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脅していません、いやホント。


 持ちかけたはいいもの、正直言って、どこまでのってくるかは私にもわかっていません。雰囲気に呑まれず、嫌だという人もいてもおかしくないです。イレーネは友達のよしみで上手く丸め込まれてくれたけれど、少なくとも、ルディガーあたりは容赦なく話を蹴ってきそうだと思ってますよ。


 そもそも、私が何でも言うことを聞くって、あいまいだもんなぁ。もちろん何を言ってきたって叶える気はあるけれども、「私に」叶えてほしいことがあるとは思えないというか。うちのヴィル君だとしてきそうなお願い事はかなりはっきりしているので、逆にこんなこと言えないんだけれどね。後が怖いんで。


 真っ先に手を上げたのは、カティアでした。彼女はものすごく真剣な顔で、私の顔を見つめてくるのですが。そのうち私の顔に穴が開かないでしょうかね。


「質問です、フランカ!」

「えーと、何でしょう」

「本当にっ! わたしの言うことを何でも一つ叶えてくださるんですねっ!」


 どうしよう。カティアの食いつきが半端ない。私は何も選択肢は間違ってなかったよね!?


「まあ、一応は」


 言ったものは仕方がない。女に二言はありませんよ。

 カティアは頬を紅潮させる。なんだろう、可愛らしい。恋する乙女って感じで庇護欲がそそられますよ……。


「わたし、フランカと二人きりでお泊りデートしたいです! 我が家の別邸にお招きするんです。昼はお花畑でのお散歩を楽しんで、夜は星空を眺めながら、二人は……ああ! この先はとても言えません……!」


 しまいには両手で赤くなった頬に当てて、もじもじとしています。

 幸せそうで何よりですね。しかしですな、カティアさん。それは「デート」とは言わずに「友達とのお泊り会」でいいんじゃないでしょうか。

 あと、周りを見てください。隣のルディガーがドン引きしてるんだよ、実は。何も言わないけど、「おまえ、誰だよ」みたいなことを目で語っているんですよ。


「とりあえず、条件を満たしてから考えようね、カティア」


 さらっと流します。


「他の人はいかがでしょうか。さっきは飴はなくて、ムチばかりと言ったんだけれども、考えようによってはこれは飴に代わるとは思うんだけれど。……少なくとも、自分のためにもなるし、悪くない話だと思うの。どう?」

