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90話 それぞれの決意

 コイツらの反応は、当然っちゃ当然だ。


 何せ、頑固オヤジが披露した謎の話題転換以上に唐突な話だからな。


 完全に寝耳に水なことに、戸惑うのも無理はねぇ。


 当然のように俺を労働力としてカウントしているコイツらには悪いが、これはもう決まったことだ。


 俺がここに戻ってきたのは、コイツらと交わした約束を果たして、別れを言うためでもあったんだからな。


「いま、なんて……?」


「これからすぐ、この町を()つ。今まで世話になったな」


「なんでっ!?」


 シエナが信じられないという表情を浮かべ、作業の手を止めて語気を強めた。だけでなく、いきなり飛びついたさっきと同じように近づき、俺へと詰め寄る。


 なんで、っつわれてもな。


「今までずるずるとここで働いてきたが、俺の当初の目的は大陸の東に行くことだ。そして、職を必死に探していたのも路銀を調達するため。

 が、現実は借金まみれで給料は未払いのまま、三ヶ月が経っちまってる。経営は黒字になっちゃいるが、俺への給金が支払われるにはまだ時間がかかるだろう? 一度別口で大金を仕入れたこともあったが、今はその手段も使えねぇ」


「それなら、お金が払えるようになるまで、ここにいればいいじゃない!? 私たちもがんばるから、それまでは一緒にいようよっ!!」


 まずは面接でも話した範囲で理由を述べたが、シエナはすぐに食い下がってきた。


 確かに、金がない、ってだけなら時間が経てば『トスエル』にも余分な金が増え、俺の給料も捻出(ねんしゅつ)できるだろう。


 だが、今重要なのは『金』じゃなくて『時間』だ。


「お前らには言ってなかったが、俺はあまり同じ場所に長居できない理由がある。詳細は(はぶ)くが、この国に指名手配を受ける一歩手前みてぇな状態なんだ。金云々(うんぬん)は関係ねぇ。俺が出て行く理由は、そっちの意味合いが強い。

 今回のドラゴン襲撃事件で、遠からずレイトノルフは国内だけでなく、世界から注目される町になるだろう。何せ、『神人(レジェド)』級の化け物が群を成して襲ってくるだけの『何か』がある、ってことなんだからな。それが、俺にとっては都合が悪い」


「しめい、てはい……?」


 俺に『時間』がねぇことを理解してもらうため、話していなかった俺が抱える背景を少しだけ暴露(ばくろ)する。


 もちろん、一から十まで説明する時間もねぇし、何より『俺と無関係』でいさせるために黙ってたのに、ここで全部ぶちまけちまったらがっつり俺の事情に巻き込むことになる。それじゃ本末転倒だ。


 ここで必要な情報は、俺には『時間がない』ってことと、シエナたちが『納得せざるを得ない最低限の理由』だけ。


 シエナは『指名手配』って言葉にショックを受けているようだったが、フォローする時間もねぇ、ってことをアピールするために、シエナの様子に気づかねぇ振りをしてまくし立てる。


「その『何か』は、大勢の人間をこの町に引き寄せることになる。ドラゴンが襲ってきた理由はもちろん、何よりドラゴンの大群を殲滅(せんめつ)した手段や戦力を探そうと躍起(やっき)になるはずだ。あわよくば自陣営に組み入れようと、な。

 そして、俺はドラゴンに対抗するため『切り札(スキル)』を町中でおおっぴらに使用した。ほとんどの奴は理解できていなかったようだが、そうした『素振りを見せた』だけで、俺が『ドラゴンを倒せる戦力』だと見なされる可能性が高い。

 よって、ぼんやりとでも俺がドラゴンを殲滅した『何か』だと特定されれば、『この国』からだけじゃなく不特定多数の組織から狙われるだろう。そんな場所に、いつまでもいるわけにはいかねぇんだよ」


「そっ、それじゃあ! 私たちがヘイトを(かくま)うから! 誰にも見つからないようにしてあげるから! だからっ!!」


「ダメだ。このままここに残るだけで、俺を探すだろう追跡者の目に留まる可能性が高ぇ。何より、俺の事情にお前らを巻き込ませる気はねぇし、巻き込みたくねぇからこそ土壇場(どたんば)まで黙ってたんだ。ここでお前らを頼るなら、最初っから『出て行く』なんて言うかよ」


