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13話 底辺と頂点

「私は……少し気晴らしに。貴方の方こそ、今はこの世界の常識について学ぶ時間でしょう? 出歩いていていいのですか?」


「サボリっす。眠いことばっかしゃべる教師役が悪ぃでしょうよ。それに、会長も人のこと言えねぇじゃねぇっすか。本音を隠すか隠さねぇかの違いで、どうせ同じ穴の(むじな)でしょ?」


「そう、ですね……」


 やっぱ、俺以外にはちゃんと教師役が用意されてて、学校の授業みてぇに集団で勉強してるみてぇだな。(いた)れり()くせりじゃねぇの。


 こっちは異世界語の原本そのままをヒントなしで渡されただけだ、ってのに。


 まあ、この一ヶ月そん時のムカつきも勉強意欲(エネルギー)に変えて、原本全冊解読して頭に叩き込んでやったがな。


 我ながらアホなことしたと思ってるが、そんなアホなことを実現させたスキルって、ホント便利だわ。


 とまあ、謎の優越感に(ひた)るのは後にして、っと。


「何かあったんすか? 元気なさそうっすけど?」


「――っ」


 俺は話しかけた体勢そのままに、会長をじっと見ていたんだがすぐに目をそらされた。


 前に話しかけられたときと比べると、その姿には明らかに覇気(はき)がない。


 十中八九、厄介ごとに首突っ込んだか巻き込まれたかしたんだろうけど、やけに気落ちしてんな、こりゃ。


「悩み事っすか? まあ、俺らだって学生なんだし、悩みの一つや二つはあるもんっすけどね~」


 ひとまず、軽いノリで少し探りを入れてみる。


 わざとふざけて思春期特有の問題っぽく臭わせてみたが、もちろん会長がそんな馬鹿馬鹿しいことに悩んでるなんて思っちゃいねぇ。


 案の定、どこか自信のなさげだった雰囲気が吹き飛び、会長の目は鋭く剣呑(けんのん)な色を帯びだした。


「……もしかして、貴方も現状を理解できていない方ですか? そうでなければ、こんな状況でふざけた言動などできないはずです。

 差し出がましい忠告かもしれませんが、そろそろ現実を直視するよう意識を変えるべきですよ。私たちがいるこの世界は、ゲームや物語の中ではないのですから」


 やっぱまだいんのかよ、そういう風に考えてるお気楽バカ。


 しかも会長の言い方からして、明らかに複数いんだな……マジで救いようがねぇな、おい。


 それに、(おれ)(にら)みつける物騒な反応からして、調子に乗ってんのは男子が多いっぽいな。


 無敵の力を授かり、立身出世でハーレムウハウハとかってジャンルは男が好むからな。女はどっちかっつーと、イケメンに()びて(はべ)らせ逆ハーウハウハルートとかが共感できるジャンルだろうし。


 そっち方面を期待している夢見る夢子ちゃんもいそうだが……会長の場合は男の勘違い野郎どもに付きまとわれまくって嫌気が差してる、ってとこか?


 他にも、容姿や能力の高さからして、この世界の貴族とかからもアプローチを受けてるだろうし、心労が溜まってたのかもな。


 まったく、世界が違えど美人は辛いねぇ。


「おっとっと、そいつは手厳しい。でも、ちょっとくらい浮かれてもよくないっすか?

 だって俺ら、この世界の奴らよりも断然有利な立場にあるんすよ? 少なくとも、地球にいた頃よりは人生が大分ヌルゲーになったんじゃねぇっすかね?」


 会長の不機嫌を察しながら、あえて軽薄な態度を崩さないまま(あお)るような態度を取った。


 ここで素直に(うなず)いちまえば、『わかってくれたらいい』って感じに会話が終わっちまうからな。最悪、『ではこれで』みたいに会長が立ち去るきっかけを与えかねない。


 なら、少しくらい喧嘩腰にして心証を悪くしようとも、会話を引き延ばして情報を得る方がマシだ。


 ってことで、なるべく想像した勘違いバカの言動に寄せてみたが……こんなんで誤魔化せたか?


 まあ、会長の発言から異世界生活を舐め腐った奴らだってのはわかるし、これくらいアホなことを言い出してもおかしくねぇ、よな?


「――っ! いい加減に人生をゲームと混同するのは止めなさい! 今この状況はすべて、正真正銘、私たちに降りかかった現実なのですよ!? 自覚も危機感も足りなさすぎます!

 まさか、一ヶ月前に私たちの処遇を交渉してくださった貴方まで、そのような低俗な考えの持ち主だったとは思いませんでした!」


 おっとっと。


 振る舞いがセーフだったのはいいとして、まさか会長が俺のことを覚えているとは思わなかったな。最初に言い(よど)んだときに気づいてたんなら、大した記憶力と洞察力だ。


 となると、『初対面のモブ』って演技プランを通すのは厳しいか。直接話したのは一回こっきりだったし、会長が忘れてたんなら他人のフリを(つらぬ)けたんだがな。


 にしても、さすが会長だ。


 俺の態度を見た瞬間、座った状態でも武器の長剣を抜けるように身構えやがったな。微妙に体勢をずらしてんのは、俺がどこから襲ってきても対応できるよう重心を移動させた、ってとこか?


