よい子の『シンデレラ』講座その1 ~少女と家族~
※注意。
この講座シリーズは数話ほど続きますが、特殊な暴力表現を使用しております。
童話が好きな方、『シンデレラ』が好きな方、デ○ズニープリンセスが好きな方、何より俗に言う『シンデレラストーリー』が好きな方は、閲覧する際には特に注意していただくよう、よろしくお願い致します。
また、このアレンジ童話講座における解釈はあくまで『ヘイト君』の意見であり、『作者』の実際に有する思想・宗教・価値観・人格とは一切関係がありません。拙作キャラクターの偏った意見であることを先に承知してください。
なお、意外と好評だった『あらすじ』を踏襲し、また前回投稿分のあらすじを書いてみました。
・『アント狩り』で魔物食って童話聞く
一行で済みました。
で、今回投稿分は童話の突っ込み回です。
前回から日が空いてしまったので、前話(童話回)を確認すると解説がなおわかりやすくなるかと思います。
面倒くさい、と思われた方はご自身が知ってる『シンデレラ』の内容を思い出しながらお楽しみください。拙作の『あらすじ』並には整合性がありますので。
最後に、読者の皆様は嘘吐け! と憤っておられるかもしれませんが、シリーズを読み終えた後でもこれだけは信じてください。
『作者』は、童話が、大好きです。
あれ? 既視感?
そんな感想を抱いても仕方ねぇアホ面だらけの光景に、俺は大げさにため息をついてやる。
「何でそこで疑問符が出てくんだよ。お前ら昨日、俺の話ちゃんと聞いてたよな?」
「――おい待て。まさか『エラ』の話も、『ツヒコ』と同じようなエグい展開だった、とか言うつもりじゃねぇだろうな?」
すると、にゃん娘が表情を疑問顔から一気に苦々しいものに変え、ほぼ睨みつけるように目を細めた。
「にゃん娘がいう『エグい』の基準は知らねぇが、当然これにも『裏』があるに決まってんだろ。逆に聞くが、まさか昨日の今日でハッピーエンドになると本気で思ってたのか?」
「そもそも子どもに聞かせる話はハッピーエンドで終わらせろよ!?
これは酷い扱いを受けた『エラ』が、『魔女』の助けを借りて『王太子』に見初められ、幸せをつかむまでの苦労と成功を描いた物語じゃねぇのか!?
っつかもうそれでいいだろ!?」
「いいわけねぇだろ。上辺だけの言葉だけで『エラ』の物語を語るなっつの。『エラ』に失礼だぞ?」
大げさに『心外だ』と言わんばかりな顔を《精神支配》で作ってやれば、にゃん娘はガクッ! と首と肩を落とす。
ガキどもの表情も似たようなもんだ。おいおいまたかよ、って心の声が透けて見える。
この様子じゃ、今回も俺が伝えたかったことは全部スルーされたらしい。
しゃーねぇ、また1から解説するっきゃねぇか。
まだクソ飯の影響で顔色が悪いガキもいるし、いい食休みになんだろ。
「一応最初に確認すべきことだから聞くが、お前らは『エラ』のことをどれだけ把握してる?」
「どれだけ、って……どういう意味だよ?」
「そのままの意味だ。『エラ』という少女がどんな人間か? って話だよ」
とりあえず、初回とは違って最初から教えることはせず、にゃん娘たちに考えさせてみる。
この物語の根幹部分ではあるものの、結構漠然とした質問のためか、全員が眉間にしわを寄せてうんうん唸っていた。
にゃん娘……テメェはもっと年長者の意地を見せろ。
「え、っと、たしか『生まれた時からとてもかわいくてかしこくて、とってもやさしい女の子』って言ってたよね?」
「さすがに記憶力がいいな、ロリ熊。それに『内気な人見知り』も追加できてたら、序盤の暗記は完璧だったぞ」
で、しばらく後に優等生な回答を口にしたのはロリ熊。
喉語の暗号も年長四人組の中で一番物覚えがよかったから、まあ予想通りか。
「でもな、それは『エラ』が生まれたとき――お前らよりも小せぇ『幼児期』の話だろ? 俺が聞きてぇのは『成人したエラ』だ」
『え?』
俺の言葉が予想外だったのか、またまたにゃん娘たちは首を傾げる。
……どうでもいいけど、綺麗に同じ方向に頭が倒れたせいかシンクロしたダンスみたいで無駄に壮観だな。
「えと、『大人になってから』の『エラ』で言ってたのって、『たくましい』とか『やさしい』とか、だったよね?」
「おー、ロリ熊はいつも模範的な回答だなー。……正直すぎて100点満点中20点だがな」
「ぅ……」
さらに記憶をさらって発言したロリ熊だが、俺が笑顔で落第点すると一気に萎縮する。
「おいテメェ! ウルンベルウィは気弱なんだから、もうちょっと言い方考えろよ!」
「だったらテメェが先に答えりゃよかっただろうが。ロリ熊より答えるのが遅かったネコミミが、えらそうに文句言ってんじゃねぇよ」
「ぐっ、……いや、オレ猫じゃねぇし!!」
怒られたとでも思ったらしいロリ熊の反応でにゃん娘が抗議を入れるが、逆に言い負かしてやる。
っつうか、ロリ熊はお前が思うほど柔じゃねぇぞ?
