よい子の『シンデレラ』講座その2 ~娼婦と魔女~
「とまあ、控えめに言ってクソみてぇな幼少期を過ごした『エラ』の人生は、『王太子』の舞踏会で大きく動きだす」
――モフモフモフモフ
「ひゃうんっ!? も、はなしてよぉ!! んにゃっ!? ――もぉやだぁ~っ!!」
幼児退行したにゃん娘はさておき。
怯えていいのか心配すればいいのかわからない、って微妙な表情のガキどもを見渡す。
「この舞踏会は『継母』や『父親』からすりゃ、絶好のチャンスだ。『継母』は売れ残った『高級娼婦』の営業に、『父親』はそれに加えて『娼家』の宣伝に使えるんだからな」
「え? 『足きり姉妹』って、うれのこりなの?」
そんな中、ロリ熊だけはかなり興味深そうに俺の話に前のめり……マセてんなぁ。
「舞踏会が開かれたタイミングは、『エラ』の成人からすぐだ。当然『義姉』たちも成人してるはずだが、それまでずっと『父親の家』にいたんだぞ?
っつーことは、後援者を見つけられないまま、ずっとくすぶった生活を送ってた可能性が高ぇ」
『高級娼婦』ってのは、乱暴に言っちまえば『女版のヒモ』。
さっさと家を出て後援者のところに寄生してんのが、本来あるべき姿だ。
それなのにいつまでも『父親』や『継母』と一緒に暮らしてるって時点で、後援者探しに失敗したって証明になってんだよ。
「『継母』と『父親』が舞踏会の準備に熱心だったのも、ほぼほぼ『足切り姉妹』を家から追い出すためだ。
『継母』からしたら『高級娼婦』に金づるが付けば巻き上げた金品の横領をアテにできるし、『父親』からしたら売れ残った『不良在庫』の処分先が見つかるに越したことはねぇ。
『家中の衣装箱をひっくり返す』ほどだ、力の入れようは相当だろ?」
『継母』と『父親』の認識じゃ、『足切り姉妹』もそれなりにお荷物だった、ってことだな。
とはいえ、『エラ』の成人を目安にすると『足切り姉妹』の実年齢はいわゆる『適齢期』と比べりゃ高めだと思われる。
古今東西・人種貴賤を問わず、色を売る女は若けりゃ若いほど男からのウケがいいのは同じだ。
本来ならどの社交界でも、独り身であれば年増扱いされるだろう年齢の『足切り姉妹』にゃ、『高級娼婦』として勝負すんのはかなり厳しいはずだった。
が、この舞踏会は目的が『王太子の嫁探し』っつうことで事情が異なる。
「普通の社交界だと、参加する令嬢をエスコートする男は『婚約者』や『配偶者』って場合も多く、男性参加者の平均年齢が下がると同時に『足切り姉妹』の成功率も落ちる。
だが今回の舞踏会だと、参加した令嬢の大多数は『成人以下』かつ『未婚』。
必然的に令嬢のエスコートは『親族』――それも令嬢より年上の『兄』や『父親』などが務めることが予想されるんだ」
『王太子』狙いで参加する令嬢の家の爵位にもよるだろうが、付き添い役は高い確率で社交界に『場慣れ』しているはずだ。
『王族』主催の舞踏会で無礼を働くバカを入れれば、そいつ本人だけでなく家の名前にも傷が付くからな。最悪、爵位返上なんてリスクもあるんだから下手な人間にゃ任せらんねぇ。
そうでなくとも『王族』にすり寄って覚えをよくしたい! って思惑なんかも考慮すりゃ、貴族家の『当主(父親)』が令嬢の付き添いをすんのが無難だ。
