102話 お仕置き
「落ち着いたか?」
泣き声がなくなり、しゃっくりだけが聞こえるようになった頃合いを見て、俺は巨大ケモ耳団子へ声をかけた。
「……事情は知らねぇが、チビたちが迷惑かけたみてぇだな」
視線が俺へ集まる中、中心にいたにゃん娘が立ち上がって振り返る。
その顔は普段見るブチギレ般若とは違う、申し訳なさとバツの悪さが目立つ苦い表情だ。
何だろう? ぱっと見やんちゃな孤児と保育士さんの構図? もしくは、辺境で全校生徒が少ねぇ小学校の合同学級+担任の先生的な?
とにかく、にゃん娘の保護者感が半端ねぇ。
他のガキどもは、それぞれ両手で涙を拭っている。特に男子は恥ずかしいのか、ぐっしぐっし腕を動かす。
おいおい、強くこすりすぎだ、目ぇ痛めても知らねぇぞ。
「全くだ。それもこれも、テメェらの教育不足が原因じゃねぇの? 揃いも揃って悪ガキばっかで、親の顔が見てみたいぜマジで」
「ぐ……」
んで、俺は俺でここぞとばかりにクレーマー根性を全開にする。
迷惑を被ったのは事実だからな。ここで「いやいや、そんなことないですよぉ~」とかいう謙虚さなど俺にはない。
むしろ、ほんのわずかな過失を盛って盛ってわざと傷口開いて見せつけるタイプだ。「あぁ~、腕折れちまった慰謝料払え! 慰謝料!!」ってな具合だな。
すると、一度下手に出たせいで反撃がしづらいにゃん娘は小さくうめき、さらに眉間の皺を深くした。
絶対イラっとしてんな。ほんっと、わかりやすい奴。
「とはいえ、にゃん娘からの謝罪を受けるつもりはねぇよ。動機はお前が絡んでたが、今回のような迂闊な行動を止めず、見抜けず、放置したのはコイツらの親の責任だしな」
とはいえ、今回の事件をにゃん娘のせいにするつもりは端からねぇ。
計画・実行・結果のすべてがこのガキどもで完結してるし、抑止力は近所のお姉さんじゃなくて親に求めるべきだ。
つまり、この場で責任を果たせるとしたら、
「ってわけで、ガキども。お前らお仕置きな」
『ひっ……!?』
と、こうなる。
悪い子には折檻、これ世界共通の指導的教育だ。
昨今の日本は体罰禁止な上、年齢的には俺が受ける側だが、ここは異世界で相手は俺よりガキ。
うん、何の問題もねぇ。
「なっ!? チビたちは十分怖い目に遭ったんだろ!? これ以上何しようってんだよ!?」
短くひきつった悲鳴を上げたガキどもを見て、今度こそにゃん娘は抗議の声を上げた。
俺がどんな人間か、多少理解したからこその怯えがあるんだろうが、どんなことをされると想像したんだこのガキども?
ついでに犬歯むき出しのにゃん娘も、俺が何をすると思ってやがんだ?
まるで俺が鬼畜みてぇじゃねぇか、失礼な。
「コイツらが言い聞かせるだけで言うこと聞くなら、最初からこんなことしてねぇだろうが。
間違えた結果を受けて反省した後は、罰を与えて二度とやっちゃいけないと骨の髄まで叩き込まなきゃ意味ねぇだろ。
それに、俺とガキどもで個人的に結んだ『取引』もある。今のコイツらは、俺の所有になってんだ。口出しすんな」
元々、お仕置きは人間の社会的生活において、子どもに『やっちゃいけないこと』を教え込むために必要な教育だ。
ただ叱っただけなら、ガキの頃の記憶なんてたいてい時間が経てばすぐ忘れちまう。
だから、その時に覚えた恐怖や屈辱や怒りなんかをタグ付けするために、『嫌な記憶』を植え付けるんだよ。
そうすりゃ、ガキどもの性格や人間性にもよるが、大人になっても忘れねぇほど強烈なインパクトが残り、長期的に覚えていられる可能性が高ぇからな。
実際、俺も楽しいことよりムカついたことの方が簡単に思い出せるし。
家庭環境下では父親か母親のどちらかがその憎まれ役をやり、もう片方が慰め役となって子どもの逃げ道を与えてやるのが理想なんだが、今回はにゃん娘がいるから代用は可能だろう。
俺はせいぜい、うるせぇ近所の頑固親父、ってところか。どうせ短い付き合いだ、思う存分憎まれ役になってやろう。
そもそも、今のガキどもにゃ拒否権はねぇ。
『ゴブリン狩り』で設定した条件は有効で、ショタ狐は確かに負けを認めたんだ。
つまり、ガキどもの『身体の自由』は俺が握っているんだよ。
『身体の自由』ってのは、日本でいう『逮捕』や『奴隷』などの不当な身体的拘束を受けないっつう自由を指し、それを握ってる俺からしたらこのガキどもは俺の『奴隷』とイコールだ。
自分の『奴隷』に何しようが勝手だろ?
