86話 1vs100
冒険者協会跡から離れた俺たちは真っ直ぐ来た道を逆走し、『トスエル』まで戻った。
「今度こそ、待ってろよ?」
「そっちこそ、ちゃんと帰ってきてよね!」
「わかってるよ」
そして、頑固オヤジとママさんへの説明も含めてシエナに託し、短いやりとりを経て店を後にした。
ったく、ゴークといい社長といい、無駄な時間を使っちまった。
社長の話と《同調》から軽く読みとった記憶から逆算すると、ドラゴンの大群がレイトノルフに到着するまで、残り十数分ほど。
猶予はねぇが、やれるだけの準備はしておかねぇとな。
『トスエル』から離れた瞬間から、『種族』を『異世界人』に変更して走る。
ドラゴンが襲ってくる方角は北っつうことだったが、レイトノルフの出入り口は東西に一つずつしかねぇ。
今のステータスで《限界超越》を使い、屋根に上って無理すれば防護壁を跳び越えてショートカットも出来ただろうが、それで怪我しちまえばドラゴン戦に不安が残る。
急がば回れ、っつうことで未だ混乱が残る地上を走り、東門からレイトノルフの外へ出た。
東門から町の外へ出るのは初めてだったが、真っ先に目に付いたのがデケェ川だ。これがレイトノルフの上下水道を引いてる源流だな。
川の流れに沿うように、北側から必要な水を引いてきて、南側に下水を通す水道を作ったんだろうな。ぱっと見それらしいものは見あたらなかったから、地下にでも設置してんだろう。魔法文明の利便性がよくわかる。
っと、感心してる場合じゃねぇな。一瞬止まった足をすぐに動かし、防護壁の縁に沿って全速力で町の北側を目指した。
あぁ~、クソ。通用門くらい南北にも設置しとけよな。面倒ったらありゃしねぇ。
俺としても急いだつもりだったが、目的の地点に到達する頃には残り時間が数分しかなくなっていた。
特に、上履きが超走りづれぇ。新しい靴買おうかな? あ、金ねぇや。
「はぁ、はぁ、っく! んで、俺の手札は……」
荒くなった息を強引に飲み込むと、《神術思考》で思考時間を引き延ばし、俺が使えるものを確認する。
手元にあるのは、さっき拾った木片がポケットに三つほど。他には、直接武器になりそうなもんはねぇ。レイトノルフ北部は一帯が草原で、手頃な小石も落ちてなかった。吸血鬼ん時みてぇなことは出来ねぇ、っと。
後は、《同調》関係か。さっき手駒にした奴隷ドラゴンズは雲の上をグルグル回らせている。一応、ドラゴンの魔力感知能力を加味して、奴隷ドラゴンズの周りは【普通】を付与した『大気浸食』の薄い膜で覆い、気配を強引に断たせた。
一定量の思考領域を消費するが、アイツらはほぼ確実にドラゴンどもの不意を打てる、大事な伏兵だ。使いどころを間違えなければ、一気に戦いを有利に進められる。
以上、終わり。
…………改めてみれば、どんだけ貧弱なんだよ俺の手札?
ドラゴン四体はまだしも、残りが建物の残骸って、戦いを舐めてるとしか思えねぇ。
いや、他の誰でもなく、俺のことなんだけどさ。
が、四の五の言ってる時間もねぇことだし、せいぜい戦略を立てるとするかね。
幸いなことに、俺の【普通】は当たれば必殺だ。
どんな化け物でも、【普通】を付与した『木片』さえぶち当てれば、ステータスを無視して致命傷を負わせられる。
そして、奴隷ドラゴンズの大きさからして、飛竜種のドラゴンのサイズはそれなりにデケェはず。
『俊敏』重視の奴隷ドラゴンズであのサイズだ。少なくとも他のドラゴンは、もう一回りくらいデケェと想定するくらいでちょうどいい。
ちなみに、《同調》を仕込んだ奴隷ドラゴンズで最強の個体を《機構干渉》で見たのが、このステータスになる。
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名前:ーー(なし)
LV:398
種族:飛竜種:エラグ・トゥーネイクナ・ドラゴン
適正職業:凶獣
状態:混乱(《同調》)
生命力:22000/24800
魔力:17100/20300
筋力:2370
耐久力:2050
知力:2440
俊敏:3280
運:10
保有スキル
《竜属性魔法LV10》《限界超越LV10》《隠形LV8》《疾風迅雷LV6》
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生命力と魔力が若干減ってんのは、さっきレイトノルフで先に操ったドラゴンの体当たりを受けた分と、ブレスで消費した分があるからだろう。
ともかく、ステータスだけなら魔族である吸血鬼を軽く超える化け物だ。
吸血鬼のステータスと比較したら、全体的におおよそ四倍にもなる。
しかも、これからコイツを超える個体が押し寄せてくんだろ?