顔見せっつうことで令嬢の『兄(次期当主)』を付き添い役に出すところもあるだろうが、よほど『王太子』と親密か貴族として優秀じゃねぇ限り『王族』クラスの相手なんてさせられねぇだろう。
っつうわけで、この舞踏会は『男性参加者』の平均年齢が高くなると考えられる。
それこそが、『父親』と『継母』にとっちゃ好都合だったんだ。
「参加するだろう令嬢の年齢層から父親世代を二十代後半から四十代くらいと想定すりゃ、『足切り姉妹』でも『若さ』を武器にできる。
中年の後援者候補が多いと思えば、期待値も高く意気込みも強ぇだろうさ」
要するに、最初っから『足切り姉妹』をあてがう標的は『王太子』じゃなく、『令嬢の親族』ってわけ。
じゃなきゃ、お触れにわざわざ『若い娘歓迎!!』なんて差し込むような勝算ほぼゼロの舞踏会に、喜び勇んで『足切り姉妹』を放り込むはずがねぇ。
『高級娼婦』として貴族に売り出せると『父親』が判断したなら、『足切り姉妹』の推定年齢は高くとも二十歳前後。特殊性癖相手にゃ厳しいが、まともな性癖相手なら妥当な年齢だろう。
まあ、もしかしたら『足切り姉妹』の方は本気で『王太子』を狙ってたかもしれねぇがな。
「一方、ちょうど成人して参加条件としては適当な『エラ』は、『継母』も『父親』も連れて行く素振りがまったくなかった。
これは一見すると、今までやってきたイビりの延長上と思われがちだが実際はそうじゃねぇ。じゃあ、何で『エラ』を除外したと思う?」
『え?』
「う~! うぅ~っ!」
今まではガキどもじゃ知らねぇ知識ばっかりだったが、それを詰め込んだ後なら答えられるだろうとまた話を振ってみる。
きょとんとした表情からうなり声を上げ始めたガキどもを見守りつつ、俺の腕に弱々しい爪で反抗するにゃん娘には弱点をプッシュ!
「――うにゃぁあ!?」
「『エラ』へのイジワルじゃないなら、『つれていけなかった』……とか?」
すると、ひときわ大きく痙攣したにゃん娘と同時にロリ熊がぽつりとつぶやいた。
だんだんにゃん娘の痴態を無視できるほど順応してきているな、ガキども。
「いい発想だ。『どうして連れていけなかったのか?』まで言えたら、なおよかったぞ」
「……どうして?」
ほぼほぼ正解を叩き出したことに笑ってやると、またロリ熊は考え始めた。
しかし、ガキの頭じゃ絞り出せてそこまで。
少し間を置いたが、理由まで答えられるガキはいなかった。
――まあ、答えられたらそれはそれで将来が心配だが。
「正解は、『『エラ』が『王族』の出した舞踏会の参加条件をクリアしてなかったから』だ」
『ええっ!?』
相変わらずリアクションのいいガキどものざわめきが落ち着くのを待ち、『エラ』のさらに深い事情へ切り込む。
「考えてもみろよ? 冷遇されてたっつっても、『エラ』の本職は『高級娼婦』だ。『足切り姉妹』がそうだったように、舞踏会へ出さない選択肢こそありえねぇだろ?」
『王太子』の要望から外れた『足切り姉妹』でも『父親』は舞踏会に出したんなら、成人してすぐの『エラ』を出さない道理がねぇ。
普段は召使い扱いでも、『高級娼婦』として最低限の教育くらいは施しているはずの『エラ』なら、多少身なりを整えりゃ『足切り姉妹』より後援者が見つかる可能性は高ぇんだ。
『そもそも参加できない』なんて事情でもねぇ限り、『父親』が放っておくはずがねぇだろ?
