109.3話 生きるために
故郷の焼け跡を後にして向かったのは、近くにあった別の獣人族の集落だった。
近くとはいってもお互いの集落から距離があり、それほど交流があったわけじゃない。
けど、獅人族の集落で起こったことを伝え、警告しなければと思って移動したんだ。
しかし、獣人族に突きつけられた悪意は、すでに一つの集落だけの問題ではなくなっていた。
数日かけて到着した熊人族の集落では、獅人族の集落ほどではないにせよ、すでに人間の手によって荒らされた後だった。
家が破壊され、備蓄食料を奪われ、負傷者も多くいたが、幸い死者は一人もいなかった。
オレの時みたいに人質は取られなかったそうだが、代わりに人間は熊人族が寝静まった後に奇襲を行い、盗賊同然に集落を壊滅して逃げたらしい。
オレがもう少し早く立ち直っていれば、警告も間に合っていたかもしれない。
そんな後ろ向きな考えがよぎりつつ、まだ動ける気力があったオレも熊人族の中に入って治療の手助けを行った。
とはいえ、戦いの訓練ばかりしていたオレが出来たことは、せいぜい周辺の動物や魔物を狩って食料確保を助けることくらい。
治療に用いる薬草の見分け方や薬の作り方、それに動物以外で食える植物の見分け方や料理のやり方もわからなかったから、ひたすら狩りの手伝いをした。
種族や年齢で多少の差はあるが、獣人族は基本大食いだ。それも、獅人族や熊人族みたいな肉食か雑食の特徴を持つ獣人族は、特にその傾向が強い。
人間から受けた襲撃の怪我でまともに動けない人が多い中、数少ない人員をさらに食糧確保と薬の材料探しで分散させなきゃいけなかった。
オレ一人加わったところで焼け石に水かもしれないけど、役には立ったと思いたい。
「大変だ! 王都が人間に攻められた!!」
さらに数日後、別の集落からやって来た鷲人族の情報に、獣人族はさらに打ちのめされることとなった。
獣人族の集落を統括していたネドリアル獣王国の王都アクセムが、人間の手により陥落。
今後、獣人族が管理していた土地はすべてイガルト王国の領地とする、と人間の王が宣言したという話だった。
同時に、王都から兵士が多く派遣され、『獣人狩り』が行われていくという噂もあるらしい。
時期からしてオレたちが遭遇したのは『獣人狩り』とは違うらしいが、今後も人間がオレたちを狙ってくるだろうことが明らかになった。
でもオレは、すぐにその話を信じることが出来なかった。
だって、王都にはオレのお父さんがネドリアル獣王国の兵士として働いているはずだからだ。
他の人間の国のことは詳しく知らないが、『国』のあり方からするとネドリアル獣王国と人間の国ではかなり違うらしい。
ネドリアル獣王国は基本的に各集落に過度な干渉はせず、獣人族が国家として振る舞うときの代表として、そして獣人族団結のシンボルとしての役割を担っている。
獣人族の国、と認識されている領土はかなり広大らしいが、実質『ネドリアル獣王国』として管理している土地は『王都アクセム』だけ。
そのため、人間が認識する『国』としての機能も、『王都アクセム』だけが果たしている。
『国』の運営に必要な『要人』もまた『王都アクセム』で選出されるから、各地の集落には『長』はいても『国の要人』は一人も存在しない。
あくまで『ネドリアル獣王国』は『獣人族の武力と意思を発信する手段』でしかなく、オレたちの暮らしに関することはすべて『集落』ごとの自己責任が基本だ。
一種の放任主義ともいえるが、いわゆる『貴族』の役割を『長』に一任することで『国』が対処すべき問題を大幅に減らせ、国の管理がより簡単になるんだろう。
じゃあ『要人』は何かというと、ネドリアル獣王国は年に一度のペースで各集落から強い武人を数名ずつ王都に集め、『種族選抜闘技大会』を行う。
そこで実力や才能を示し、認められた者を『要人』――主に『王国兵』として迎え入れるという慣例がある。もちろん、本人の意思を確認した上で、だけど。
オレが子どもの頃にその大会に出場したお父さんは、当時の国王から実力を認められて『王国兵』として働くことを選んだ。それからずっと、お父さんは王都で暮らしていて顔を合わせたことはない。
さらに、五年に一度行われる『王族選抜闘技大会』はアクセムにいる兵士たちを集めた闘技大会で、より高位の『要人』を選出する場になっている。