「それは、そう、だけど……」


 次に語ったのは、主に『時間がない理由』だ。


 分類上は『魔物の大群による襲撃』にあたる今回の事件は、世界規模からすれば珍しくともありえないケースじゃねぇ。


 だが、レイトノルフに襲いかかってきたのが、魔物は魔物でも『神人(レジェド)』級の『ドラゴン』だってのが最大のネックなんだ。理由はさっき俺が説明した通りだな。


 ついでに説明すると、ドラゴンがこの町にきた原因は、十中八九『俺』にある。


 ドラゴンたちに《同調》を仕掛けたとき、襲撃の動機を知るため短い時間だが奴らの記憶を(のぞ)いてみた。すると、どうやらアイツらは『生存本能を刺激される何か』を感知した後、レイトノルフを目指していたらしい。


 ここで、化け物だったボスドラゴンでさえも『生存本能を刺激する何か』を考えると、候補は二つ。


 相対するだけで命の危機を思い起こさせる『上位存在』による命令があったか。


 もしくは上位存在など関係なく、直接自身の脅威となる『存在』を察知したか、だ。


 前者だと、【魔王】が『上位存在』にあたるだろう。ボスドラゴンたちを向かわせたのは、レイトノルフが戦略的に重要な地点だと判断したから、などと予想できる。後者だと、【魔王】の介入の有無に関係なく、ボスドラゴンの独断だと言えそうだ。


 しかし、言っちゃ何だがこの町自体にドラゴンが襲撃するだけの魅力や脅威が存在するとは思えねぇ。唯一の戦力だった冒険者も、大半がドラゴンの出現と同時に逃げ出すような、腰抜けどもばかりだったしな。


 必然的に、ボスドラゴンを動かす条件に当てはまりそうなのは、『異世界人(おれ)』しかいねぇ。


 実際、多少苦戦はしたがドラゴンは全滅させたわけだし、【魔王】かボスドラゴンの脅威判定は間違いじゃなかった。結果的に、『俺』に喧嘩(けんか)を売ったことは間違いだったようだが。


 そうした予測から、ドラゴンがどこからきたのか? 【魔王】との繋がりがあるのか? だとすれば俺を知る唯一の情報元だろう吸血鬼が、魔族特有の能力か何かで情報が漏洩した結果なのか?


 色々探ろうとしたが、結局確かな情報は何も得られなかった。


 わかったことは、ドラゴンは『黒い世界』で生まれ、相当数の未知なる魔物を殺して成長し、突如ラウ大陸中心部に『出現』してから『脅威(おれ)』を認知して、レイトノルフまで飛翔したこと。


 そして、ボスドラゴンを含め全てのドラゴンが『神人(レジェド)』級にもかかわらず、異常なまでに理性が薄かったことだ。読みとれる記憶が断片的でしかなく、大した情報を得られなかったのも、そのためだろう。


神人(レジェド)』級ともなると、単純な戦闘力に加えて知性も(いちじる)しく高い場合が多い。戦闘中の動きを見る限り、ボスドラゴンを含めたアイツらにも、その傾向は見られた。


 にもかかわらず、理性だけが薄弱だったのはおそらく、『適正職業』(らん)にあった『凶獣』ってのが関係してんだろう。が、真実は今のところ闇の中だ。


 とはいえ、そこから理解できる情報は無駄じゃねぇ。


 少なくとも、あのドラゴンはラウ大陸の『【魔王】支配領域』から『ヘイト(おれ)』を狙って襲撃をかけたことが明らかになったんだ。


【魔王】の支配下にあったかどうか、【魔王】が『ヘイト(おれ)』の存在をどこまで認知しているのかは非常に気にはなるが、今後も似たような暫定(ざんてい)【魔王】勢力が『ヘイト(おれ)』を潰そうと迫ってくることは必至。


