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ときめきよ止まれ。

キリがいいので短めになりました。

なにが悲しくて休日にまで先生といなければならないのでしょうね。

得をするのは誰。あ、アドリネがご飯食べられるものね。


真横からびんびんに流れてくる威圧感から逃れるべく食欲に走った私は、現在干しピリアの入った袋をお供にして雑踏を歩いております。

ピリアは果実が小さくて甘酸っぱくて美味なのですよ。しかもわりと安価なので、庶民の味方です。とりあえず無心で何かを食べたければ干しピリア。ちなみに食べてるんで話しかけるなーってアピールもできます。オススメ。


「すみませーん、腸詰肉一本くださいな!」


そして目当ての店に出会ったらすかさず金払う。さ、食いまっせ!

いつでも私を見放してくださっても構いませんわよ、先生。


「じゃ、俺も同じの一本くれ」


えー……? わざわざ付き合ってくれなくとも。

ほら見てご覧よ、串を渡そうとするおじさんの目を。いたいけな少女(笑)をたぶらかすロリコンを見るような目をしてる。

前髪上げるとものすごく肉食系の顔してるんだもん。コワイワー。

そっと私は心の距離も取ることにしました。





商業地区と待ち合わせ場所の間には川が流れています。

ファン川と言いますが、それはわりとどうでもよろしい。

この川は王都を二分しているので、いくつか主要な橋がかけられておりました。

その橋の一つに差し掛かります。


「あんたのぽっちゃり具合の理由がわかった気がするな」

「え、いきなり喧嘩売るつもりですか。相手しますが」

「相手してもらうのは、いずれまたじっくりと。そうじゃなくて。フランカは食べた分がそのまま体の肉付きに反映されるのだな、としみじみと思っただけだ」

「……それ、どこからどう見ても貶しているようにしか思えませんが」

「まさか。肉付きのいい女は好きだぞ。ま、好みの女ならどんな体型でも可愛く見えるもんだ。むしろ、好きになった女の体型が、好みの体型だ」


先生、それタラシの台詞よ。まかり間違っても女生徒の前で言っちゃアカンやつよ。

なぜに無駄に色気を出すのだ、色気を。

よほど女に飢えていらっしゃるのかしらねー。あら、色気に当てられた周りのふくよかなお嬢さん方がわらわらと集まっていらっしゃったわ! なんてこと! 彼女らの圧巻の重みによって押しのけられてしまったわ! ごめんなさいね、離れてしまっても不可抗力ですのよーオホホ!

ちゃっかりと彼から物理的距離を取りました。


「おい待て、フランカ!」


相手を選ばない発情中のオスのような真似をするからいけなかったんですよ。

自業自得です。

逃亡機会を逃す私じゃありませんよ! 小走りにもなっちゃいますよ。


「後は橋を渡るだけですからー! ごきげんよう!」


聞こえるかわかりませんが、それだけ言って離れました。

本当はずっとこうしたかったんです。

ただ下手に離れようとすると……何やらまずい気がひしひしとしたもんで……ハイ。

一刻も早く先日のお礼用の差し入れを作って、さっさと縁を切ってしまおう。



この橋は馬車が通れないので、端から端まで人が自由に行き来しております。

歩くのに不便はないですが、それでも人が多いですねえ。

ファン川は幅がそれなりにあるので、そこから望む王都の景色も少し違ったものになります。

川沿いに並んだ建物の整列した様や、岸向かいの高台にそびえ立つ王宮の威容とか。川下をゆったりと流れる小舟もあって、両方の岸辺には荷を下ろしている人夫が蟻のように働いています。


ふと。目の前にとても目立つ人影が現れました。

橋の手すりの上に立ち、身体をゆらゆらと前後に揺らしている手足の長い影です。

太陽を背に受けた姿。髪は銀色、瞳は薄い灰青色。

ガラス細工のような人だと思いました。

触れたら粉々に砕け散ってしまうほど、脆そう。周囲は傷の一つも付けてはならないと焦って仕方がないでしょう。

なのに、彼は自ら危険に身をさらしている。今にも川に落ちそう。

こういう男は大体相場が決まっている。……ものすごーく、性格がひねくれているんじゃないかしら。


心配そうに彼を取り囲む群衆が見る見るうちにできていく。

壮絶な美形ってやつは誰もほうっといてくれないだろうね。

でも彼はきっとその辺りも計算していそうだよね。

死にたいなら、人目のあるところを選ばない。

彼は誰かに止めて欲しいと思っているから、こんなところにいる。

人々の注目を引きたいがために。


可哀想な人だ。

誰も彼が思うように彼を認めてくれない。

本当に周囲が認めていないだけか、それとも彼が自信過剰なのかどうかわからないけれど。

可哀想って彼のような人のことを言うのだと思います。


私はそっと視線を外して、群衆の脇を通り抜けました。

後ろの方で、やめろ、という怒号の声と、何か重いものが川に落ちたような音がしました。



そのすぐ後に、私の腕を後ろから引く男がいました。

振り返れば、うっすらと笑みを吐く大きな影。外套のフードから覗く髪は銀髪。瞳は灰青色。

やっぱりガラス細工でした。


「誰です、あなた」


彼はさぞ親密そうに耳元で囁きかけました。


「クレオーン」


そうして私の唇には、一瞬の口づけが落とされました。

ちゅ、と音を立てたのは、私自身に聞かせるためだったに違いありません。



殺してやりたい。










特大フラグ、立ったでしょうかね……

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