もしこのドラゴン軍団も魔王配下だったとしたら、あの吸血鬼って魔王戦力の中では相当下っ端だったってことか?
冷静に考えると、こんな奴らを正面から相手にせにゃならん『異世界人』って、本当に大変だな。【普通】がねぇ俺だったら、出会った瞬間絶望してるわ。
っつか、俺が出会う敵の能力値って、インフレが半端なくね?
異世界きて約八ヶ月目にして、最初の敵が王道のゴブリン。
二体目のエンカウントで魔王直属の部下である吸血鬼。
それから『偉人』級ダンジョンの魔物連中を小休止にして。
記念すべき異世界一年目でドラゴンの大群。
パワーバランスおかしすぎて逆に笑えるわ。
俺だけ人生がハードモード過ぎねぇ?
難易度調整が致命的にミスってんだろ。
もしこの世界にマジの運営がいんなら、時間の許す限りクレームの電話でも入れてやるところだ。
「…………来たか」
なんて、ちょっとだけ《神術思考》の片隅でアホなことも考えつつ戦略を練っていくと、すっげぇ遠くからデケェ鳥みてぇなシルエットが見えてきた。
まだ距離が離れてっから鳥に見えてるが、秒単位で接近されるごとにありえねぇ巨体だってことがわかる。
っつか、想定より到着が早い。途中でスピード上げやがったか?
理由は、奴隷ドラゴンズの反応が消えたから、って可能性が高ぇな。どんだけ遠距離から魔力感知してんだよって話だが、ドラゴンの化け物ぶりを考慮すると、『ありえねぇ』なんて断言することは出来ねぇ。
ま、どうせいつかはぶち当たるんだ。
多少時間が狂ったところで、大した問題じゃねぇか。
「俺の勝利条件は、『敵戦力の全滅』と『レイトノルフの完全防衛』。敗北条件は『レイトノルフの陥落』。戦力差は約百倍。頼れるものは自分だけ。以上」
《機構干渉》で『種族』を『日本人』に戻し、軽く戦闘情報を口に出して確認する。
…………よし、腹は決まった。
殺るか。
「グラアアアアアアアアアアッ!!!!」
『ガアアアアアアアアアアッ!!』
俺のいる位置から見て、鳥っぽいシルエットがはっきりとドラゴンだとわかるところまで来た時。
一際ヤベェ気配を感じる一体のドラゴンの咆哮が耳朶を打ち、次いで周囲の取り巻き連中の声が遅れてやってくる。
ここからはぼんやりとしか見えねぇが、色とりどりの体表色のドラゴンが群を成していた。ボスらしいヤベェドラゴンは漆黒で、取り巻きは赤、青、茶、緑で構成されている。偵察ドラゴンと同タイプも、群の中には残ってるみてぇだな。
っつか、この威嚇は俺に気づいた、っつう宣戦布告のつもりか?
おいおい、だとしたら『魔力がねぇ』俺を察知するとか、どんな感覚器官してんだよ?
これが『神人』級の魔物、ってか?
