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ex.5 問題児


 しばらく解説回が続きますが、ご容赦を。


「最初に、先ほどの謁見の間におけるやり取りの裏で何が行われていたのか、それを説明します」


 私がまず話したのは、イガルト王国が『異世界人(わたしたち)』に仕掛けた《契約》について。この存在を理解してもらわなければ、話が進みませんからね。


 清美さんたちに聞かせたのは、イガルト王国が《契約》という儀式様式の魔法を所有していたこと。


 その効果が、二者以上の立場の人間が言葉で交わした内容を、強引に履行させる『強制力』を生み出すものであるということ。


《契約》は個人間ではなく組織単位で効果を発揮する可能性が高いこと。


 そして、イガルト王国は《契約》を成功させるために様々な計略を用いて『異世界人(わたしたち)』の懐柔(かいじゅう)目論(もくろ)んでいたこと。


《契約》の成立でもって自分たちの保有戦力、厳密には奴隷として扱おうとする意図があったことを、順を追って説明しました。


 ただし、《契約》の存在に気づいた『彼』についての説明は割愛しました。


『彼』の存在を隠したかったわけではなく、清美さんたちからすれば面識も信用も全くない人間の言葉を鵜呑(うの)みにした、と悪い方へ捉えられてしまうかもしれませんでしたから。


 ただでさえ私に裏切られたと感じている清美さんたちに、さらなる不信感を与えかねない情報はなるべく伏せる必要があります。


 特に情報には敏感な智恵さんがいるため、『彼』の存在を明かせば信用性についての言及があるのは避けられません。


 もちろん、『彼』のことをずっと隠し通すつもりはなく、『彼』が残したレポートを証拠としつつ、折を見て話をしようとは思っていますが。


「……《契約》、か。まさか、国王にそんな思惑があったなんてね」


「びっくりだね~」


「オレらを奴隷だぁ? 舐めたこと考え腐りやがってっ!」


 話の区切りがついたところで、清美さんは表情を消してメガネを触りながら思案し。


 暖子(のんこ)さんはのんびりとぬいぐるみの頭を撫で。


 荒井(ゆうき)さんは額に青筋でも浮かびそうな勢いで拳を胸の前で打ち付け、怒りを(あら)わにしました。


 清美さんと荒井(ゆうき)さんはともかく、性格を考慮しても暖子(のんこ)さんのリアクションが軽すぎる気がします。日本にいた頃からそうですが、やっぱり心配です。


「ちょっと待って、それじゃあさっきのやり取りなんて致命的じゃんか!

 だって、ハナっちが最初に『イガルト王国に協力する』って言ったじゃん!? そのせいで『異世界人』はほぼ全員、『従属を受け入れる』ような台詞を乱発しちゃってたんだけど!?」


 そして、予想通り智恵(ともえ)さんは真っ先に私の言動の矛盾を指摘してきました。


 確かに私の台詞の後、『異世界人』の口から出たのは『協力』ではなく『従属』に類する言葉です。


 (いわ)く、『正義を貫くイガルト王国に従う』、『イガルト王国で出会った大切な人のためにも忠誠を誓う』、『自分を守ってもらうためイガルト王国の下につく』、『今後は経験豊富なイガルト王国の指揮下で【魔王】を倒す』などなど。


 物の見事に洗脳され尽くした『異世界人』たちは、私たちの偵察結果と(たが)わぬ数の『従属を示す言葉』を吐き出していました。


 もちろん、腹の中では敵対意思を強く持っていた私やセラさん、長姫(おさひめ)先生に菊澤(きくさわ)さんは、あくまで関係は平等である『協力』の意思を示していました。


 たとえ嘘や演技であったとしても、私たちを利用しようと考え、『彼』をさんざん苦しめてきた輩に屈する発言など、口が裂けても言えませんでしたから。


 他の少数意見は、私と同じ『対等な協力関係』に同意する者もいれば、清美さんや暖子(のんこ)さんのように『戦いたくない』と首を横に振った者、荒井(ゆうき)さんや智恵さんのように『この国に従うつもりはない』と反発した者もいました。