「いいんじゃないだろうか」


 すぐに反応を示したのはルディガー。意外だ。


「……暇、だからな」


 なぜ私からあからさまに視線を逸らすんだ。何かやましいことでもあるのか。


「僕たちは、お姉様が何かしてくださるだけでもありがたいです。なあ?」


 他男子三人組を代表して、ルーファスがそうまとめます。

 なら、予定通り、全員参加ということですねー。りょーかいりょーかい。ならばさっそく。

 私は、場を仕切るように、パンパン、と二度手を叩く。にやり、と悪役じみた笑みを浮かべる。


「では、みなさん。……覚悟していてくださいね?」


 ツヴィックナーグル流のお勉強会のはじまりですよ。




教師役が三人だから、勉強会も三つに分けました。と言っても、互いに声が届きやすいところにいるから、大体どんな様子がわかるんだけれどね。


グループその一。ヴィルヘルムとその愉快な仲間たち二人。


「お姉様と一緒の方がよかったかも……なあ、ルーファス」

「そうだねえ……ティノ」

「あのさ、僕が姉さんに君たちを近づけさせると思っていたの。そんなわけないだろ。……ほら、そこ、綴りが間違っているぞ。この言い回しもよくない。変えろ」

「暴君がいる……」

「変態がいる……」

「僕の部屋にはさ、馬用のムチがあるんだよ……試してみたい?」

「黙ります」

「すんません」


 本人たちとしては大変そう、第三者としてはある意味楽しそうな組み合わせ。




グループその二。イレーネとディータの婚約者コンビ。


「久しぶり、ディータ。さっそくだけどあなたの成績ってどのくらい? 首席取るまでの距離をはかるためにも教えてもらいたいのだけれど」

「本当に「さっそく」って感じで、今とてもびっくりしているよ……。あ、えと、この際、言っておきたいのだけれど、ジェームズと僕は」

「いいのよ、それは言わなくて。……そういう気持ちって胸に秘めておくものだわ。頑張って。私、応援しているわ……心から」

「……うん。ありがとう……?」


 こちらは摩訶不思議な会話になっていた。イレーネの顔が生き生きしてるよ。

 だが意外なことに、この組み合わせだとイレーネが年上のせいか、ディータは前に強く出られないらしいことがわかった。それだけでも収穫かも。



最後。グループその三。私、フランカと元婚約者二人。……どうしてこうなった。


「お前……あの二人のいるグループに割り振られたはずじゃなかったか」

「あなたには関係のないことです」

「生意気なことを言うようになったものだな。以前の方が男が寄ってくるだろうに」

「今、殿方のことはどうでもよろしいのでは? それよりも、ルディガー様。近頃、フランカに近づきすぎじゃありません? どういうおつもりですか。フランカを利用するつもりでいらっしゃるなら許しません」

「手なずけられたものだが。……お前には、何にもできないだろう?」

「それはやってみなければわかりませんでしょう? ルディガー様?」


 ひたすら殺伐してるなー。現実逃避したくなるなー。

 この二人って間違っても一緒にしちゃいかん二人だと思うんだけど。なにせ、まったく円満な別れ方をしなかった元婚約者同士なわけでして。

 本来は私とルディガーの組み合わせでした。何せ、この中でダントツに成績が悪いのは彼だったから。一番厄介そうな物件だったので、私に割り振るのが正しいと思ったのですよ。ヴィルには三人見てもらわなくちゃいけないこともあったし、そもそも相性が悪すぎることはわかりきっている。イレーネにはやはり婚約者を相手にしてもらった方がいいし、となると。結局、私が面倒を見た方がいいんだよねー。

 カティアには、イレーネたちが上手くいかなかった場合の潤滑油的な役割をしてもらおうかなあ、と。いらない心配だったんだけれどね。うん、潤滑油って私のことだったんだな!? 無茶いうな!


 私はため息をついて、イレーネ、と友人を呼びます。私と彼女とはそれなりの付き合いになるので、目と目で意思疎通した。


「はいはい、カティアは私たちと一緒だから、よろしくね」

「えっ、待ってください! だって、そこにはルディガー様が……!」

「フランカがそうそう負けないから大丈夫……しっかり、『調教』するだろうから」


 カティアはイレーネにずるずると引っ張られていった。これでイレーネ、カティア、ディータのトリオ。……よかったな、ディータ。君の好きそうな両手にお花さん状態だよ。だから視線で私に助けを求めてこないでくださいね、こっちも手一杯なんで。


 そして私はルディガー様の『調教』開始です。……いやあ、よかったですね、ルディガー様。ダンスと同じくマンツーマンレッスンですよ? 嬉しいでしょ? 今回は私が教える側ですが。


 私はルディガーを正面から見据え、にっこり笑ってあげました。笑顔、大事だよね。


「ルディガー様。ツヴィックナーグル騎士団の通過儀礼は、三日間水だけ生活の飢餓体験から始まります。集められた騎士の卵たちに一番に教え込まれるのは空腹の感覚です。これを我慢できないようなら、戦場では何の役にも立ちません。ぶーぶー文句垂れて、ふんぞりかえるようなお貴族様って、これしきのことも耐えられないんですよね。それで今まで何人もの連中が中央に送り返してきました。……勉学の神髄は根気だということと、どこか繋がっていると思いませんか?」

「な、何が言いたい……」


 見た目はきらきらした貴公子でいらっしゃるのに、明らかに脂汗を浮かべて背中をそらせるルディガー。いいんですよ、そんなに顔を引きつらなくても。だって、あなたは戦士じゃないものね。なまっちろいお貴族様にはそれ相応のやり方を通させてもらいます。


 まさか、公爵令息がたかだか伯爵令嬢(一応)のレッスンについてこられないなんてことはないでしょう? ないですよね? だって、国の一角を担うはずなんですもの。


「頑張りましょうね、ってことですよ」


 フランカ・ツヴィックナーグルは弱者には優しい仕様になっております。親身に教えますよというスタンスでその両手を軽く上から包む。……決して相手を逃さないための手錠ではないのですよ、決して。


「お、おう……」


 ルディガーは握りこまれた己の両手を見て、観念した。





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