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ex.1 『契約魔法(仮)』前夜


 ここからは3.5章として、会長視点を連続して投稿します。


 閑話扱いなので短く~、とかのたまってましたが、結局かなりのボリュームになりました。その理由の一端は、活動報告にでも載せておきます。作者の言い訳を聞きたい方はどうぞ。


 では、楽しんでいってくださいね。


『彼』が王城を去ったと思われる日から、およそ四ヶ月が経過しました。


 季節は巡り、寒々しい冬の気候も過ぎ去って、私たちがこの世界へと召喚された時と同じ春の気配が強くなってきています。


 そう、もうすぐ『異世界人』としての生活が一年になろうとしています。


 同時に『彼』が定めてくれた『猶予期間』の終わりと、国王陛下へ『異世界人(わたしたち)』の意向を表明する時が来たことを意味しています。


 しかし、これはただの決意表明にはならず、『彼』が『契約魔法(仮)』と称したイガルト王国の『首輪』が待ち構えている重要な儀式。


 対応を間違えれば、『異世界人』はイガルト王国の『奴隷』となる未来が待っている、ターニングポイントになります。


 そして、その事実を知っている『異世界人』は、私を含め四人しかいません。


『彼』が残してくれた貴重な情報を知る、私、セラさん、長姫(おさひめ)先生、菊澤(きくさわ)さんの、四人だけしか。


「みなさんにも既に通達があったと思いますが、明日の午後に『異世界人』は全員、謁見の間に集合することになっています」


「本当にアイツが予想した通りの展開になってきてるわね。『契約魔法』、だっけ? それがまた使えるようになった、って考えていいのよね?」


「そうなります。あの子の考察では、『契約魔法』はとても大がかりで大量の魔力を消費する、限定された対象と空間に作用する儀式様式の空間系魔法。

 発動手法までは特定できなかったようですが、効果と条件がわかっていればある程度の対処は可能です」


「『うん。わたしだったら、見ただけでわかる、かも』」


 招集(しょうしゅう)の前日、私たちは改めて集まって話し合いの場を(もう)けました。


 集まっているのは私たちに与えられた部屋ではない、貴賓室の一つ。時刻は深夜で、私が魔法で生み出した光を囲んで話し合っています。


 こうしてこのメンバーで集まるのは、長姫先生たちが『彼』のレポートが解読できた日以来になります。


 それまでは、お互いの訓練以外の時間を別行動で過ごしていました。戦闘訓練では毎日のように顔を付き合わせていたので、久しぶりという感覚はありません。


 それに、話し合いの内容が内容ですので、リラックスした会話をする気分にもなり得ません。


 王城内の警備をしている騎士の方々以外はほとんどが寝静まり、起きているのは私たちか、『異世界人』を監視している国王陛下の刺客くらいのものでしょう。


 時折聞こえる足音と、私たちの話し声だけが、王城に存在する音になります。


「誰かいるのか?」


 その時、私たちがいる部屋に明かりを持った騎士の方が入ってきました。話し合いの声が外に漏れ、確認しにきたようです。


「……気のせいか?」


 きょろきょろと室内を見渡した後、騎士の方は首を傾げながら扉を閉め、部屋から離れていきます。


 真っ暗な部屋の中で魔法の光を発現している私たちが目に入らなかったのは、セラさんの【幻覚】と菊澤さんの《隠神(かくしがみ)》が効果を発揮しているからです。


 菊澤さんの特殊上級スキルにより私たちの存在は知覚されず、さらに強力なセラさんのユニークスキルで認識を狂わされた状態では、誰も私たちを発見することなどできません。


 痛いほどの静寂に包まれた深夜の王城では、私たちの話し声がスキルの効果範囲外に漏れ聞こえてしまうのは仕方がありません。