 そんな奴がレイトノルフに残っちまえば、洒落(しゃれ)にならねぇ危険を『トスエル』にもたらすことになっちまう。


 つまりこの情報だけでも、シエナたちの安全を確かなものにするには、結局襲撃の元凶となりうる『ヘイト(おれ)』が消える以外に方法はねぇんだ。


 そういう意味じゃ、今回の事件はうだうだ悩んでいた俺の背中を押す、いいきっかけになったのかもしれない。


 こんな大層な理由付けがなきゃ決断できないほど、『トスエル』に執着しちまってた俺には呆れるしかねぇがな。


「加えて、俺は無一文ってだけじゃなく、確かな身分も持っちゃいねぇ。前に言ったように、冒険者の登録もできねぇしな。そこで問題なのが、町の出入りで支払うべき『通行税』だ。それがなけりゃ、この町から出ることが非常に困難になる。

 だが、ドラゴン襲撃で混乱している今なら、こっそり抜け出してもバレねぇだろ? 逆に時間が経って冷静さを取り戻されると、町の通用門が復活して脱出できなくなる。ぶっちゃけ、あまり時間がねぇ」


「…………」


 さらに『時間がない』ことを強調するために、町の出入りで必要になる『通行税』についても触れた。


 本当は《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》があるからそこまで問題にはならねぇが、短時間でシエナたちを説得するには少しでも理論武装があった方がいい。


 事実、反論の材料を探すためかシエナは黙っちまったが、一向に口を開く様子を見せない。


 嘘でも()いてねぇ限り、俺が今どんだけ厳しい状況なのか、シエナは理解した。


 そして、この()に及んで俺が下らねぇ嘘なんか吐かねぇことも、シエナはわかってるだろう。


 何せ、俺は『ドラゴンを倒して守る』ってことと、『戦いが終われば店に戻ってくる』という、単なる口約束程度でしかない『義理』を通して見せた。


 シエナからすれば、そんな俺が今更になって『意味のない嘘』を吐くとは思わねぇはず。それを証明するように、シエナは今も俺を引き留める言葉を探し、なかなか見つけられねぇみてぇだしな。


「こ、この町から出ても、大陸の東に向かうには、国境を越えなきゃいけないんじゃないの?」


「確かに、『人間が利用する関所』を通るなら、ある程度の金は必要になる。だが、俺には関係ねぇ。ドラゴンをも倒す力があるんだから、わざわざ安全なルートを選ぶ必要はねぇだろ? 国をまたぐだけなら、やりようはいくらでもあるさ」


 かなり悩んだ挙げ句に絞り出したシエナの言い分も、さっき証明した『俺の実力』という要素であっさり潰される。


 そして、この先シエナからどんな言葉をかけられても、俺の意志は今度こそ揺らがない。


 ここで俺が(ほだ)されちまったら、後で受難を(こうむ)るのは他ならないシエナたちなんだ。


 そんなことになれば俺は自分を許せないし、最悪の懸念を残すことを許すわけにはいかない。


「でも、やっぱりお金がなかったら、国外に出ても町に入れないでしょ? それはどうするの?」


「それこそどうとでもなる。最悪魔物をしとめて冒険者に売れば金になるし、運良く町に入れればレイトノルフでしてたみてぇに店という店に頭を下げまくってもいい。何とかなるだろ」


 生きていくだけなら《永久機関》がある俺にとっちゃ、金はもう必要なものでもない。


 ただし、そんなこと言っても逆に心配されるだろうから、それっぽいことを説明して誤魔化(ごまか)した。一応、嘘は吐いてねぇ。


 統一法では『一般人のダンジョンへの出入り制限』や『ダンジョン資源を冒険者協会へ納入する義務』が規定されちゃいるが、『一般人が倒した魔物や獲得したダンジョン資源を、冒険者に売りつけちゃいけねぇ』なんて規定はどこにも存在しねぇ。


『普通』はそんなぶっ飛んだ発想をする奴がいねぇからだが、俺にとっちゃいい感じに法律の抜け道になっている。この方法なら、合法的に俺でも金を稼ぐ手段として成立するだろう。


「それじゃあ、『トスエル』はどうなるの? 今まではヘイトがいたから、『トスエル』はここまで立ち直ることができた。なのに、ヘイトがいなくなっちゃったら、また前と同じ『トスエル』に、戻っちゃうかもしれない……」


