秘密基地でお茶会!
今回は長めになりました。
適切な文字量とはどのくらいだろうかといつも迷ってしまいます。
私とヴィルとカティア様の三人は周囲が「ほかのこと」に気を取られたのをいいことに、中庭から逃げました。
ルディガー様とテオドーラ様ですか? もちろん放置ですよ。彼らは私のことなど忘れたように、「学院に王子がいる」という噂の詳細を尋ねることに夢中になっていたようでしたから。
所詮、彼らにとっての私はそれほどどーでもいいということなのです。私にとってもどーでもよいことですがね。
「それで、どこに向かわれますの?」
カティア様の質問に、私はニッと笑います。
「秘密基地ですよ」
ぽかん、と無防備に口を開けたカティア様。ああ、この人、何をするにしても可愛いな!!
私たちは学院の校舎から離れました。校舎をぐるりと囲む花壇や芝生は大層美しいですが、誰も今は目に留めていません。さきほどまでの騒ぎに加わらなかった生徒たちも、ひそひそと小声で何かを話している様子です。噂ってこんなにも早く広がるんですよ、っていう実例をまさに見せつけられている感じ。怖いね!
歩きながら今度は弟が不満げに唇を尖らせています。
「姉さん、カティア様から事情は聞いたけれどさ、なんで僕をもっと早く呼んでくれなかったのさ。僕、姉さんがどこにいたって、すぐに駆けつけたのに!」
それはそうでしょう。ヴィルにはどうも特殊なセンサーが搭載されているらしく、私が呼べば一目散に駆けつけてくるのです。
以前、私が屋敷にいて、ヴィルが騎士団で訓練中のとき試しに呼んだことがありました。結果、大成功。
姉さん、呼んだ!?と突然部屋に飛び込んでくる弟。
恐怖におののく私。
一部始終を見ていた騎士団の皆様曰く、「やつは主人に呼ばれたイヌだった」。
忠実なイヌは忠実な番犬でもあります。私に危害を加えようとする者は許しません。………おわかりでしょうか。私が弟を呼ばなかった理由を。
「まあ、それは置いておいて」
「置いていかないでよ」
ヴィルがますます不機嫌そうな顔をしますが、私は黙殺してカティア様を見ます。
「よくヴィルと出会われましたね。私の弟をご存知ではなかったですよね?」
「ええ。ですが、一目でわかりましたわ。食堂から飛び出してきましたの。フランカ様のお名前を呼びながら。それになんとなく雰囲気も似ていましたから」
「姉さんがまっすぐローストビーフの皿に突撃しないのはおかしい。なにかあったに違いない、と」
ものすごく真面目に頷いているようですが………その言い方だと私が間抜けに聞こえるよ? 事実だけど。事実だけどもさ!
「……膝が妙に疼くわね」
フランカさんスペシャル飛び膝蹴り第三弾をおみまいする時が来たか。
そう言ったものの、ここにはカティア様もいらっしゃいます。
これ以上淑女らしくない真似は避けたいのも本音。私は誤魔化すように膝あたりの裾を直します。
「言っておくけれど、ヴィル。ルディガー様とテオドーラ様になにかしようとしてはダメだからね。あの方たちは地位が高いもの。こちらから手出しは御法度なの。うちの領地とは勝手が違うんだから、暴走はナシね」
「僕をなんだと思っているのさ。一応常識ぐらいはわきまえているよ。《正面》切ってなにかするわけじゃない」
私は鋭い視線を投げました。
「裏からもダメ!」
「え~? でもさ、やられっぱなしっていうのはツヴィックナーグル家の男としては放っておけないじゃないか」
「ダメったら、ダメ!」
何度も何度も念押しをしなくてはいけません。我が弟は顔立ちは上品でも中身は「やられたらやり返せ」の家訓で育ったツヴィックナーグル家の男です。粘着質なシスコンも加わって、わりと……いや、かなり陰湿な仕返しをしかねないのです。
傍らで聞いておられたカティア様がくすくすと笑います。
「姉弟で仲がよろしいのですね」
「いいえ、そんなにも「はい、愛しています!」……弟よ、ちょっと黙っていなさい」
喜々として返事をする弟。
ドン引きの私。
にこにこのカティア様。
さきほどまでの出来事がなかったように和やかです。
私はついでにと弟に自分の口から何があったのかを説明しました。
