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【普通】な俺の『普通』じゃない異世界召喚  作者: 一 一 
4章 よい子の青空学級編
133/165

93話 諍い

 関所をスルーした翌日。相も変わらず不眠不休で歩き続け、ようやくダンジョン多発地域を抜けることが出来た。


 直線距離にすれば半日もかからない距離なんだが、交易路(こうえきろ)が結構入り組んでたせいで二倍も時間がかかっちまったな。


 途中で野営ポイントらしい場所をいくつか見つけたから、俺のペースでも非常識な速度かもしれねぇが。


「……ふぅ、これで一山越えたな」


 忌々しいイガルト王国の方角を振り返り、ため息混じりに独り言をこぼす。


 びっくりすることに、ここまでで俺の設定した目標の一つ目が達成されただけに過ぎない。どんだけ時間かかったんだ、って話だ。


 とはいえ、次の具体的な目的がまだ定まってねぇ。


 他に王都アクセムを出る時に決めたのは、路銀稼ぎの手段として冒険者になること。……だったが、社長とのいざこざでもう無理。《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》のおかげで身分も金も必要じゃねぇから、未練はねぇけど。


 後は日本へ帰る手段を探すとか、【魔王】の討伐とかも考えてたが、最終目標である『平穏な暮らし』のついでみたいなもんだから、積極的にやりてぇことじゃねぇ。


 んで、ラヨール王国でやりたいことも、ぶっちゃけ何もねぇ。


 ここは黒人に近い特徴を持つ『クカルブ人』が国民の大多数を占める国で、イガルト王国と同様王政を()いている。


 とはいっても、国民性をイガルト王国と比べると天と地ほどの差がある。


 シエナやママさんの例があるように個人差はあるが、イガルト人は基本的に他人種よりも上だっつう優越感が強い。


 他人種はすべて劣等種である、みてぇな共通認識が根付いちまってるのが原因だ。それにはイガルト王国の成り立ちも関係してんだろう。


魔物暴動(スタンピード)』をきっかけに団結したイガルト王国で、人類を統率していたのがイガルト人だった、っつう歴史的事実を根拠にしていて、人類のリーダー的感覚が強いらしい。


 一方、クカルブ人は絵に描いたようないい奴、ってのが一般的なイメージだ。勤勉で向上心が高く、上下関係と礼節を重んじていて、多様な文化を受け入れるだけの寛容さを持っている。


 その上、他の純粋人種と比較して平均的に身体能力が高く、素質だけを見ると冒険者として大成しやすいのが特徴だ。獣人など亜人種と比べればちと分が悪いが、純粋人種の中では一番成長率が高い。


 これだけ聞くとイガルト人よりよほど優秀な人種じゃねぇか? と思うだろうが、実際はそうでもない。


 ぶっちゃけ、クカルブ人は頭があまりよくない。知識量とか記憶力とかの話じゃねぇぞ? 応用力とか決断力とかの、主に頭の回転速度や知恵にあたる部分だ。


 俺も《世理完解(アカシックレコード)》の知識でしか知らねぇんだが、クカルブ人は『開拓(かいたく)する力』が非常に低い。


 それはクカルブ人の誰もが、真面目かつ急速に力と知識を身につけているにも関わらず、後世に名を残すほどの偉人がいないことが証明している。


 武術を極めた者はいるが、そこから自己流の武術を編み出した者はいない。魔法を極めた者はいるが、新しい魔法の発見や創造を行った者はいない。


 技術であれ知識であれ、クカルブ人は『基礎』から抜け出すことができねぇんだ。


 よく言えば型にはめこんじまえば力を最大限に発揮するってことなんだが、自分たちの中で変化や発展を促せないことは生物としてかなりマズい。


 それはつまり、『外的要因からでしか成長できない』ことと同義だからな。


 あらゆる環境や文化の影響に柔軟性があるのは結構だが、そこから進化できないままだといずれ衰退し、人種として絶滅してもおかしくねぇ。


 進化論にもあるように、状況の変化を受け入れるだけじゃなく、自ら考えて環境に順応する進化(ちから)がなければ、淘汰(とうた)されるのが自然の摂理(せつり)だ。むしろ今までよく生き残ってたな、クカルブ人。


 それと関連してる部分もあるんだろうが、クカルブ人は他にも自主性が(いちじる)しく低いっつう特徴がある。要するに、ものすごい優柔不断なんだよ。


 責任感がねぇってわけじゃなくて、どうしても自分たちで決められねぇ、って印象だな。選択肢が多ければ多いほど混乱しやすいらしいし、もう筋金入りだ。


 現在のラヨール王国の政治も、問題を洗い出した後はほぼ全てを多数決で決めるほどだからな。


 王族でさえ独裁者のイスに座りながら、実質臣下と同じ発言権しか行使していないため、徹底的民主主義といえなくもない。


 なので、迅速な選択を迫られる場面において、強いリーダーシップを取れる奴がいないという弱点がある。民間レベルでも同じだから、割と深刻な問題なんじゃねぇのか?


