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ex.8 動き出す世界

《契約》が発動した日から数日が経過しました。


 清美さんたちとの話し合いの後、私たちの退室後での国王陛下の発言を伝えた上で、改めて私たちに協力してくれるかを尋ねたところ、皆さん(こころよ)く引き受けてくださいました。


 魔族や【魔王】だけでなく、下手をすればイガルト王国とも事を構える可能性も示唆(しさ)しましたが、それでも笑って引き受けてくれました。


 中でもかなり意外だったのは、終始断固として厭戦(えんせん)派を主張していた清美さんと暖子(のんこ)さんまでもが、私たちとの共闘を約束してくれたことです。


 上から目線で命令されるのを嫌った荒井(ゆうき)さんや、イガルト王国に不信感を抱いて従わなかった智恵さんはともかく、戦いそのものを避けていた二人も理解を示してくれたことに、嬉しさと疑問が同じくらい浮かびました。


「確かに、戦闘はすっっっっっっっっっっごく汚れるだろうし私にとってはこの上ない苦痛だろうけど、大切な幼なじみの頼みを断ってまで拒む事じゃないわ。

 ちょっと性格が悪くなったみたいだけど、花蓮(かれん)はずっと綺麗な子のままだって信じてるから、貴女が先頭になって歩むだろう道が汚いわけないしね」


「ノンコも~、カレンちゃんのお願いなら喜んで引き受けるよ~。

 ノンコにとっては~、カレンちゃんも~、キヨミちゃんも~、ユウキちゃんも~、トモエちゃんも~、みぃ~んな大好きで~、他の人とは比べる事なんて出来ない大切なお友達だもの~。

 他の人より特別なのは当然だし~、カレンちゃんとはずぅ~っとお友達でいたいから~」


 そのことを正直に明かすと、清美さんと暖子(のんこ)さんは笑みを浮かべながらそう(おっしゃ)ってくださいました。


「っつうか、オレらの仲を考えたらすっげぇ今さらだろ? 一人で背負い込むなんて水臭ぇ! って思ったからこそ、オレら全員花蓮にキレてたんだぜ?

 ま、オレ個人としては、昔っから完璧超人だった花蓮から頼られるなんて二度とねぇ機会だろうから、今はすこぶる気分いいけどな?」


「あぁ~、それすっごく同感。今までは何かとウチらがハナっちに頼ることが多かったから、悪い気はしないよね~?

 ってか、ハナっちは昔から本っ当に何でも抱え込みすぎだから、たまにはウチらをどーんと頼っても罰は当たんないよ? ウリウリ~」


 続けて、荒井(ゆうき)さんは私と肩を組み、智恵さんも反対側から私のほっぺたを人差し指でつつきながら、二人とも満面の笑顔をくれました。


 そんな彼女たちの姿がとてもまぶしくて、胸の奥が温かくなって、……ほんのちょっとだけ、泣きそうになったのは秘密です。


 こうして、明確な反イガルト王国派として連携することを確認した私たちは、しかしすぐには表だった活動など出来ません。


 イガルト王国への従属を表明した『異世界人』の今後の行動は、ほぼすべてイガルト王国からの指示を受けて行う必要があるからです。


 何せ、国王陛下たちからすれば私たちは全員、《契約》で縛った奴隷のようなものなのです。


《契約》を何も知らない『異世界人』たちが反発する言動を取らない限り、イガルト王国の指揮下にあるよう演じる必要があります。


 少なくとも、国王陛下が『異世界人(わたしたち)』全員に《契約》がかかっていないと判明するまでの間は、《契約》を強制させる『黒い(もや)』が発生しないような態度を維持して、事実の発覚を少しでも長引かせなければなりません。


 指図されるのが嫌いな荒井(ゆうき)さんには、少々我慢を()いてしまいますが、しばらくの間はイガルト王国から下される命令に従い、大人しくしているのが無難でしょう。


 というわけで、今日も変わらず『異世界人』たちは対【魔王】に向けた訓練に励んでいるのですが、変わった点があります。


 それは、私、セラさん、長姫(おさひめ)先生、菊澤(きくさわ)さんの訓練相手が、今まで断固として訓練に参加しなかった清美さん、暖子(のんこ)さん、荒井(ゆうき)さん、智恵さんになったことです。


 私たちが使っている訓練場はなかなかの広さがありますが、この場にいるのは私たちだけ。


 空間をおおよそ四分割し、仮の戦闘フィールドとして一対一の模擬戦をしていました。


 他の人がいないのは、私たち全員が強力なユニークスキル所持者だったからです。


 あまり人数を入れてしまうと、私たちの意思に関わらず訓練の余波に巻き込んでしまう可能性があったので、訓練再開の時から貸し切り状態にしてもらっていました。


「っ! ……ふぅ。まさか、暖子(のんこ)さんがこれほどの実力を持っているなんて、知りませんでした」


「ん~、実はノンコも~、ちょっとびっくり~?」


 そうして、ここ数日ずっと手合わせしてきましたが、正直なところ、彼女たちの実力を甘く見ていました。


 私が鍛錬をつけていたのは暖子(のんこ)さんですが、見かけや雰囲気に反して【融和】というユニークスキルの使い方を完全に把握しているばかりか、戦闘における判断能力もずば抜けて高いセンスを持っていました。


 しかも、数日前までレベルもステータスも初期状態だった暖子(のんこ)さんでしたが、【融和】はその不利など関係ない凶悪な効果のスキルであり、今では私も攻め(あぐ)ねるシーンがあるくらいです。