 それらの声を聞き、国王陛下の表面上は個人の意思を尊重するような素振りを見せていましたが、《契約》の性質を(かんが)みれば効果を確実に発動させるためのパフォーマンスでしかありません。


 つまり《契約》上はあの瞬間をもって、『異世界人(わたしたち)』は実質イガルト王国への隷属(れいぞく)に『同意した』ことになります。


 すべてを理解した智恵さんからすれば、私の情報開示は取り返しがつかないほど致命的に遅かったと感じたはずです。


「ええ、そうですね」


「だったらなんで、そんな冷静でいられるわけ!? おかしいよね、絶対!!」


 だというのに、全く焦る様子のない私やセラさんたちに、智恵さんは盛大に慌てて声を張り上げます。


 その様子から、清美さんと荒井(ゆうき)さんも焦燥を顔に浮かばせましたが、暖子(のんこ)さんだけはニコニコしたまま。


 暖子(のんこ)さんは単に脳天気なのか、もしくは相当の胆力の持ち主なのか、よくわかりませんね。


 成績は昔から優秀でしたから、今までの話は正確に理解したはず。今まで気づきませんでしたが、彼女は意外と食わせ者なのかもしれません。


「問題ありません。《契約》の阻止こそできませんでしたが、『回避』にはすでに成功していますから」


「……へ?」


 密かに暖子(のんこ)さんへの評価を上方修正しつつ、狼狽(ろうばい)する智恵さんたちを安心させられるよう、きちんと『事実』を伝えました。


「それって、どういう……?」


「言葉通りの意味です。イガルト王国側が仕掛けた《契約》は発動こそしたものの、私たちは《契約》から逃れることができた。

 よって、『異世界人』の奴隷化は『中途半端』なまま実行されたんですよ」


「中途、半端?」


「ますます意味がわかんないんだけど?」


 智恵さんが疑問を重ねたので、わかりやすいように表現を変えるも、清美さんと智恵さんは首を傾げるばかり。


「おい、花蓮。さっきから言い方が回りくどいんだよ。一発でわかるようにスッと言え」


 もったいぶったつもりはなかったのですが、混乱する二人の間を()って荒井(ゆうき)さんが不機嫌そうに足先で床を何度も叩き、詳細な説明を求めてきました。


「わかりました。その前に、遅ればせながら彼女たちを紹介しますね。私と同様、事前に《契約》の存在を把握していたメンバーです。

 杖を持っておられる方が毒島(ぶすじま)芹白(せら)さん、髪の毛をお団子にしている背の高い方が長姫(きょう)先生、そしてこちらのちっちゃかわいい私たちの天使が菊澤紫穂(しほ)さんです」


「とりあえず、よろしく?」


「元養護教諭の長姫です。以後、お見知り置きを」


「『…………は、はじめまして』」


 国王陛下との謁見で起こったことを説明する前に、このタイミングでセラさんたちを清美さんたちに紹介しました。


 セラさんはぶっきらぼうに、長姫先生は教師の仮面をかぶって、菊澤さんは初対面の清美さんたちに気後れしながら、それぞれ挨拶しました。


「……えーと、私は清水清美。元美化委員長をしていたわ」


「う~んとぉ~、ノンコは春日暖子(のんこ)って言って~、文化祭の実行委員長でした~?」


「オレは天満荒井(ゆうき)、元風紀委員長……っつかよぉ、今さら自己紹介で高校での肩書きとかいるのか?」


「さぁ? でも、一回続けちゃったら収まりきかないじゃん?