「勘違いするなよ? この三ヶ月で経営が黒字になったのは、俺が経営のプロだったからじゃねぇ。元々持っていた『トスエル』の力が凄かったからだ。そうでなきゃ、半端な知識だけはある商売経験ゼロの素人が口を出した程度で、成功なんざするわきゃねぇだろ?」


 次に口にした苦し紛れの言葉は、ともすればシエナが抱く俺への依存心を、初めて明確に表へ出したものだった。


 しかし、自虐的で自信のないシエナの考えを、俺はすぐに否定した。


 どうやら、シエナはまだ勘違いしたままらしい。


 なら、これが最後の『教育』だ。


『トスエル』はすでに、俺なんかがいなくても大丈夫だってことを教えてやる。


「『トスエル』に必要だったのは『俺』じゃねぇ。金をきちんと管理できる『経営者』だ。

 ママさんが両親から引き継いだ経営方針も、頑固オヤジが提供する料理も、お前が家族の背中を見て(つちか)ったサービス精神も。

 最初からあった全てが『トスエル』の魅力であり、客を自然と呼び寄せる重要な要素だった。きちんとした『経営者』さえいれば、欠点なんてほぼねぇんだよ」


「だったら! 『経営者』をしてくれてた『ヘイト』がいなくなったら、またダメになっちゃうかもしれないじゃない!!」


「アホ」


「いたっ!?」


 揚げ足を取ったつもりで先走り、勢いを取り戻しかけたシエナの気勢を()ぐため、シエナの額を人差し指で突いてやる。


 頭をわずかにのけぞらせ、恨めしげに額を押さえるシエナに構わず、伸ばした人差し指をシエナに向けて、言った。


「抜けた『経営者』の穴を埋めんのは、看板娘。『お前』だろうが」


「え、っ?」


 ()頓狂(とんきょう)な声をあげて目を丸くするシエナ。どう見ても予想外なことを言われました、って顔してんな。


 なら、そろそろ思い出してもらおうか。


 俺はお前らに、どういう『教育』を施してきた?


「『トスエル』の改革のため、俺はお前らに最低限の『教育』をしてきた。頑固オヤジにはイガルト語の読み書きを。ママさんには各国の言語や社会関連の知識を。そして、お前にはママさんの内容の一部と経理を。それぞれ教えてきたはずだ。

 前に言ったよな? 『お前が大黒柱になるかもしれねぇ』って。それはお前が『経営者』になって『トスエル』を守れるようにしてやる、ってことだ。実際、俺がいなくても十分やっていけるだけのことは教えてきた。それくらい、薄々気づいてただろ?」


「そ、れは……、でも、私、ヘイトみたいに、うまくやれる自信、ないし……」


「それでもいいじゃねぇか」


 必要な知識は授けた、っつうのにそれでも(しぶ)るシエナに、最初の一歩を踏み出させてやる。


 不安げなシエナの頭に手を置き、少しでも安心させてやれるよう、笑った。


「俺みたいにやる必要なんてねぇんだよ。お前にはお前のやり方がある。お前なりに上手くやっていけばいいんだ。お前は頭がいいし、思考に柔軟性もある。よほどの下手を打たねぇ限り、失敗することはねぇだろうよ」


「だけど、私…………」


「それでも自分に自信が持てないなら、こう考えてみればいい。『『トスエル』を立て直した『経営者(おれ)』が教えた知識だから大丈夫』ってな。

 お前がどれくらい自分自身を信用できねぇのかは知らねぇが、少なくとも『ヘイト(おれ)』は『信じている』んだろ? なら、『経営者』として必要な自信の根拠に『ヘイト(おれ)』を使え。それなら、少しは不安も薄れるんじゃねぇか?」


 シエナはさっき、『俺のことを信じていた』と告げた。


 ならば、『俺が過去にしてきたことでも、信じることができる』と多少は考えていてもおかしくない。


 それに元々シエナには他人に依存しやすい傾向があった。自分に自信が持てないのも、それが原因なのかもしれない。


 よって、自信の根拠を『他人(おれ)』に(ゆだ)ねることで、いずれ『自分(シエナ)』への自信になっていくはずだ。少なくともシエナにとっては、いきなり自分に自信を持て、というよりは効果的だろう。