うんうん、と聞いていて、最終的には「姉さんは全部悪くない」。
「姉さんをブタだなんていう連中はどうにかしてるよ。抱きつきたくなるほどの豊満ボディーなのに! 抱きつくとマシュマロなんだぞ。二の腕あたりの脂肪の付き具合とかずっと触っていたくなるほど柔らかいんだ。僕はそんな姉さんから離れたくない!」
「いや、離れてね? 離れなきゃ変態だからね?」
「……………」
カティア様はものほしげに私を見つめていらっしゃる。ナ、ナンデショウカ。
「………抱きつきたいですけど、この格好では」
何に? その前にコレ空耳だよね、どんな男でもイチコロになるぷっくりとした小さな唇から「私に抱きつきたい」というお言葉が漏れるわけがない! いや、嬉しくないわけではないんだけれどね? ………なぜだろう、妙な悪寒が。
あははー、と下手な誤魔化しをしながらも、私たち三人は学院の敷地内にある女子寮にたどり着きました。
学院の女子寮は、古めかしい男子寮と違ってほとんど新築になっています。
なにせ、女子生徒を受け入れるために新設されたものですからね! 水回りや厨房、部屋もろもろの設備は当然最新式。しかも女子はまだまだ人数が少ないですから、空室があるのはもちろん、一人一室は当たり前。洗濯物や掃除、食事などは学院の使用人の皆様がやってくださるし、至極快適の物件です。
欠点ですか? ま、些細なことですが「防犯」ですかね!
「さぁーて、カティア様。二階に行きますよ」
貴族のお屋敷のような白い外観を一瞥してから、正面玄関より中に入ります。
いつもどおり、吹き抜けの空間と正面階段が待ち構えています。
さすがに授業日の昼間なので、ここにはほとんど女子生徒はおりませんね。ですが、今頃部屋の清掃を請け負っている使用人の皆様が忙しく働いていることでしょう。
清掃中に立ち入り禁止ということもないので、私たちは堂々と中に入りました。
三人とも勝手知ったる場所なので、もちろんキョロキョロしたりはしませんよ!
あ、「三人とも」っていうのは誤字じゃないです。
弟はしょっちゅう姉に用事があって、と言い訳しながら私のところに入り浸っていますからね。周りの目ですか? それはそれは生ぬるくなっておりますねえ。慣れました。弟が明らかに姉目当てで通っているということで大目に見られていそうです。
それはそうと、階段を登って、右の突き当たりまで来ました。目的地到着です。
カティア様が小首をかしげました。
「ここは監督生の方が使うお部屋ですよね」
「そうですよ。男子寮に習ってつくられたそうですが、女子は人数が少ないので監督生は定められいません。なので、この部屋には主はいないというわけですね」
そう言いながら、私は左手で袖の裏を探ります。あったあった、針金。えーと、これをこうして、あーして、と。
ガチャリ。
フッ、今日の私も冴えてるぜ……。この黄金の指に開けられない扉などないッ!
私は騎士団仕込みの鍵開け技術でちゃちゃっと「いつものように」その扉を開けました。
「ではどうぞ、お姫様?」
ちょっと得意になった私は茶目っ気たっぷりに告げると、まあ、とカティア様は目をまん丸にして、嬉しそうな声を上げました。
「フランカ様はそんなこともできますのね! すごいです!」
案の定付け上がって有頂天になる私。
「……姉さんなら、泥棒稼業だってできそうだよね」
対してご機嫌ななめの弟。いじけるな。
さきほどは監督生用の部屋、と言いましたが、監督生の私室ではありません。
ただ、監督生が自由に使用することが許されているちょっとした書斎のようなところです。
監督生が許される特権の一つ、というところですね。監督生は引き受けるだけで名誉とされますが、それ以上に大勢の生徒たちを「監督」しなければなりません。
見た目ばかりはキラキラした集団ではありますが、実際のところは市井と変わりなく、喧嘩やちょっとした器物損壊は当たり前。陰湿な嫌がらせといったデリケートな問題にも首を突っ込んで恨まれることも覚悟しなければなりません。自分や相手の身分にたとえ差があったとしても。それが「監督生」の義務です。
あとは学院行事に関わったりとか、毎朝毎夕の点呼だとか、細かな雑務もあったりもしますしね!
