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【普通】な俺の『普通』じゃない異世界召喚  作者: 一 一 
4章 よい子の青空学級編
136/165

96話 獣人族の隠れ里

 にゃん()との遭遇から半日ほど《永久機関》の回復に(つと)めた後、改めてラヨール王国内をうろうろし出して三日が経過している。


 その際、一応回復系スキルに分類する《永久機関》の有効活用法? が判明した。本質は呪い系っつうか奇病系スキルなんだが、どうやら俺限定で裏技が使えるらしい。


 まあ、それも【普通】ありきの抜け道みてぇなもんだが。


 どうやら、俺が種族を『日本人』から『異世界人』へ変更する時、魔力残存量が自動で最大値になるみたいなんだよ。


 それを利用し、怪我が完治するまで魔力をバカスカ使ったおかげで、半日程度で治療できたわけだ。


 手順は至極単純。


【普通】は起動したまま、『異世界人』で魔力を消耗した状態→《機構(ステータス)干渉》で種族を『日本人』に変更し魔力0→《機構(ステータス)干渉》で種族を『異世界人』に変更で魔力全回復、って流れだ。


 つまり、どういう処理がなされてこうなるのかはよくわからねぇが、『日本人』の魔力0=『異世界人』の魔力最大値、ってバグ変換されているらしい。


 以前、(さき)の蹴りで死にかけた時にも、似たような操作で奇妙な現象を確認してはいた。


 恐ろしい勢いで生命力が減って0になる寸前、種族を『異世界人』から『日本人』に変更した上で【普通】を発動したことで、生命力の消失を止めることができたアレだ。


 あん時は無我夢中でやってたから確信があった訳じゃねぇし、ぶっちゃけ今も原理不明なんだが、おそらくステータス数値の横につく【固定】ってのが関係しているんじゃねぇかと睨んでいる。


 これはずっと『【普通】発動中は全く変化しねぇよ?』ってことだけだと思っていたが、もしかしたらステータスの数値的処理にも多少の影響を与えるのかもしれねぇ。


 俺が死にかけた時を例に取ると、『生命力1』は『異世界人』の時じゃ最大値の0.1%だったが、『日本人』の時じゃ最大値の100%だ。


 同様に、『魔力0』は『異世界人』の時は最大値の0%で、『日本人』の時は最大値と一緒なので100%といえる。


 このように、種族の違いで残存値と最大値の比率が大幅に変わることから、【普通】が『残存値』よりも『最大値との比率』を重視した変換処理を行わせたため、ステータスにバクが起こったと推測できる。


 まあ、(さき)ん時は生命力の数値通りに全回復! とはならず普通に死にかけてたのを考慮すれば、生命力と魔力じゃ勝手が違うのかもしれねぇがな。


 今回も、魔力は回復したが生命力は《永久機関》で地道に回復させる必要があったし。


 そう考えると、世界法則だろうステータスでも、マジのゲーム的なバグが発生するもんなんだな。いや、俺が特殊すぎるだけっつうのは理解してるぞ?