表面上は打たれ弱く見えても、ガキにしちゃ芯がしっかりしてて切り替えも早ぇし。
成長の余地も含めて、メンタル的にはガキどもの中じゃダントツトップだぜ、そいつ?
予想じゃ、将来は旦那を尻に敷く肝っ玉タイプになるんじゃねぇか?
「『たくましい』のは事実だが、『優しい』は大間違いだ。なんせ『エラ』は、後に『傾国の悪女』なんて呼ばれるほどの大悪党として有名になった女だからな」
『えぇーっ!?』
それはさておき。
しばらく待ったが、ロリ熊以上の答えが期待できず『エラ』の正体を説明すると、ガキどもが目を丸くして驚いていた。
そこまで意外か?
「さっきの話をどう曲解したらそんなことになんだよ!? ありえねぇだろうが!!」
「ところがどっこい。そうなっちまったのが『エラ』の物語の奥深さなんだよなぁ」
即座に噛みついてきたにゃん娘に笑みを向けると、ガキども含め全員が胡散臭いものを見る目を返してきやがった。
お前ら、俺に対しての不信感は全開なんだな。
「ひとまず落ち着け。最初から説明してやっから。
まず話の冒頭、登場したのは『エラ』の他に『母親』と『父親』だった。しかし話だと『母親』はすぐに死亡し、『父親』が『継母』をつれてくるわけだ」
「……呼び方は『継母』でいいのか?」
「伝わるからいいだろ?」
本当に細けぇなにゃん娘は。
「さらに聞けば、この『継母』と『足切り姉妹』はどうやら貴族階級だと思われる。後に舞踏会にも参加できたくらいだから、高貴な身分に近かったことは確定だろう。
さぁ、ここで問題だ。そんな『継母』と知り合い、さらっと舞踏会にも参加できた『エラ』の『父親』は、一体どんな人物だったと思う?」
『『ちちおや』?』
さらに疑問を投げてみると、ガキどもはさらに難しい顔をして頭を悩ませる。今度はロリ熊も口を開いたりしねぇ。
まぁ、『父親』は読み聞かせの中じゃほとんど説明がなかった。
さらに人間の――それも『貴族』関連の知識がねぇ獣人族じゃ、答えは出てこねぇわな。
「――あぁ、もうわからん!! っつうか、『エラ』と何の関係もねぇじゃねぇか!!」
「関係大ありだ。何せ、『エラ』を『悪女』に仕立て上げた張本人が『父親』なんだからな」
『???』
途中で思考放棄したらしいにゃん娘がいきり立つも、再び冷や水をぶっかけて鎮火。
ガキどもの頭上にいくつも疑問符が飛び交うのを見て、俺は物語攻略の一歩を教える。
「まず『父親』ってのは、『エラ』との関係性を示すだけの『隠語』に過ぎない。つまり、『エラ』の『本当の肉親』じゃねぇんだよ」
「――はぁ!?」
『えーっ!?』
すると、にゃん娘を含む女子陣が一斉に立ち上がった。
「何でいきなりそんなことになってんだよ!?」
「話の全体から『父親』の情報を思い出せよ、にゃん娘。この男、相当に怪しいだろうが?」
女子全員の代表として突っかかってきたにゃん娘を押しとどめてから、『エラ』の話における不審な点を挙げていく。
「まず一つ、どうして『母親』を含めた『家族関係』についての言及がなかったのか?
