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11話 スキル調査その2

「うっ……!」


 肉体に走る痛みで体が強ばり、急激に浮上する不快感から目が覚める。


 ゆっくり辺りを見回し、とてつもない臭気に一層顔に力が入った。


 どうやら、クソ穴の横で倒れたまま気を失っていたらしい。材質は同じはずだが石のベッドよりも寝心地は悪く、下敷きになっていた左半身が痛ぇ。


 痺れが引くまで左手をプラプラしながら、俺は昨日の醜態(しゅうたい)を思い出す。


 時間感覚が曖昧(あいまい)で自信ねぇけど、一心不乱に嘔吐(おうと)しまくってた記憶はあった。いまだに脳を揺らす頭痛と喉奥からせりあがる吐き気が残り、俺の記憶違いを否定してくる。


 ったく……覚悟はしていたが、【普通】が絡むとろくなことがねぇな。


 黒歴史がどんどん作られてくだけじゃねぇか。


 マジで役に立ってくれんのか、【普通(コレ)】?


 と、俺を追いつめてくるだけのスキルに文句をたれつつ、『解析』を発動させる。


====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:空腹・ストレス過多・混乱・憔悴


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

『冷徹LV2』『高速思考LV2』『並列思考LV3』『解析LV2』『詐術LV2』『不屈LV3』『未来予知LV2』『激昂LV4』『恐慌LV5』『完全記憶LV1』『究理LV1』『限界突破LV1』

====================


 少しずつ感覚に慣れたからか、別に口に出さなくともできるようになってきたな。


 そんじゃ、結果を見ていくか。


 状態に憔悴(しょうすい)が増えてんのは、昨日の筋肉痛に加えて失神前に吐きまくったのが原因だろう。全身の痛みも酷い上、嘔吐(おうと)で気力も体力も失った虚脱感が尋常じゃない。


 っつっても『体調が悪ぃから今日は休む』なんて言ってる場合じゃねぇから、我慢するっきゃねぇんだけどな。


 学校のヌルい授業どころか、自分の生死がかかった状況だぞ?


『二日酔いで死にそう』程度の体調不良で、うだうだ言ってられるかってんだ。


 あとは、ざっとステータスの変更点を確認すっと、一日でスキルのレベルが上がり、新たなスキルも取得し追記されていた。


 保有スキルの横ついていた【固定】って状態異常が消えたから、一気に起こったんだろうな。吐きながら聞こえていたアナウンスも何とか覚えている。


 それにしても……チョロいな、異世界のスキルシステム。


 スキルの取得条件なんて、意外に簡単なんじゃねぇか? こうポンポンと取得できると、ありがたみがなくなってくる。


 レベルの上がりも早ぇし、こういうところは俺も異世界チートっぽいな……ステータスは相変わらずクソだが。


 気を取り直して、新しいスキルを見てみよう。


 それじゃあ『解析』さん、お世話になります!


