表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/55

《小話》 それぞれの休日 ~三点詰め合わせ~

三者三様の休日の過ごし方について

姉さんに置いてかれた。

朝、女子寮を訪れた時にはもう出かけた後だった。行き先もわからない。


最初は、イレーネ嬢かカティア嬢と遊びに行ったものだとばかり思っていたのだ。

でもよくよく話を聞けば、カティア嬢は一人で実家に帰ったと言うし、イレーネ嬢は寮にいると言うし。


どうやら侍女一人を連れて行ったようだが、彼女がどこまで役立つかわからない。

姉さんのバイタリティについていける者はなかなかいないだろう。主に食方面においては。

美味しい肉を求めて突っ走ってしまって、はぐれでもしたら。

姉さんは丸々とした愛嬌のある体型に、愛くるしい顔立ちをしているからどこかの男に声をかけられるに違いない。


お嬢さん、美味しい肉のある店をご紹介しますよ。


これで一発だ。我が姉ながらこれはいただけない。

いくら騎士団仕込みの護衛術などを習っていても、使い物にならない時だってある。

基本的に楽観的思考を持ち合わせ、万事なんとかなるだろ、と思っていそうだからなおのこと。


やっぱり心配になってきた。


でも、外出届は前日までに出すことと決められているし、イレーネ嬢もカティア嬢も行き先がわからないというのだ、今日は学院でおとなしくするほかない。おとなしく……。


「ひ、ひいぃー!」

「お、お助けをっ!」

「大魔神ヴィルヘルム様。どうか我らに慈悲を賜りますよう、ひらに! ひらに! お願い申し上げます!」


おい、そこ黙ってろ。僕がヒトデナシみたいじゃないか。


「稽古をつけてくれというから相手をしてやっているってのに……」


相変わらず、どいつもこいつも軟弱なままだ。

姉さんに縋り付かないことを選んだのなら、もっとしっかりするべきだろうに。

元「お姉さまを愛でる会」の面々が死屍累々の体で鍛錬場で伸びているのを見て、ため息。


皆木剣を構える元気さえ失くしたようだ。僕の方は鬱憤をもっと晴らしたいのだが。


「なー、当り散らさないでくれよぉ」

「これでも必死なんだぁ」


ルーファスとティノがよろよろと立ち上がった。

この二人はさすがに「愛でる会」でも幹部を張っていただけあって、根性だけはあるようだ。

会が解散後に二人は僕に敬語を使うことをやめると言い出した。対等の友人の証だと告げて。

追従することをやめた二人はちょっとだけ面構えが変わった気がしていたが、どうやら気持ちの上でも変わったものがあるようだ。

僕はそんな二人が嫌いではない。


「さ、ではまた行くぞ。二人ともかかってこい」


だからといって八つ当たりをやめるつもりは毛頭ないが。

木剣を構え、二人の動きを観察しながら攻撃を――――ん?


ピン、と弓矢の弦が切れたような感覚がした。

ついでもわもわと雲のように胸に広がる不安感。

まさか。

姉さん?


いてもたってもいられなかった。

しかし! 学院から出られない!


「えーと? どうしたんだよ、ヴィル」

「急に動きを止めちゃってるや。今のうちに攻撃しろってこと? わざと隙を見せているの?」

「……ちょっと」

「「ちょっと?」」

「ちょっと走ってくる」


猛然と駆け出した僕に皆が口をあんぐり開けていた。

我ながら妙だと思うが、それでも走る。

走れば無心になれる。駆けつけたくても駆けつけられない歯がゆさも少し和らげられるだろう。

走れ、ヴィル。


誰かがぼそりと呟いた。

脳筋……。








「脳筋……」


思わず呟いたのは、私イレーネだ。

私は鍛錬場にいた。ずっといた。スケッチブックを片手に、男たちがくんずほぐれつ攻めたり攻められたりしているのを観察して、脳内で妄想を繰り広げていた。至高の幸せってやつは男二人でこそ形になる。


今はフランカの弟君が少年たちに一斉に襲われる妄想をしていた。あの子に知られたらきっと殴られるから言ってない。メルパルの次に、ヴィルヘルム君の絡みが好きだとか。一対多数の妄想がたぎって仕方がないとか、絶対言えない。だからこのスケッチブックは彼女に見せることのない御蔵物件だ。フランカがいる時には絶対に開けない。


でも鍛錬場に来れば絶対に描きたくなるから、フランカが行く時は絶対についていくまいと決めている。

フランカが外出中の今日は絶好の写生日和なのだ。しかも、ヴィルヘルム君がここにいるという超レアデーだ。フランカ、幸せなプレゼントをありがとうと感謝していた。


「今頃、フランカも楽しんでいるのかしらね……」


あの子のことだから、どこかで食道楽しているに違いない。

妄想の主役がいなくなった舞台には、まだまだ役者がたくさんいる。互いに助け合いながら立ち上がっている。……その「美しき」友情に、乾杯。


スケッチブックの新しいページを開いて、再び木炭を持つ。

鍛錬場のほとんど目立たない物陰から再びスケッチ開始。


――イレーネ・クリッチュ。趣味は、絵を描くこと。











「ただいま戻りました、お父様」

「お帰り、カティア」


我が家に帰るのは二週間ぶりです。

シュテルツェル侯爵家は領地を持たない宮廷貴族なので王都に本家があります。

休日のたびに戻ってきますから、久しぶりという感じはありません。



「学院ではどうだね。いじめられたりしないかね。新しくできたお友達は親切にしてくれるか?」


お父様は数年前にお母様を亡くしてしまったせいか、とても心配性です。年の離れた二人のお兄様が家を出てしまってからは特に悪化してしまったようです。本当はわたしを学院に入れたくなかったぐらいですもの。