次に『父親』は、どうやって『継母』と知り合ったのか?
また『父親』は、何の仕事をしているのか?
さらに何故、『父親』に関する言及が『少なすぎる』のか?
それぞれに注目すると、『父親』の本性がわかってくる」
一度ガキどもを見渡し、少しは聞く姿勢を取り戻したのを確認して、一つ目の疑問から触れた。
「この物語は『エラと王太子が結婚するまでの経緯』を描いた話であり、『家族関係』は『継母』とのつらいやりとりばっかだった。
おそらく、聞き手が最後に成功する『エラ』への同情と共感を覚えるための演出もあるんだろう。最初から順風満帆な奴の成功なんて、聞かされる側はクソほどつまんねぇしな。
が、それにしたって登場人物に対する『エラ』への態度は不自然だったと思わねぇか?」
こんな話をした俺が言うこっちゃねぇかもしれねぇが、あえて言おう。
ぶっちゃけ、『不憫すぎる』。
物語の冒頭で懐いていた『母親』は死に、『父親』が連れてきた『継母』にこき使われ、次第に『父親』からも見放された。
成人した時に舞踏会という転換点がなければ、『エラ』は生涯ずっと召使いのように扱われてただろう。
他ならない『家族』からの迫害によって。
「『父親』が『継母』を連れてきた表向きの動機は、『エラ』が『母親の死』を悲しんでいたからだっただろ?
『エラ』がいくつの時に『継母』がきたのか正確には語られてねぇが、大ざっぱに『小さいとき』から『成人』までは、ずっと虐げられてたことになる。
もし『父親』が『肉親』だったら、『エラ』の悲しみを減らす為に用意しただろう『新しい母親』が、『娘』に酷い仕打ちをしていることを、なぜ注意も対策もせず最初から放置してきたんだ?」
手段が正しかったかは別として、話の流れを真に受ければ『継母』は元々『エラ』を慰めるために用意された存在だと、聞き手に思わせた。
だが本当に『エラ』を想うのならば、『継母』が完全に逆効果だったことは『父親』ならすぐに知れたはず。
本当の『父親』が『子ども』を、それも『最初の妻の忘れ形見』を傷つけられて黙ったままでいるか、普通?
「でも、確か『父親』は『エラ』のことを疎ましく思うようになった、っつってたじゃねぇか?」
「だとしても、『その前』にかばうなりなんなりできただろ? 『父親』は守る素振りすら見せてねぇんだぞ?」
にゃん娘が内容を思い出して聞くも、理由になってねぇと一蹴する。
後に『父親』が疎ましく思うようになったとしても、それは『継母』がきてからすぐの話じゃねぇはずだ。
『エラ』が疎ましがられていたと断定できる時点で、すでに『継母』と『足切り姉妹』は『父親』に土産を要求するほど生活に馴染んでたんだぞ?
数年、早く見積もっても一年くらいは『父親』とともに暮らし、『どのラインまでならワガママが通るか』を把握してなきゃ、いくら『継母』たちでも『厚かましく』高価な品物を要求しねぇよ。
「何より不審なのは、そのシーンで『父親』が悪感情を覚えたのが『エラ』だってことだ。
逆だろ普通? 俺だったら『継母』みてぇな要求されたら、問答無用で身ぐるみ引っ剥がした後で家から追い出す自信しかねぇ」
『うわぁ……』
俺が心から『継母』への軽蔑を吐き出し、ガキどもがドン引きするのはさておき。
あのシーンが女目線じゃどう見えるのかは知らねぇが、男目線からしたら高価な土産をアホみてぇに要求する女こそ『疎ましい』と思うだろう。
