ex.3 駆け引き
「……これで『異世界人』は、我が国の所有物となったのだな」
「はい! 事前に発動させていた《契約》は正常に作動し、【勇者】であるカレンを始め、大多数の『異世界人』から言質を取れました!
一年前に我々の邪魔をしてきた妙なガキの介入もありませんでしたし、ようやく【魔王】の排除に移ることが出来るでしょう!」
「うむ……」
「国王陛下? 如何されました? あまり御気分が優れないご様子ですが?」
「…………妙だ」
「妙、と言いますと?」
「貴様は疑問に思わなかったのか? 確かに私たちは『異世界人』との《契約》を成功させるため、複数の手段を講じてきた。
『異世界人』の単純さも助けとなり、それ自体はとても高い効果を見せていた。それは間違いない」
「すべては国王陛下の素晴らしい計略によるもの。『異世界人』、誰一人として疑問に思っている者はいなかったでしょうな」
「貴様の頭は飾りか? 『奴』以外にも、私たちに疑念を覚えていた『異世界人』がいただろう? それも、『異世界人』の中ではもっとも厄介な者たちが」
「それは……、カレン、セラ、キョウ、シホの四名ですか? しかし、奴らもまた《契約》の場において、従属よりは弱くとも我々への協力姿勢を明言していたではないですか?
出過ぎたことを重々承知した上で申し上げますが、心配には及ばないかと愚考します。
確かに、奴らが我が国へ不信を抱いていたのは事実であり、我らへの宣言もまた本心からではないでしょう。
ですが、奴らとて馬鹿ではありません。あの場で反発しても無意味と判断し、表面上は取り繕おうとして、周囲に同調したのではないでしょうか?
まあ、奴らに続く言葉は我々への従属を示す意思ばかりでしたが。
まさか、その場当たり的な判断が契機となり、己の首を絞めることになったとは、ついぞ考えておりますまい。
もし口火を切ったカレンの態度が演技であったとしても、我らの本意でもありました《契約》を察する機会はなかったと存じますが?」
「それが怪しいのだ。
あの忌々しくも小賢しい『奴』と接触があった四人の小娘どもが、演技とはいえこうも簡単に私たちとの協力姿勢を鮮明にするはずがない。
そもそも、あの小娘どもは我が国の印象操作に効果が見られなかった、例外なのだぞ? もっと疑ってしかるべきだ。
もし【勇者】の小娘が言ったように、『異世界人』の意思における大勢を事前に知ったのであれば、『異世界人』全員が集まったあの場でこそ強く反発していただろう。
あ奴らの『異世界人』内での立場はどうあれ、我が国を糾弾し説得しようと考えるのであれば、私の招集は都合がよかったはず。
しかし、蓋を開ければ反発どころか、逆に他の『異世界人』を煽るかのような演説を、真っ先に披露してみせた。
少なくない不信感を抱いている相手に対する言動としては矛盾がすぎる。何か企んでいるとしか思えん」
「……い、言われてみれば確かに、おかしいですね」
「《契約》が発動し、『異世界人』を手に入れたことは喜ばしいことだが、まだ油断は出来ん。
もしかしたら、私たちの目を盗んで『奴』の入れ知恵があった可能性もある。
あの小娘どもの狙いがはっきりするまで、しばらくは様子を見ることとする。臣下にもそう伝えよ」
「わかりました。では、他の貴族や騎士、兵士たちにもそのように伝えておきます。今は上位者としての振る舞いは避け、軽挙な行動は慎むように、と」
「…………ちっ! 『奴』め、ここから消してなお、こうも私を悩ませ煩わせるか! 本当に、何もかも気に食わん『小僧』だっ!!」
「……だそうよ、【勇者】の小娘さん?」
「やはり怪しまれましたか。しかし、現時点で私たちの思惑を詳しく把握されたわけではないことがわかりました。
これでしばらくは、イガルト王国への時間を稼げましたし、並行して行った『実験』も成功しました。結果としては上々でしょう」
国王陛下との謁見が終わった後、私、セラさん、長姫先生、菊澤さんはその場に残ってイガルト王国の反応を確かめていました。
すでに『異世界人』は退出してしまった後ですから、謁見の間には国王陛下を含めイガルト人たちしかいません。
『契約魔法』と『彼』が仮称していた《契約》発動中には見せなかった、本音に近い会話を聞くことが出来ています。
同じく、国王陛下と宰相と思われる方々の会話を聞いていたセラさんが、茶化すような口調でニヤニヤしていました。
が、国王陛下の発言において、私たち四人全員が『小娘』呼ばわりだったこと、忘れていませんか?
「『でも、これで本当によかったのかな?』」
「彼らのことですか? 別に構わないでしょう。誰かに促されるでも、強要されたわけでもなく、決めたのはあくまで彼ら自身の意思によるもの。私たちが間違いだと指摘する必要も義理もありません。
特に、彼らの一部があの子へしたことを考慮すると、むしろこの程度で清算してあげたことを感謝してほしいくらいです」
「『あ、言葉が変だった。そっちはどうでもよくて。あいつらを利用したことで、わたしたちに都合がいい方向に向かっていってくれたのかな? って思って』」
「ああ、なるほど。そちらも心配する必要はないと思いますよ。
水川さんも口にしていたように、時間稼ぎは出来たでしょうし、『実験』も上手くいきました。少なくとも獲得した情報量からして、現在の情勢はこちらが優位だと思っていいはずです」
私たちの横では、菊澤さんと長姫先生が今回の結果について話していました。
存在そのものがプリティーな菊澤さんですが、考え方は意外と割り切りが強く、ともすれば冷酷な判断を躊躇なく下せるだけの、強固な意志を持っています。
その片鱗か、私たちが利用した人たちには一切興味がない様子でした。
問いかけられた長姫先生もまた、何の感情も窺えない声音で平然と答えていました。
今回の『対策』は私が提案し、『実験』については私の提案に長姫先生が上乗せした形で採用されましたから、首謀者でもある先生にも迷いなどないのでしょう。
言葉としては割と酷いことを仰っていましたが、私も長姫先生の意見には全面的に同意しています。
何もかも知らないままとはいえ、『異世界人』の役に立ったのですから本望でしょう。
少なくとも、問答無用で私たちに排除されずに、命拾いが出来たのです。感謝されこそすれ、恨まれる覚えはありませんね。
「花蓮!」
すると、セラさんたちではない、しかし私には聞き覚えのある声が乱入してきました。
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名前:水川花蓮
LV:35
種族:異世界人
適正職業:勇者
状態:健常
生命力:8400/8400
魔力:7900/7900
筋力:730
耐久力:680
知力:710
俊敏:820
運:100
保有スキル
【勇者LV3】
《異界武神LV1》《万象魔神LV1》《イガルト流剣術LV10》《生体感知LV8》《未来把握LV5》《刹那思考LV5》
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