ははは、笑えねぇ~。
「奴さんはずいぶんと気合い入ってるみてぇだし、こっちも挨拶返しはしとかねぇと、な!」
ビリビリと肌を振るわせるプレッシャーを受けながら、ポケットに入ってあった投げやすい手頃な『木片』を両手に握った。
そして、真正面に見えるドラゴンへこちらからも徒歩で接近しつつ、初手を仕掛ける。
「ガアアアアアッ!!」
またしても鳴り響くドラゴンの鳴き声は、しかし大群から発せられたものではない。
飛竜軍団の後方、かつ集団の飛行高度よりもさらに高い上空から響きわたったそれは、決して勘違いではなかったことを証明するように雲を瞬時に蹴散らした。
さっき被弾した奴隷ドラゴンから放たれた、広域拡散型のブレス。飛竜軍団の後方を飛行していたドラゴンたちへと、容赦なく降り注いだ。
『ガアアアアッ!?!?』
意識もしていなかった角度から受けた奇襲に浮き足立ち、ブレスを背中や両翼に受けたドラゴンたちは痛みと混乱を窺わせるように喘いだ。
巻き込めたのは、十数体。敵戦力の一割強か。上々だ。
早速伏兵を使っちまったから、もはや隠す意味もない。
ブレスを味方に撃ち込んだ奴隷ドラゴンを操作し、敵襲団の後方を取るように高度を急速に下げさせた。
「ガアアアアアッ!!」
『ガアアアアアッ!!!!』
《神経支配》で上げさせた奴隷ドラゴンの威嚇の声を聞き、不意打ちを受けたドラゴンたちは激昂。
集団から離れて奴隷ドラゴンを袋叩きにしようと、体を反転しかけた。
「グラアアッ!!」
『ッ!?』
しかし、すんでのところであの厳ついドラゴンの叱責でも飛んだのか。
隊列を乱しかけたドラゴンたちは瞬時に大人しくなり、目標をレイトノルフから変えなかった。
「ちっ。戦力を分散できれば、多少は楽だったんだがな」
飛竜軍団の指揮を執るあの声が、ボスドラゴンとみて間違いねぇ。
まだはっきりと姿を捉えたわけじゃねぇが、こちらの思惑を読んだ上で命令を下したんだったら、相当厄介だな。
それは一定以上の知能が敵に備わっていることと、こちらを生物としての格が劣る『人間』だと油断してねぇことが察せられる。
俺がちょっかいをかけた奴らが一瞬見せた反応からして、ドラゴン種全体が感情を廃した理性的な生物ってわけじゃなく、ボス個体が異様に怜悧で理知的なんだろう。
ったく、アホみてぇな能力値してるんだから、ちょっとくらいこっちを侮ってもいいだろうがよ。
これで相手がやりづらい手合いだと確定し、一気に攻める手段が減った。
「ガアアアアアッ!!」
統率された集団相手にゃ無謀としか言いようがねぇが、無視されたことに憤っている風の声を上げさせ、奴隷ドラゴンを単騎で突貫させた。
本来なら完全に神風特攻隊に等しい愚策だが、取れる手段が少ねぇから仕方ねぇ面もある。
とりあえず、飛竜軍団の様子を見る。
「グラアアアッ!!」
『ガアアアアアアアアアアッ!!!!』
すると、反応は迅速だった。
ボスドラゴンの命令に従い、飛竜軍団は編隊の並びを即座に変更し、奴隷ドラゴンの進路上に空白の空域を作り出す。すでにトップスピードに乗っていた奴隷ドラゴンは、空けられたその道を直進した。
速度故にすぐに止めることができずにいると、奴隷ドラゴンを囲んだ飛竜軍団は一斉に顎を開いた。
「ガ !?」
瞬間、猛スピードで空を駆けていた奴隷ドラゴンに数十発のブレスが放たれ、逃げる暇なく集中砲火を浴びた。
様々な種類のブレスは同士討ちなどという無様を見せず、すべてが奴隷ドラゴンを正確に射抜いて相互消滅。
巨大な爆発とともに、奴隷ドラゴンは肉片も残さず塵と消えた。
「あれは、ドラゴンの純粋な技量? ……いや、ボスの統率の効果か?」
負傷していたとはいえ貴重な手駒を一つ失ったが、思考は止めない。得られた情報を精査し、ほぼ無に等しかった敵情報の補完を行っていく。
威力偵察に出し、『俊敏』重視のステータスだったはずの奴隷ドラゴンの全速力を、飛竜軍団はたった一度で捉えた。
ボスはともかく、種族によるステータスの個体差があることも考えると、すべての個体がブレスによる正確な狙撃を可能だったとは考えにくい。
それでも、まるで最初から示し合わせたかのように、同時かつピンポイントの射撃を行えたのは、個々の技量というよりも指揮官の技量が高いと推察される。
つまり、ボスドラゴンは奴隷ドラゴンの動きを瞬時に把握し、ブレスの発射角度、タイミング、威力などを一瞬にして部下へ伝えて、迎撃させたっつうこと。
結果、あちらは味方の損傷を軽微にすませ、奴隷ドラゴンの撃墜を容易く成功。