 素人目からでも、ほとんど(すき)がねぇってわかる。今まで会長がどんな環境にいたか知らねぇけど、俺を責めるような視線より自然と迎撃体勢を作れたってことの方が怖ぇよ。


 いっくら表面上は冷静を装ってても、一発でも食らったら俺の人生即アウトな場面だぞ? 内心ガクブルでビビりまくるに決まってんだろ。


 単純戦闘力じゃ俺のはるか上にいるだろうし、やっぱ敵に回ったら厄介だよな。


 おそらく最底辺の俺が、頂点にいる会長を()()としたら……いざってときのため、シミュレーションだけはしておくか。


「……ぷっ! くくく、何マジになってんすか? 冗談っすよ、冗談。ほらほら、美人が台無しっすよ、会長~?」


『高速思考』とは違い、現実では『並列思考』で作ったチャラ男キャラのまま馴れ馴れしく会長に右手を伸ばす俺。


「触らないでください!」


 当然ながら、その手は嫌悪を顔に浮かべた会長により、途中で思いっきり弾かれる。


 ……よし、腕は(しび)れるだけでステータスの判定には入っちゃいねぇな。これで、ステータスに記載された能力値が『常に適応されるわけではない』ことが証明されたことになる。


 かけ離れたステータス差で単純計算されりゃ、今ので俺の腕は千切れ飛んでたはずだ。それどころか、『触れた瞬間に死ぬ』なんてゲーム的事故死もあり得たかもしんねぇ。


 何気なく自分を実験体(マウス)にしたが、これでもかなり冷や冷やもんだったんだぜ?


 本当はこの国の使用人か貴族連中あたりで試しときたかったんだが……無理だったんだよなぁ。


 牢屋にぶち込まれて一週間も経つと俺を無視することに決めたのか、ちょっかい出しても反応が薄くなってきたせいで確かめようがなかったんだよ。


 その分、口先では簡単に乗ってきたもんだから、楽しい口論の(すえ)に黒い(もや)さん召喚と観察の役には立ってくれたがな。


 それはさておき。


 俺が仮説を立ててた通り、『常時出せる力』と『ステータス値』はイコールじゃねぇことが判明した。


 となれば、ステータスの能力値は『当人が意識的に引き出せる最大の仕事量』を数値化したもん、って予想も的中してそうだな。


 まあ、『普通』に考えりゃバカみたいなパワーを制御できねぇってだけで、日常生活が不便だらけになっちまう。


 ゲームっぽい世界法則があったとしても、さすがに物理法則が『数値』だけに縛られるほど現実離れしちゃいねぇか。


 そこはまず一安心、ってところか……


「私は! 異世界人の中でもっとも高いステータスと、貴重なスキルを宿して()()()()()()

 地球への送還が『魔王』を倒さないと成されない現状、それは皆さんを日本へ帰す責任を負ったことと同じです! それに、この国の人たちや同じ異世界人たちから集まる期待と重圧もあって、もはや自分のことで精一杯なんですよ!

 皆さんを守れるようにと必死に鍛錬を重ねても、私だって一人の人間です! 【勇者】だなんだともてはやされたところで限界はあります! 私がどれだけ強くなろうと、守れない命は出てくるんです!

 だというのに、貴方たちは自分で何とかする努力を忘れ、いつも訓練を(おこた)り遊んでばかり! いくら身を案じて言葉を尽くしても、『何とかなる』だとか『死にはしない』だとか……ふざけるのも大概にしてください!

 いざその時がくれば、私にすべてを丸投げして背負わせるつもりなんですか!?

 こんな力、望んで手に入れたものでもないのに!!

 もう、私に何もかもを押しつけようとしないで!!」


 ……なんて、こっちが『高速思考』で盛り上がっている間に、何か知らんが会長の怒りが爆発してた。


 相当鬱憤(うっぷん)が溜まってたんだな。立ち上がって長い黒髪を左右に振り乱し、目に涙をためて怒鳴り散らす会長は、憎悪に近い敵意を俺にぶつけてくる。


 が、人類の希望を背負わされた【勇者】の肩書きが外れたその姿は……先ほど俺を威圧してた時とは異なり、とても小さく見えた。


 まるで癇癪(かんしゃく)を起こした子どものように、今にも壊れてしまいそうなほど不安定で、頼りない。


 ……かなり真剣な空気になったから、ってわけでもねぇが、俺も演技で作っていたヘラヘラ顔を引っ込め、立ち上がる。


「――何だ、そりゃ? もし本気で言ってんなら、ふざけてんのはアンタも同じだろ?」


「なっ……!?」


 どうやら予想していた返答じゃなかったらしい。


 一転して真っ直ぐ(にら)み返した俺の態度に、会長はわずかに怒りを忘れて言葉を失う。


 それでも、俺は『冷徹』を使ったときのような冷めた思考のまま、醜態(しゅうたい)をさらす日本人最強(ゆうしゃ)を見下ろし続けた。


 ただし、その行動に深い考えがあったわけじゃねぇ。


 理由はシンプルだ……【普通】で感情の起伏(きふく)がない状態でも、はっきりとした『(いきどお)り』を会長に覚えたからだよ。




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名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV3』『高速思考LV4』『並列思考LV4』『解析LV4』『詐術LV4』『不屈LV3』『未来予知LV3』『激昂LV8』『恐慌LV9』『完全記憶LV4』『究理LV3』『限界突破LV3』『失神LV2』『憎悪LV8』『悪食LV1』『省活力LV2』『不眠LV2』『覚醒睡眠LV1』

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