105話 よい子の『桃太郎』講座その1 ~力と恐怖~
※注意。
この講座シリーズは数話ほど続きますが、特殊な暴力表現を使用しております。
童話が好きな方、『桃太郎』が好きな方、吉備津彦命を心より尊敬している方、何よりa◯の桃ちゃんが好きな方は、閲覧する際には特に注意していただくよう、よろしくお願い致します。
また、この講座シリーズにおける解釈はあくまで『ヘイト君』の意見であり、『作者』の実際に有する思想・宗教・価値観・人格とは一切関係がありません。拙作キャラクターの偏った意見であることを先に承知してください。
最後に、読者の皆様は疑問に思われるかもしれませんが、シリーズを読み終えた後でもこれだけは信じてください。
『作者』は童話が大好きです。
『ツヒコ』の話の面白さを語るにはこれだろ、と思って口にしてみたが、にゃん娘もガキどもも口をポカーンと開けたまま唖然としていた。
何だよ? 変なこと言ってねぇだろ?
「どうした? 揃いも揃ってマヌケ面さらしやがって」
「誰がマヌケ面だ! っつか、テメェが意味不明なこと言ったからこっちは取り残されちまったんだろうが!!」
理解不能なリアクションの獣人族に若干引いていると、真っ先ににゃん娘が噛みついてきた。
さっきの読み聞かせの最中もそこそこうるさかったし、そろそろツッコミのプロを名乗れそうだ。
「どこが? これ以上ねぇほどわかりやすい面白ポイントだろうが?」
「どこに親子の醜い争いがあって、何でツヒコたちの結末がわかんねぇんだよ!?
この話はクソ強ぇじいさんばあさんの子どもであるツヒコが改心して、ばあさんを襲った魔物を倒して幸せになる、っつう単純な内容だっただろうが!!
テメェの言う面白さなんてどこにある!?」
はぁ? 何言ってんだコイツ?
っつか、ショタ猫を始めとしたガキどもやんちゃ勢も、思いっくそ首を縦に振ってるし。
どいつもこいつも、物語の表面しか理解できてねぇ証拠だ。
この『桃太郎』の物語の味わいは、深読みをしたその先にあるってのに。
「……しゃーねぇ。全員わかってねぇみてぇだから、俺が一つずつ面白ポイントを解説してやる。よーく聞いとけよ」
大げさにため息をしてみせ、『ゴブリン狩り』の続きをしようとしていた頭を切り替えてから、『桃太郎』のおさらいをしてやる。
これで少しは『桃太郎』の奥深さを理解できるといいが。
「まず最初に問題になるのは、おじいさんとおばあさんが『村の外れ』で暮らしてた、ってところだ」
「そこからかよ!」
開口一番に声を荒らげたのはにゃん娘。
いや、んな騒ぐようなことじゃねぇだろ?
物語を聞き慣れてねぇ奴じゃわかりにくかったかもしれねぇが、この部分はそもそも出てくること自体がおかしい。
「気づかなかったのはテメェらの注意力不足だっつの。よく考えてみろよ。
最初の説明で重要だったのは『一組のおじいさんとおばあさんが暮らしてる』っつう人物紹介の部分であって、わざわざ『村の外れ』なんて注意書きをする必要はねぇはずだろ?」
コイツらは文学とかノンフィクションとか童話とかの区別は付いてねぇだろうが、基本的に物語全般には必要な情報しか入れねぇようになっている。
ただ読むだけじゃ無駄に思える部分も、実は伏線だったり登場人物の性格や心情を受け手に印象づける効果を狙っていたり、何かしら作者の意図があるはずだ。
特に、今回みてぇな童話であればメインターゲットは未就学児。
知ってる語彙も少なく集中力も少ねぇ相手を物語に引き込むには、極力盛り込む情報量を減らす必要がある。
複雑な言い回しや伏線なんか入れたところで、聞き手が理解できなきゃ意味がねぇんだからな。
そうした点で、ストーリーは単純かつ明快に進めなきゃいけねぇってのに、いきなり話の本筋には関係ねぇ『村の外れ』なんてワードが入るだけで、ちょっとした引っかかりが生じる。
それも、その後の話の中で大した解説もねぇときたら、そもそも話す必要なんてなかったはずだ。
「どうせオレらをからかうためだけに、テメェが面白がって入れただけだろうが」
「んなわけねぇだろ。確かに直接的な解説はなかったが、間接的に何故『村の外れ』に住んでいたのかを説明するシーンがあっただろうが」
とても心外なケチを付けてきたにゃん娘に反論しつつ、じゃあどこがそのシーンだったか聞いてみる。
しかし、にゃん娘を含めて誰も答えることができなかった。
「……はぁ。さっきお前らが食いついてた部分だろうが。よく思い出してみろ」
「う~ん……、おじいさんとおばあさんがスゲェ奴だったとこか?」
「いや、クウェベウェル。さすがにそれとこれとは関係が――」
「ショタ猫、いい勘してんじゃねぇか」
『へ?』
俺が一方的に話すだけじゃ納得しねぇだろうから、ため息混じりにコイツらにもっと考えさせてみると、ショタ猫がいきなり核心を突いてきた。
にゃん娘が勝手に違うと決めつけかけたところで言葉を遮ると、ショタ猫を含め全員がまた目を丸くした。
おいおい、完全な当てずっぽうかよ。
「いいか? まず登場した男女が何故『おじいさん』と『おばあさん』と呼ばれていたかはわかるだろ?
