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なんとなくの勘は意外と当たる。

短いです

 奇妙な四人組を乗せた馬車は街道をひた走ります。王都をあっさりと通り過ぎ、しばらくはのんびりとした田園地帯を走っていると、ぼきっと嫌な音がして、馬車が止まりました。


「あ、すんません。車軸折れたんで予備のやつに替えますんでちょっと待っててくだせえ」

「ええ、お願いするわ」


 馬車の小窓をちょっと開けたジャヌ姉さんと御者が話をしています。それから彼女はにっこりと万人の男をとろけさせるような極上の笑みを浮かべ、


「私たちも一旦外に出て休憩するわよ。ほら、出なさい」


 有無を言わさず他の三人を叩き出しました。

 案の定、周囲は畑ばかりが広がり、びっくりするほど何もありません。


 けれど、空気は清々しいですな。大きく深呼吸してー、はい、いーち、にーい、さーん。


「どうぞ、テオ」

「まあ、ありがとうございます、殿下」


 隣で馬車から降りるために手を貸してもらっているテオドーラと恭しく手を差し出している王子が甘ったるい空気を醸し出している。ねえ、私の横でわざわざふりまかないでもらえる? ちょっと臭すぎるから。うっかり胸倉つかんでぐいぐいやりたくなるから。


 まあ、でもいいか。調子乗っていられるのも今の内だと思えば。ちょっとぐらいのことには寛容になってやろうじゃないか。


 私はちょこちょことジャヌ姉さんの方へ寄り、今もいちゃいちゃしている二人を見ながら、


「……あの二人、姉さんにはどんな風に見えてる?」

「詐欺師と被害者」


 手元の扇で口元を隠したまま、姉さんはうっそりと笑います。


「でも、被害者もただの被害者じゃないわね。被害者も詐欺師を騙そうとしている。結局、どっちも詐欺師ね。ただ、詐欺師の方が自分の思い通りの結果を得られるから、被害者は被害者のままってところ」


 馬鹿なだわぁ。非常に毒々しい笑みをくださった姉さん。


「フランカちゃんはどう思って?」

「姉さんと同じだよ。……王子さまには詐欺師の才能があるってこと。ただの平々凡々な男だったら、普通に王さまの庶子として静かに暮らせたかもしれないけれど、あんなに癖の強い王子さまならどう扱うか皆困ってそうだよね」

「王子さまは王さまになりたいのかしらねえ」


 ジャヌ姉さんはここで何やらひそひそと親しげに会話している二人をちらりと眺め、面倒そうだから近づきたくないわぁ、とまさに私が思っていることと同じことをおっしゃってくださった。同志!


「あそこの二人、次にどんな行動をすると思う、フランカちゃん」

「あー……厄介ごと起こしそうだよね。まあ、でも多少のことなら驚きはしないわよ。多少なら自分でどうにかするし」

「あら。さすがツヴィックナーグルの女ね」

「姉さんだって血筋は引いてるでしょ。お互い様よ」


 ジャヌ姉さんはしっとりと微笑みます。……こんな美人と親戚とは誰も思わないよね、普通。

 でも、実際に血筋はばっちり繋がっていて、ツヴィックナーグル家から何代か前に分家した家がジャヌ姉さんの生家で、両親が亡くなって貧乏に喘いでいたのを主家のツヴィックナーグル家……おじいさまが助け、その恩を返すためにジャヌ姉さんは高級娼婦として働くことを決めたんだとか。

 

 ジャヌ姉さんはツヴィックナーグル家のために働いている一人で、孫娘の私のことも可愛がってくれていましたよ。……本当によくその豊かな胸の谷間に顔を埋めたものですよ。不可抗力だけど。柔らかかったけれど!


「ふふ……。フランカちゃん、賭けてもいいわ。あの二人、近いうちに何かしでかすわよ、きっと」

「うん……私もそんな気がしてる」


 ツヴィックナーグルの血を持つ女が二人そろって同じことを考えれば、異常なほどに当たりやすい。






 事が起こったのは宿屋に泊まったその日の夜のこと。

 隣のベッドで寝ていたテオドーラが一人起き上がり、私と姉さんの枕元辺りでがちゃがちゃと音を立てた後、部屋を出ていきました。

 一人分の足音が二人分となって、階下に向かって降りていきました。


 足音の主はテオドーラとクレオーン。


 静かになった部屋の中、私はぱっちりと目を開きました。


 ……何をやらかすかと思って寝たふりをしてみれば。



 逃げやがったよ。……それも綺麗に金目のものを持ち出して。

 私はため息とともにベッドから起き上がる。私は小声で、もう一つあったベッドの主に、


「……姉さん。ちょっと行ってくる」


 ベッドから白魚のような手がひらひらと振られたのを見て、私は尾行を開始することにしました。






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