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学院となつかしき面々

 ツヴィックナーグル家を出発する直前。


「ミーチャぁああああああ!」

「ワウッ。ウォンッ!」


 愛してやまない私の狼、ミーチャと再会。白銀の毛並みは相変わらず極上すぎて、埋もれて寝てしまいたかったですが、そこは我慢我慢。


「テオ。みてごらん。あれが野生児なんだよ」

「あの子、頭おかしい……。巨大な獣に襲われているのに笑っているわ……」


 後方でこそこそと話す声が聞こえましたが、聞こえないふり。ミーチャは「遊んで遊んで!」と尻尾を振って目をきらきらさせていますが、哀しいことにまたしばらくお別れなのです。

 涙の別れを済ませると、今度こそ馬車の止まる車寄せまでやってきました。見送りに来たおじいさまに、ふと聞いておきたいことを思い出しました。


「……おじいさま。私に婚約者っていないよね?」

「やっと聞いたか」


 おじいさまはにっと笑います。あ、嫌な予感。


「安心しろ。昔、この騎士団のやつらを半殺しにし、ヴィルもこてんぱんにした挙句、お前の婚約者を勝ち取った男だ。この騎士団の長も立派に務められるぞ! わっはっはっ」


 顔からさあっと血の気が引いていくのがわかります。ぎゅっと拳を握りました。


「かくなる上は私自身で倒すしかないのね……」

「フランカ。お前がそうしたいならかまわんが、難しいぞぉ。わしとも互角にやりあえる強さを持つし、何よりお前に惚れ込む男だぞ? 一筋縄で行くわけがない!」

「……ちなみに確認だけど、その相手は今どこに」

「あ? 学院に決まっているだろう。前、お前に会いたくなったからと追いかけていったからなぁ。愛、だなぁ……」


 おじいさまは遠くを見ました。私も現実逃避したいよ!

 無理だよ! 厳しいよ! だって私好みの筋肉じゃないし!

 見るたびに自分の生存本能がやべえと警鐘鳴らしてるもん!


 テオドーラが、驚いたように私を見ていました。


「ねえ、もしかしてその相手って、パ……」


 その肩をぽんと叩いたのは憑物が落ちたような王子様。言ってやるなと首を振ります。


「フランカはまだ夢を見ているんだよ。狼には食われないとさ。……頑張って飼いならせよ、食われながら。あと、君の相手はギルシュの王子の一人だからもれなく王子の妃にもなる。玉の輿だね」

「嬉しくない!」


 知りたくない事実です。やっぱり野生のカンは当たっていました。ああ、もっとごっそりフラグを折りまくっておけばよかった。

 一瞬、力尽きたような気持ちになりましたが、腹を括ります。フランカ、自由のために戦います! 明日の筋肉と肉のために。


「さっさと帰りましょうか。学院へ。ちょうど卒業前のパーティーもあるし、舞台としては最高よね……。そこでやつをぎったんぎったんに打ちのめしてくれる……」


 悪役そのものの顔をしながら私はまだ見ぬ敵を殲滅することを誓います。そう、やつは敵。私の平和を脅かす敵なのだ!







「ねーえーさーんーッ!」

「うぎゃ」


 姉さんは弟に道端で押し倒されました。大の男にのしかかられるんだからそりゃあ重い。というより学院の門をくぐってすぐにこれ、ということは……。

 フランカ! 女性の声が響いたと思ったら、カティアとイレーネが私を覗き込んでいました。


「大丈夫ですか、フランカ……え?」

「おかえりなさい……へえ」


 二人とも目を丸くしました。


「どうかした?」


 すると弟がしくしくしくと泣き出します。


「姉さんのお腹の肉がなくなっている……僕の努力の結晶が」

「あぁ、そういうこと」


 弟を引きはがし、すくっと立ち上がります。おぉ、身体が軽いぞぉ!


「ふっふっふ。これから人生をかけた大一番が待っているんだもの。体調も万全にしておきたいじゃない?」

「大一番? 何かあったかしら」


 不審そうにイレーネが言いました。


「卒業前にある恒例のパーティーで張り切る柄でもないでしょ」

「ううん? 張り切るよ。だってこのまま卒業なんてできない。このままなし崩しに結婚させられるなんてありえないもの。大勢の前で跪かせて『今後一切近づきません』と誓わせないと気が済まない」

「フランカ。話が見えないんだけれど」

「私の人生の問題だから」


 一方のカティアは「フランカが、結婚……結婚、けっこん、血痕?」と泣きそうな顔になっています。美少女の涙。猛烈に謝りたい気持ちになりました。


「あきらめればいいのにー」

「それならテオドーラ! 今から二十歳年上の脂ぎったおじさんと結婚したいと思う!? 相手はあんたの体目当てよ、若い肌を堪能したいのよ!」

「やめて! 無理!」

「そういうこと!」

「どういうことさ」


 事態を見守っていたテオドーラとクレオ―ン。旅の間にすっかり気を置けない仲間……とまではいかないまでもぽんぽんと会話が弾むようになった二人が話に入ってきます。

 テオドーラは元から学院の同級生なのでともかく、クレオ―ンと初対面になった面々は彼の美貌にあんぐり口を開けました。


「な、な、な……。あれは、受け、それとも攻め!? 竿、竿っ? 薔薇だ、薔薇の花びらが舞っているわ! 禁断の恋に落ちるのは……きゅう」


 脳の思考回路が振り切れてしまったイレーネが卒倒し、そこを婚約者のディータが身体を支えます。イレーネ、静かに退場。お疲れ様でした。


「お気の毒に」


 召使ハンスとして学院にいた王子様も、彼女の性癖は前もって知っていたらしく、眉根を少し寄せるだけで済ませます。


「僕はクレオ―ン。……うん、引きこもりだった君らの同級生の一人なんだ。卒業まで短いけれどよろしく」


 彼はそつのない言葉とはうらはらに、おずおずと握手の手を差し出しました。それを見て、ああもう大丈夫だなと直感したのです。本人には言わないけどね。

 彼らの対面が済んだところで、私は卒業前のパーティーでどんなおめかしをしようか考えているであろう彼らに、自分の決意を述べることにしました。


「今のうちに言っておくね。たぶん、私、パーティーを台無しにしちゃうかも。ごめんね?」




 ちなみに。私の婚約者(仮)なパルノフ先生は、私のいない間に学院を去っていました。でも私の考えはお見通しだったのか、侍女のアドリネを通じて伝言を残していました。

 曰く。


『パーティーで迎えに行く。最後の機会チャンスを与えてやろう。それまでさらばだ、俺の花嫁』


 とのこと。偉そうできざったらしいやつである。今のうちに油断しとけ、寝首をかききってやる。







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