優勝者の種族を名前の通り『王族』として据えるだけでなく、王都の警護や有事の戦力として活躍を期待される『上級兵士』、また獣人族の中では希有な知能に長けた『外交官』なんかも、『王族選抜闘技大会』の成績で選出される。
『種族選抜闘技大会』との大きな違いは、大会結果で及ぶ影響が『個人』か『種族全体』か、だ。
『種族選抜闘技大会』は種族の代表として出場するが、示すのはあくまで出場者の武力であり、評価されるのは結果を出した『代表者個人』だ。
一方、『王族選抜闘技大会』だと国家運営の人事を大きく変えることを考慮し、『要人』として働く『個人』ではなく『種族の代表』として戦い、示した武威が高いほどより高位の肩書きを与えられることになる。
それが、オレたち獣人族も普段は意識しない、ネドリアル獣王国の『種族優位差』を生んでいた。
たとえば『王族選抜闘技大会』の優勝者は国王になるが、それと同時に国王の『種族』が広い意味で『王族』となる。
そうなると、獣人族は誰もが自分の『種族』に対する仲間意識が強いため、有事の際に『王族』は国からの援助を受けやすくなるのだ。
それは『王族』に限った話じゃなく、『上級兵士』でも同じことがいえる。
近衛兵や防衛兵など配属される役割にもよるが、基本的に成績上位者が隊長として就任した部隊の部下は、隊長と同じ『種族』の兵士で固められる。
同族の方が連携が取りやすく、統率時の混乱もほとんど起こらないからだ。
そのため、『王族』ほどではないにせよ隊長と同族の集落に問題が発生すれば、隊長の一存で可能な範囲での支援をしてくれるため、国からの恩恵を感じやすくなる。
より高い地位を与えられるとその傾向が強くなり、結果として国から受けられる『種族全体』の恩恵に差が生まれる。
だから『王族選抜闘技大会』の出場者はある意味で、自分が所属する『種族』を背負って戦うことになる。
他にも、『王族』や『上級兵士』は役職数が限られているから、間接的に『優秀な種族』を選抜する形となり、自然とその他の『種族』より優れているという認識が芽生える。
それが『種族』間の競争意識を生むんだ。
高位種族は与えられた地位に恥じぬよう、より研鑽を積む。
その他の種族は、次に自分たちが高位種族に選ばれるよう、より鍛錬に励む。
そうして、種族ごとの自尊心や上昇志向を育むことに繋がるため、影響力はかなり大きい。
下手をすれば差別や種族格差といった問題にも発展する考え方らしいが、少なくとも獣人族の間ではそれが原因で問題になったことはない。
むしろ、獣人族全体の戦意を引き上げるために必要な意識なので、否定的な考えを持つ獣人はほとんどいないだろう。
その『王族選抜闘技大会』で、お父さんは種族の代表になり、かなり上位にまで食い込んだ、と聞いている。
残念ながら優勝を逃して王にはなれなかったらしいが、この大会をきっかけにお父さんは『王国近衛兵』の隊長として昇格し、『王族』が住む王城内で働き多くの部下を率いる立場になったそうだ。
王に選ばれたのはお母さんの知り合いだったようだが、詳しくは聞いていない。お父さんが負けたってことが悔しくて、当時のオレは聞きたいとも思わなかったし。
ともかく、お父さんはオレみたいに弱い奴じゃなく、獣人族でも有数の武人として王都の守護を任されていたはずなんだ。
そんなお父さんが、人間ごときに負けただなんて、考えられなかった。
しかし、伝令として現れた鷲人族が下らない嘘を吐くはずもなく、オレたちはすぐに事実として受け止めざるを得なかった。
「……この地から、離れよう」
だからだろう。
オレが世話になっている熊人族集落の長がそう決断するのも、早かった。
敵の規模がどれだけ大きいのかはわからないが、王都を守っていたはずの兵士たちを退けたくらいの戦力があると考えれば、必然的に王都よりも劣る集落の戦力で対抗できるとは思えない。
国に所属する『上級兵士』に助けを求めようにも、王都が人間に乗っ取られたことから、支援を受けられる可能性などほぼない。
それに、国が人間に乗っ取られることへの怒りと屈辱は誰もが抱いていたが、自分たちで国を取り戻そう! と決起する者はほとんどいなかった。