ついでに、こちらが何らかの方法で『ドラゴンを支配しうる手段を持っている』上、『残り三体の偵察ドラゴンも支配された可能性が高い』という情報を向こうは得た。
対抗手段に乏しいこちらからすれば、かなりの情報を開示しちまったことになる。それと引き替えに得られたのは、取り巻きは御しやすそうだが、ボスは確実に手強いっつう情報くらい。
単純な情報価値からすれば、大きく赤字だな。
これで下手すりゃ、味方戦力が丸々敵戦力に落ち、最悪自身も支配対象となる可能性に、最低でもボスドラゴンは行き着いたに違いない。
よって、ボスの警戒心はさらに高まり、より慎重な動きでガードが堅くなるのは必至。
こっちの攻撃も難易度がかなり上がったな、面倒臭ぇ。
「なら、こうすりゃどう出る?」
さらにボスドラゴンの出方を見るために、奴隷ドラゴンを投入する。
「ガアアアアアッ!!」
新たな奴隷ドラゴンに咆哮を上げさせ、わざとらしく注意を引く。
さすがに二度目となると反応も早く、ボスドラゴンの指示がなくとも自身の判断で動いていく飛竜軍団。
なるほど、煽り耐性はボスより低くとも、馬鹿じゃねぇらしい。
そして、さっき見せたように十数体のドラゴンが口を開き、属性とりどりのブレスを奴隷ドラゴンに射出した。
「ガアッ!!」
が、ボスドラゴン主導と比べると精度が甘い。
《同調》越しに見えた奴隷ドラゴンの視界を利用し、《神経支配》のウエイトを上げて飛行動作を細かく支配し操作する。
飛竜軍団のほぼ中心部へ落ちるように、上空から急降下させた奴隷ドラゴンへ迫るブレスの弾幕を、わずかな隙間を縫わせて回避していく。
気分は戦闘機のシミュレーターだ。ちょっとしたゲーム感覚で垂直落下をさせつつ、どんどん飛竜軍団との距離を詰めさせる。
「グラアアアアアッ!!」
ブレスの射程距離まであと数秒という距離で、ボスドラゴンの新しい指示が飛ばされた。
先ほどと同様、飛竜軍団の動きにキレが急激に増し、素早く編隊を全体的にやや円のように広げる。
そして、飛竜軍団のほぼ半数にもなる五十ほどのドラゴンが上空の奴隷ドラゴンへと喉を曝し、ブレスを発射した。
「ガアアアアアッ!!」
奴隷ドラゴンは内心でガクブルだったが、《神経支配》で表面上はそんなことをおくびにも出させない。
というのも、ボスドラゴンの奴、どうやってか奴隷ドラゴンの移動誤差を修正した偏差射撃を部下に行わせていて、回避がものすごく困難になってるんだよ。
そもそもが砲塔の多さに任せた面制圧のブレス攻撃でもあり、逃げ場が針の穴程度しかねぇ。おまけにブレスの発射は時間差で行われ、その針の穴を通った直後に着弾するよう計算された別のブレスを用意する嫌らしさ。
唯一の逃げ場は俺が奴隷ドラゴンを落とした上空だが、こちらも速度が出過ぎていて方向転換は不可能。無理に上空へ戻ろうとしたら一瞬でも停止する必要があり、んなことすればあっという間に蜂の巣になっちまう。
完全に逃げ場を失わせる、まさに狩人ってのが似合うやり方だ。
が、難易度が高いほど弾幕ゲームは燃えるもの。
こっちだって、二度も同じ手を食らうほど間抜けじゃねぇってところ、見せてやらぁ。
『ガアッ!?』
直後、ボスドラゴンの指揮で殺せた気になっていたドラゴンどものほとんどが、驚愕の声を上げた。
己の質量と飛翔速度を加算した限界ギリギリの急速落下から、奴隷ドラゴンが前触れもなくさらに加速したからだ。
仕掛けは、奴隷ドラゴンの所持していた上級スキル《疾風迅雷》。効果は簡単に言えば、『風属性の攻撃を纏った爆発的な加速』。単純な速度上昇に加え、ブレスの威力を多少なりとも相殺しうる、この場ではうってつけのスキルだな。
これにより、奴隷ドラゴンはブレスのわずかな穴を突き抜け、二段構えになっていた後追いブレスも紙一重で躱して、隙だらけの飛竜軍団の真上を取った。
「ガアアアアアッ!!!!」
そして、落下中に溜めさせていた魔力を解放。
さんざん撃たせてやった返礼に、奴隷ドラゴンの広範囲に拡散するブレスを飛竜軍団にお見舞いした。
「グルッ」
『ガアアッ!?』
飛行には魔力も用いてんのか、ほとんどが背泳ぎみてぇな飛び方で腹を見せていた飛竜どもに、強烈なダウンバーストを浴びせる。
さらに、発射基点である奴隷ドラゴンの首を振ることで、さらに多くのドラゴンへブレスの力を届かせた。
ただし、ボスドラゴンは部下の失敗を即座に察知。
一体だけ明らかに高度を下げ、部下を肉盾にすることでブレスの効果範囲から強引に逃れていた。