 これまでも幾度か警備の人が部屋へと入ってきましたが、いずれも勘違いだと思いこんで出て行かれたので問題ないでしょう。


 もちろん、『異世界人』を監視している密偵(みってい)たちは、【幻覚】の効果で部屋でぐっすりと眠っている私たちの姿を見ているはずです。


 魔法にかかっているという自覚さえなくしてしまう【幻覚】の使い手であるセラさんが味方で、本当に助かっています。


「それで確認ですが、やはり現状、『異世界人』の認識は『イガルト王国への恭順(きょうじゅん)』に傾いてしまっていると見ていいと思いますか?」


「まあね。ってか、ほぼ確定じゃない? この四ヶ月、色んな奴に探り入れてきたつもりだけど、全員イガルト王国に協力しようって考えばっかりだったし? 見事に向こうのやり口に乗せられてるわね」


「こちらも同じでしたね。私は他の教師たちと主に話をしてきましたが、このままイガルト王国の庇護下(ひごか)にいる方が安全だという意見で(まと)まってしまっていました。すでに言葉による説得が困難なほど、意思が固まっているようです」


「『わたしは【結界】で、王城にいる兵士さんたちの話を聞いてたけど、他の場所にいる『異世界人』たちも、この国に協力しようとしているみたい。噂話みたいなものだから、本当かどうかはわからないけど』」


 そして、話は他の『異世界人』についての報告に移ります。


 この世界の勉強や訓練以外の時間で私たちが行ってきたのは、『異世界人』の現状と『彼』が残した情報との裏付けです。


 私やセラさんは主に王城にいる生徒たち、長姫先生は他の教師たち、菊澤さんはそれ以外の人たちから話を聞いて、または会話を盗み聞きして、それぞれ情報収集に専念していました。


 集めていたのは、『異世界人』がイガルト王国の頼みを聞き入れ、魔王討伐に参加する意思があるかどうか。


 レポートの中には、イガルト王国が私たちを『契約魔法』に同意させるための意識操作についても記述されていました。


 それによると、『契約魔法』は『個人対個人』ではなく『集団対集団』で効果を発揮する可能性が高く、イガルト王国への従属意思を示す際に、『多数決』に持ち込まれると危険だとのことでした。


 確か、『彼』が国王陛下との交渉の時の発言では、『魔王討伐は各人の自由意思に任せる』ということになっていました。


 しかし、『契約魔法』が用意された空間における発言では、『各人の自由意思』は『個人の意思』として独立することなく、『異世界人の一要素』としてカウントされてしまう可能性が高い、と推測されていました。


 つまり結果的に、個人による『自由意思』は個別に扱われず、集合体である『異世界人の総意』としての効力を持ってしまう、ということです。


 一応、『彼』と国王陛下の話し合いで発動した『契約魔法』では、『各人の自由意思の尊重』も効果範囲に入るようです。


 しかし次に『契約魔法』が行われる時には、効果が切れている可能性が高く、保証はできないとのことでした。


 とにかく、『契約魔法』による『異世界人』の奴隷化を防ぐためにも、『異世界人』たち個別の意思を確認する必要があると判断し、別々に聞き込みをしていったのです。


 しかし、私たちが動き出した段階ではもう、挽回(ばんかい)が難しいだろうことも覚悟していました。


 なぜなら、『彼』が思い描いた『最悪の未来』を根拠に、『異世界人』がどれほど懐柔(かいじゅう)されているかの予想も記されていたからです。


『彼』が送らされていた不遇な生活を考慮すると、『異世界人(わたしたち)』の状況など知る手段がなかったはずですが、『彼』の予想はまるでずっと見てきたかのように正確でした。


 他の『異世界人』に話を聞いた限り、イガルト王国に協力すると決めた理由の半分は『丁重に扱ってもらった恩義や信頼』、もう半分が『イガルト人の恋人を守るため』。大別すると、この二つを根拠としていました。


