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12話 遭遇

 イガルト王国に召喚されて、早一ヶ月。


 俺はといえば、相変わらず独りで牢屋生活を送っている。


 日記やその他の記録をつけ始めてそれなりの時間が経ち、消費した紙も結構な枚数になった。俺が取得したスキルの検証も、ゆっくりだが進んでいる。


 ちなみに、この世界の(こよみ)は都合がいいことに地球の太陽暦とほぼ同じだった。二月が三十日まであったり、(うるう)年っつう概念がなかったりと細けぇ違いはあるが、一ヶ月が約三十日なのは共通している。


 つまり、クソ王はたった三十日の訓練で、俺たち日本人を戦場に放り出そうとしてた、っつうことだ。


『人材は消耗品』を地で行く今どきのブラック企業でも、新人相手にゃもう少し手心(てごころ)加えるぞ? 無理難題にもほどがあんだろ。


 人材と言えば……日本人組がどんだけ成長してんのか、まったくわかってねぇのは痛い。接点が完全に切れちまってるから、そもそも知りようがねぇんだよな。


 もし日本人組の強さの基準を知れれば、相対的に俺が持つ能力の価値がわかる。そうすりゃ、どこまでが『この国に見せてもいい(レベル)』か、おおよその検討がつけられるんだが。


 というのも、『俺がこの国にとって面倒なだけの役立たず』と思わせられれば、クソ王の側から放逐(ほうちく)してくれるんじゃねぇか? って期待してんだよな。


 クソ王とは一回しか会わなかったが、たぶんありゃゴリゴリの合理主義者だ。自分にとって『獅子身中の虫』とわかれば、未練も躊躇(ちゅうちょ)もなく排除するタイプだろう。


 謁見(えっけん)の時、俺があえてクソ王へ反抗的に振る舞ったのは、『排除の対象』と見なされるための布石だ。


 あとは、戦力としても『無価値』だと判断されれば、この国の庇護下から外れるだけじゃなく、あわよくば国外に脱出する機会があるかもしれねぇ。


 とはいえ、俺が『無能』だとイガルト王国に思われるよう常に演技(いしき)してっから、日本人の情報がなくとも立ち回るくらいはできる。いらん懸念と言えばそれまでだ。


 むしろこの路線で行くと、俺が『無能すぎる』場合は最悪殺される可能性も高まるんだが、ひとまずその危険は低いと踏んでいる。


 第一に、俺らには『契約魔法(仮)』がある。


 残り十一ヶ月って期限付きではあるが、あいつらから何か仕掛けられても『契約魔法(仮)』が俺を守ってくれる。


 逆を言えば、契約期間が過ぎると俺の命も危ねぇってことなんだが……もし期限を越えたとして、クソ王もすぐにはどうこうできないと予想している。


 なぜなら、俺たちがこの世界について学習していると同時に、クソ王も俺たちのことを観察し、学習しているからだ。


 能力や環境に酔って調子に乗ったバカなど個々人の差は別にして、一ヶ月もすると日本人の国民性はおおかた把握されてるだろう。


 勤勉で真面目、割合的に争いを嫌う傾向が強い、『死』を身近に意識しないか敬遠する、みてぇな傾向をな。


 特に、『死』についての甘い認識は全員に共通しているはずだ。


 平和主義を掲げ、戦争放棄を宣言して久しい国の人間にとって、『普通』に生きていれば『死』は生活の外に置かれた出来事と錯覚しやすい。


 事故や事件、病気などの急死でさえ現実感がねぇのに、自分や知り合いが常に『死』と隣り合わせな戦争(かんきょう)に放り出される、なんて想像もできやしねぇ。


 そんな精神状態の中で、同じ日本人である俺を殺すことはクソ王にとって大きな賭けになる。


 何せ、日本人は千人弱もの数がいるんだ。


 うまく事実をもみ消したとしても、何かのきっかけでイガルト王国が俺を殺したと知られれば、確実に日本人全員の不信を買う。それも、主戦力になるだろう頭が切れる奴を中心にしてな。