あくまで経済活動の一側面として見れば、富を『消費』し己を美化して武器とする女と、富を『生産』し己を誇示して武器とする男では価値観が正反対だ。
流行発信者がもてはやされる女同士だと挑発に使える斬新な服や希少な宝石なんかは、ほとんどの男からすりゃただの無駄遣いとしか見えねぇ。
そう考えりゃ、経済的負担を案じたように思えた『慎ましく何も要求しなかった女』に、『男』が抱く感情としては奇妙なんだよな。
「要するに、『父親』は『継母』たちのように『ドレスや宝石を求める態度』こそを望んでいた、っつうことになる。そうじゃねぇと、『エラ』が嫌われた理由に説明がつかねぇ」
「……そう言われちゃ、『父親』がなんか怪しく思えてきたけどよ。じゃあ結局、コイツは何なんだよ?」
かなり遠回りな解説に痺れを切らしたらしい、にゃん娘が答えを急かして詰め寄る。
「はぁ、ったく。『父親』の正体に気づけんのはお前だけだっつうのに、マジで察しが悪いなにゃん娘?」
「うるせぇ!! いいから教えろ!」
「……わぁーったよ」
もう少し自分で考える努力をしろよ。
いくら俺でも、答えをガキの前で言わせんな、くらいは思ってるってのに……。
「結論を言うと、『父親』の正体は『娼家の主』だ。ついでに言えば、『エラ』や『継母』や『足切り姉妹』は全員、『娼家に属する娼婦』なんだよ」
「――しょ、っ!?」
教えろっつったから教えてやった途端、にゃん娘は顔を真っ赤にさせて狼狽える。
まあ、こうなるわな……。
『しょーか? しょーふ? なにそれ??』
「詳しくはにゃん娘、教えてやれ」
「ふあっ!? ざっけんな無理に決まってんだろうがぁ!!?」
ガキどもの不思議そうな顔を見てふと、にゃん娘にも大人としての威厳とかあるよなと思い、挽回のチャンスをやろうと話を振れば何故か怒鳴られた。
俺に残されたわずかな親切心が踏みにじられた気分だぜ。
「しょうがねぇな……簡単に言うと、『娼婦』ってのは男に体を売って楽しませる女の職業で、『娼家』ってのは『娼婦』を使って金稼いでる店のことだよ」
「おぉいっ?! チビたちはまだ子どもだぞ!? さらっと教えんなドアホ!!」
しぶしぶ俺が解説してやっても、にゃん娘は文句を言いやがる。
教えないわけにはいかねぇだろ。話が進まねぇんだから。
『どうやってうるの?』
「あ~……だいたいこういうことだ」
「に゛ゃっ!? こ、らぁ……ぅ! っふい、うちは……やめ――ゃぁっ!?」
『あぁ~……』
それでも疑問が尽きないガキどもが面倒臭くなり、わかりやすくにゃん娘で実践してやったところ、ニュアンスは理解したらしい。
――むっ!?
にゃん娘め、さっきより耳の毛質を柔らかく仕上げてくるとは――やるな!
「つっても、モフモフはあくまで例えだから厳密にゃ違う。世間一般じゃ、獣人が対象だとほぼ確実に俺くらいにしか通用しねぇ手だろう。
ともかく、女は男相手に体を売れば金になる。俺に『獣の徴』を見せればこうなる。今はこれだけ覚えときゃ問題ねぇよ」
「ちょ、ぅひゃぁんっ!? ま、ってぇ、っ! とめ――んぅっ! ……と、めて、よぉ……!!」
「ムリ。二十分は止める気にならん」
「ばかぁ~っ!!」
《神術思考》における意識の八割を手に集中させてコネコネクニクニスリスリしつつ、ガキどもへの解説を続ける。
にゃん娘の抗議など知らん。
――はっ!? 指先がポカポカフニャフニャして……くそ、にゃん娘め! この期に及んでまだ俺を体で誘惑する気かっ!?
けしからりがとう! おいしくいただいてます!!