「大丈夫です、お父様。フランカとイレーネはとてもよくしてくださるのよ。フランカはね、ルディガー様から私を庇ってくださったの。私、あの方からたくさん勇気をもらったの。だから大丈夫よ、お父様。わたしはもう大丈夫」


ちょっと笑うと、お父様ははっとした顔になり、やがて目を潤ませてしまいます。

泣かせたかったわけではなかったのですけれど……。

白髪の混じった男性が子供のように服の袖で涙を拭う光景に申し訳なさがつのります。


私はずっとお父様のことを曲解していたのです。

お父様はちゃんとわたしの話を聞いてくれるし、わたしのことを思ってくれます。別段、何かを押し付けようとする人ではなかったのです。

すべては私が何も考えようとしなかったから。それがいいことだと思ってしまった私は、きっと子どもだったのです。


「お前から手紙をもらってからというもの、ずっとカティアに無体な婚約を強いていたと思うと、自分が情けなくてたまらんのだ。私の目が節穴だった。いつかどうにかなるだろうと楽観しすぎていたのだ。とうにそういう問題じゃなかったことに気付かなかったのだよ」


最終的に執事に差し出されたハンカチで目元を拭ったお父様は赤い目のままで言うと、そのまま両肩に手を乗せました。


「お前の幸せを最後まで祈っていた母のためにも、今度こそいい縁談を持ってくることを約束する。実はさっそくもう候補を絞り始めていてな……まだショックから立ち直っていないかもしれないが、いくつか候補の肖像画だけでも見ていくか?」



……お父様。

ハングリー精神が豊かなのはいいことですけれども。


「気が早いです。それに、今の状況も案外楽しいのですよ。だから婚約するにしろ、卒業後で構いません。学院はきちんと卒業したいのです」

「それは、お前の意志か?」

「はい」


力強く頷きますと、お父様の目にはまたもや光るものが。


「オットー……うちの娘も大きくなったものだな。いかん、ハンカチ追加」

「どうぞ旦那様」


鼻までかんだハンカチを執事に渡し、代わりに新しいハンカチを受け取ったお父様はやっぱり目を拭います。


「友達もできたようだしな……あの引っ込み思案な娘にとうとう友達が。オットー、これはぜひ菓子折り持参でお宅にご挨拶に伺って、よくよくカティアのことをお願いせねば。あぁ、婚約のことはまたお前の意志を聞きながらおいおい決めていこう。それはいい、それはいいんだが、その友達の名前を教えてくれないか。どこの子か? えーと、フランカとイレーネと言ったか。イレーネというと、確か子沢山のクリッチュ家の娘がそんな名前だったか。フランカは……カリエール子爵家の娘のことかね。どちらも評判がいい……」

「イレーネはそうですけど、フランカは違います」

「え?」

「フランカはツヴィックナーグル家です。東の辺境に領地がある」

「なんだと!」


お父様は顔色を変えると何やら考え込んでしまいました。

オットーも気遣わしげにわたしとお父様を交互に眺めました。


「ツヴィックナーグル……。あのフランカ・ツヴィックナーグルか……」

「お父様?」


眉間に深い皺が。


「わが娘ながら恐ろしいことをしてのけるな。なぁ、オットー」

「さようでございますな、旦那様」


いやはや、恐ろしい。

と、何度も確かめるようにオットーと示し合わせるお父様は信じられないご様子。

一体なんでしょうね。


「お前と仲がいいなら問題ないから、気にするな。せっかくできた友人は大切にしておきなさい。また何かあったら連絡をよこしなさい。父様がどうにかしてあげるからな」

「お父様、ありがとう」


こうして私は久々の我が家でリラックスすることになったのですが……。

フランカの話をすると、やっぱり会いたくなりました。

今日はいつもより早く学院に戻ろうと思うわたしです。

でもそれまでは。


「ぜひともお父様に聞いていただきたい話があります」


フランカのかっこよさを思う存分伝えるのです!

そしてお父様の覚えもよろしくしておいて、いずれ我が家にお招きしていただかなければ!


卒業してさようならなんて嫌ですもの。

今からちゃくちゃくと地ならしをするつもりです。


ささ、お父様、覚悟してくださいませ。









カティアパパンは子煩悩な父親です。


今回場面切り替えに※を用いてみましたが実験的仕様なのでこの先どうなるかわかりません……

主要人物が出揃ってきたのでそろそろ登場人物表などが必要でしょうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