私は頼まれたってやりたくないお役目です。
もちろん旨みだってあります。
たとえば監督生に選ばれる名誉。これは成績優秀、品行方正だと認められているということです。卒業して王宮に出仕しはじめても大丈夫! コイツ、監督生だったから優秀だぞ、と目上の方々から目をかけてもらえる。
ここ、コプレンツ王国の貴族の男子は皆アーレンス学院に通うのを義務付けられておりますからね。名前の重みがみなさんわかるわけです。
ちなみに男子寮の監督生は二人と定められております。
ひとりは(残念なことに)ルディガー様。完全に学院側が「身分負けしました」と白旗を上げているのが目に見えます。
もうひとりはまだ空席です。なんでもふさわしい生徒がいなかったとか。
ま、そのうち埋まっていくでしょう。
ここまでが余談でしたが、つまり私たちが現在お茶をすすっているこの部屋というのも、男子寮にある「監督生の書斎」を模したものです。でも監督生がいないから誰も使いません。
日当たりの良さそうな大きな窓も、ほとんどの壁を占めている本棚も、その中に詰められている雑多なジャンルの書物も、王様が使うような大きな執務机も、中央にあるお茶するのにぴったりなテーブルにソファに長椅子も。………あるのに、誰も使わないなんてもったいないじゃない?
その話を仲良しの侍女たちから聞き出した私は、こっそりと鍵穴に針金をいれて、ごにょごにょしてしまって、しょっちゅう入り浸るようになってしまいました。
さすがに気がついた年配の寮母ドルテは、女生徒の不法侵入と事を荒立てたくなかったのか、何も言わずにしれっと鍵を付け替えていました。こうすればやらなくなると思ったのでしょう。
でもその頃には私は居心地のいい「秘密基地」に味を占めていたので、再び新しい鍵開けに挑み、勝利。
ドルテは諦めずに次の鍵に付け替えます。瞬く間にコツを掴み、再び書斎に入る私。
しかも鍵開けの難度はだんだんと上がり、大いに燃えました。宿題やっているより楽しかった。
あるとき、私が書斎にいると、今まで明らかに私の仕業だと気づいていながら黙認してきた彼女が靴音鳴らしながらカツカツとよってきて、前置きもなく「参りました」と言ってきました。
なんでもこれ以上の難度の鍵を作れなくなったという。ついでに彼女のポケットマネーが今すっからかんになってしまったそうです。
そうか、あの鍵、全部ポケットマネーだったのか、と自分の不法侵入に関しては毛ほども反省していなかった私は、この時はじめて申し訳ない気持ちになりました。
それからはほとんど黙認状態です。付け替えても無駄だということがわかっていたからでしょうし、私がこの不法侵入以外に関してはいたって真面目な生徒だったからでしょう。うん、書斎の不法侵入なんて、可愛いものだよ。実家では木登りに凶暴動物の調教、山菜採りに森林地帯を一人で彷徨うなんてざらだから!
夜中に厨房に降りてきて、美味しい夜食をねだるってもないし! 淑女っぽくなっている私、すごい!