「お前らは全部覚えちゃいねぇだろうが、国内への公募には舞踏会の概要と参加資格が伝えられていた。その内、参加資格に関するものだけに注目していくぞ」
まず、『国内の上流身分が参加可能』については問題ない。『高級娼婦』は特殊だが上流身分と考えていいし、入場可能な『父親』が保証すれば『身分証明必須』もパスできるだろう。
また職業柄、選り好みしなけりゃ『ドレスコードあり』はあってねぇような障害だから無視していい。
それに『エラ』は話の中で、カボチャの馬車を利用して家から舞踏会会場まで往復していたことから、『王都近郊居住者』の条件も満たしているはずだ。
「となると、残る条件は一つ。『父親』は『健康状態の申告』ができなかった――つまり『エラ』の体が『健康』だと保証できなかったんだよ」
『……う~ん?』
と、『エラ』の問題を明らかにしたが、ガキどもは明らかに納得してねぇ顔をする。
おおかた、それって結局『父親』のいじわるじゃないの? なんて考えてんだろう。
「……ふにゃぁあ~」
この場で答えられそうな大人は、とうとう抵抗すらやめて俺の体に背を預けて脱力している。(モフモフ)
見下ろした先には、ほんのり赤面したままだらしなくふやけた表情が見て取れる。(モフモフモフ)
マタタビに酔った猫じゃねぇんだぞ、もっとしゃきっとしやがれ。(モフモフモフモフ)
「ここで言う『健康』は風邪とかのレベルじゃねぇぞ。主に『性病』――子供を作るのに必要な行為などで広がる『感染症』になっているかどうかだ」
『かんせんしょー?』
そして首を傾げる獣人ガキシンクロ再び。
何で合図もなく示し合わせたような動きができるんだ、コイツら?
「詳しいことは後でふやけ猫にでも聞け。簡単に説明すると、『感染症』は人に感染りやすい病気で、『性病』は人と人が愛し合うことで感染る『感染症』の一種だ。
んで、物語の流れをよく見直すと、『エラ』が生きる環境じゃ『性病』は社会問題になるほど深刻だ、っつうことがわかる」
『感染症』は人類の歴史で度々猛威を振るってきた恐ろしい災害だが、中でも『性病』は被害の大きさで人間の風紀を浮き彫りにする病気と言えるだろう。
再び中世ヨーロッパの時代で例に挙げると、流行した有名な『性病』に『梅毒』がある。
由来は諸説あるが、コロンブスの航海に随行した船員が新大陸で現地人と盛って感染され、帰りの航海で続いた長い禁欲生活を発散するため母国の娼館で盛って感染した、って説が有名だ。
娼館以外にも、元船員が各地で始まった戦争に傭兵として参加し、ストレス発散としてさらに戦地の近くにいた女と盛って感染しちまったんだと。
原因の細菌をもらうのもそうだが、古代からヨーロッパの性風俗がゆるっゆるだったのも問題だったんだろう。
梅毒の前から淋病の感染も盛んだったようだし、性病が蔓延しうる下地ができてたからこその大流行だったわけだ。
そう、『エラ』がいた環境もまた、それに近い状況にあったんだよ。
「条件の中にあった、『健康状態の申告義務あり(特に性病含む感染症の持ち込み厳禁)』って一文。『病気を持ち込むな』って意味じゃ当たり前なんだが、よく考えりゃ異常だ。
『王族』主催の舞踏会に参加できるのは『上流階級のみ』。裏を返せば、『上流階級』でさえも『健康状態の申告義務』が必要なほど、『性病』が蔓延しているっつうことなんだからな」
つまり、すでに『上流階級』にも『性病』の感染者が出てたんだ。
もっと言うと、『平民』だけじゃなく国の中枢にいる『王族』や『貴族』までもが注意しなきゃなんねぇほど、国全体に感染しちまっちまってる証拠でもある。
「主な感染経路が『性交渉』であり、それも仕事の一部である『高級娼婦』に向けられるだろう目は当然厳しくなる。
健康な体だって証明できねぇ『商品』を連れて行き、『品質管理』を徹底してねぇ仲介人っつう噂が広まるような真似、『商人』はしねぇよ」
「で、でも、『エラ』はずっと、おうちでお手伝いみたいな仕事をしてたんでしょ? あいしあう? ことは、してなかったんじゃ……」
「仕事をしているとは言った。だが、『家の中で』なんて一言も口にしちゃねぇぞ?」
