111話 トライ&エラー
「おーい、ちゃんとやってんだろうな?」
「やってるよ!」
ひとしきりにゃん娘を相手にした後、魔物肉と格闘しているガキどもへ声をかければショタ猫から生意気な返事が来た。
アイツ、昨日与えた『宿題』の成果を褒めてやったからって調子乗ってんじゃねぇだろうな?
……まあ、自分に『一番星』ってイタいコードネームをつけるくらいには浮かれてる、か。
これは余談になるが、俺は『アント狩り』を始める前にガキどもがイタズラをしたかどうか確認した。
今後の呼び方が変わるわけだから真っ先に確認したところ、残念ながらイタズラ辞退者はいなかった。根性なしどもめ。
っつっても、本人から話を聞いて《同調》で記憶もさらえば、だいぶグレーなガキもいたがな。
おそらく『イタズラ』って言葉が悪かったんだろう。
親の私物を隠すとか、家の壁や家財道具を破壊するとか、寝室に大量の害虫(毒なし)をばら撒くとか、寝起きに水をぶっかけるとか、どうにも『軽いレベル』が多かったんだよな。
俺的には『死なない程度の怪我を覚悟で親を襲撃させる』つもりの『宿題』だったんだが、完全に肩すかしを食らった気分だ。
でもその中で、一番俺の理想に近い『イタズラ』を仕掛けたのがショタ猫だった。
どうやら俺がにゃん娘相手にしかけた落とし穴を参考にしたらしい。
事前に家の二階にある父親の寝室へ忍び込み、出入り口部分の床板に穴をいくつもあけて脆くさせたんだと。
結果は大成功。帰宅したショタ猫の父親は細工にまったく気づかず、自ら床板を踏み抜いて一階に落下したそうだ。
ショタ猫本人からの供述によれば、罪悪感よりも達成感と高揚感が大きかったという感想が聞けた。
ただし、あわせてショタ猫の記憶も覗くと、イタズラ直後に父親から拳骨と説教を食らってギャン泣きしていたみたいだけど……。
どこか誇らしげに武勇伝を語る姿から、さすがに哀れに思って黙っといてやった。
男の見栄って奴だろう。俺も男だ、気持ちは分かる。
ただし、たんこぶは後で冷やしとけよ。
ショタ猫じゃなくとも、ガキどもの半分以上はたんこぶを作り、目元を腫らしてやってきていた。
程度の差はあれど、こっぴどく叱られてきたらしい。いい傾向だ。
思い返せば、昨夜の隠れ里はやたらにぎやかだったな。
そういや、にゃん娘も元々おっそろしく短気な性格をしちゃいるが、理由もなくキレるような質じゃねぇ。
なのに、今朝は出会い頭ですでに爆発してた……昨夜の騒ぎに関係してると考える方が自然だ。
……うん、もしかしなくとも全部俺が焚きつけたからだな。
でもまぁ、俺が煽動したとはいえ、里ん中で起きたのは『子どものイタズラ』。
その程度の出来事も丸く収められねぇ大人の方にも問題あるだろ。
個人的には2:8――いや1:9で獣人側に非があると見た。
よって、俺が全面的に悪いわけじゃねぇ!
『まっず!?』
「俺が手を加えたのは仕上げだけだ。文句言うなよ?」
そうして心の中で整理をつけてる間に、ガキどもが用意し調理した魔物肉を食った第一声がそれ。
昨日と違いほぼ全員が苦い顔をしているが、別に苦みをトッピングしたわけじゃねぇ。
単にコイツらの料理が全行程で雑だっただけだ。
血抜きか内臓の取り出し、あるいはその両方を失敗したのか、獣特有の生臭さが香辛料を使ってもごまかしが利かねぇほど強い。
他には肉のところどころに毛が残っており、口ん中でチクチク自己主張してきやがる。毛皮の剥ぎ取りも雑にやった証拠だな。
トドメに加熱処理した元生肉の末路は黒こげor生焼けの二択。真面目に炭か血の味しかしねぇ。
結果、およそ人が食うには無理があるクズ焼き肉が完成していた。
直接教えたのは解体だけだったし、最初の内はこんなもんだろ。
「……これ、マズいのか?」
「全人種を含めた人類の99%は吐くレベルの不味さだ」
「…………マジか」
ガキどもが一気に食欲減退している中、平気で食事を続けていたのは俺とにゃん娘だけ。
俺は異世界生活の慣れもあり、このくらいの臭いや味なら許容範囲なんだが、にゃん娘は何故か盛大に落ち込んでいる。
なるほど、ここにきて初めて自分のバカ舌が発覚してショックを受けてんのか。
そもそも、臭いだけで吐けるほどのド級にヤバい物体を前に『マズいのか?』と聞いてきた時点で、にゃん娘の嗅覚と味覚が狂ってんのは間違いねぇ。
「これ、たべるの……?」
「すべての命は祖先の力を宿した尊い糧であり、己の体を作り上げる力そのもの。獣人族の思想だろ? お前らが協力して作った飯なんだし、残さず食え」
『……うぅ~』
思いっきり拒絶反応を示すガキどもだったが、これみよがしに獣人族の思想について触れると、涙目で食事を再開した。
っつうか肉の処理以外でも、反省点は多い。
調理前の下準備で下手を打ったガキが多かったんだよ。
どうやら昨日の盗みに気づかれた上、ガキどもの『宿題』があったせいで大人の警戒が強まり、堅くなったガードを抜けられなかったらしい。
当然、調理器具や調味料などがうまく確保できなくて、調理環境そのものが悪化した。
そうした理由も、ガキども作のクソ飯が誕生した要因の一つだな。
これに懲りたら、次から遊んだり駄弁ったりせず、盗みも調理も真剣にやるこった。
っつか、火だけは昨日同様《機構干渉》で用意してやってんだから、これでもまだマシなんだぞ?