「じゃ、じゃあ! 『エラ』は『お父さん』にとって、『商品』ってこと、なの!?」
「お~飲み込みが早ぇな、ロリ熊。その通りだ」
『――えええぇぇ~っ!?!?』
さすがに説明相手の年齢層の問題で、すぐに理解できなかったガキは多かった。
が、ロリ熊のかみ砕いた表現を肯定し初めて『エラ』の物語の異常性に触れたガキどもは、口から驚愕に染まった大声を吐き出した。
「なら、『エラ』の『お母さん』も……」
「当然、『父親』が所有する『娼婦』の一人だったんだよ。
気休めにしかなんねぇだろうが、『エラ』が『懐いてた』っつうことだから、『母子』とは血の繋がりがあったんだろうな」
続けて出たロリ熊の予想も当たってるだろうと引き継いで説明してやったら、ガキどもは口を半開きにしたまま固まっちまう。
「ついでに言えば、『父親』が『エラ』に『継母』を『新しい母親』っつって紹介したのは『娼婦としての指南役』っつう意味だ。
『父親』と『継母』が実際に結婚したかまでは本人に聞くっきゃねぇが、いずれにせよ『継母』の登場で『エラ』の状況が格段に悪化したのは変わんねぇよ」
「で、でも! 『継母』は『王子さま』の舞踏会に出られるような人なんでしょ!? それなのに、どうしてしょーふなの!?」
いち早く復活したロリ熊の疑問を受け、今度は『貴族』と『娼婦』の関係について語る。
「物語じゃ『継母』の説明で『貴族階級』とは言ったが、『貴族』だとは言わなかっただろ? それは『継母』や『エラ』たちが貴族を相手にする娼婦――『高級娼婦』だからだよ」
地球の中世ヨーロッパあたりの時代、かつて実在した女性の仕事の一つだ。
っつっても、当時の『娼婦』は国の地域差があるものの基本差別の対象であり、かなり冷遇されていたらしい。
健康状態を申請して営業許可が下りた『公娼』もそうだし、非合法で客引きをやる『私娼』なんか人間扱いされてたかどうかも怪しい。
そんな中で、唯一の例外が『高級娼婦』。
優れた容姿と教養を武器に、貴族などの富裕層と後援者契約を結んで妾になる女性たちだ。
後援者の地位次第では貴族並の生活さえ可能だったらしく、当時の女性ん中じゃかなりの勝ち組だな。
まあ、社会的には『私娼』と同じく非合法であり、一度でも『公娼』などで純潔を失ったら『高級娼婦』の道は閉ざされる。
その上で、富裕層の目に留まる演劇女優なんかから見初めてもらうか、親のコネなどで貴族の家に奉公へ出されるかが『高級娼婦』への入り口だから、のし上がれる確率は超低い。
童話での言い回しから推測するに、『継母』は実家が裕福な奉公出世組で、『エラの母親』は『エラ』の冷遇ぶりからして女優転身組の可能性が高いな。
とまあ『高級娼婦』の大ざっぱな知識はこんな感じだ。
さて、ここで『継母』にいただろう『後援者』と『連れ子』たちについて言及しよう。
「『継母』も『高級娼婦』だとしたら、『エラ』の家にくるまでは『後援者』である貴族の家にいたはずだ。
だが『娼家の主』が『指導役』として『エラ』に紹介してからは、ずっと『娼家』に身を寄せている。
となると、『継母』は『後援者』から見限られたと考えるのが自然だ。その原因と思われるのが『足切り姉妹』だよ」
『高級娼婦』は正妻がいる貴族に拾われるため、言葉は悪ぃが『娯楽のための女』だ。
貴族は格式と体裁を重んじる生き物であり、婚姻を結ぶ妻も相応の貴族教育を受けるため上品かつ貞淑が大半。
ぶっちゃけ、貴族からすりゃ妻は面白味がねぇ退屈な女が大半なんだよな。
そうした妻に飽きた貴族の不満を埋める手段の一つが『高級娼婦』だが、もし『高級娼婦』に『子ども』ができたと『正妻』が知ったらどうなる?
