日常の終わりは突然に
よろしければ読んでやってください。
その日。
俺たちの日常は、いつも通りに始まった。
「ちーっす」
「おはよう」
同級生たちのにぎやかな挨拶が飛び交い、一日の始まりを感じさせる。がやがやと騒がしくなってきたクラスの喧噪をぼんやりと聞きつつ、俺は一人窓から空を見上げていた。
何を隠そう、俺には友達がいない……いや、アニメだかラノベだかのタイトルじゃなくて、本当に友達がいない。
原因は、ありきたりだがイジメだ。とはいえ、幸いにもニュースや都会で聞くような凄惨なレベルじゃない。
酷くても無言で頭を叩かれたり、話しかけても無視されたり、教科書などの所有物を近くにポイッとされるくらいだ。
クラスでの雰囲気も、『イジメ』というより『イジリ』に近いか。多少の実害はあれど、深刻さはほとんどない。
俺を標的にした明確な理由はないんだろう……もしくは、些細な出来事がきっかけだったのかもしれない。つまり、改善の糸口もないお手上げ状態ってわけだな。
まあ、小学生くらいからずっと続いているんだから、さすがに鬱陶しいくらいは思っている。今もクラスメイトから数日間、窓際の席にいる俺を無視する、というイジメが続いたままだ。
ちなみに、俺の進学遍歴は中学も高校も偏差値や民度が中間くらいの公立で、半分くらいの顔ぶれは幼なじみと言っても過言じゃない。
だったら、もう半分に近づいたら友達ができるんじゃ? とか思うだろうが学校生活を舐めちゃいけない。
誰かを邪険にして排除する雰囲気、ってーの? そういうのって、天然記念物レベルの鈍感とかじゃなけりゃ結構わかるもんなんだよ。
実際、高校に入学した瞬間から俺の立ち位置を見定めたもう半分は、あっさりと俺を排除する側か、見て見ぬ振りをする側に回ったしな。
下手にかばえば自分にも飛び火すんだから、それについて薄情だとは思わない。同じ立場の奴がいりゃ俺だって、触らぬ神に祟りなし、って見捨てるだろうよ。
だからよくあるラノベみたいに、学年でも人気のある奴が俺に絡み、地位向上を目指そうとする都合のいい展開もない。そんな親友、こっちから願い下げだ嘘ですほしいです誰か立候補して。
――とはいえ、俺たちもう高二だぞ? こいつらどんだけ暇なんだ? 俺に構う暇があったら、部活なり恋愛なりと青春ごっこに使っとけっての。
「…………はぁ」
……本音を漏らしたところで、ぜってぇ面倒なことになるだけだからな。自然と浮かぶ煽り文句はいつものように心中だけでグチり、もはや癖になりつつあるため息を漏らす。
朝のホームルーム前、ざわざわと騒がしい教室をBGMに流れる雲を見ながら黄昏る俺。
――はっはっは。絵にすらならねぇ。
「おーし、席に着けー」
気づけば予鈴が鳴ったらしく、担任が教室に入ってくる。
あ、教師もまた、俺の軽度のイジメを容認し、放置している傍観側な。俺の味方なんて、人類にいやしねぇ。
俺の味方はギャルゲーを始め、恋愛シミュレーションゲームに出てくるキャラだけだ。ただし、俺がプレイすれば何故か全員友情エンドになるけどな!
次第にバグなんじゃね? なんて思ったこともあったが、ネットのレビューは誰々がかわいかったとか、このエンドが泣ける・感動するなど、色んな意見が俺の推測を否定していた。
本当に俺だけ、友情エンドにしかならないみたいだ。今では、そういう仕様だと思ってとっくに諦めている。周回プレイすれば別かもだが、それほど熱意があるわけでもねぇしな。
まあ、その代わりバッドエンドも見たことないんだけど。それをよしとするかどうかは、意見が割れるんじゃなかろうか?
ポジティブに考えようぜ。ゲームだったら美少女の友達ができるんだぜ!
現実のクソゲーより万倍マシだよな!!
「んじゃ、このまま授業始めるぞー」
なんて、くっだらねぇこと考えてたらホームルームも終わった。
担任の授業が一時間目か。ま、俺は勉強してもしなくても、全教科平均点しかとれねぇから誰でもいいんだけどよ。
……昔っから、こういうとこだけは俺って『普通』なんだよなぁ。どうせなら人間関係も『普通』になってくれりゃ――
「……ん?」
授業めんどくせぇ~、と思いながらさっきまで空を眺めていた視線が下を向いた直後。
自然と吸い寄せられるように、顔が窓ガラスのぶつかる手前まで近づき、目を細める。
窓越しにのぞき込んだ先に、登校時はなかった『妙な線』が地面に見えたからだ。
「なんだ、あれ?」
一番外側が緩いカーブを描いていて、その内側に複雑な模様がいくつも描かれていた。内側ってのは、俺らがいる校舎がある方な。つまり、うちの学校全体を囲うほどの巨大な円ってことになる。
んで。その時点で奇妙は奇妙なんだが、それ以上に奇妙な点がある。
「あの線、光ってる?」
太陽が仕事しまくる朝でもわかるくらい、ピカピカ光ってるってことだ。
「石灰で描いたイタズラ、ってわけじゃねぇのか……」
どこぞの中二病がやったイタズラだと思ったが、徐々に光が強くなる線に、ちょっと危機感を覚える。
やべ、背筋がゾクゾクしてきた。
小学生の時に空を見上げながら歩いてて、気づかずに犬のう○こ踏む直前に感じた感覚にそっくりだ。う○こを落とそうと半泣きで靴を地面にこすりつけたけど、帰ったらクソ怒られたっけなぁ……。
なんて、バカなこと思い出してる場合じゃねぇ。
うわっ! 光が眩しくなってから、寒気が一気に強くなりやがった!
「なになに?」
「なんだよ、あれ?」
「ちょ、誰か止めろよ!」
この頃になるとクラスの奴らも気づき始め、さっきとは別の意味で騒がしくなる。
担任は狼狽えるばかりで、何もできないでいる。使えねーなおい!
「う、っわっ!!」
そして、光の強さがピークに達し、俺たちは窓から差し込む強烈な光に目を閉じた。
それが、俺、平渚を含む、公立高校にいた人間全員がこの世界で見た、最後の光景だった。