そもそも獣人族にとってネドリアル獣王国は、『自分たちの集落が集まって形成された国』という考えが根強く、逆を言えば『自分たちさえ生き残れば、国はまた興せる』という自信があった。
ネドリアル獣王国は、圧倒的な力で獣人族を率いた偉大なる獅人族の英雄『ノイル』を旗頭に掲げ、獣人族が団結していく過程で自然と建国に至った国とされている。
ノイルは当時からあった人間からの迫害と襲撃を、圧倒的な身体能力で真っ向から退け、獣人族に本当の『強さ』と『誇り』を示した。
彼の勇敢な戦いぶりと常勝で帰還する姿は『戦神』とまで謳われ、やがてノイルを恐れた人間が獣人族に戦いを挑むことさえなくなったらしい。
晩年は老衰と病気により身体能力も落ちたらしいが、最後まで近隣諸国に獣人族の『王』であり『英雄』として威光を振りまき、仲間を人間たちから守りきったそうだ。
そのため、獣人族は皆『強き王』と『強き獣人』さえいれば『国』は成るという考えをどこかで持っていた。
ノイルが教えてくれた獣人族のあり方に準ずれば、いつでも獣人族は力を取り戻すことができる、と。
何より、種族をまとめる集落の長としては、身近な仲間の命を優先させるのが当たり前。
もっと言えば、一人でも多くの獣人族が生き残ることが『国の再建』への近道だとも信じていたから、他の選択肢なんてなかったんだ。
伝令の鷲人族も同意し、他の集落もみんな同じ決断を下したと教えてくれた後、国内に残る別の集落へと飛んでいった。
こうして、オレたちは国から追い出される形で生まれ故郷を去ることとなった。
当てのない旅の先で待ち受ける『現実』が、オレたちに過酷な戦いを強いるとも知らないまま。
まず、オレたちが目指したのは『ラヨール王国』だった。
大陸の南部に位置するネドリアル獣王国と国境を面する国は三つ。
オレたちを襲撃してきた大陸中央の『イガルト王国』と、西の『ディヴィラグノール連合国』、そして東の『ラヨール王国』だ。
とはいえ、行き先は最初から決まっていた。
獣人族に攻め入ったイガルト王国へ逃げるのは論外で、ディヴィラグノール連合国とは国同士の繋がりが薄くて近寄りがたい。
必然的にオレたちが行くとすれば、唯一まともに交流していたラヨール王国しかなかった。
オレたちの集落が国の西部にあったら連合国へ無理に越境したかもしれないが、距離的にラヨール王国の方が近いことも幸いした。
それは東部に居を構えた他の集落も同じ考えだったらしく、オレたちは東へ移動するに連れて多くの仲間と合流できた。
中には別の場所で集落を形成していた獅人族の姿もあり、内心でホッとする。
そうして多種多様な獣人族の混成集団となったオレたちは、人間がいるかもしれない町をすべて無視し、ひたすら東へ向けて移動していった。
その間の食料は日によって役割分担を決め、主に近くのダンジョンから狩りを行うことで何とか持たせていた。
普段はどこにでもある魔物の巣窟にうんざりしていたが、この時ばかりはダンジョンが国内に多く点在していてよかったと思えた。
野営もまた、夜行性の特徴がある仲間を中心に交代で夜の番を行うことで、安全を確保していた。
オレたち獅人族も、どちらかといえば夜の行動に向いた種族だから、夜間警備にはよく駆り出されたな。
ただ、やはり大人たちだけの行軍ではなく、幼い子どもや老人も多く含まれていたため、移動スピードはあまり早いとは言えなかった。
それに、住処を追い立てられたストレスが大きくたまっており、些細なことで喧嘩に発展することも多かった。
決定的な仲違いさえなかったものの、集団に漂う空気は常に張りつめており、居心地の悪さはかなり強かったと思う。
それでも何とかオレたちは国境に到着したが、次に越境方法でも悩むことになる。
国境は関所以外だと魔物がうようよするダンジョンばかりだったが、移動に時間をかけすぎたことを考えると関所にはすでにイガルト人がいると思われ、迂闊に近寄れなかった。
誰も人間相手に戦闘能力で負けるとは思っていない。
問題は、人間を前にして理性を保てる仲間がどれだけいるかがわからなかったことだ。
この時点で獣人族に蔓延した人間への敵愾心はかなり高まっており、人間の姿を見たらどうなるか、自分たちでもわからなかった。