……まあ、もしも『正妻』の公認がなけりゃ、想像するのも恐ろしい修羅場にはなるだろうな。
「詳しい事情は想像するっきゃねぇが、おおかた『貴族』から金をせびろうと『継母』が媚びまくった結果、『足切り姉妹』が生まれたんだろう。
娘が『二人』ってことは、『貴族』の妻が最初の不義を許したものの、二度目は我慢できなくなって子どもごと無理やり追い出した、って流れかな。
その後、なんやかんやで『後援者』を探しつつ生きてきた『継母』たちを拾い上げたのが『父親』ってわけだ」
そういう経緯から、『父親』は『貴族』と『高級娼婦』を繋ぐ『仲介役』的な仕事をしていたと考えられる。そうでもねぇと、高級志向な金食い虫に加えて子連れの毒婦なんて、誰も拾わねぇよ。
何にせよ子どもに聞かせる『童話』で、『父親』が『娼家』の経営者だとバカ正直にぶっちゃける『作者』はまずいねぇ。
かといって『物語の中』じゃ重要な役割である『父親』を完全に消すことはできず、最終的に『父親に関する描写が少なすぎる』結果になったわけだ。
「付け加えるなら、『エラ』と『母親』の境遇も『継母』とそう変わんねぇんだろう。そうじゃなきゃ『娼家の主』の家にいる説明がつかねぇしな。
つまり『エラ』にとっての味方は、小さいときに死んじまった『母親』しかいなかった。
『継母』による召使いのような扱いも、『父親』が『高級娼婦』としての『エラ』は『商品価値が低い』と判断し、黙認したから続いたんだろうぜ」
そう。
『エラ』が身を置く環境は、元からして相当に歪で狂っている。
一般的な『家族』なら得られたはず『人間の温かさ』をほとんど知らないまま。
『金』や『権力』や『欲望』から見える『人間の醜悪さ』を、これでもかというほど凝縮された『家族』の中で『エラ』は生きてきた。
生まれ持った性格がどれだけ『優しい』っつっても、腐った環境で育ったガキが『まともな人間』になると思うか?
物語としては省略された部分だが、幼児期から成人するまで――人間の人格形成に重要な時期すべてが『悪意』にまみれていたとすりゃ、『エラ』の性格が歪むには十分過ぎる。
身体的には衣食住に困らねぇほど裕福でも、精神的にはスラムの孤児と同等以上に過酷だったとくれば、中身もそれ相応にこじれるはずだ。
それでもなお『優しい』性格に見えたのだとしたら、それはそれで歪な精神構造になってる可能性は高い。
たとえば、辛い体験を心が作り上げた別人格に押しつける『解離性同一性障害』とか、もっと単純に感情が麻痺した『失感情症』を伴う病気とかだな。
万が一『優しい』性格のまま育っていたんなら、それはもう生まれついての異常としかいえねぇ。
わかりやすいのは『前世の記憶』を持って生まれたとか、成長の過程で思い出したとかの『転生者』って理由で、強固な人格が上書きされた場合。
それでもねぇなら、誰に何を言われようとも在り方が変わらない『精神性』という一点に限りゃ、《明鏡止水》を常時発動しているくらい『人間離れした化け物』だろう。
「こうした背景からして、『悪女』と呼ばれた『エラ』の性格傾向は二通り考えられる。
向けられた『悪意』を『悪意』でもって返す『復讐者』か。
向けられた『悪意』を『悪意』と気づけない『異常者』か、だ。
俺が予想するに、物語内で見せた『エラ』の『賢くてたくましい』立ち回りや結末からして、実体は『理知的な復讐者』だと思ってる。
いずれにせよ、この時点ですでに『エラ』は『普通からズレた人間』なのはほぼ確実だ。それを前提で、話を進めていくぞ?」
『……ひっ!?』
そこまで説明して笑みを作ってやると、ガキどもは怪談でも聞くような涙目で後ずさった。
脅かすつもりはなかったんだが、ここまでの内容でもガキにとっちゃすでにホラーか。
ただ、俺が話したのはまだ物語の『前提条件』だけだぞ?
むしろこっからが『エラ』の物語の本筋なんだが、大丈夫か?
「――ひぅっ!! ……も、ぅ、はなひ、て……ぇ、っ!」
「ムリ。あと一時間」
「じか、んぅ! のび、ったぁ~っ!!」
それと、にゃん娘はこれくらいで泣いてんじゃねぇよ。
根性見せろ、根性!
『高級娼婦』の記述に関しては、作者が調べた内容から推測した部分も含まれています。ヘイト君の説明全部が正しいとは断定できませんのでご了承を。
また念のため追記しておきますが、拙作に違法な性風俗を推奨する意図は全くありません。
同時に、生育環境などにより精神疾患の既往歴がある方々を『異常者』だと貶める意図もありません。あくまで『健常者』の対義語という表現でのみ使用しております。
これらはヘイト君の解釈を説明する上で、必要と判断した描写です。
つまり――にゃん娘ちゃん弄りは合法です。(真顔)
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(異世界人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)
生命力:2004/2004(【固定】)
魔力:998/1812(【固定】)
筋力:176(【固定】)
耐久力:148(【固定】)
知力:183(【固定】)
俊敏:135(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解LV2》《魂蝕欺瞞LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)
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