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友達って……大事だよね。

 次の日の放課後、私は頼もしい軍師を従え、サロンへ。

 学院の生徒たちでにぎわうサロンですが、その一角だけは異様な雰囲気に包まれていました。


 なぜならそこにあったはずの白いテーブルは片付けられていて、代わりに、長机が四つ、四角を作るように並んでいたから。それだけでもおかしなことだけれど、さらにそこに座る人々は学院でも名が知れた人物たち。しかも、あまりにも意外な組み合わせと思える二人が普通に同席していた。なんだなんだと周りが遠巻きにするのも無理はないよね。私もまさか彼がここに来るとは思ってなかった。


「お待たせいたしました。集まっていただきありがとうございます。今回の勉強会の主催者、フランカ・ツヴィックナーグルです。こちらはスパルタ講師のヴィル君です」

「どうも、スパルタ講師のヴィル君です。姉さん以外にはスパルタします。姉さんにはスイーツ男子でいくのでよろしく」

「ちょっと待って、干しイモぐらいの接し方で勘弁してもらいたいのだけれど」


 じっくり噛まなきゃ味が出てこないぐらいでちょうどいいと思うの。


「干しイモって姉さん好きだった? なんだったら今度作るよ。山盛りで」

「いい。そこまで好きじゃないから」


 諦めた。弟には諦めが肝心だ。たまに忘れそうになるけれども。

 そして二人で空いた席に揃って座る。私は集まった面々を一人一人見ながら、淡々と、


「ここに来られたということは、覚悟があるということでよろしいですね。テスト前までに成績を上げるためには、どんな苦労を辞さないと言う覚悟を……」


 重苦しく語り始めた言葉に戸惑うような空気が漂う。

 そうだよね、誘った時の私の声のかけ方ってこうだもん——「今度テストあるから、皆で勉強会しましょうよー」


 紙よりもぺらいノリなのに、いきなり覚悟云々言われても困るよね。うん、わかるわかる。でも——ごめんね。お茶会はさみながらの優雅な勉強会にはなりません。

 

「この勉強会には飴はありません。基本的に、ムチ、ムチ、ムチ、疲れ切ってもさらにムチです。もう嫌だと逃げ出そうとしても、私はムチを持ち、笑いながらその人の背中を追いましょう。まず間違いなく捕まえられます。キチガイとは思わないでください。これはツヴィックナーグルズブートキャンプの勉強版なのです。このしごきに耐えられた方を、私はほめたたえましょう。これであなたも立派な学業戦士。胸を張ってヴラジミール大学の門戸を叩いてください。実務官僚としての道が開けるでしょう」


 げっと顔を引きつらせる彼ら。……駄目だよ。逃がさないよ。私、笑顔で追いかけちゃうよ。ムチ持って。


「フ、フランカ……。一体、急にどうしちゃったの! なんだか目が怖い!」


 イレーネの動揺が凄まじい。その隣のカティアは高速で目をパチパチさせた。え、そんな特技があったんだ。


「お、お、お姉様……! 我々のためにそこまでしてくださるのですか」

「ならば、その期待に応えてみせましょう!」

「あぁ、やはりお姉様は素敵な方ですね……。今日という記念の日にもう一度この一輪の薔薇を」


 ティノ、ルーファスは戸惑いから一転、やる気に満ち満ちたように頷いていました。普段ヴィルに鍛えられているためにこのぐらいの珍事はたいしたことがないということでしょう。……間違ってもマゾだからとか言うなよ?


 そして、薔薇をくれたキザなやつ。やつの名前はディータという。そういえば、やつがイレーネの婚約者だったんだっけ……。

 私は押し付けられた赤い薔薇をイレーネに手渡した。


「なぜ私に?」

「これでノーカウントということでよろしく」

「何をっ」


 誤解、よくないよね。婚約の邪魔はしませんよ、わたくし。


 イレーネは不審そうな顔を向けてきましたが、諦めたように受け取りました。きちんと棘が抜かれていたので、手慰みに匂いを嗅いでみたり、両手で持ち替えてみたりしています。意外と気に入っているらしい。


 弟は頃合いを見て、口を開きました。


「ではさっそく、学院のっとりのための第一段階の説明を……」


 しょっぱなから大嘘をつくな、弟。

 机の下で弟の足を蹴って止め、自分で言うことにします。


「それは冗談として。あ、飴なしの勉強会は本当の話なんだけどね。次回のテストが近いでしょ。だから皆で頑張ろうってこと。目標は全員が私よりも上位の成績を取ること。二年生組は主席争いしてね。どう? 簡単でしょ?」


 皆やればできる子って私知ってる。死ぬ気で頑張れ。


 じっと話を聞いていた最後の参加者——なぜかこの話を持ちかけた時に横から割り込んできた公爵子息ルディガー様が、組んでいた腕を解いてこちらを見てきました。え、何よ。


「……お前の成績ってどのくらいだ?」

「この間は学年次席でした」


 ルディガーがすさまじい顔に。……あー、もしかして知らない人がいたりして。成績の優劣で何か決まるわけじゃないから、成績掲示さえ身に行かない人も多いって聞くもんなぁ。


「ちなみに首席は僕だったり」


 弟がさらにいらんことをいいやがった。傷口に塩をぐりぐり塗りこむような悪意があるなー。ものっすごく自慢げだもん。きっと私とルディガーがダンスで組んでいるのが気に入らんのだな。


「あー、あなた、成績はよかったものね……次席とまでは知らなかったけれど」

「あの、イレーネ。感心しているところ悪いんだけどさ」


 私、あなたに言っておかなくちゃいけないことが。たぶん、この口調からして知らないだろうから言いますよ。


「次席の次の第三席……つまり、学年で三番目の成績優秀者はイレーネなの」


 彼女は一瞬押し黙って、そろそろと自分の顔を指し示して、


「……え、私、そんな感じだったかしら」


 そんな感じなのよ。


「あー……。掲示板は普段見ないものだからあんまり気にしていなかったわ」

「うん、わかってよかったよね」


 私は座ったままで隣席のイレーネの肩をぽんと叩いてやりました。


「ということで、あなたも教える側の人間に加わってね」

「聞いてないっ」


 いや、だって。マンツーマンは無理でもさ、できるだけ少人数態勢で教えた方がいいと思うのよ。一人、ずば抜けて成績が心配な人がいるからさ。

 イレーネは両手で顔を覆って、はあ、と溜息をつきます。


「そうよね……。フランカってたまにとんでもないことやらかすのよね。まさか私も巻き込まれるなんて……」

「お互いにベストを尽くしましょう、イレーネ。一応、ご褒美も用意してあるから」

「ご褒美って何です?」


 カティアが無邪気に尋ねてきました。もちろん答えましょう。


「常識的な範囲内で、という条件付きだけれど、もしも私、もしくは弟よりも優秀な成績を取った場合――二年生の場合は主席ね——私は何でも一つ、言うことを聞く。お菓子詰め合わせを頼んでもよし、ドゲザさせてもよし、一日侍女でもよし! さすがに一生従属とかは不可能だから無理ね。……こんなところでいかがでしょうか、みなさん」


 私は周囲を見回しながら、そう持ち掛けたのでした。

 




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