 他にもクカルブ人は人情に厚く、流されやすいお人好(ひとよ)しも多いしな。人を疑うよりも信用することが先に立っちまって、他人種に(だま)されて後々苦労するってのは日常茶飯事だ。


 その代わり、これ! と決めた後は一切の迷いがなくなり、最後まで貫き通す意志の強さを持つのは、一応利点か。その道の専門家(エキスパート)を多く輩出していることからも、やり遂げる力はあるようだし。


 とまあ、イガルト人と比較すると見事に正反対な内面的性質を持つのがクカルブ人だ。


 さすがに、性格も口も悪い俺でもクカルブ人と()め事になる可能性は低いと考えている。むしろ、人がいいクカルブ人と対立するなんて、よっぽどのことがねぇ限りあり得ねぇだろう。


 あり得るとしたら、ラヨール王国に移住した他人種だろうか。


 来る者拒まずの精神から、ラヨール王国は全国から人が集まる多民族国家だ。


 特に冒険者が一番活動しやすい国であり、当初の目的通り冒険者になれたら有利と考えたから、最初の逃亡先にこの国を選んだっつうこともある。


 実際はレイトノルフで冒険者協会に反目したことで、逆に俺との相性は最悪になっちまったかもしれねぇがな。


 今後は登録ん時に因縁(いんねん)つけてきやがったハゲ斧みてぇな、面倒臭ぇやりとりが増えてもおかしくねぇ。


 ……うん、この国でやるだろうことは、冒険者との小競り合いくらいしか思いつかねぇ。


 この国に根を張るにしても、性悪(せいあく)説を信じる俺からすればここの国民性が不安しかねぇから、国の実状を調べるところから始めねぇといけねぇし。


 まあイガルト王国から脱出して間もないんだ。やりたいことはおいおい決めていけばいいだろう。


 今までずっとドタバタしてきたんだから、少しはゆっくりしても罰があたらねぇ、ってな。


「――っ!!」


「あん?」


 と思った矢先。


 不意に、遠くの方から人の声が聞こえてきた。


「女、と……、男が複数か?」


 耳に意識を傾け聴覚を研ぎ澄ませてみると、声音からして複数の人間が言い争ってるらしい。


 その内、一番騒がしいのが女っぽい声で、後は低い男っぽい声がいくつかあるようだ。


「暇だし、ちょっと行ってみるか」


 確実に厄介ごとの種になりそうな雰囲気バリバリだったが、今の俺はやることがねぇ暇人だ。


 たまには自分が渦中(かちゅう)のいざこざじゃなく、他人の(いさか)いの野次馬になってみるのもいいだろう。そいつらのゴタゴタに介入するかどうかは、状況次第だな。


 こうして近づいている最中にも戦闘音らしいもんが聞こえるが、部外者がしゃしゃり出たところで問題解決に繋がる保証はねぇ。


 普通に考えりゃ、女が複数の男に襲われてるのは女に加勢する流れなんだろうが、実際は女が男連中を騙して金品を奪った盗賊だって可能性もあるからな。


 たいていのゲームやラノベじゃピンチの女を助けるシーンは王道だが、世の中常に女性がか弱くて被害者だという思い込みは浅はかだし、危険過ぎる。


 善悪は人の性別はもちろん、美醜(びしゅう)や貧富で決まるもんじゃねぇ。かといって、二元論的に白か黒かを明確に区別することも出来やしねぇ。


 立場が違えば善悪なんて簡単に逆転するからだ。


 極論を言っちまえば自分の信じるものが『正義』で、それに反するものはすべて『悪』だ! なんて横暴な主張もまた、理屈の上では正しいんだから。


 個人的な意見で言えば、俺はたとえそいつが何者であろうとも、どんな内面的性質を持つかを重要視し、判断の基準にする。


 自分にとって、そいつが助けるに値する人間か、否か。


 または損得感情は関係なく、助けたいと思える人間か、否か。


 それ以外の要素なんざ考慮する意味がねぇ。その価値観からすればワンコは前者に、『トスエル』一家は後者に分類される。


 ともかく、外見や社会的地位の優劣で特別扱いする考えは、どうしても俺の(しょう)に合わねぇ。クソ王にこびへつらう担任みてぇな奴が一番気に入らねぇと思ってっし。


 よって、最初から助けるつもりはゼロで、好奇心の(おもむ)くまま完全な傍観者を気取るつもりだった。


「てめぇ、この(あま)! ()()のくせに人様に逆らってんじゃねぇぞ!!」


