま、三十日余りを過ごしてきたことになる。


 つまり、感情が激変するスキルである『激昂』・『恐慌』・『憎悪』が『発動したまま【普通】で【固定】していた』から、レベル上昇が異様に早かった……ってのが真相だろうな。


 ……そら【普通】を解除すりゃ、一気にレベルも上がるわな。


====================

『嫉妬』

 どんな状況でも感情を嫉妬で満たす。レベルにより密度が増加する。LV1につき1分加算される。効果中は他の干渉による解消を妨害する。ただし、『冷徹』以上の鎮静効果を持つスキルの使用で上書きされる。

====================


====================

『羞恥』

 どんな状況でも感情を羞恥で満たす。レベルにより密度が増加する。LV1につき1分加算される。効果中は他の干渉による解消を妨害する。ただし、『冷徹』以上の鎮静効果を持つスキルの使用で上書きされる。

====================


====================

『傲慢』

 どんな相手にも感情を傲慢で満たす。レベルにより密度が増加する。LV1につき1分加算される。効果中は他の干渉による解消を妨害する。ただし、『冷徹』以上の鎮静効果を持つスキルの使用で上書きされる。

====================


====================

『無謀』

 強者に対する思慮に欠ける。レベルにより浅慮が深化する。LV1につき10%深化する。効果中は他の干渉による解消を妨害する。対象の能力が所有者よりも高いほど効果が強くなる。

====================


 ついでに『解析』さんにお願いして、一気にレベルマックスになった新スキルを見させてもらった。『解析』さんも、レベル上昇で仕事量が増えたようで何よりだ。


 で、名前からして警戒してたが、案の定前者三つは感情系バステスキルばっかだったな。


 内二つはあの有名な中二ワード、七つの大罪で見る『嫉妬』に『傲慢』だぞ? どこで使うんだよ、これ?


 この三つは全部、会長に抱いた強い負の感情がスキル取得条件だな。


 一気にレベルマックスにまでなったってことから、どんだけ妬んで恥じて(おご)ってたかわかる。


 はい、黒歴史決定!!


 こんなスキル、他人に見られるだけでも恥ずいわクソがぁ!!


 ただ、最後の『無謀』だけは、どっちかっつうと思考系スキルか?


 よく言えば『物怖(ものお)じしなくなる』ってことなんだろうが、悪く言えば『単なる無鉄砲』ってことだよな?


 どっちにしろ、取得しちまったのは納得せざるを得ない。


 会長の度量が大きかったからいいものの、あんだけボロカスに暴言吐いてりゃ、即座にぶった切られてもおかしくなかった……こっちも自分からは使いたくねぇな。


 今はとりあえず、全部放置の方向で。


 話を重要度の高い【普通】に戻そう。


 俺がこれまで自分を『冷静だ』と思い込んでたのは、分割させた『並列思考』の中で冷静さが残っていた『一割程度』の思考領域に『高速思考』を使い、すべての情報処理を任せていたからだ。