 前者は主に、戦闘能力が高いと判断された『異世界人』の意見です。


 王城や世話になっている貴族の邸宅で、手厚く生活の面倒を見てもらったことで、イガルト王国に対する親愛の情が芽生えているようでした。


 後者は戦闘能力に関係なく、広く『異世界人』へ行われていた懐柔工作でしょう。


 私たちが把握した限り、全体の3割もの『異世界人』にイガルト人の恋人が存在していました。特に、戦闘能力が低い『異世界人』たちには、とても有効だったようです。


 比較的冷たい『対応(むち)』を受けていた彼らの不安につけ込み、意図的に接近してきた『恋人(あめ)』からイガルト王国への帰属意識を植え付けられ、反発心を奪われたのだと考えられます。


 個人的には、私たちはイガルト王国のせいで『好きな人(かれ)』との会話はおろかまともに会うことさえできなかったというのに喧嘩を売っているのかと言いたいところでしたが、今は関係ありませんね。おっと、気を抜くと《鬼気》が漏れそうに……。


 このように、調べていくにつれ別の意味でイガルト王国への殺意が膨れ上がるというアクシデントはありましたが、今回の情報共有で『彼』の予測がほぼ的中していることが証明されてしまいました。


 結果、菊澤さんが集めた、王城以外に散らばっている『異世界人』の情報がすべて正しいと仮定すると、イガルト王国への従属派が6割、忠誠のない協力派が4割、そもそも戦いを拒む厭戦(えんせん)派が1割未満となりました。


 ほぼ9割以上の『異世界人』が、イガルト王国への協力姿勢を表明していることになります。


 イガルト王国が一年間かけて行った意識誘導(せんのう)の成果が、着実に実を結んだということでしょう。


 やはり、私たち四人のような『反イガルト王国派』は、現時点では限りなく弱い勢力でしかありません。私たち以外にイガルト王国への不審を抱いているのは、せいぜい数名程度ですから。