「よし。()るか」


 が、鮮明になった一人の男が放った怒鳴り声で、そんな考えは一瞬で霧散する。


 一人の女に何人もの男が寄ってたかって、恥ずかしくねぇのか!


 俺がちょっと世の中の常識ってもんを、アイツらの少ねぇ脳味噌に叩き込んでやる!


 獣人族(モフモフ)は人類の、いや世界の宝だ!


 テメェらみてぇなクズがおいそれと傷つけていい存在じゃねぇんだよ!


「くっ……!?」


 俺が《機構(ステータス)干渉》で種族を『異世界人』に変え全力疾走を始めてすぐ、獣人族の女が焦ったような声と同時に倒れたような音を出す。


 あんのクソ野郎ども!! ケモミミと尻尾に傷がついたらどうしてくれんだ、あ゛ぁ!?


「聞き分けのねぇ家畜は、調教が必要だなぁ!!」


 さらに事態が切迫していく声を頼りにスピードを上げると、ちょうど小汚ぇ男がケモミミを組み()き、手にした長剣を尻尾に振り下ろそうとしていた!


「調教が必要なのはテメェだド腐れ外道がぁ!!」


「ぐえっ!?」


 よりにもよって細く繊細ながら毎日丁寧な毛繕(けづくろ)いが施されていることが一目でわかる推定猫科の黄褐色をした短毛の上に先端に黒く控えめな房状のモフモフを持つ素晴らしい尻尾様(評価S+)に手をかけようとしたゴミクズの蛮行(ばんこう)に、俺は一瞬にしてブチ切れた。


 イガルト王国から脱出したっつうこともあり、『異世界人』ステータスのままゴミクズの胴体めがけてドロップキックで襲撃。


 モフモフの毛並みへ到達する前に突き刺さった俺の両足は、ゴミクズの体を走った勢いそのままにぶっ飛ばした。


「なっ!? て、てめぇ、どこから現れやがたぺば!?」


「覚悟はできでむぼ!?」


「うるせぇ! 覚悟云々(うんぬん)はこっちの台詞なんだよゴラァ!!」


 長剣持ちを沈めたことを確認した後、周囲にいた短剣持ちと杖持ちの男にステータス任せで距離を詰め、それぞれ顔面の中央に怒りの鉄拳をぶち込んでやる。


 結果、三人とも数メートルくらいの距離を飛行していき、ボロ雑巾みたいなバウンドを繰り返して崩れ落ちた。


 獣人族の象徴(モフモフしっぽ)を奪おうとした罪は重い。


 俺地裁の判決で上訴(じょうそ)却下の即死刑だクソ野郎ども。


世理完解(アカシックレコード)》にも刻まれた世界の真理だぞ、よく覚えとけ!!(※誇張表現あり)


「大丈夫か? 危なかった、な……」


 装備からしておそらく冒険者だろうゴミクズどもの掃除をした後、俺は改めて獣人族らしい女に振り向いて、絶句した。


「……テメェ、何者(なにもん)だ?」


 別に、女の第一声が予想以上に粗野(そや)な言葉遣いだったからじゃない。


 別に、助けたはずなのに警戒心マックスで睨みつけられたからじゃない。


 別に、ケモミミと尻尾の毛が逆立って敵意バリバリだったからじゃない。


 なら何故、俺が多大なショックを受けたのかというと……、


「…………ほぼ人間のくせにケモミミと尻尾つけてんじゃねぇ!!!!」


 助けた獣人族の女の肉体のベースが、『人間』寄りだったからだ。




====================

名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(異世界人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】、【魔力減少・常】)


生命力:1962/1962(【固定】)

魔力:1712/1738(【固定】)


筋力:168(【固定】)

耐久力:141(【固定】)

知力:176(【固定】)

俊敏:125(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV3》《神術思考LV3》《世理完解(アカシックレコード)LV2》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV4》《神経支配LV5》《精神支配LV3》《永久機関LV4》《生体感知LV4》《同調LV5》)

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