 今も《異界流刀術》で会得した抜刀系スキルを放ちましたが、暖子(のんこ)さんはあっさりと受け止めて距離を取りました。


 小首を傾げながらとぼけてはいますが、やはり暖子(のんこ)さんは相当油断の出来ない女性だったようですね。


「ちっ! アンタのユニークスキルの力もめちゃくちゃだけど、それ以上にアンタ自身がめちゃくちゃ過ぎるわよ、ユウキ!」


「はっはぁ! バカ言え! 予備動作なしに頭いじくる、何でもありのテメェにだけは言われたくねぇぜ、芹白(せら)ぁ!!」


 少し離れた位置では、セラさんと荒井(ゆうき)さんが怒鳴り合いながらスキルを使っての戦闘訓練をしています。


 妙に馬があったらしく、セラさんは荒井(ゆうき)さんと一緒にいる時間が増え、同時に訓練も重ねてきました。


 ただ、お互いを敵として相対した場合、どちらも強いやりにくさを感じているようです。


 戦闘訓練をしてみてわかったことですが、荒井(ゆうき)さんの【破戒】はセラさんの【幻覚】に似てかなりトリッキーな性能をしており、何度も攻守が逆転しています。


 そろそろセラさんも手加減が出来なくなってきたのか、【幻覚】のレベルを私との訓練で使用するくらいにまで引き上げているようでした。


 それでも獰猛(どうもう)な笑みを張り付けたまま食らいつく荒井(ゆうき)さんの成長スピードは、目を見張るものがありますね。


「くっ!? ……私の【再生】も大概デタラメですが、デタラメ具合では貴女のスキルも相当上だと思いますよ、清美さん?」


「うぅ…………っ! せ、せんせいからみたら、そうかもしれないでしょうけど、わたしにとっては、そうとうキツいんですよ、これ!!」


 また別のところでは、長姫先生と清美さんが相対していました。


 珍しく息が上がっている様子の長姫先生と、それ以上に疲弊しつつ全身から脂汗(あぶらあせ)を流している清美さんは、しかしお互い無傷のままでした。


 手数と戦術では群を抜く長姫先生が攻めきれないのは、実は清美さんに訓練をつけた初日からです。


 まともに鍛えていない清美さんでは、ステータスとしては完全に長姫先生が上でしたが、スキルの相性の問題で一向に勝負がつかないでいます。


 戦闘経過は初日からずっと変わらず、一方的に攻め立てる長姫先生の攻撃を、清美さんがことごとく防御しているだけです。


 が、訓練とはいえステータス差が著しい相手と戦いながら、全くの無傷でいることを考えれば、清美さんも相当常識離れしているといえます。


 そして、肩で息をしている清美さんは、トレードマークでもあり体を守る防具でもある手袋を外していました。


 それが【浄化】の使用において必要とはいえ、素肌を長時間外気にさらすのが苦痛なのでしょう。精神的疲労からどんどん汗が流れ落ち、体力が低下しているようです。


「……っ、…………ぁ、………………っ!!」


「あぁ~、もうっ! ザワっちの防御堅すぎ! ウチのスキルぜんぜん通んないじゃんか!

 それに、ザワっちの攻撃もやりづらすぎ! 早くて(うま)い上に低燃費とか、反則すぎてやってらんないんだけどねぇ!?」


 また別の場所では、菊澤さんと智恵さんがスキルを使った激しい攻防を繰り広げていました。


 ちなみに、智恵さんがつけた菊澤さんのあだ名は、『菊澤(きくさわ)』の『澤』からとって『ザワっち』だそうです。言いにくくないのでしょうか?


 そして菊澤さんもまた、【結界】の多様性に興味を示した智恵さんの相手をずっとしていましたが、一向に勝負を決められませんでした。


 しかも、菊澤さんがもっとも得意とする魔法スキルの応酬で戦っているにも関わらず、です。


 今までは私を含む幼なじみたちに小ネタを配信するだけのスキルであった【報道】でしたが、こと戦闘になると驚くほどの力を発揮しました。


 何せ、あの菊澤さんとまともにやり合えるのですから、ユニークスキルの力の凄まじさを感じずにはいられません。


 ただ、やはり術者が智恵さんであるからこそ、【報道】の真価を発揮できるのだとは思います。


 智恵さんも投げやり気味に口走った、早くて巧い上に低燃費である菊澤さんの【結界】を、これほどの長時間防ぎきっているのがその証拠です。


「た、たいへんです!!」


 ()しくも、四組全員が相手から離れて仕切り直し、(にら)み合いになった瞬間、訓練場の入り口から一人の兵士の方が大声で駆け込んできました。


「イガルト王国領土の辺境にある都市レイトノルフに、『神人(レジェド)』級と見られるドラゴンの大群が押し寄せていることが判明しました!!

 ドラゴンたちは大陸中央から飛来したと思われ、おそらく【魔王】の手の者だと思われます!!」


『っ!?』


 その知らせは、訓練場にいた全員が息を呑むには十分すぎる知らせでした。


【魔王】が動いた。


 それは、私たちが戦闘訓練ではない、本当の殺し合いをしなければならない時期(とき)が、すぐそこまで迫ってきていることを予感させるには十分すぎる凶報(きょうほう)でした。




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名前:水川(みなかわ)花蓮(かれん)

LV:35

種族:異世界人

適正職業:勇者

状態:健常


生命力:7800/9000

魔力:4800/8600


筋力:780

耐久力:710

知力:760

俊敏:850

運:100


保有スキル

【勇者LV3】

異界武神ことはざまいくさのかみLV1》《万象魔神よろずかたつかさのかみLV1》《イガルト流剣術LV10》《生体感知LV8》《未来把握LV6》《刹那思考LV6》

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