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『お姉様』座る。

サブタイトル。

「立って座る」でワンセットです。

どうも皆さん、アーレンス学院鍛錬場よりこんにちは。

筋肉スキーで、美少女スキーでおなじみのぽっちゃり系女子、フランカ・ツヴィックナーグルです。

えぇ、本日はお日柄もよくー、皆様よくお集まりのようでー、私としても非常に恐縮しきりであります。

つまりですねー、私が言いたいのは。えー……。


「「「お姉様、そんなご無体な!」」」


ご無体はそちらじゃあっ!!

なぜ取り囲むの! なぜ説得しようとしてくるの! ……ということですよ、ハイ。

全方位から声を浴びせられ、次第に頭がぐらんぐらんしてきた挙句、とうとうまたもや現実逃避に走りかけた私です。でもそんな甘いことを許してもらえなかったよ……。


ひ弱な男子で構成されているのにも関わらず、どうにもこの輪から抜け出せそうもありません。

理由はわかっているんですよ。彼らが弱いから。純粋な好意から私を見ているのでなおさらに。

〈お姉様〉という単語がずんと頭からのしかかってくるよ……。


どうやら私の解散宣言は彼らのお気に召さなかったよう。

あれだわ、本気でこの馬鹿げた会に参加しているようで。意外だ、そしてやっぱりなぜと私は彼らと膝と膝を突き詰めてきっちりお話させていただきたいところ。


「僕たち、本当にお姉様のこと尊敬しています! あのルディガー様に真っ向から喧嘩する漢気にしびれました! かっこよかったです、お姉様!」

「僕、入学直後に教室の場所がわからなくて迷っていたら、さりげなく教えてくださったお姉様のさっそうとした後ろ姿が忘れられませんでした!」

「会長のしごきに耐え切れずにその場で吐いてしまった俺を優しく背中さすって介抱してくださった上に、汚れた口元を自らのハンカチで拭ってくださったお姉様は、俺の理想のお姉様です!」

「お姉様がときどきもって来てくださる差し入れにいつも感謝しております! うちの姉は俺のことをいつも暑苦しいってけなしてばかりで、そんな気遣いがない女なんですよぉ!」

「……血も涙もない鬼会長の上に立てるだけでスゴイっす」

「姉さん、愛してる」


お、おぉぅ。

彼らは私が何も言わずとも私を尊敬する理由をずらずらと並べ立ててくださった。

ひとりだけボソッとどさくさ紛れに愛を告白しやがったヤツがいたが。(ヤツ)だ。


ひとまず私は一部をのぞき、彼らの発言を吟味してみた。

うーん……。言われてみれば、そんなことをしていたな。

ルディガー様にはこの間喧嘩を売り買いしていたし、迷子が目に付いたのでなんとなく助けた気もする。

たまにヴィルの様子を見に鍛錬場に行くこともあったので、ボロ雑巾にされていた男子の介抱も(これは実家で慣れていたから)、手ぶらじゃどうかと思って簡単な差し入れもしていた気もする(これも実家で)。


うん、納得した。だがね、若者たち。本当にそれでいいのか、若者たち。

社交界にあまり顔を出さないし、お茶会にだって早々招かれない私からしてもですよ、こんな単純なことでほだされてしまってはいけないのではと思います。

建前と本音が別であることは普通で、打算を求めた親切だってあるんです。それを見抜けなきゃ、利用されるだけで自分が損をしてしまう。だからもっと注意深く、相手の真意を探っていかなければならないでしょう。って、いや、貴族に生まれたら知っている、はず……だよね?


「姉さんが珍しく押されてる」


諸悪の根源よ、輪から離れたところからご丁寧な解説ありがとう。そして止めてクダサイ。


「ど、どうしましょう……フランカが男たちの魔の手に……!」


カティアは拳を握り締めて、ぷるぷるしている。今のところ貞操の危機とかじゃないよ?