 残りの『九割』は、『並列思考』で感情系スキルによる後ろ向き(ネガティブ)な思考を『無意識下』に隔離していたため、ほとんど無視できていただけに過ぎない。


 ただ、今思えば……たとえ思考を分けて意識から外してたとしても、頭ん中で暴れる感情を完全にシャットアウトなんてできなかったんだろう。


 何故なら、【普通】状態にあってもずっと、俺は『負の感情』に引っ張られやすくなっていたんだから、な。


 特に顕著(けんちょ)なのが、召喚直後とそれ以降の精神状態だ。


 思い出してみれば、二日目以降の俺は明らかに(いら)つきやすく、キレやすい状態が続いていた。


 感情が刺激される状況になる(たび)、隠れた思考にため込んでいた『怒り』と『恐怖』と『憎しみ』があふれ出して、そういう態度に自然となっちまってたんだろうな。


 実際、クソ王の配下が黒い(もや)さんにやられて苦しんでいる姿を見て……俺は確かに、『楽しんでいた』。


 俺は口も性格も悪ぃって自覚してるが、他人の不幸や苦しんでいる姿に愉悦(ゆえつ)を覚えるようなクズじゃねぇって自覚もある。


 今になって考えりゃ、【普通】を起動していろんな『負の感情』が【固定】されていたからこそ、愉快痛快って気分になってたのかもしれねぇ。


 あとは、二日目以降ずーっと飢餓(きが)感やクッソだるい気分が続いていたのも、たぶん【普通】で【固定】しちまってたんだな。


 二日目の【普通】解除で吐いてから気絶した後、状態は確か『空腹・ストレス過多・混乱・憔悴』ってなってたはずだ。


 それなのに、【普通】で誤魔化せると信じてた俺は、そのままステータスを【固定】して放置した。


 その結果が、消えない飢餓(きが)と極度のストレス、意識を失わなければならないほどの狂い方に、体を動かすだけで崩れ落ちそうになるほどの疲労を抱えた一ヶ月だったんだな。


 まあ、もし【普通】がなくとも限界は来てただろうけど。


 何せ、食事は毎日ゴミのような飯を一食だけと訓練場近くの井戸水でまかなっていた上、【普通】を解除すれば気絶か吐くかでまともな睡眠もとれていなかったんだ。


 空腹感も倦怠感も消えねぇはずだよ。


 しかし……実は【普通】の使い方が間違っていた、って可能性が出てきたのは、嬉しいことなのか微妙なことなのか。


 だって『省活力』や『不眠』なんてスキルを覚えるくらい、栄養も休息も足りねぇ今の生活を送ってる限り、空腹も憔悴(しょうすい)も消えねぇってことだろ?


 衣食住をクソ王どもに握られている俺に、どうやって生活改善をしろってんだよ?


「……はぁ」


 しゃあねぇ。


 俺の健康状態については、とりあえず後回しでいいだろう。


 最悪、死にはしねぇんだ。


 体も動く。


 なら、何の問題もねぇ。


 ……そう思わなきゃ、やってられねぇしな。


 ようやっと思考が(まと)まり、落ち着くことができた俺は、イガルト王国から支給されたかってぇ紙で体の血をふき取り、石のベッドに横たわった。


 もう疲れた……。


 スキルの検証は、また今度やろう……。


 ってわけで、一度【普通】を解くことにした。やっぱり、【普通】を維持したまま長期間を過ごしたくねぇからな。


 ただ、そのまま【普通】を切ったところでまた自殺願望を含む『羞恥』を味わう羽目になる。


 だったら、どうするか?


 ――カチリ。


「ふぅ……」


【普通】の解除を感覚で理解し、俺は初めて『失神』の使用を決断する。


 そう、『羞恥』から逃げられねぇなら、強制的に眠れそうなスキルを使って誤魔化すっきゃねぇ。


『失神』の絶対効果時間は、レベル依存で二十秒くらいか?


 それくらいあったら、意識が完全に落ちるのに十分だろ。


 ……一応いっとくが、これが睡眠だとは俺も認めてねぇからな?


 あくまでも暫定(ざんてい)的な処置であって、いつか俺の感情が落ち着いたら『普通』に寝るからな?


「……っ!?」


 誰にしているのかわからない言い訳をしつつ、【普通】が止めていた『冷徹』の効果時間が切れる前に『失神』を起動。


 効果は問題なく発揮したようで、すぐにテレビの電源が切れるようにして俺の意識は垂れ下がった暗幕に覆い隠されていった……。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:空腹・ストレス過多・憔悴・羞恥


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

『冷徹LV4』『高速思考LV5』『並列思考LV5』『解析LV5』『詐術LV5』『不屈LV4』『未来予知LV3』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV4』『究理LV3』『限界突破LV4』『失神LV2』『憎悪LV10』『悪食LV2』『省活力LV3』『不眠LV3』『覚醒睡眠LV2』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』

====================



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