====================

『完全記憶』

 一度見たものを記憶する。レベルにより情報貯蔵量が増加する。

====================


====================

『究理』

 未知なる知識を開拓する。レベルにより情報処理速度が上昇する。

====================


====================

『限界突破』

 肉体と精神の限界を超える。レベルにより潜在能力を超えた能力行使を可能とする。

====================


 お? 記述されてる量が増えてる。『解析』さんのレベル上昇で、仕事量が増えたみてぇだな。


 新たな情報開示は、レベルの上昇によるスキルの強化項目について。最初の一文だけだとわからねぇスキルの内容が、少しずつだが見えてきた。


 で、『完全記憶』と『究理』は昨日の座学で、『限界突破』は訓練で得たスキルだろうな。


 昨日は不審に思われねぇように本をかっさらっていったが、実は昨日投げ渡された本の内容は全部覚えている。


『高速思考』と『並列思考』のおかげか、速読並みにパラパラめくっていくと全部のページを写真みてぇに記憶することができたんだよ。


 だから、知識の原本自体は俺の頭ん中に全部入っている。


 問題は、いまだに俺がその文字を読めねぇってことだが――それを色々模索する段階で得たのが、『究理』っつうスキルだろうな。


 記憶した文字自体が読めなくとも、似た形の文字を本の中から探し出し、頻度(ひんど)を調べることくらいはできた。


 具体的には、主語、述語、動詞、形容詞、形容動詞などなどにあてはまる言葉かどうかを予想して選別してたんだ。頭ん中だけだが、ある程度の分類もすでに終わってる。


 昨日、本の内容をほぼ一発で覚えておきながら書庫で何度も読み返していたのも、その品詞選別作業をしていたからだ。


 何せ、モブ白衣が選んだ『常識』に関するらしい本のすべてが、全く別の言語で使われていたからな。


 しかもうざってぇことに、文字列を目で追う限りどの言語も文法がバラバラで、共通した文法を持つ言語が存在してねぇってことがわかった。


 こりゃ、英語の砕けた表現みてぇに、言葉の組み合わせで意訳ができる的な、日常会話表現とかも別々なんだろうな。


 そこに至って、これらの本のチョイスも俺に対する嫌がらせの一環だと察せられたのがイラッとくる。


 言語体系が違う本、ということは恐らく、これらの本は別々の国の、別々の種族が著者である可能性が高い。


 んで、本の厚さや内容を予測するに、その国々に関する民族学的な『常識』であって、いわゆる歴史書的な扱いが強いんだろう。


 つまり、解読する文字をミスればイガルト王国に関する『常識』を得られねぇばかりか、そもそも現在の『常識』がこの本に()っている保証もねぇ特大の地雷本、ってことだ。


 ……嫌がらせにしても(たち)が悪すぎんだろ、これ。


 文字が読めねぇ段階で頼った知識が的外れだった……なんて、時間的にも精神的にも無駄骨に繋がるんだ。俺の心を折って反抗するための下手な準備をさせないつもりだろ、あのクソ王。


 ま、本が渡った段階で気づかれるのはさすがに想定外だっただろうがな。


 とりあえずはバカな振りしてこの本と格闘しているように見せ、書庫の本全部を頭に叩き込んで言語知識を構築する必要がある。


 本が貴重な世界だったとしても、高貴な身分の子供の読み聞かせ用に、絵本くらいは存在するはずだ。そうした本は大体イラストがあって、内容の推測がしやすくなるし、文章表現も(つたな)いから大まかな文法理解にもなる。


 次の座学からはそこらの本の内容を全部覚えていく必要がありそうだ。


 最後の『限界突破』は、コメントしづれぇなぁ……。


 だって、取得したきっかけだろう訓練っつっても、小学生のお遊戯並な運動量だぞ?


 それで『限界突破』を得られた、ってことは、その程度の運動で俺の心身が共に限界だったんだぜ、って言われてるようなもんだよな?


 ……どう言いつくろっても嬉しくねぇし、効果が良さげでもぜんぜん喜べねぇっつの。


 とまあ、新スキルについてはこれくらいか。


 んで、ついでだから【普通】についても調べてみることにした。


『解析』さんがレベルアップしてくれたから、記述内容が増えているはずだ。これだけレベル概念がねぇスキルだからどんな記述になんのかはわからんが、確実に今よりも進歩するはずだ。


 ってわけで、『解析』さん! お願いします!


====================

【普通】

 何もかもを【普通】にする。

====================


 …………変わってねぇだとぉ!?


 どういうことだ? 『解析』さんがミスったのか?


 それとも、【普通】のクソ野郎が(かたく)ななのか?


 ほぼ確実に後者だな、クソッタレ!


 この野郎、【普通】!


 てめぇが『解析』さんに逆らおうなんて十年早ぇんだよ!


 わかったか?


 わかっただろ!?