二人がそう呼ばれてもおかしくねぇ年齢だと一目でわかるからだ。だからどんだけ若く見積もっても、五十歳より上の年齢であることに間違いねぇ」
この世界は十五歳が成人だとすることからして、平均寿命も現代日本と比べれば低い。
もちろん種族ごとに違うが、純粋人種じゃ七十歳も生きたら長寿と呼ばれるくらいには、多産多死傾向のいわゆるピラミッド型人口分布に推移しているはずだ。
その中でこの『おじいさん』と『おばあさん』はかなりの老齢であるにも関わらず、上級スキルである《身体強化》を簡単に使っていた。
加えて、スキルまでは明かされなかったが『武器に魔力を付与』し、一振りで桃をバラバラにしたように見えるほど『高速の包丁捌き』を披露していた。
並の冒険者でもできねぇ芸当を軽々こなしてみせた『おじいさん』と『おばあさん』が、ただ者であるはずがねぇ。
それが、この二人が『村の外れ』に住んでいたことと繋がる。
「『村の外れ』に居を構えて暮らしていたっつうことは、『村で暮らすことを認められなかった』と考えるのが自然だ。
詳しい原因まではわからねぇが、過去にその村で何かやらかして出入り禁止になったか、村の中じゃ腫れ物扱いされるなどして精神的に生活し辛かったか。大方、そのどっちかだろう。
ともかく、『村の外れ』に住まざるを得ない事情を抱えているのは間違いねぇ。それを推測する材料が、老齢の身で見せつけた高い戦闘能力なんだよ」
おばあさんはどれほど離れた川で洗濯をしていたか知らねぇが、偶然発見した『担ぐサイズの』デケェ桃を引き上げるだけの腕力と、それを家に持って帰れるだけの体力を有していた。
《身体強化》の補助付きだが、普通の老人にゃまず出来ねぇ芸当だ。
おじいさんも同じことだ。山に薪を集めに行くだけでも、年齢を考えればかなりの重労働だったはず。
にもかかわらず、家に帰ってすぐにおばあさんから桃の解体を頼まれたところ、『人間離れした動きで』応じて見せた。
そんな二人が若かった頃だと、もっと凄まじい力を周囲に見せつけていたはずだ。
自分たちが『鬼』に近い、恐怖の対象として恐れられるほどの『力』を。
「つまり、おじいさんとおばあさんは『平民離れした力』を持っていたから、村に住む『大多数の平民』に恐れられ、迫害されたんだ。
扱いとしては、村を襲っていたっつう『鬼』と同じような感じでな」
「なんだそりゃ? 同じ人間なのに、何で『力』があるだけで仲間外れにするんだよ? むしろ仲良くしておいた方が、いざという時に頼りになって心強いじゃねぇか?」
「獣人族はそう考えても、純粋人種は違う。そいつの人格や思想にもよるが、たいてい『自分が理解できないもの』に強い恐怖を覚えるもんなんだよ。
今回の物語の場合、『村の平民』は『おじいさんとおばあさんの力』を理解できず受け入れられなかったから、追い出したんだろう。
お前らも、見たことも聞いたこともねぇ上にめちゃくちゃ強ぇ魔物と戦うってなった時、少しも恐怖を感じねぇなんて言えるか? それと同じことだよ」
幽霊、妖精、悪魔、神。
人間は己の理解を超えた現象や存在を知覚したとき、無理矢理自分たちの理解の中に収めようと様々なカテゴリーを生んできた。
『そういうものだ』と型にはめ込んで、少しでも『わからない』という恐怖から逃れるために。
実体の見えないものに対してもそうやって『安心』を得る人間が、実在するものに対しては何をすれば『安心』できるのか?
