王子さまはクズかった。
短いのはリハビリ中ということで一つお許しくださいm(__)m
尾行を開始したのはいいけれど。
……寒いね、やっぱり。
風が全力で冬を主張しているよ。
外套をきっちり着たところで防寒度には限界があるしなあー。しばらく動けば身体が温まってくれるのを待つか。
と思っていたけれども。これがまったく動けません。前を行く尾行対象がちっとも動いてくれないから。
最初は順調そうに見えました。二人仲良く寄り添った光景はさながら道ならぬ恋に落ちた駆け落ち中の男女。ぴったり寄り添いあって、まー仲のよろしいことで。
が、途中何があったか口喧嘩をしている模様。声までは微妙に聞こえない距離だからもどかしいな。もうちょい近づいてみてもいいか。
不審者よろしく物陰に潜んでいた私がそろそろと動き出したところで、いかにも柄の悪そうな男たちが二人を通せんぼ。
テオドーラが何やら怒っているな。あの様子だと大方、「そこをおどき! わたくしを誰だと思っているの!」っていうところだろうな。
案の定、男たちは逆上する。そりゃそうだ。こんな夜遅くまで出歩くのは酔っ払いか破落戸の類だよ。無事にやり過ごせるわけがない。
それもテオドーラが若い女性ならなおさら。
さあ、王子さまはどうするかと思いきや……差し出したよ。テオドーラを。
表情から察するに、「好きにしてもいいよ。お金をくれるなら」かな。男たちから金が入っているらしき巾着を受け取っております。
そして取引成立とばかりに握手。すぐさま一人で歩き出そうとしている様から見て、助ける気はさらさらないようですね。
うわー、クズの所業を見たよ。
泣き叫ぶテオドーラ。さすがに気の毒になってきたな。
尾行もここまでにしておこう。
えーと、武器になりそうなものは……あったあった。
適当な小石を手に取り、大きく振りかぶってー、投げる!
「痛っ!」
テオドーラの腕を掴む破落戸の一人が片手を押さえてうずくまる。よし、もういっちょ。
「うわっ」
「いっ!」
続けて二人をテオドーラから遠ざけた。
そして叫ぶ。
「走れ!」
テオドーラは一瞬迷ったようですが、それでも危機回避能力が働いたのか、こちらに向かって駆けてきます。
「も……ゲホッゲホッ、もっと早く助けに来なさいよ!」
非常に理不尽な要求付きで。いやね? 助けただけマシだと思うべきだと思うの。普通ここに私がいるわけないじゃん。あなた、自分の立場わかってる?
色々言いたいことはあったけれども、とりあえず体力なくて息も絶え絶えのテオドーラの背中を無理やり押して、宿屋に帰りました。
「ああ、お帰り」
フレンドリーに王子さまがスタンバってました。お金の入った袋を片手ににこやかな笑顔付きで。
真の悪党はこんなところにいたよ。
テオドーラは王子さまの怖さが身にしみたのか、私の背中に隠れようとした。彼女が小声で囁くに、「あの男から私を守りなさいよ!」だそうである。素直に助けてくれといえばいいのに。
「君のおかげで随分と儲けられたよ、ありがとう。フランカ・ツヴィックナーグル」
その一言ですべてを察しました。王子さま、私がいたことに気づいていたんだね。
それにしても、クレオーン王子。やり方が随分えげつないんじゃありません?
私は尋ねてみました。
「もしも私がいなかったとしても、同じことをした?」
うん、とクレオーンは何の躊躇いもなく頷きましたよ。
うん、わかったわかった。
私は王子さまに笑顔のまま近づいて……
「ぐうっ!」
鳩尾に鋭い一撃をお見舞いしました。
やり過ぎてゲーゲー色々吐き出している王子さま。ざまあみろ。
もちろんお金は回収させてもらいました。旅費は多いに越したことはないものね。