より細かく言うと、『奴隷か何かのように』、『家族の暴言や客の要望に文句一つ言わず』、『男を誘う服を着て懸命に娼婦の仕事をこなしていた』んだ。
すなわち『継母』が来てからの『エラ』は実質、娼婦の中でも最低に位置する『私娼』と同等の身売りを強要されていた臭いんだよ。
外にやられる時はさすがに『父親』から身綺麗にさせられたんだろうが、帰った時に『灰や埃』で薄汚れるような扱いの『客』も多かったんだろう。
身綺麗なまま帰ったら帰ったで、『継母』から『家事』を押しつけられ、体はすぐに『灰や埃』にまみれる。
そうして、四六時中『汚れ仕事』をさせられた結果が、『灰かぶり』っつう蔑称だ。
「この時点で、『エラ』は実質的に『高級娼婦』を名乗る資格を失った『私娼』であり、身元が不確かな客にも『エラ』を斡旋した可能性がある『父親』も『健康』の保証はできねぇ。
『性病』が蔓延している社会で『性交渉』をさせるってことは、暗に『エラ』を使い捨てようと考えていた証拠だから、医者に診せることもなかったはずだしな」
「そ、れって……子どもができる、しごと、なの?」
「いや? 普通の大人ならガキ相手にやらねぇし、やらせねぇよ。……『父親』や『子供を買った客』みてぇな、一部の『人間』を除いてな」
『…………』
聡いロリ熊でもすべてを理解しちゃいねぇだろうが、俺の語り口にガキども全員が黙り込む。
遠回しな説明だったが、少なくとも『娼婦』が真っ当な仕事じゃねぇって察したんだろう。ガキでも危険性が伝わるように《精神支配》で感情を作ったのもあったが、少しでもヤベェと思わせたんならそれでいい。
実際に、ガキを好んで食い物にする『人間』はいる。
今後のガキどもにとっちゃ、覚えておいて損にはならねぇだろう。
「とまあ、そういうゲスな裏事情で『エラ』は本来舞踏会には出せなかった。だが、結果的に『エラ』も舞踏会に参加することができた。
唐突に現れた、『魔女』のおかげでな」
気づけば割と脱線していたから、無理矢理に話を戻してやるとガキどもの顔が上がる。
ここからは『エラ』の調子が上がってくる部分もあってか、ガキどもの興味を引けたらしい。
「ここで問題だ。前触れもなく現れて『エラ』を助けた『魔女』――コイツの正体は何だと思う?」
『しょうたい?』
が、すぐに『何言ってんだコイツ?』って表情で染まった。
「よく考えてみろ。『魔女』は『エラ』の成功にとってなくてはならない登場人物だったが、善意だけで見ず知らずの人間にそこまでしてやると思うか?」
獣人はほぼ魔法が使えねぇ種族だからガキどもはピンときてねぇようだが、『魔女』がしてのけたのは『善意』なんて軽い言葉ですませていいことじゃねぇ。
何せ、『複数の対象』に『長続きしない魔法』を『エラが舞踏会から帰るまでの間』ずっとかけ続けた上、魔法維持に必要な『莫大な魔力』を『二晩連続』で消費していたことになる。
そうして『魔女』が得られたものなんて、せいぜい『王太子』から逃げた翌日に『エラ』からの抱擁と口頭のお礼があったくらいだ。
ともすれば無理な魔法行使によって命の危険もあっただろう『魔女』にとって、メリットが少なすぎる。
なら、『魔女』がそうまでして『エラ』を助けたいと思う動機や関係性がすでにあったはずなんだ。
「ヒントは『魔女』が使っていた『魔法』だ」
「――えっ!? もしかして……」
問答に飽きねぇようサービスでヒントを出してやると、真っ先に反応したのはロリ熊。
「『魔女』さんって、『エラ』のことが好きな『男の人』、なの?」
「お見事。文句なしの大正解だ」
『ええぇぇーっ!?』
そのままロリ熊に答えさせると、大きめの叫び声が耳を貫いた。
女子は新たなロマンスの気配を感じたのか、声のキーが若干高くなってたガキが多い。
ぶっちゃけ、うるせぇ。
「じゃあ、あの『魔女』さんのセリフが、なんか変だったのも?」
「中身が『男』って考えりゃ、納得できるだろ? 『魔女』の見た目は『老婆』っつってんのに、あんだけ馬鹿丁寧な言葉を使えば下手に出てんのバレバレだし」