そんな状態で、もし関所を守る衛兵の中にイガルト人以外にもラヨール王国のクカルブ人もいた場合。
オレたちは憎い『人間』としてしか見ず、両方とも殺そうとするだろう。
そんなことになれば、オレたちはさらに追いつめられることになる。
ただでさえイガルト王国が敵になった現状で、ラヨール王国とも敵対すれば、自分たちの逃げ場所がなくなるからだ。
仲間からは『何で俺たちが人間に配慮しなきゃならないんだ!』という声も多く挙がったが、結局各種族の長たちの決定で関所に近づかないことになった。
一方的に敵になったイガルト人と、こちらから仕掛けてクカルブ人を敵にするのとでは、意味が大きく異なる。
一時の感情に流され、獣人族全体を危険に曝さないための判断だった。
それとは別に、子どもや老人などとともにダンジョンへ身を投じることへの反発も、ゼロじゃなかった。
魔物の巣窟で足手纏いを連れ歩くリスクを考えたら、無理もないけど。
結局、オレたちが進入する森林型のダンジョンなら、獣人族の多くが対処しやすいということもあり、そのまま突っ切ることに決まった。
「おなかへったー!」
「静かにしろ! 魔物に襲われたらどうする!」
しかし、この時点でかなりの大所帯となっていたオレたちは、さらに動きが鈍っていた。
魔物に囲まれたダンジョンの無理な移動もそうだが、中でも深刻な問題だったのは食料不足と子どもたちの心身の限界だ。
全員の共通認識として、ダンジョンはなるべく早めに通り過ぎたいという気持ちが強く、オレたちは自然とラヨール王国への越境を急ぐようになる。
休憩は必要最小限で、食糧は道中に見つけた果物や野草などがほとんど。しかも、食事にありつけるのは魔物から仲間を守る大人ばかりで、集団のほとんどは空腹と疲労が加速度的に蓄積されていった。
食料になりうる魔物を狩る時間すら惜しみ、とにかく亡命を優先させた結果だ。
獣人族全体を守るためと、長たちから明された方針だったが、それが逆にオレたちの移動速度を落とした。
ただでさえ足が遅い子どもや老人が、十分な休息や食事を奪われたことで体力が一気に低下。
その上、ダンジョン内という常に緊張感を強いられる状況で精神も磨耗し、ほとんどの仲間が疲弊しきっていた。
特に幼い子どもには耐え難い環境だったようで、時折ダンジョンの内部だということを忘れたように癇癪を起こすことも少なくない。
魔物を集めるわけにはいかないとすぐに黙らされるものの、仲間全体に見えない鬱憤がたまっていくのを誰もが感じていた。
それでも、オレたちは足を止められなかった。
退けば人間が、止まれば魔物が。
すぐにでも牙を剥いてくる状況で、立ち止まる暇なんて与えられてなかったんだから。
「ぬ、抜けたぞ!」
長い長い極限状態の中。
オレたちが一人の死者を出すことなく、ダンジョンを、国境を越えることができたのは、ほとんど奇跡だった。
偶然、オレたちが分け入ったダンジョンの規模が小さかったようで、運が良かったとしか言いようがない。
それからダンジョンの近くでしばらく野営をすることになった。
余力がある者たちでダンジョンに戻っては魔物を狩り、衰弱した仲間を優先して食事をとることで、失った体力と気力を取り戻す必要があった。
それくらい、ギリギリの行軍だったということだろう。
「皆の者! これから我らは新たに隠れ里に適した土地を探す! 偉大なる英雄ノイルの加護が、きっと我らを守ってくださるはずだ! 行くぞ!」
『おおおおおっ!!』
しばらく休息に時間をかけ、次にやらなければならなかったことが新天地の開拓だ。
ずっと逃げるのに必死で野宿生活が長かったとはいえ、野ざらしでの生活のままでいたいとは誰も思っていない。
命の危機が薄れた後、ゆっくりと安心できる寝床と拠点を求めるのは、自然の欲求だった。
そうして隠れ里を作るため活動を開始したが、すぐにオレたちは苦虫を噛み潰すことになる。
まさか、ラヨール王国に森がほとんど存在していないだなんて、誰が予想できただろうか。
翼を持つ種族に空から地理を把握してもらった結果、オレたちが住めそうな場所は国境付近にしかなく、ラヨール王国の中心部はほぼ荒野が広がるのみ。
北にあるという人間の宗教国家との国境付近は高山地帯となっており、ダンジョンらしい場所以外の森は存在しなかったらしい。