さらに火起こしもミスってたら生肉かじることになってたんだから、ありがたく思えっつの。
「ごちそうさまでした!」
『……うっぷ』
完食後、腹が膨れて満足した俺とにゃん娘、そして腹に詰め込んだ異物の逆流と戦うガキどもの構図ができあがった。
今の内に盗みと料理について、ガキどもに反省と課題を洗い出して出直してこいとダメ出しをしておく。
ついでに、明日こそ上手くやれよ、と笑顔でエールを送ればさらに苦い顔をされた。
『明日もやるのか?』って顔に書いてあるから、笑顔で頷いておく。
失敗から大いに学べ、ガキどもよ。
「……普通に食えたオレは、おかしいのか?」
にゃん娘は……もっと現実を直視することをオススメしたい。
いろんなことに踏ん切りがついて、精神的には楽になるぞ?
実体験からのアドバイスだ、間違いねぇ。
「んじゃあ早速『アント狩り』の続きを……と思ってたが、見るからに無理そうだな」
「チビたち全員、今動いたら吐きそうな顔色だぞ? 無理に決まってんだろうが」
で。
改めて見渡してみると、白・青・紫・土気色とバリエーション豊かな顔色のガキどもに嘆息する。
にゃん娘は平気なんだから、ガキどもも肝さえ据われば問題なく食えるレベルのはずだが、まったく軟弱な奴らだ。
この程度で音を上げてちゃ、この先やってらんねぇだろう。
今後はコイツらの胃腸も鍛えてやっか。
目標は劇物や致死毒の無効化、最低でも耐性はつけなきゃ話になんねぇ。
……よし。ここにいる全員、『悪食』の取得は必須だな。
「おいテメェ、またロクでもねぇこと考えて――」
「しゃーねぇ、落ち着くまでまた物語でも聞かせてやるよ」
「――ねぇだろうなっつうかちょいちょいオレを無視すんじゃねぇよわざとか!?」
やれやれと首を横に振り、小休憩がわりにまた童話を読み聞かせようとしたら、何故かにゃん娘がキレた。
おそらく、種族的な違いが原因なのだろう。にゃん娘は時々、俺の理解できねぇタイミングで怒り出す。
年齢的には成人しているだろうに、癇癪持ちとは手のかかる奴だ。
「はいはい、にゃん娘にゃん娘。
そうだなー、昨日はどちらかというと男の子向けだったし、女の子向けの話でもするか?」
「適当に聞き流してんじゃねぇぞ、テメェ!!」
「……シェンねえ、しずかにして」
「……はいちゃう」
「オレのせいかよ!?」
「十割ガキどもの自業自得だ、ほっとけ」
すると、いい感じににゃん娘の感情が分散して大人しくなった。
ガキどものファインプレーに免じて、話の途中でいつでも吐いていいぞ。
俺が許す。
「ん~……よし。今日は『エラ』の物語にすっか」
厳密なタイトルは『Cinder Ella』。
日本的に言えば、『シンデレラ』だ。
とあるw○ki先生筋によると、シンデレラの本名は『エラ』だという説がありました。
『Cinder』が『灰』に近い意味となり、本名とくっついたあだ名(蔑称)が『シンデレラ』なのだそう。
以上、豆知識? でした。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(異世界人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)
生命力:2004/2004(【固定】)
魔力:1240/1812(【固定】)
筋力:176(【固定】)
耐久力:148(【固定】)
知力:183(【固定】)
俊敏:135(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解LV2》《魂蝕欺瞞LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)
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