「そういうわけで、お前ら。ショタ猫から一人ずつこっちこい」
「…………くぅぅ、っ!」
にゃん娘を視線で牽制した後、全員に罰を与えるためにショタ猫を近くに呼び寄せた。
今から何をされるのか、顔全体に不安の色が広がっているが、構いやしねぇ。
さぁて、ヤるか。
「ふんっ!」
「いってぇ!?」
うつむきがちにショタ猫が俺の前にきたと同時、かなり乱暴に両方のライオン耳を掴んだ。
同時に、ショタ猫は表情を苦痛にゆがめ、すぐに涙を目に浮かべる。
まあ仕方ねぇわな。獣人族の持つ動物的特徴は神経がかなり浅いところを通っており、非常に敏感だ。弱点と言い換えてもいいくらい、痛覚刺激に耐性がない。
たとえ相手が純粋人種の低い筋力ステータスであっても、耳や尻尾などを傷つけられれば大の大人でも地面を転がり回るくらい、致命的な急所みてぇだ。
いわば、体の外に飛び出た内臓みてぇなもんか。
獣人族の強みである敏感な五感や、飛行などの特殊能力における重要な部分であると同時に、耐久力の面では鍛えることが非常に厳しい部位らしいからな。
ちなみに、それでも獣人族が動物的特徴を誇りとするのは、他の種族にはない特殊技能が自分たちの存在たらしめているという自負があるからだ。
急所っつうネガティブな見方ではなく、強みっつうポジティブな見方をしているからこその考え方だな。
「二度と同じ間違いをすんじゃねぇぞ、ショタ猫」
「いたいいたいいたいいたい!!」
なので、純粋人種の耳を引っ張るのとは比べものにならない激痛が、ショタ猫を襲っているに違いない。
もう一度飛ばした注意も、どこまで聞こえていることやら?
まあ、これで今日の出来事を大人になっても覚えていることが出来たらそれでいい。
他のガキどもやにゃん娘でさえも、戦慄しながら顔色青く俺を見つめているが、気にしない気にしない。
「……後、毛並みのケアくらいやっとけよ。ボッサボサじゃねぇか」
「うひゃあ!?」
捻って伸ばしてグリグリする教育的指導の次は、個人的な趣味だ。
引っ張ったライオン耳から手を離し、所々跳ねたりへたったりしている獣毛を指で梳いていき、可能な範囲で毛繕いを行っていく。
場所が場所だからか、ショタ猫の悲鳴は裏返っていたが無視だ無視。
日本にいた頃は、一を始めとした野良犬や野良猫相手によくやってたな~。
最初はド下手ですぐに逃げられてたが、数年前にコツを掴んでからは腕を上げ、今じゃ初対面の野良動物でも五分以内に寝落ちさせられる技能を身につけている。
好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったもんだ。思えば、野良たちが俺に懐きだしたのも、餌より毛繕いの腕が上達してからの方が多かった気がする。
ま、細けぇことはどうでもいいか。
最近はストレスがたまる一方だったからな。
お仕置きの名を借りて、思う存分モフらせてもらうぜ!