私は物思いをやめ、ヴィルがあらかじめ部屋にストックしておいたクッキーをつまみながら口を開きました。廊下にいた使用人のハンスを捕まえ、紅茶を用意させておき、その間カティア様は自室から持っていらした制服に着替えられてから、ようやくこののんびりとしたティータイムとなったわけです。
授業ですか? 一回ぐらい休んでも私たちには関係ありません。ヴィルは飛び級できるほど成績優秀、私にしたって普段真面目に学業に取り組んでいますし、カティア様も成績上位者のはずです。むしろ、来ない方が多いルディガー様、テオドーラ様、その他取り巻きよりはだいぶましなのは間違いありません。
それに、外はだいぶ大きな騒ぎになっていました。授業どころではないでしょう。
学院の教師たちは高名な学者でもありますが、決して身分が高いわけではありません。
だから、生徒を一喝して授業に戻らせることもできません。そこまで気骨のある教師はいないのです。
「だから」、生徒たちに自治が委ねられている、という部分もあります。今のところはあまり意味がありませんが。そもそも権力を渡す人間を間違えていた。ルディガー(呼び捨て)だと、傲慢に拍車がかかるだけだわ、もっとまともな人物にしておけばいいのに!
私とヴィルはカティア様から事と次第を聞き、深く彼女に同情しました。
彼、救いようがないわね。
婚姻は家同士のつながりであって、カティア様は好きになろうと努力していたようですが、相手は繕う能もなくダメダメなまま。テオドーラ様とのラブラブっぷりを見せつけるばかりでなく、彼女に追従して嫌がらせするとは。よくもここまで他人の目を気にせずバカができるのだと逆に感心しそうだわ。
「ですが、彼を増長させたのは、私にも問題があるのです」
カティア様はけなげにも胸に手を当てながら、神妙におっしゃいました。
「私は、自分の意見を言おうとしないところがありました。それになんの疑問をもたないで、ルディガー様との婚約を受け入れました。お恥ずかしいですが、気に入られようと、いつもおどおどと顔色を伺っていたのです。
ですが、それももうやめます。私、まずお父様に婚約のことを話してみることにします」
ふわふわとした外見ですが、中身は存外しっかりしていらっしゃる。
言葉にも確かに芯があって、月の下でしっとりと微笑むよりも、太陽の下でハツラツと笑う方が似合います。雰囲気が明るくなったって感じ。最初に声かけたときは、もっと儚い印象でしたのでちょっと驚きました。
「……ちょっと、僕が思っていた印象とは違うな」
隣の弟が小声でいうのに、私は同意しました。
「ご両親のほうは……?」
余計なことと思いつつ、口に出してみれば、少し顔が曇った様子のカティア様です。
「わかりません。……私、今までなにかをしたい、とか言ったことがないんです。ドレスにしても宝飾品にしても、友達にしても……気づけば誰かが決めてくれていました。これがいい?と示されたら、相手が望みそうな答えを返していました」
でも、と続けたカティア様の知的な灰色の瞳には確かな光がありました。
「両親も、屋敷にいる方々皆、そんなわたしにも優しくしてくれました。きっと説得できます。わたし、家族を信じていますから」
「そうでしたか。私も応援しております」
カティア様は嬉しそうにはにかんだ。芯の強さを見せたと思ったら、こんなにもあどけない顔もして!! ほんとに私にこの顔むけちゃっていいんですかっ、私のためってことでいいんですよねっ?
にやにやしそうになるのを無言で威圧しているヴィルのためにも、私は全力で自制心を働かせます。
なんだろ、今日の弟は厳しいね!
「それはそうとヴィル、さっきの噂って一体どういうこと? 王子が学院に隠れている、とかなんとか」
話を変えると、ヴィルはつまらなそうにため息をつきます。
これはどういうことだろうか。王子なんてどーでもいい、ということか。いやでもさっき興奮した様子で駆けてきたのお前だよな?
「午前の授業が終わった途端に、あっと言う間に広まった噂だよ。……あの時は姉さんに早く報告しなきゃ、と思ったけどさ、姉さんからその話題を持ち出されるのは嫌だ」
「なんでよ」
弟は眉をしかめながら姉を顔を見て、ますますため息。
「姉さんが王子さまを好きになっちゃうかもしれない」
は? 何言っていんだコイツ。
「なんでもさ、王子、ものすごいイケメンなんだとさ。筋肉フェチを公言している姉さんでも案外コロッとまいっちゃうかもしれない。そうなったら、僕ものすごい悲しい」
ついでに捨てられた子犬のような目で上目遣いしてきやがった。
私は声を大にしていいたい………ほんと、メンドクサイな!! どーゆー思考回路してるんだ! あれか、お前は星からやってきた宇宙人か!