「ガアアアアアッ!!」
戦いの風向きがこっちに流れてきた機を逃すわけにはいかねぇ。
続けざまに行ったのは、隠密行動をさせていたもう一体の奴隷ドラゴンによる追撃だ。
が、その追撃は上空からではなく、飛竜軍団よりも下から行われる。
実は一体目の奴隷ドラゴンを突撃させた時、飛竜軍団の意識を集中させている間にもう一体の奴隷ドラゴンを動かしていたんだよ。
その際、もう一体の方には『大気浸食』の膜に【普通】を付与したものと、自前の上級スキル《隠形》による気配断ちを行ったまま、少し遅れて時間差をつけて動かし、飛竜軍団の後方かつ低空の位置を取らせて潜伏飛行をさせていた。
ちょっとした小細工だが、それまで魔力を一切漏らさなかった気配遮断により、飛竜軍団はほとんどが気づいていなかった。
そして、初手とほぼ同条件の奇襲条件が整った二体目の奴隷ドラゴンも、凝縮させてた魔力に指向性を持たせ、【普通】を解除した瞬間ブレスとして射出した。
「グラァッ」
『ガアッ!?!?』
たった二体のドラゴンとはいえ、上下からブレスを放たれた飛竜軍団はさらに混乱。まともな回避を行えずに次々と奴隷ドラゴンによるブレスをその身に受けていく。
しかし、やはりボスドラゴンだけは二体目の奴隷ドラゴンにも瞬時に反応。飛竜軍団から一気に前方へ先行することで、低い位置から放たれたブレスの範囲外に出ることへ成功していた。
「……本命には逃げられたが、思った以上に上手くいったな」
飛竜軍団の挟撃が綺麗に決まり、自然と口角が上がる。
二体の奴隷ドラゴンから放たれたブレスが止み、未だ健在の飛竜軍団は全体的に軽傷だ。
何せ、捻出した魔力がかなりの量でも、ブレスに変換した時に重視したのは威力よりも広域への拡散なんだから当然だな。
自前の鱗が天然の強固な鎧となっているドラゴン相手だと、半端な攻撃は当たっても跳ね返されるのがオチ。
案の定、奴隷ドラゴンのブレスでボス以外のドラゴンどもは飛行体勢を崩したものの、目に見えたダメージは全くない。
『ガアアアアアアアアアアッ!!!!』
どころか、逆にダメージがないことで馬鹿にされたとでも思ったのか、飛竜軍団は先ほどよりも殺気立っている。
まだまだ俺との距離があり、ボスドラゴン以外は奴隷ドラゴンが俺に操られているという認識がないのか、敵意を向けているのは二体の奴隷ドラゴンのみ。
軍団の半々ずつ、つまり奴隷ドラゴン一体につきおよそ五十対の怒れる竜眼が貫いており、《同調》越しに奴隷ドラゴンの強い怯えが伝わってくる。
「…………」
ボスドラゴンはその場にホバリングして反転し、飛竜軍団のやりとりを少し離れた位置から睥睨している。
《同調》で支配したドラゴン越しから窺える、ボスドラゴンの瞳はどこまでも怜悧で。
それ以上に、どこまでも敵意があふれていた。
「もう気づかれたか。さすがにボス個体なだけはある」
『ガアアアアアッ、……ガアッ!?』
飛竜軍団の我慢が破裂し、奴隷ドラゴンたちへ一斉に向かおうと牙を剥いたが、それはかなわなかった。
翼をはためかせて飛竜軍団が上下に分かれて飛行するも、一定の距離になると奴隷ドラゴンへ向かう力が落ち、減速してボスドラゴンにならったホバリングをし始めた。
意に添わない動きに困惑の声を上げる飛竜軍団は、最終的に全個体がボスドラゴンへ向かい合っていた。
「さて、第二ラウンドの最後に数量の差は反転したぞ? 仕切り直したここから、第三ラウンドといこうじゃねぇか」
奴隷ドラゴンの広域ブレスに含ませた《同調》により、《神術思考》の思考領域に増えたおよそ百体分のドラゴンの視界を共有しながら。
俺とボスドラゴンは、間接的に相対した。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(日本人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】)
生命力:1/1(【固定】)
魔力:1/1(0/0【固定】)
筋力:1(【固定】)
耐久力:1(【固定】)
知力:1(【固定】)
俊敏:1(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV2》《神術思考LV2》《世理完解LV1》《魂蝕欺瞞LV3》《神経支配LV4》《精神支配LV2》《永久機関LV3》《生体感知LV3》《同調LV4》)
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