「こうして結果を見ると、長姫先生の言う通り、下手にイガルト王国への疑心を広めなくて正解でしたね」


「そうですね。安易に反発心を表に出してしまえば、それだけ私たちが目を付けられることとなり、他の『異世界人』から隔離されるなど、動きが制限されてしまう。

 あの子との繋がりを理由に多少疑われはしても、明確な意思表示さえしなければ、あちらも手出しはしにくいでしょうし」


 実は、私たちはイガルト王国への猜疑心(さいぎしん)喧伝(けんでん)していませんでした。


 それが、『異世界人』の親イガルト王国傾向に歯止めが利かなかった一因でもあると思います。


 しかし、私たちが動き出した時にはすでに、半数以上の『異世界人』が意思を固めていたのだとすれば、いくら『真実』を主張したところで意味を成しません。


 日本の政治がそうだったように、民主主義は『多数派』が『勝者』であり、どれだけ近い票を集めたところで『少数派』は切り捨てられる『敗者』です。


 たとえ行動に移していたとしても、私たちの意見は『多数派』によってすぐに潰され、イガルト王国(てき)に優位を与えてしまっていただけだったでしょう。


「ま、アタシとシホはそもそも声をかけるほど親しい奴なんていなかったし、やってても効果は薄かっただろうけどね?」


「『わたし、カツくん以外に、知り合いとか、いなかったから……』」


 行動しなかった背景には、セラさんや菊澤さんの発言にもあるように、私たちの人間関係の希薄さも理由の一つでした。


 ただでさえ『真実』を知る側が少数な上、タイムリミットもわずかな状況で『少数派』の意見を広めようとしても焼け石に水。


 しかも、考えなしに他の『異世界人』を説得しようとすれば、私たちが声をかけた人間がイガルト王国へ密告する可能性が高すぎます。


 加えて、私たちの『異世界人』というコミュニティーにおける人脈は、ほとんどありませんでした。


 セラさんや菊澤さんは召喚前から対人コミュニケーション能力に問題があり。


 長姫先生は召喚された当初から教師の方々と意見が反発して孤立し。


 私は『奴隷の首輪』事件により多くの『異世界人』からの信用を失っていました。


 そんな私たちが説得して回ったところで、『異世界人』のほとんどが相手にしてくれるはずがありません。


 唯一、意見を共有できたのは私の幼なじみだった委員会メンバーの数名です。


 彼女たちもまた、当初からイガルト王国への不信感を抱いていたようで、事情を話すと私に賛同してくださいました。


 ただ、この場に彼女たちを呼んでいないのは少し、いえ多少、……かなり癖が強い面々ですので、今はあえて何も説明しない方がいいと判断したからです。


 事情を説明したといっても、『彼』のレポートにあったような詳細な情報までは説明していませんし、私たちとの連携もまだ上手くできないでしょう。


 彼女たちを信用していないわけではありませんが、私たちとは違った意味でイガルト王国に目を付けられているので、変に接触して目立たせたくなかったんですよね。


「今さら無い物ねだりをしても始まりません。私たちが出来ることをするしかないのです」


水川(みなかわ)さんの言う通りです。それに、毒島(ぶすじま)さんにしても菊澤さんにしても、ユニークスキルの力があれば出来ないことの方が少ないでしょう? 気にすることはありません」


「言われなくともわかってるわよ」


「『うん。わたし、がんばる』」


 強く気にしている様子はありませんでしたが、私と長姫先生がフォローを入れますと、セラさんは小さく肩を(すく)め、菊澤さんはちっちゃな両手を胸の前で握って意気込んでいました。


 …………すごく、かわいいです。


「それで? 明日は具体的にどう動くわけ? カレンも長姫も、何か考えがあるんでしょ?」


 ただひたすらにかわいかった菊澤さんに萌えていると、セラさんが私を正気に戻す話題を渡してくれました。長姫先生もやられていたのか、声をかけられてようやく我を取り戻していました。


 ふぅ、危ない危ない。もう少しで菊澤さんのかわいさに脳が溶けるところでした。全く恐ろしい。無意識の動作が凶器になるなんて、油断も何もあったものではありません。あぁ、ほっぺたプニプニしたい…………。


「…………はふぅ」


「…………じゅる」


「……ひぅっ……!?」


「シホに発情してないで人の話を聞きなさいよそこのポンコツ二人!」


 セラさんが何か(おっしゃ)っていましたが、よく聞こえなかったのでそこまで重要な話じゃないのだと思います。


 はぁ……、涙目になりながら怯えつつプルプル震えて縮こまっている菊澤さんもラブリーです。この小動物感、本能から(うず)嗜虐心(しぎゃくしん)、手元に永遠に閉じこめたいほどの独占欲。


 彼女のかわいさはもはや魔性の域です。どんどんと色んなことがどうでもよくなってきます。それこそ、一生菊澤さんと(たわむ)れていてもいい気さえしてきました。抱っこしたい、ナデナデしたい、膝に乗せてぎゅーってしたいぃ~!


「はぁはぁはぁはぁ」


「フシュー! フシュー!」


「うぅ…………っ」


「ダメだコイツら、早く何とかしないと……」


 …………あ、セラさんの背中に隠れてしまいました。いいなぁ、私も持って帰りたい。


 こうして、呼吸が早く荒くなった私と鼻息がやけに大きな長姫先生、そして保護者のセラさんによる、菊澤さんをめぐる激しい攻防が繰り広げられ、夜が過ぎていきました。


 この日は最終的にセラさんに死守されてしまい、菊澤さんの使用権はあえなく手放さねばなりませんでした。


幻覚(からめて)】と【結界(ちからわざ)】が一緒になると、思った以上に厄介だと改めて知りました。非常に悔しい。


 え? 打ち合わせ? 解散五分前にちゃっちゃと終わらせましたので問題ないですよ。




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名前:水川(みなかわ)花蓮(かれん)

LV:35

種族:異世界人

適正職業:勇者

状態:健常


生命力:8400/8400

魔力:7900/7900


筋力:730

耐久力:680

知力:710

俊敏:820

運:100


保有スキル

【勇者LV3】

異界武神ことはざまいくさのかみLV1》《万象魔神よろずかたつかさのかみLV1》《イガルト流剣術LV10》《生体感知LV8》《未来把握LV5》《刹那思考LV5》

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