「結構深ぇな。まあ、当然っちゃ当然なんだが」


 ってなわけで、俺は【普通】と《機構(ステータス)干渉》によるバグ技を使い、迅速な生命力と怪我の治癒を行って活動再開を果たした。


 現在いるのは、ラヨール王国領でもまだイガルト王国に近い場所に存在する、鬱蒼(うっそう)とした森の中。


 魔力の濃さからダンジョンってわけじゃなさそうだが、それなりに魔物の存在は感知していた。


『異世界人』の魔力で寄ってこられても面倒だし、今は『日本人』で気配なし状態の移動のおかげでエンカウントを回避している。


 植生もまだイガルト王国寄りなのか、樹齢何年だ? ってサイズのバカデケェ木が何本も立っている。


 葉っぱの傘はかなり遠く、ちょいちょい差す木漏れ日が地面を淡く照らす程度で、周囲は結構暗い。夜になると真っ暗だろうな、これ。


 ただ、ラヨール王国における大半の土地は荒野か高山地帯で、こんなに緑が豊富なところはあまりねぇらしい。


 ラヨール王国の中心にある王都周辺とか、ダンジョンでもねぇ限り雑草一つ生えねぇ乾燥気候に属するみてぇだ。


 そんなんで人間が生きていけんのか? と思うが水属性魔法の使い手がいれば最悪飲み水は確保できるし、生活用水なんかを節約すれば割と大丈夫っぽい。


 毎日の風呂が日常だった日本出身じゃちと厳しい環境かもしれねぇが、俺にとっちゃ今さらだ。


 何せ、衣・食・住と人間が必要だとされる要素全部節約してんだぞ? 風呂が入れねぇ程度で文句を言うレベルはとうに過ぎたよ。


 ……くそ、視界がぼやけてきやがった。


「なんて、冗談を言いつつも、っと」


 わざわざ《精神支配》を使って泣き真似をするという、一人ボケツッコミの為にスキルの無駄遣いをして、デケェ葉っぱを手でどけた先に目的地がぼんやりと姿を現す。


 そこには、上手く植物や木材を加工して作った複数の平屋があった。


 地上に建てられたログハウス的なもんもあれば、木々の太い枝を支柱にした樹上ハウス的なもんもある。家の建築様式は、昭和の秘密基地臭からがっつりペンション風まで、落差が激しい。


 居住用の建物以外にも、かなり高所には物見櫓(ものみやぐら)的な小さめの小屋も見て取れる。魔物の他、あそこから見られることも考慮して移動してきたため、俺の存在に気づいた様子はなさそうだ。


「……おぉ、ここはユートピアか?」


 しかし、俺はこんなものを見に来たわけではない。


 もっとも重要なのは、地上で楽しそうに(たわむ)れる大小種々(しゅじゅ)獣人族(モフモフ)たちだ。元気そうにはしゃぎ回るガキを見て、自然と頬が緩む。


 イヌミミ、ネコミミ、ウサミミ、クマミミ、ネズミミ、キツネミミ、サル尻尾、ウマ尻尾、ブタ尻尾、リス尻尾、タヌキ尻尾、サソリ尻尾、ヤギ角、ウシ角、シカ角、サイ角、ヒツジ角、キリン角、スズメ翼、ワシ翼、コウモリ翼、セミ羽根、チョウ羽根、トンボ羽根などなど。


 ベースの動物や手入れの仕方に個体差はあるが、ありとあらゆる獣人族(モフモフ)の見本市みてぇな光景だ。


 ほ乳類だけじゃなく、は虫類、両生類、鳥類、虫を含む節足動物系も混じってて、若干『獣人』の範囲が広い気がしないでもない。


 この世界の『獣』ってのは、『毛を持つ四足歩行の動物』以外に『動物全体』も意味するらしいから、間違っちゃいねぇ。


 いねぇんだろうが、……おぉぅ、虫系獣人はなかなかにインパクトがある見た目だな、おい。


 人間ベースならまだ一部だけなんだが、虫ベースだとなんつーか、特撮の敵役みてぇなイメージが(ぬぐ)えねぇ。


 複眼に加え左右に口が動く顔は、何ともまぁ、濃い。ガキでもものすごく強そうに見えるから不思議だ。


 そう。ここは見ての通り、ネドリアル獣王国から逃亡してきた、獣人族の隠れ里だ。


 里の規模や共存する種族数をざっと見る限り、おそらく獣人族の中でも最大規模の隠れ里になるだろう。


 イガルト王国の侵攻があってから、ネドリアル獣王国に居を構えていた獣人たちは、ほとんどが自分たちの生活に適した環境に近い場所に隠れ里を形成している。


 これはワンコに聞いたが、通常の獣人族が集落を作るときはほぼ同じ種族で固まる上、たいていが単一種族でコミュニティを形成するらしい。


 同じ犬系獣人でも、チワワとドーベルマンを一緒にしにくいように、同型他種族間で生じうる軋轢(あつれき)を避けるためだとさ。


 それ故に、ネドリアル獣王国に数多(あまた)の集落が形成され、クソ王でも把握しきれないほど広大すぎる土地であっても、若干窮屈(きゅうくつ)に感じることもあったそうだ。