 ただ、これは俺の拡大解釈なところもあるし、何より将来的にシエナが抱く俺への依存傾向をより強くする可能性もある。方法としては、間違っているのかもしれない。


 だが、『信頼』を向ける相手が(そば)にいないのなら、ゆっくりと自分自身への『信頼』に移っていくと、俺は思っている。そうなれば、シエナは誰に左右されるでもなく、きちんと自立して『トスエル』をいい方向へ導けるはずだ。


 シエナが俺を信じているように、俺もシエナを信じている。


 シエナなら、この程度の不安なんて、すぐに些細(ささい)なものだったと気づけるはずだ。


 それさえ自覚できれば、シエナは『経営者』として店の舵取(かじと)りをしつつ、今まで通り両親とともに生きていける。足りなくなるのは単純に人手くらいなもんで、代用は誰でも可能だ。


 だからもう、『トスエル』に『経営者代理(ヘイト)』は必要ねぇんだよ。


 聞き分けのない子どもに言い聞かせ、あやすようにシエナの頭を優しく()でる。


「……どうしても、行っちゃうんだね…………」


「ああ」


 俺の意志の固さを感じ、何を言っても曲げられねぇと悟ったのか、シエナは顔をうつむかせた。


 若干涙声に聞こえたのは、気のせいじゃねぇだろう。俺との別れを()しんでくれてるんだろうか?


 ここで《同調》を使ってまで感情を探るほど無粋じゃねぇから、シエナの本当の気持ちまではわからねぇ。


 でも、もしこんなクズみたいな人間との別れに、少しでも悲しいと思ってくれているのだとしたら。


 どこかムズ(かい)いが、純粋に嬉しいと感じる自分がいる。


「わかった。なら、もうヘイトを止めない」


「そうか」


 どうやら、納得してもらえたらしい。


 シエナの頭から手をどけ、後は軽く別れの挨拶でもして出て行こう。


「でも、後ちょっとだけ、待ってて」


 しかし、手を頭から離した瞬間、シエナは一言残して店の奥へと走って行った。


 何だ? 餞別(せんべつ)でもくれるってのか? まあ、少しくらいなら待ってやるか。


「それにしても、急な話ね。事情が複雑そうだし、止めちゃいけないのはわかったけど、やっぱり寂しくなるわ~」


「すみません、ママさん」


「ふん! 俺はテメェの顔が見れなくなれば清々(せいせい)するぜ」


「はいはい、アンタは相変わらずである意味安心したよ、頑固オヤジ」


「ヘイト!」


 その間に軽くママさんや頑固オヤジと雑談していると、店の奥に消えたシエナがすぐに戻ってきた。


 その手には、餞別と呼ぶには違和感のある、魔物の皮から作られた一枚の低品質な大きめの紙と、鉛筆代わりの木炭っぽいものがあった。


 ちなみに、質が悪かったとはいえ、俺がクソ王から支給されていた紙と羽ペンは一般庶民からすればやや高価な物。シエナが持ってきた筆記具は安価で量産も簡単な筆記具として、市場に出回ってる代物(しろもの)になる。


 俺の指示でシエナとママさんが客からのオーダーをメモってた筆記具もこれだ。そのまま買ってきたらデケェ魔物皮紙(便宜上(べんぎじょう)そう呼ぶ)を小さく切り分け、メモ用紙として活用させていた。鉛筆もどきは羽ペンと比較すると文字が見づらいが、使えないこともない。


 だが、こんな物を持ってきたところで、俺にどうしろってんだ?


「これにサインして欲しいの」


「サイン?」


 疑問に思いつつ、真剣な表情のシエナから差し出された魔物皮紙を受け取ると、そこにはすでに文字がいくつか記載されていた。


 一番上に書かれたタイトルらしき文字は、『借用証書』?


 何だこれ?


 このタイミングで渡すほどのもんか?


 意味が分からん。




====================

名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:1/1(0/0【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV2》《神術思考LV2》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV3》《神経支配LV4》《精神支配LV2》《永久機関LV3》《生体感知LV3》《同調LV4》)

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