これが鳥の特徴を持つ種族のみなら、まだ救いはあった。
空を自由に飛べる彼らなら、森での暮らしが長くとも高山地域でも活動する能力が備わっているため、不慣れな環境だが何とかなっただろう。
だが、今のオレたちはネドリアル獣王国の東部に集落を構えていた、非常に雑多な種族が入り交じった集団だ。
その多くが動物や虫の特徴を持つ種族であり、『全員』が同じ隠れ里に身を寄せるとすれば『森』以外の場所などありえなかった。
何故なら、オレたち獣人族には魔法を使える人がまったくいない。
純粋人種のように魔法が使えれば、多少無理をすれば環境の不利を補えるのかもしれないが、獣人族は違う。
『森』という、食料になる動物や魔物や自生した植物が多く存在し、飲み水を川や池などの水源から確保できた場所で生まれ育ってきた獣人族にとって、『環境』によって資源が不足したことなど一度も経験してこなかった。
ずっとネドリアル獣王国の豊かな自然と共生してきた獣人族は、獲物の狩り方や食べられる植物の見分け方はわかっても、人間が行う家畜の育て方や植物の栽培方法なんてわからない。
『食料や水を生み育てる』という感覚がそもそも存在せず、『魔法』も『農業』も必要な技術じゃなかったんだから、学ぶ必要もなかった。
つまり、オレだけじゃなく各種族の長たちでさえも、資源が乏しい『ラヨール王国』での生き方なんて、そもそも知ってるはずがないんだ。
持っている動物の特徴はそれぞれだが、総じて魔法が使えず狩猟民族でもある獣人族にとって、自然が乏しい場所での生活はほぼ不可能。
そもそも蛙人族のように、飲み水以外でも水場が必須な種族もいたため、荒野へ出ることなどできない。
結局、オレたちはラヨール王国へ逃げ出してもなお、オレたちの国を乗っ取ったイガルト王国から延びた森でしか、生きる術を持ち得なかったのだ。
そのため、オレたちが拠点となりうる候補はかなり狭い範囲に限定され、さらにその中でもオレたちの生活に適した土地を探す必要があった。
それでも諦めず、オレたちが隠れ里を作るための土地を見つけ、全員が生活できるだけの家や生活基盤を整えるのに、国境を抜けてから半年の時間を要した。
以前と比べれば、決して豊かな環境だとは言えない。
ネドリアル獣王国では見たこともない植物が多く、獣人族が食べられるかどうか、以前の生活圏から得られた植物に似た薬効があるのかどうかから調べる必要があった。
そこから自生している場所を探索し、他の動物に食い荒らされないよう管理もしなければならず、負担がそれなりに大きい。
植物だけじゃなく、同じ懸念は魔物にも当てはまる。
日頃から動物や魔物を狩猟して食していた獣人族でも、食べられない魔物は存在する。
単純にマズいだけなら我慢すればいいだけだけど、体内に毒を持っていたら下手をすると里ごと全滅することも考えられるため、慎重にならざるを得ない。
そして、もっとも重要な水源の確保にも妥協が必要だった。
隠れ里から水源があまりに近すぎると、飲み水を求める魔物との接触が多くなり、子どもや老人も多い隠れ里の生活に支障が出かねないからだ。
そのため、あえて一番近い川でも大人の足で往復一時間以上かかる場所を選んだ。多少の不便に目をつむり、安全を優先したら自然とそうなった。
全てがゼロからの生活は苦労が絶えず、逃亡生活と同じか、それ以上に心身にかかる負担は大きかった。
それでも、オレたちは生きるため、必死で日々を過ごした。
新たな環境に適応しようと努力し、全員が隠れ里の生活を受け入れる頃には、さらに二年の月日が経っていて。
気づけばオレは成人を迎え、十六歳になっていた。
補足
鷲人族…ワシ
蛙人族…カエル
また、下のステータスは隠れ里が作られた時点、にゃん娘ちゃんが14歳になった時のものです。
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名前:シェンスウェリエ
LV:25
種族:獅人
適正職業:闘士
状態:健常
生命力:800/800
魔力:30/30
筋力:90
耐久力:50
知力:10
俊敏:140
運:30
保有スキル
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