 細分化された種族単位で集落を作れば、そら土地も足りなくなるわな。


 が、隠れ里の場合はやむを得ない事情で形成されたコミュニティであることから、必要に迫られて他種族と共同生活を送る場合が多い。


 そん時は所属する種族の中から里長を決め、問題発生時の意思統一を図るらしい。選出方法はもちろん、殴り合いだ。脳筋種族め。


 ちなみに、ワンコを連れて行ったようなイガルト王国内の隠れ里もまだ存在するが、現在は大半が国外にある。


 俺がイガルト王国内で広げた《同調》ネットワークで調べたところ、残りは二つか三つくらいしかねぇようだ。


「しっかし、隠れてる割には意外と活気があるな。人数がいるからか?」


 んで、どうして俺が獣人族の隠れ里に顔を出したかというと、にゃん()と遭遇してワンコのことを思い出し、今の獣人族がどういう生活を送ってんのかが気になったからだ。


 広い意味では『異世界人(おれたち)』も『獣人族(こいつら)』も、クソ王率いるイガルト人の横暴に巻き込まれた被害者であり、同士といえなくもない。


 俺が個人的に獣人族を気に入っている(主に毛並み的な意味で)こともあるが、一番の理由で挙げるなら被害者の会の仲間って感じだからだな。


 敵の敵は味方、なんて単純なことを言うつもりはねぇが、少なくとも共通の敵を持っているということから相互協力ができる可能性はある。


 クソ王が魔王という共通の敵を明示して世界各国を巻き込もうとしているように、こっちもクソ王に(しいた)げられた奴らで団結してやれ! ってな具合だな。


 いずれイガルト王国と事を構えようとすれば、少しでも味方戦力が必要になる。


 その点、脳筋種族ということに目をつむれば、戦闘において獣人族はかなり有能だ。可能ならば、友好関係は築いていきたい。


 最悪、暗黙の了解として相互不可侵の確認くらいはしておきたいところだ。


 いざ反撃を食らわそうとした時、事前協議をしなかったがために足を引っ張り合ってクソ王に逃げられたら、流石に間抜けすぎるからな。最低限の意思確認くらいはやっとかねぇと。


 ただ、問題点は『異世界人』にしろ『イセア人』にしろ、俺が交渉の場に出るとなると『純粋人種』の立場で話すことになる。


 獣人族を苦境に追いやった、『純粋人種(イガルトじん)』と同じ立場で。


 俺からしたら「あんなクソ王と一緒にすんな!」って言いてぇところだが、俺らが『犬人(けんじん)族』と『猫人(びょうじん)族』を『同じ獣人族』って大枠で見ちまうのと同じような感覚だとすれば、途端に反論できなくなる。


 獣人族が『自分たちを害したイガルト人は純粋人種であることから、他の純粋人種も自分たちを害する可能性は高い』と判断するのは当然だし、逆の立場なら俺だってそう見る。


 かといって、《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》などで容姿を獣人族に変えて交渉すんのは論外だ。


 見た目は同族だから最初こそ警戒心は薄く、説得のハードルはいくらか下がるだろうが、後々『異世界人が獣人族を騙した』って事実が残ると、発覚後の敵愾心(てきがいしん)は一気に跳ね上がる。


 そうなれば、関係は簡単に三つ(どもえ)の潰し合いに発展するだろう。


 そもそも、俺がやろうとしているのは獣人族からの信頼を少しでも得るための話し合いだ。相手に信じてもらうには、たとえこっちが無防備になろうとも、最大限の誠意を示す必要がある。


『日本人』や『異世界人』で出向くか、少なくとも『イセア人』で対話をする以外に方法はない。


 つまり獣人族との交渉は、冷静な対話を成立させるって段階から、難易度が相当高ぇんだよな。


 向こうからしたら憎悪の対象が目の前にいるんだから、俺みてぇに冷静になれる方が少数派だろう。


 まあ、反対に最初からウェルカムでもそれはそれで面倒臭ぇけどな。


 十中八九罠を張ってんのを疑うべきだし、もし何もなかったとしてもそれはそれで種族単位で頭がどうかしているとしか言いようがねぇわけだし。


「……行くか」


 他にも懸念は山ほどあるが、どっちに転んでも簡単な仕事になるわけねぇんだから、考えるだけ無駄か。


 無邪気な獣人族(モフモフ)のガキたちがキャッキャウフフと遊ぶ様子を見ていたかったが、ずっとそうしてるわけにもいかねぇ。


 一度大きく深呼吸をして気合いを入れ直し、隠れることをやめて里の方へと足を向けた。




====================

名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:0/0(【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解(アカシックレコード)LV2》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)

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