「耳も大概だが、尻尾はさらに雑だな、おい? せめて櫛くらい使えよ」
「や、やめ、っ! うひぃ!?」
耳の手入れが終わると、今度は背後に回って尻尾の毛並みをチェックする。
純粋人種の感覚的には髪の身だしなみに近いだろうし、女はまだしも男だったら割と雑に扱うもんだから妥協は必要だ。
必要なんだが、ショタ猫の場合いくらなんでも雑すぎる。
出会い頭からそうだったが、コイツ相当なやんちゃ坊主だな。小さな傷がいくつかあるし、年齢の割に枝毛や切れ毛が多いし、何より毛質がパサパサで潤いが足りねぇ。
とりあえず赤点決定。ガキとはいえもう少し気ぃ遣えや。明日までに改善してこい。
「次、ロリ兎」
「わ、わたし!? ……い、いたくしない……?」
「安心しろ。俺は完全平等主義者だ」
「よくわかんないけど、それってぜんぜん安心じゃないわよ!」
さんざん弄ばれてヘタったショタ猫を放置し、次に呼んだのはショタ猫の次に生意気レベルが高ぇロリ兎。
最初は怯えた声を出すも、すぐに調子を取り戻したのは元々の気が強ぇからだろうが、その気概は上等だ。
さぁて、折檻折檻。
「おぉ、引っ張りやすい」
「いっだぁ~いっ!?!?」
「それに、ガキとはいえさすがに女か。手入れはなかなかしっかりしてんな~」
「ひゃうわぁ!? ちょっ!? ひゃん!? や、やめ、なさい、……よぉ、っ!?」
ショタ猫と同じようにまずはしばらくウサギ耳をつねり上げ、毛繕いに移行する。
ライオンだろうがウサギだろうが、相手の反応を観察すりゃツボは自ずと教えてくれっから、探せばすぐに見つけられる。
んで、ロリ兎のウサギ耳はかなり短くも柔らかい手触りのモフモフだった。
よく見りゃ毛質にムラっ気があって多少ガサツな面が透けて見えるものの、最低限の嗜みは覚えてるってところか。
一方、尻尾はかなり小さくてほぼいじる部分がねぇ。俺としては多少残念だが、これは種族の差だから背に腹は代えられない。
手入れは耳より尻尾に力を入れているらしくフサフサモフモフで、ポケットに一つ忍ばせてずっと握っていたい衝動に襲われる。
ちなみに、ショタ猫のツボは左耳の付け根の裏と尻尾半ばの上側、ロリ兎のツボは両耳の内側真ん中のポイントと尻尾の付け根に近い上っ面だった。
優しく掻いてやったり撫でてやったりするといい反応したから、間違いねぇ。
「お前はまぁまぁいい線いってたから、少しまけてやる」
「ち、ちぎれる!! ちぎれちゃうよ!!」
「大げさだぞ、ショタ狐。……しっかし、毛並みにかなり性格出てんなぁ」
「ぅ、んっ!? ひ、うぅぅ……っ!?」
荒い息で崩れ落ちたロリ兎の次はショタ狐。
コイツは偶然か意図してか、唯一評価に値する臨機応変さと判断力を見せたからな。思いっくそ耳を左右に引っ張るだけで許してやる。
痛み耐性が低いのか、めっちゃ泣き叫んでたけどな。
そしてショタ狐のキツネ耳と尻尾は、ロリ兎とは違った心地よい手触りがあった。どうやら二人より毛質が細くて柔らかいらしく、めちゃくちゃ梳きやすい。
それに長すぎず短すぎない獣毛はサワサワで、上質な筆で手のひらを擽られているような、何時間でも触っていたい欲求に駆られた。こっちもこっちで、評価が高い。
そんで、ショタ狐のツボは両耳の穴に沿った縁をつい~っといじるのと、尻尾の先端下部をコショコショと掻いてやること。
くすぐったいのを我慢してても声音の変化は丸わかりだから、重点的に攻める場所は一発でわかった。モフリスト舐めんなよ。
「お前は自己主張がなさすぎるんだよ、ロリ熊。嫌なら嫌とちゃんと言え」
「み゛ゃぁ~っ!? いだいいだいやめてよぉ~っ!!」
「それでいい。そして、お前の毛は十分合格点だ。今後も手入れをしっかり行うように」
「あ……っ! ゃ……ぁん!? く、くちゅぐったい、ぃひぃんっ!!」
過呼吸気味なショタ狐を放置し、今度はロリ熊を締め上げる。
熊の特徴が小さいからか、力加減が一番難しかったが、何とかつねって引っ張ってもみくちゃにしてやれた。満足である。
その後毛繕いしてみると、第一印象通り手入れの女子力が一番高かった。
クマ耳もクマ尻尾も普通だとゴワゴワチクチクした感触になりがちなんだが、そうした種族的ハンディ(?)を覆した見事なゆるフワヘアーだった。
かといって、ショタ狐のように毛が細いわけじゃねぇ。
それなりの太さと力強さを残しつつ、それでいて潤いも滑らかさも柔らかさも両立しているとは、かなり手入れに気をつけている証拠だ。ガキのくせに色気付きやがって。
また、ロリ熊のツボは両耳の付け根から縁にかけてスーッと梳いてやるのと、尻尾を包み込むように片手の五指で擦ってやるので確定。
耳と尻尾が小さくやや苦戦したが、俺に探せないツボはねぇ。
その後も、にゃん娘を除くガキどもを年齢順で一人ずつ呼び出し、公開処刑を繰り返した。
最終的に全員が痛みとくすぐったさでその場にダウンし、俺の周りにモフガキサークルが形成された。
大人を甘く見るからこうなるんだ、よく覚えとけクソガキども。
児童虐待? あっはっは、ここ異世界ですから。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(異世界人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)
生命力:2004/2004(【固定】)
魔力:1064/1812(【固定】)
筋力:176(【固定】)
耐久力:148(【固定】)
知力:183(【固定】)
俊敏:135(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解LV2》《魂蝕欺瞞LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)
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