ロリ熊が『魔女』をストレートに『男』と断言した理由は『魔女の台詞』にある。
具体的な部分――『魔女』が『エラ』の前に姿を現した直後の言葉を抜粋しよう。
『ああ、可哀想なエラ。貴女ほど素敵な女性はいないというのに、置き去りにされてしまうなんて。でも、もし。もしも貴女がそれを望むのであれば。王様が開いた舞踏会へ、行きたくはありませんか?』
『貴女ほど素敵な女性はいない』なんてもろ口説き文句だし、『でも、もし。もしも貴女がそれを望むのであれば』なんて切なげで未練たらしい表現が『老婆』から出てくるかよ。
どう考えても『エラ』への恋愛感情を隠す気ねぇじゃねぇか。
肝心の中身はというと、『魔女』に変装して自分の正体を隠した上に、家にいる『エラ』の行動まで知ってる付き纏い気質からして、ヘタレな上に相当陰湿な野郎なんだろうな。
が、女子どもには関係ねぇのか『エラ』の隠しルートにキャーキャー言ってやがる。
女ってわっかんねぇなぁ……。
「補足すると、中身は十中八九『貴族』だ。
無茶な魔法運用でも耐えうる膨大な保有魔力量と、複数対象に完璧な魔法を《詠唱破棄》で行使した技量、ついでに特異すぎる魔法効果も考慮すると、爵位が相当高位で強力な『魔法スキル』を持つ家系である可能性が高い」
魔法が使えるってだけじゃ、先天的な『スキル』も存在するこの世界じゃ断定は難しいが、物語中で見せた魔法を判断材料にすればほぼほぼ『貴族』で決まりだろ。
『魔力量が多い』ってのは後天的に鍛えられる要素ではあるが、先天的な『遺伝』も無関係じゃねぇ。『適正職業』などを根拠にすりゃ、ステータスの上昇率はほぼ先天的な資質といえる。
その点、貴族は優秀な人物を一代限りの騎士爵や下位貴族にするような、実力主義の側面がある。そこから遺伝子を政略結婚などでちょいちょい取り込むため、貴族には『優秀な遺伝子』が生まれやすいんだよ。
『魔法技術が高い』ってのは冒険者の叩き上げって可能性も否定できねぇが、貴族なら『実戦経験』がなくとも『操作技術』は高ぇなんてことはザラにある。
平民に比べ貴族はいろんな伝手でステータスやスキルを早めに把握でき、才能を伸ばすための教育方針は早く決まるし、初動が早い分だけ教育期間も長くなっからな。
決定的なのが、さっきショタ狐の疑問で答えたように『見聞きしたことがない特殊な魔法』を使ったこと。
平民でも獲得できる『○属性魔法』みてぇに一般的なもんならまだしも、『魔女』が使って見せたのはぶっちゃけユニークスキルに近い魔法だ。
短時間とはいえ、対象の生物を別の生物へ変化させる『生物情報の改竄』をして見せた上、ボロからドレスへ変えたことから魔法の対象は『無機物』さえ含む。
こんなユニークないしは特殊上級スキルの魔法を使えるってなったら、平民よりも貴族だと考えた方がまだ現実的なんだよな。
「『男の人』で『貴族』――あっ、それじゃあ、『エラ』は……」
「ああ」
そこまで説明すると、現実に戻るのも早かったロリ熊が口に手を当てる。
「『エラ』は『高級娼婦』の行儀見習いを名目に出された奉公先の『貴族』相手にも、『私娼』をやらされてたんだよ」
『ぇ……』
他のガキのために説明してやると、色めき立った空気が一気に死んだ。
「普通なら御法度だから『父親』もしなかったはずだが、『性病』の広がりに従い『貴族』に対する国の規制が強まって、『高級娼婦』を囲うことが厳しくなってたんだろう。
無用な感染拡大を避けるため、必要な措置としてな」
この規制は広く見りゃ、『足切り姉妹』の就活失敗にも大きく影響していた要因だ。
風俗業界にとって『性病』はまさにリーマ○ショック。各方面で解雇や営業停止が頻発し、ビビって客も遠のいたらまともな商売なんてできるわけがねぇ。
証拠に、『エラ』が住んでいた『娼家』は『無駄に広い』って描写があった。
それは、居住者の五人よりも多い人数を受け入れられる広さを有効利用できていないってこと――イコール『エラ』が成人した時点で多くの『高級娼婦』が『娼家』から消えてたってことだ。
後援者に拾われたか、『父親』から解雇されたか……あるいは『性病』で死んだかしてな。