 ってわけで、ウチは広田智恵で元広報委員長ね。一年の頃から校内新聞書いてて、一番反響があったのは校長のヅラ疑惑だったね。

 ちなみに、ウチの取材によると百パーヅラで間違いないよ」


 すると、ずっとそこにいたのは気づいていても、ここで突然人物紹介に移るとは思っていなかったのでしょう。


 清美さんたちは戸惑いの表情を浮かべてから、各々自己紹介をしていきました。そんな中でも小ネタを挟もうとする智恵さんはいつも通りですね。


「でも、何で急に自己紹介を?」


「彼女たちが《契約》の『回避』を実現させた功労者だからですよ。

 それに、清美さんも暖子(のんこ)さんも荒井(ゆうき)さんも智恵さんも、今まで()()()戦闘訓練に参加しませんでしたから、セラさんたちのスキルも知らないでしょう?」


「まあね」


「初めましてだよ~?」


「知らん!」


「まあ、ウチは面白そうな話以外興味ないしね」


 不審に思った清美さんが私の意図を尋ねてきましたので、逆に呆れた口調で尋ね返すと、それぞれいっそ清々しいほどの開き直りを見せてくださいました。


 そう、彼女たちはそれぞれの主義主張は異なるものの、全員共通して言えるのが『戦闘経験ゼロ』であることです。それは魔物の討伐はもちろん、『異世界人』同士の訓練までをも含みます。


 清美さんの場合は、厭戦(えんせん)派となった理由そのままで、『汚れるのが嫌だから』。


 訓練も魔物討伐訓練も基本的に屋外で行われ、砂煙が舞うことや他人に触ること、ひいては武器に触れることすら断固として拒否したのです。


 イガルト王国側に何度も説得されていましたが、結局一年間訓練に出たことはありませんでした。


 暖子(のんこ)さんも『他人を傷つけるのは嫌だ』という厭戦派の意見を曲げず、ここまで過ごしてきました。


 元々、争いごとや暴力を強く忌避(きひ)する性格だった暖子(のんこ)さんにとって、人も魔物も【魔王】も区別はありません。


 おそらくは命の危機があるなど、どうしても必要でない限り、自ら戦いを選んだりはしないでしょう。


 荒井(ゆうき)さんも実にシンプルです。『オレに指図するな』の一点張りで、兵士や騎士の方のいうことを一切聞かなかったのです。


 勉強は先生役の貴族の方がいない時、それも自分の気が向いたときに自習していて、何とかこの世界の一般常識程度は身につけています。


 が、戦闘訓練だけは専門家である兵士や騎士の方から指導を受けねばならず、それを嫌がってずっとサボってきたようです。


 智恵さんは良くも悪くも、『興味があることしか熱意を傾けられない』性格が(あだ)となりました。


 彼女は毎日のように戦闘訓練の時間になると、王城にいた人たちの一人をターゲットに定めて尾行し、話のネタ探しに熱中していたのです。


 そうして集められた小ネタ集は【報道】で私たちへ広め、面白がるためだけに使われていましたが。


 そんな経緯から戦闘訓練に参加しなかった彼女たちは、所有するユニークスキルと戦闘技術で知名度が上がったセラさんたちの情報を、ほとんど持っていない状態です。


 そして、今回の《契約》から逃れた方法を説明するのに、セラさんたちのスキルを説明しないわけにはいきませんでした。


「国王陛下たちを(あざむ)いた方法を語るには、彼女たちのスキルについて知ってもらう必要がありました。それをこれから説明します」


 そう前置きし、私はセラさんたちのユニークスキルと、イガルト王国に仕掛けたトリックについて伝えていきました。




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名前:水川(みなかわ)花蓮(かれん)

LV:35

種族:異世界人

適正職業:勇者

状態:健常


生命力:8400/8400

魔力:7900/7900


筋力:730

耐久力:680

知力:710

俊敏:820

運:100


保有スキル

【勇者LV3】

異界武神ことはざまいくさのかみLV1》《万象魔神よろずかたつかさのかみLV1》《イガルト流剣術LV10》《生体感知LV8》《未来把握LV5》《刹那思考LV5》

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