 じゃあさっさと情報吐きだせ(ゲロっちまえ)や!!


====================

【普通】

 何もかもを【普通】にする。

====================


 ――ざっけんなよ【普通】の分際でぇ!!!!


 頭にきた俺はその後、【普通】のクソ野郎に内心で罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせ続けた。


 (はた)から見れば俺が目ぇ(つぶ)って眉間にシワを寄せ、動かねぇまま不機嫌に突っ立ってるだけの地味な絵だったんだろうけど。


 とにかく、この時の俺は自分を客観視する余裕がなくなるくらい、【普通】への殺意が膨らんでいた。


 ――コンコン。


「あ゛ぁ!?」


 そんな時に不躾(ぶしつけ)なノックの音が鳴ったもんだから、俺の声にもドスが()く。


『激昂』じゃねぇが不機嫌度マックスで扉を睨みつけると、対照的にえらく冷静なメイドの声が聞こえてきた。


「朝食の準備が整いました。ついてきてください」


 昨日の台詞と一言一句変わらない言葉で、淡々と朝食の時間を告げたメイド。


 火に油を注がれたようでさらに(いら)っときたが、落ち着けとばかりに息を大きく吐き出す。


 冷静さを無くせば、視野が狭くなる。そうなりゃ思考も単純化されやすくなって、致命的なミスを犯しちまう。


 俺の行動は一つ一つが綱渡りみてぇなもんなんだ。


 注意をいくらしても足りねぇくらい、足元がグラついて不安定なんだぞ。


 どんだけ(いら)ついても、頭に来ても、冷静に振る舞えるだけの余裕だけは残しておかねぇと――死ぬ。


 そう思ってるくらいが、ちょうどいい。


 ……っつっても、自分に言い聞かせたくらいですぐに落ち着けるほど、人間の感情は都合よくできてねぇのも事実。


 ついでだ。試しに『冷徹』ってスキルを使って、頭でも冷やすか。


「『冷徹』、起動」


 初めて使うスキルだったから、小声で発動を宣言する。


 すると、頭ん中にあったぐちゃぐちゃした感情が一気に霧散した。


 メイドに感じたムカつきはもちろん、学校連中への不満や怒り、さらには死が近い未来への不安までもが全部吹っ飛んだ感じがした。


 すげぇ、頭が妙にすっきりする。最初から使ってればよかったぜーー


「……あ?」


 ――と、思えたのは最初だけ。


 すっきり爽快効果はすぐに切れ、また余計なことで頭がいっぱいになっていった。効果時間にして、約二秒、ってとこか?


 おいおい……まさかこのスキル、レベルの数の秒数でしか効果がねぇってことじゃねぇだろうな?


 有能そうに見えて、使えるのか使えねぇのかわかんねぇ微妙なスキルじゃねぇか!


「時間がありません。早くしてください」


 新たなスキルの問題に不機嫌が再燃すると、またメイドの女が昨日と全く同じ台詞を吐いて急かしてきやがった。


 俺への当てつけか? くっそムカつくな!


「わあってるよ、うっせぇなぁ!!」


 せめてもの意趣返しにと、俺も昨日と同じ台詞を語調を強めて返してやる。


 どうせ相手は表情が変わんねぇ鉄面皮だろうが、何もせずにいるのも腹立つんだよ。


 時間がねぇのは事実なんだろうし、俺は立ち上がって【普通】を発動させる。


 で、きちんと『解析』でスキルがオンになっているのを確認してから、牢屋の扉を開けた。


 そうして、また一日が始まる。


 つまんねぇとか言ってられねぇ、生死がかかった刺激的な一日が、な。




====================

名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV2』『高速思考LV2』『並列思考LV3』『解析LV2』『詐術LV2』『不屈LV3』『未来予知LV2』『激昂LV4』『恐慌LV5』『完全記憶LV1』『究理LV1』『限界突破LV1』

====================



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