「しかし、ガス抜きの相手がいなくなった『貴族』はたまった欲求をどうしても発散したくなる。そん時に目を付けたのが『高級娼婦見習い』――つまり『エラ』みてぇなガキだった」
そこで『風俗業界』たちが生き残るためにとった苦肉の策が、『違法売春』。
『高級娼婦』が貴族に営業をかけるのはアウトだが、『高級娼婦見習い』が貴族の家で行儀見習いをするのは合法だ。
肩書きはどうあれ貴族社会の『勉強』をしに行くわけだから、誰かに問いただされたら『侍女見習い』とでも言えば一応の言い訳が立つ。
そうして家に入れちまえばもうやりたい放題だ。
やり口は奉公期間の拘束日数で金額を設定し、金が払われた時点で『父親』が『エラ』を連れて行く派遣型に近いシステムだろう。
特に『エラ』は子どもの時から『かわいい』女の子だったわけだから、五人分の生活費と衣装代を稼ぐくらいにはいろんな貴族で『勉強』させられたはずだ。
「そんな奉公先の一つで『エラ』と出会い、恋をしたのが『魔女』の中身だ。舞踏会に参加してねぇってことから、貴族家の令息ってところが妥当だな」
名目が『侍女見習い』の『エラ』は、普段掃除やらなんやらで屋敷ん中を歩き回ってただろうし、当主の家族と顔合わせしていてもおかしくねぇ。
そん時『エラ』に一目惚れしたか、見かけるうちに好きになったか、ってところだな。
『エラ』の家にこれたのも、『王太子』のための舞踏会に他の男はお呼びじゃねぇからだ。
政治的な思惑とかがねぇ限り、令嬢の気を散らす比較対象なんて『王太子』の邪魔になるだけだしな。
逆を言えば、舞踏会が開かれている間は当主の目がそれるから、残された令息には行動の自由が利く時間が生まれる。
こっそり家を抜け出して、『エラ』に会いに行ってもバレにくいってわけだ。
「そ、れじゃあ、なんで『魔女』さんは、『エラ』を舞踏会に行かせたの? だって、好きな人を『王子さま』にとられちゃうかもって、思うんじゃ……?」
「本音は行かせたくなかったんだろうが、『魔女』の中身はヘタレだからな。回りくどい言い回しで『エラ』の気持ちを探ろうとして見事に玉砕、だったらせめて『エラ』が幸せになるよう手伝おう、ってのが大筋の流れだよ」
直接自分が告白してフられるのをおそれたのか、『魔女』は舞踏会に行くかどうかで『エラ』を試した。
『行く』と言えば自分が出る幕はないと諦め、『行かない』と言えば正体をさらして告白するつもりだったんじゃねぇか?
で、実際に『エラ』が『行く』と決めたから、『魔女』は自分の想いを隠して『エラ』を舞踏会に送り出したんだ。
せめて『エラ』が幸せだと笑ってくれたらそれでいい、ってな。
「すてきだね~」
「『エラ』、あいされてるんだ~」
「あたしもそんなひととけっこんした~い」
そこまで話したところで、女子が好き勝手にしゃべり出した。
結構キッツい話ばっかりだったからか、恋愛トークに花を咲かせて沈んだ気持ちを上げてるんだろう。
一方、男子に目を向けると居心地が悪そうに体をモジモジするばかり。
女の方が早熟なのは種族とか関係なく共通してんだなぁ、と感心する光景だ。
「女って本当に色恋沙汰が好きだよなぁ。ついでにコイツも入れてやってくれ」
「――うにゃぅ」
キャイキャイはしゃく女子に呆れつつ、使い物にならなくなった大人を放り込む。
俺の手技がよほど気持ちよかったのか、ぺいっ、と放り込んだ先でにゃん娘は膝を抱え込んで丸まり、毛繕いするように自分の耳をコリコリかいて余韻を楽しんでいる。
……おい、女子獣人に枝で突っつかれてんだから少しは反応しろ。
出会い頭に俺を殺しにかかった獅子の野性を思い出せ。
「……あの、ヘイトおにいちゃん」
「ん?」
醜態をさらしまくるにゃん娘に心底呆れていると、服の裾がくいくいと引かれる。
視線を落とせば、ロリ熊がウルウルさせたあざとい上目遣いで小さな口を開いた。
「クイズに正解したし、ベルにも、ごほうび、ほしい」
「いつの間に罰ゲームがご褒美になったんだ?」
『エラ』の話をしているときはめっちゃ嫌がってたじゃねぇか。
どういう心境の変化だ?