 他にも、単純に俺の『死』がきっかけで戦いに尻込みする奴も出てくる。そうなりゃ、クソ王としても大事に育てた戦力が一部、下手すりゃ全部機能しない結果になりかねねぇ。


『魔王』に対抗する手段が他にない以上、日本人の離反だけはぜってぇ避けたいと思うはずだ。


 ――少なくとも、『契約魔法(仮)』で日本人を奴隷化させる準備が整うまでは、な。


 そうそう、『契約魔法(仮)』についてわかったことがある。どうも効果の重ねがけができねぇ上に、そう何度もやり直しがきくような魔法じゃねぇらしい。


 一ヶ月間、ちょちょいとメイドどもをつついて他の連中の情報収集をしても大きな動きがなさそうだった、ってのが一応の根拠だ。


 クソ王のことだから、乱発できんならもうすでに俺の知らねぇところで奴隷契約を結んでてもおかしくねぇ。なのにそんな兆候(ちょうこう)がまったくねぇんだから、ほぼ確定と考えていいだろ。


 元々『契約魔法(仮)』は規模が大きく、威力も強力みてぇだからな。それくらいの制約があってもおかしくねぇ。


 そうなると、クソ王が俺を『排除』するならタイミングは『契約魔法(仮)』が切れた後になるんだが、それでもリスクは高い。


 新たな契約前に俺を()っちまうと、一年にも渡る厚遇で得た日本人からの信頼を一気に失うことになりかねねぇからだ。


『契約魔法(仮)』の準備にどれくらいの手間と時間がかかるのかはわかんねぇが、儀式的なもんだとしたら効果が切れてすぐ契約――なんてことはできねぇだろう。


 クソ王としても、ギリギリまで日本人にいい印象を残しておきたいだろうからな。俺を殺すにしても、ある程度の時間調整が必要になると予想している。


 ってわけで、現段階における俺の命の保証期間は、十一ヶ月プラス再契約までのタイムラグ分、ってところだな。


 んで、俺はその保証期間の間に、国外逃亡までの準備を済ませるつもりだ。


 具体的には、『スキル』の取得と成長が急務か。単純な武力や知力と比べて、スキルは『異能』に近い。能力次第で、絶望的な状況からでも活路を開けるかもしんねぇからな。


 国外である理由は、いくら俺が『無能』を演じて城から放り出されたとしても、クソ王の勢力圏内で目立った行動をしちまえば、連れ戻される危険性があるからだ。


 クソ王ならたとえ一度手放した人間であっても、有用性を少しでも見出せばすぐに手元に戻し利用しようと目論むだろうし。


 ただ、いずれの状況であっても、クソ王が強硬手段に出る可能性だけは忘れちゃいけねぇ。


 俺に利用価値があろうがなかろうが、邪魔だと判断したら日本人連中の目が届かなくなったところでさくっと暗殺……なんて平気でやるだろうしな。


 っと、気づけば長々と段取りを確認しちまったが、要するに『イガルト王国からの脱出』が当面の目標だ。


 あと……できればやっぱ日本人連中の情報は欲しいな。


 奴らに何ができて、何ができないのか。


 どういうステータス値で、どんなスキルを持っているのか。


 適正職業で多いのは戦闘系か生産系か。


 どんな些細(ささい)な情報でも構わねぇ。他の日本人がどういう戦力になるのか、知っておくに越したことはねぇ。


 俺の立場(スタンス)はイガルト王国の敵だとはっきりしてるが、他の日本人は全くわかんねぇんだ。


 将来的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()しとかねぇとな。


「……はぁ」


 だが、今のところメイドや兵士どもをつついてみても、日本人どもの情報だけは収穫ゼロ。


 箝口(かんこう)令でも()いてやがんのか、それとも単純に知らねぇのか……とにかく一切の情報がねぇままだ。


 俺の方から会いに行くっつっても、この城無駄に広いんだよな。


 俺のひっくい運動能力からして、あいつらがどこで何してんのか見当すらつかねぇんじゃ、道に迷って体力的に死にかけるのがオチだ。


 もし偶然日本人に会えたとしても、会話が成立するかも厳しい。


 どういう生活を送ってんのか知らねぇが、人数が千人弱もいるって考えると、この城でとどめておくには居住スペース的にも資源的にも限界がある。


 じゃあどうするか? 初日以降はある程度人数をばらけさせ、グループごとに分けて有力貴族の領地で保護しながら教育、って方針を取ってるはずだ。


 っつうことは、王城に残ってんのは俺みてぇに監視が必要な問題児か、千人の中でも()りすぐりの精鋭、もしくは精鋭になる可能性がある優等生、って可能性が高ぇ。


 そんな中から、俺の話を聞いてくれる奇特な奴がいるかといえば……もはや絶望的としか言いようがねぇな。


 同級生連中は俺を下に見てやがるだろうから、会話が成り立つかどうかも不安だし。上級生も大半が似たような感じになりそうだから期待できない。


 かといって、下級生は妹と同学年だ。俺のことがどんな風に噂されてるかわかったもんじゃねぇ。教師や事務員あたりはワンチャンありそうだが、召喚された直後の反応を見るに期待は薄い。