その答えの一つが『集団からの追放』。
身近にいさせたまま、いつこちらに牙を剥けられるかわからねぇ恐怖を感じ続けるくらいなら、いっそのこと目に触れないどこかへ追いやればいい。
そうすれば、毎日のように『おじいさんとおばあさん』の顔色を窺ってビクビク怯える生活から解放される。
そう考えるのが、『普通の純粋人種』なんだよ。
「……面倒臭ぇな、人間は」
「それにビビリだな! おれはぜんぜんこわくないぞ!」
「おー、スゲェスゲェ。ま、これで『おじいさんとおばあさん』の立場はわかっただろ? 次は問題の『親子関係』についてだ」
純粋人種の理屈を聞いたにゃん娘は眉間にしわを寄せ、ショタ猫は無駄に強がって見せた。
が、ショタ猫みてぇに平気そうにする奴に限って、いざそのシチュエーションになるとビビって無様をさらすんだよな~。
なんて考えつつ、次に『ツヒコ』の物語にあるメインその1、『屈折した親子関係』に焦点を当てる。
「おさらいだが、おじいさんとおばあさんは不思議な桃を食って若返って愛し合い、ツヒコが生まれたよな?
ついでにもう一度念を押すが、ちゃんと帰ったら『子どもができる愛し合い方』を親に教えてもらうんだぞ?」
「余計なことを念押すんじゃねぇよ!」
『はーい!!』
「チビたちも素直に返事すんな!!」
んだよ、いずれ知ることなんだから別にいいじゃねぇか。
いちいち固ぇな、にゃん娘の奴。
ガキどもの柔軟性をちったぁ見習え。
「そして、ツヒコは仕事もせずに親の稼ぎだけを頼りにぐーたら過ごし、成人するまでろくな育ち方をしちゃいなかった。何故だ?」
「何故って、ツヒコがどうしようもねぇ野郎だったからだろ?
たぶん、じいさんばあさんも働けって注意したはずだろうが、結局ツヒコは親の言うことを聞かずだらけた生活を続けてたんじゃねぇの?」
「『あの』おじいさんとおばあさんを相手に、か? しかも、桃を食った後で『若返った』おじいさんとおばあさんに育てられて、だぞ?
そんな身勝手な振る舞いを、『村人に怖れられた力を持つ』二人がずっと許していたと、本気で思ってるのか?」
にゃん娘の言う通り、ツヒコが半ニートやってたのは、親であるおじいさんとおばあさんの言葉を無視し続けたことが原因で間違いねぇ。
だが、それはよく考えるとおかしくないか?
前提として、おじいさんとおばあさんは『村の平民』が恐怖するほどの戦闘能力を有していた。
となれば、実の子どもであるツヒコもまた、遅かれ早かれその『力』を目の当たりにしたはずだ。
体罰や家庭内暴力が厳禁だった現代日本と違って、異世界の価値観では教育のための体罰は必要悪と捉える傾向が強い。
小さな間違いが死に繋がる世界じゃ、むしろ推奨されているくらいだ。
子どもが悪いことやダメなことをすれば、親は説教と同時に手も出る。体格差を考えれば、子どもはすぐに萎縮して反省するだろう。
そうやって、子どもは徐々に親の言うことを聞き入れるようになり、親の思想に近い価値観を育てていくことになる。
こうした教育思想が背景にあるとすれば、ツヒコもまたおじいさんやおばあさんに相当しごかれたはずだ。
桃を食う前の動きから察するに、おじいさんとおばあさんは勤勉な性格だとわかる。
きちんと自分たちの仕事に関する役割分担を行い、桃を拾うなり薪を拾うなりして日々を生きる姿は、誰が見ても働き者だと言えるだろう。
加えて、詳しい描写がなかったから断定は出来ねぇが、食料や物資を調達しに村へ行った形跡もなさそうだったから、おじいさんとおばあさんの暮らしは完全に自給自足だったと考えられる。
なんせ、偶然見つけた桃を晩飯にしようと考えるくらいだ。普段は動物を狩り、野生の果実などを採って日々の糧にすると考えるくらいには、たくましい精神構造なのが見て取れる。
そんなおじいさんとおばあさんが、高齢で出来た子どもであるツヒコに、半端な教育を施すと思うか?