それと、ロリ熊って一人称が愛称なのか。コイツの場合、やけに似合ってんな。
「だって、シェン姉、すごくきもちよさそうだった、し……」
なるほど、にゃん娘のご乱心でモフモフへの興味が強まったのか。
やっぱりマセてんな……いい心がけだ。
「じゃあ遠慮なく」
「ひ、ぃ……ゃぁん!」
さんざんにゃん娘をモフった後だが、俺は来るものを拒まない主義だ。
向けられた丸い熊耳にソフトタッチで触れ、反応と感触を確かめるように指を這わせる。
「どこがいい?」
「え、と、えと、あたまと、みみの、くっついてる、ところ――」
「ここか?」
「ふぁ、ひゃぁあん!!」
前にも確かめた弱点をなぞってやると、ガキらしくない声が上がる。
敏感なところとはいえ、もうちょっと声をどうにかしろよ。
見た目の犯罪臭が半端ねぇだろうが。
「やめるか?」
「やだ、ぁ、もっと……ぉ」
涙目で見上げんなロリ熊。
それはもう発情した顔だ、完全に事案だよ。
「――ぁにやってんだテメェ!!」
「おっ?」
「ぁっ!」
さてどうするか、と考え始めたところでにゃん娘が復活した。
俺からロリ熊を奪って遠ざけ、犬歯をむき出しにジリジリと距離をとる。
「ウルンベルウィにまで手ぇ出してんじゃねぇよ! 女なら誰でもいいのかクズが!!」
「違ぇよ、強いて言うなら『獣人』なら誰でもいいんだ。男女問わず、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、甲殻類、昆虫類、節足動物などなど――いつでも大歓迎だぜ?」
『ひいぃっ!?!?』
ニッコリ笑って両手をワキワキさせてみると、にゃん娘たちは明らかにどん引きして後ずさった。失礼な奴らめ。
異世界にくる前は毛のある動物専門だったが、獣人の『獣の徴』をまさぐってるとそれぞれの良さがわかってきたんだよな。
見た目がグロい動物でも弱点はプニプニしていて触り心地抜群だし、甲殻類の裏側なんか乳児に勝るとも劣らないもち肌だった。
ここまでくると全獣人の弱点をコンプリートしたくなる。
俺だって今までの生活で欲求たまってんだよ、発散させろや!
「ええい、そんなことより『エラ』の話はどうした!? 脱線してんじゃねぇよ!」
「途中から脱落してたテメェに言われたかねぇよ。面倒臭ぇから説明し直したりしねぇからな」
俺としてはモフモフパーティーでも一向に問題なかったが、にゃん娘が勝手にストップをかけたので諦める。
「さて、かくして舞踏会に乗り込んだ『エラ』だが、こっから徐々に『傾国の悪女』としての一面を表に出してくる」
そう――冷酷かつ狡猾な『復讐者』の顔が、な?
想像以上にエグくなった『シンデレラ』の裏事情による後味の悪さを獣人で毒消ししてます。
それでも一部、(にゃん娘ちゃんが飼い猫になる)不適切な描写が入りました。失礼いたしました。
一応言っときますが、ロリ熊ちゃん弄りも合法です。(真剣)
字面と雰囲気がヤバいだけで映像化したら健全ですから、通報は勘弁!
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(異世界人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)
生命力:2004/2004(【固定】)
魔力:962/1812(【固定】)
筋力:176(【固定】)
耐久力:148(【固定】)
知力:183(【固定】)
俊敏:135(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解LV2》《魂蝕欺瞞LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)
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