 そもそも、俺が知りたいのは日本人の『戦闘力(ステータス)』――あいつらにとっても生命線になる情報だ。


『普通』は警戒するはずだし、疑問を抱かず全部教えてくれる奴がいたらそれはよっぽどの大物かただのバカでしかない。


 よって、直接的な能力値やスキルについて聞き出すのはほぼ無理だな。いけて俺との生活環境の違いとか、訓練内容の進捗(しんちょく)具合とか、その程度だろうよ。


 とはいえ、何の情報もねぇ状態からしたら推測の材料になるだけマシだ。


 特に王城にいる奴らは、日本人の中でもトップクラスの戦力候補。どんな待遇や訓練を受けているかで、日本人全体の脅威度におおよその目安がつけられる。


「いくら歩いても人っ子ひとり見当たらねぇ……城勤めの奴ら、ちゃんと仕事してんのか?」


 だからこうして、座学をサボってるフリをして城内を歩き回ったりしてるわけだが……見事に誰とも出会わねぇな。


 この一ヶ月外ればっかだったし、そろそろアプローチの方法を変えてみた方がいいのかねぇ?


「……ん?」


 と、庭園みたいな空間が見える場所を横切ったところで、足を止める。


 一人の人物が、こちらに背を向けて座り込んでいるのを発見したからだ。


「ようやくビンゴ、か?」


 背中しか見えねぇが、明らかにクソ王に仕える臣下って感じじゃねぇ。


 まず、使用人だったら即刻首だな。身分が高ぇか自分の役に立つかで人間を判断しそうなクソ王が、そんなグータラいつまでも雇うわけねぇし。


 それに、そいつは明らかに武装してやがるんだよな。


 髪の長さからおそらく女だとして、非戦闘員のメイドだったら武器は不必要だし、貴族はドレスじゃねぇ時点で論外。戦闘要員でいうと、騎士は訓練か書類と格闘中だろうし、兵士は今頃訓練のまっただ中。


 っつうわけで、あいつは消去法でほぼ確実に日本人だな。


 いやぁ、ブラついてみるもんだ。


「ども」


 早速、色々話を聞こうと庭園に出た俺は、特に考えないまま背後から近寄り声をかけた。


「…………え?」


 そいつはちょっと遅れて返事をし、振り返ろうとする。


 ん~、この様子じゃ、まだ生物の気配を感じ取ったりだとか、常在戦場みてぇな心構えだったりとかは備わってねぇんだな。実戦に駆り出されんのも、まだまだ先っぽい。


 どうせ一年は教育期間になるってことで、じっくり丁寧に鍛えてる、ってとこか。


 箱入りは(うらや)ましいねぇ。


 俺なんか嫌でも『死』の一歩手前まで鍛えさせられてるんだぜ? 原因は【普通(ステータス)】だけどな。


「貴方は、確か……」


『高速思考』を働かせ、一瞬の反応から日本人の訓練内容について推察していると、ようやくそいつはこちらを振り向いて目を丸くする。


 ついでに、俺としても予想外の人物だったため、一瞬だけ身を固くした。


 が、復帰は俺の方が早く、余裕の笑みを浮かべてしゃがみ、目線をそいつと合わせた。


「誰かと思えば『会長さん』じゃねぇっすか? どうしたんすか、こんなとこで?」


 ……俺が出会ったのは、『勇者』の最有力候補であり、個人能力では日本人中トップだろう、水川(みなかわ)花蓮(かれん)会長、その人だった。




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名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV3』『高速思考LV4』『並列思考LV4』『解析LV4』『詐術LV4』『不屈LV3』『未来予知LV3』『激昂LV8』『恐慌LV9』『完全記憶LV4』『究理LV3』『限界突破LV3』『失神LV2』『憎悪LV8』『悪食LV1』『省活力LV2』『不眠LV2』『覚醒睡眠LV1』

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