桃を食って見た目は若くなったとはいえ、おじいさんとおばあさんはツヒコが成人するまで生きたことを考えると、最低でも65年以上は人生を歩んできたことになる。
それまでの道は決して平坦じゃなかっただろうし、俺みてぇな若造じゃ想像もつかないような苦労もしたはずだ。現に、人間の集団生活から排除されちまってるんだからな。
そんな苦い思いを子どもにさせないため、より生きやすい人生を歩めるよう、ツヒコには特に厳しく接したはずだ。
ついでに、おじいさんとおばあさんは桃を食った後に、『若かりし日の情熱を思い出し、心をときめかせて愛し合った』結果、ツヒコが生まれた。
なら、若い頃にツヒコ以外にも子どもを授かり、立派に育てて自立させた経験があってもおかしくねぇ。
もしおじいさんとおばあさんが子どもに甘い親だとしたら、今頃ツヒコと同じように一つ屋根の下で脛をかじって生きてるはずだからな。
ツヒコの年の離れた兄貴や姉貴たちはきちんと親元を離れていることから、子育ての方法が悪かったとは考えにくい。
しかし、ツヒコの成人した結果が怠け者なんだから、原因はツヒコ自身にあると推測するのが妥当だ。ガキの頃もかなりの問題児だっただろうし、その都度教育されててもおかしくねぇ。
それも、普通から逸脱した『力』を持つおじいさんたちの『教育』なら、なおさらか弱い子どもにとっちゃ相当な恐怖だったはずだ。
それなのに、だぞ? ツヒコはおじいさんやおばあさんの『言うことを聞かず、ぐーたらな生活を送っている』ってのは、いささか奇妙じゃねぇか?
「ツヒコが親の言うことを聞かねぇってのは、親を自分より下に見ているということ。
ツヒコがぐーたらな生活を続けられてるのは、親がツヒコを矯正できないと判断しているから。
このことから、信じられねぇことにツヒコはおじいさんやおばあさんよりも『強い』、ってことが言えるんだよ」
強さの基準は相手や環境などによって変化はあるが、この特殊な親子間での逆転現象は異常だ。
親であるおじいさんとおばあさんは純粋な身体能力に加えて、長年培ってきた戦闘経験もある。
たとえ『身体能力と武芸の才』が遺伝したとはいえ、生まれてすぐの子どもに負けるほど、柔な鍛え方はしてねぇはずだ。
なのに、おじいさんとおばあさんが教育しきれなかったのは、ひとえにツヒコが二人から見ても異常な能力を有していたからに違いない。
それは人外の怪力だったのかもしれねぇし、人外の耐久力だったのかもしれねぇ。あるいは人外な魔法の才の持ち主か、人外な俊足の持ち主だったのか。もしかしたら、人外の幸運を宿していた可能性もある。
普通の親子と違うところは『若返りの桃』一点だから、それが原因だろう。
とにかく、ツヒコは生まれ持った異常な才能があったがために、おじいさんやおばあさんの声に聞く耳を持たなかった。
親の忠告を聞かずとも、すべて『力』でねじ伏せられるだけの自信があったから、な。
「それ故に、ツヒコはぐーたらな毎日を過ごすことが出来たんだ」
「……ますますツヒコがろくでなしに聞こえるんだが? それじゃあ、じいさんもばあさんもツヒコが鬱陶しかったんじゃねぇのか?」
「だろうな。そこで、おじいさんとおばあさんは一計を案じた。それが『『鬼』の襲撃事件』だ」
どんどん眉間にしわが寄っていくにゃん娘だが、ここからが本番だぞ?
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(異世界人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)
生命力:2004/2004(【固定】)
魔力:382/1812(【固定】)
筋力:176(【固定】)
耐久力:148(【固定】)
知力:183(【固定】)
俊敏:135(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解LV2》《魂蝕欺瞞LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)
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