「ヴィル」
私は目尻をあげて弟を見ました。
そうだ、姉は弟を教え導かなくてはならない。
弟が禁断の道に入り込もうとしたら、全力で行きてを遮り、ぎりぎりと首を絞めながら説教してやらねばならない。
常識と倫理、道徳観。そういったものが欠如しがちな弟のとんちんかんな行動を諌めるのも私の役目というものです。
遠慮してなんかしてやらない。そうしなくちゃ、自分の身がもたんわ。
「あなたの飛躍しがちな論理にいちいち反論するのも面倒だけれど、前もって言っておくわね。そんな塵ほどの可能性にグズグズしているような男は器が小さいわ。それに私はイケメンは好みじゃないのよ」
奴ら(イケメン)の貴公子が私に向ける視線というものはだいたい決まっています。
――は、なんだこのぽっちゃりが。俺とお前が並んだところで、釣り合っていると思っているのか?
もう、こんな視線をビンビンに感じるわけですね。こういったことを以前にも言われたことがあるので、あながち間違いというわけでもないわけです。
だから私は数十年後の彼らを見て笑ってやろうと思います。ハゲ散らかして、でっぷりと肥えたなれの果てを。あら、私よりも惨めになられましたわね、なんて言ってさ!! 完璧な計画だわ。
「……姉さんのその言葉には真実味があるよ。なんかさ、もうそのままでいてよ、姉さん」
どうやらヴィルも熱が冷めたようで一安心。ちょろいやつだとは決して言いません。
ちなみにヴィルもイケメンの部類に入りますが、ご家族特別割引で「イケメンでもまあ許す」というところ。その辺り、私は寛大な姉なのです。
「あのね、私が噂に関して関心を持っているのは、それが真実かどうかと、『誰が』『どうして』流したのかということよ。なにか気づいたことはある?」
ヴィルは力なく首を振った。
「いや、僕が噂を知ったのはわりと遅い方だったから、元はわからない。ルーファスやティノにも聞いてみるけれど……あまり期待しないほうがいいよ。僕ら、そういうの不得意なんだ」
別に諜報のような真似を求めていないし、知れればいいな、となんとなく思っただけなので、私も大して気にしませんでした。
蛇足ですが、ルーファスとティノはヴィルの友人たちで三人揃って、私を見て、目をキラキラさせています。これはいつか解明したい謎。ヴィルはまだ時期じゃないから、と追求をはぐらかし続けている。時期いつよ?
カティア様が口を挟む。
「わたしもなにかお手伝いできることがあればいいのですが、私もヴィルヘルム様から噂を伺いましたので……。あと、今、そういうことを気軽に聞けるお友達がいなくて……」
消え入りそうな声で告白をするカティア様。白皙の肌が首まで赤らんでいる。
もう、今すぐに両手を掴んで力いっぱい励ましてあげたい。自分でもやや入れ込み過ぎだとわかっていても、カティア様はどうも私のツボをぐいぐい突いてくるのです。物理じゃないの、心理なの。
はかなげな容姿に、強い心。ほんと、私好みで可愛い。
この子以上に、どんぴしゃだった女の子はいないんじゃない? ってぐらい。
「いえ、カティア様はそんなことを気にすることなんてありません!」
私はブンブンと両手を振りながら必死になりました。
「それに、気軽に聞けるお友達ならもういます。ここにっ! 私、カティア様の友達です! それでいいのではないでしょうか!」
力強く言った私。あっぱれ、私! 身分高い令嬢に言うにはちょっと不遜だけど! わかってて告げているあたり、ちゃっかりしているなって自分でも思うけれど!
助けただけで縁が切れるなんてことにはなりたくありません!
カティア様はちょっと唖然とされたようですが、やがて花開くようににっこりと顔をほころばせました。
「そうですね。私たち、よいお友達ですわ」
こうして私に新しい友達ができました。数十分前には考えられなかったことです。
いやまったく。今日は波乱万丈な一日です。