あぁ、もう。せめて、最後まで話を聞いていただけないだろうか。


「別にね、あなたたちを認めない、というわけではありません」


私が声を張り上げると、彼らは神妙な顔で耳を傾けた。最初からそうすればよかったのに。


「ただ、そういう組織? みたいなものとか、あとそのあからさまな会名とか、そういったものはいらない思って。私は別に部下が欲しいわけではありませんし。私が命令すればそれに従うという従属関係は私が求めるものではないのです。……言いたいこと、わかる?」


うんうん、と頷いてくれる。むやみに突き放したわけじゃない、と納得してくれたようです。


「ルディガー様やテオドーラ様、その取り巻きたちの振る舞いを誰もが一度は目にしたはずでしょう。彼らはそれ以外の者には自分より劣った者として扱っているようですね。あれが学院内での〈格差〉というものです。取り巻きたちが集まってくるのも、自分が見下す側に入りたいという気持ちの表れです。偉い者に擦り寄れば、自分まで偉くなれるのだと……勘違いをします。……つい最近まで大サロンをほとんど自分たちで占拠していた、テオドーラ様たちのように」


身近な例を出すと彼らの顔はますますこわばります。

それはそう。この話題は今ほとんど禁句に近いことを知っているからこその反応ですね。

恐れ知らずに口に出せるのは、自ら手を下しておきながら素知らぬ顔で生活を送っている私のような極悪人ぐらいのものでしょう。


糞まみれになったテオドーラ様はルディガー様と喧嘩して、最終的に泣きながら寮に逃げ帰りました。

それから数日経った今になっても誰も寮の自室から出てきたのを見た者はおりません。

食事などは全部自分の部屋に運ばせているようです。

ルディガー様は翌日から普通に登校しています。遠目でちらりとしか見ていませんが、彼が通る道は自然と人が捌けていき、誰もが彼の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っていました。彼自身、厳しい顔を崩していないようでした。

それが、私のしたことの結末です。

そのうち、二人が私のところに怒鳴り込んでくるかもしれませんが、それぐらいは予想の範囲内で、だからこそ私は普段通りの行動を崩しませんでした。


私と彼ら二人は真っ向から対峙していたのは学院中が知っていたことです。

糞騒動の首謀者が私であると、誰もがそう思考を結びつけるのです。


はい、とのっぽのルーファスが小さく手を挙げました。


「お姉様にひとつだけ伺いたいことがあります。先日のこと……お姉様の仕業だったのですか」


その質問が投げかけられたのは、この数日間で初めてのことでした。

誰もが聞きたいと待ちかねていただろう疑問の答えは、私の中ではとうに決まっています。


「ええ、そうですよ。あれは、私がやったことです」


ひゅっと、誰かが息を飲んだ音がします。

お姉様の大合唱だった鍛錬場は今、不気味なほどに静まり返って。……まぁ、私がそうさせたんだけれども。

油断ならないようなニッコリ笑顔を一瞬だけ浮かべ先を続けます。


「なので皆様。こんな〈お姉様〉を持ち上げても仕方がないのです。……男子たるもの、強くなりなさい。体だけじゃなく、心を強くするのです。一人の足で立ち、自分の考えで動くのです。誰かに委ねた途端に、あなた方は個人の尊厳を自ら捨て、取るに足りないものに成り下がる。そうなれば、他人があなたがたを踏みつけても、あなた方は抵抗できなくなるということを、忘れてはなりません」



学院での人間関係は、貴族の人間関係へと引き継がれます。

社交界に入ってからの出会いも多いですが、すべてはこのアーレンス学院から始まるのです。

でも社交界と学院にも大きな違いがあります。

社交界は序列がすべて。数十年に一度改訂される貴族名鑑の家格の順からわたしたちは発言します。

個人の発言には大きな差が出ます。

だったら、アーレンス学院はどうか。ここでの私たちは等しく一生徒でしかありません。

唯一この場所でなら、序列を飛び出して、少し身分の違う友、違う境遇に生きた友と出会い、友情を育めるのです。未熟な子どもだからこそ、認められる自由。それこそが学院での宝になりうるのです。

学院の院則第一項にはまずこう書いてあるのです。――アーレンス学院に通うすべての生徒は、平等なる個人なのである――。私はこの院則を考えた人物に大きな拍手を送りたい。院則を掲げた当時だと、平等、という言葉さえ先進的なものだったはずだから。彼もきっと、学院にそうなって欲しいという願いを込めていたのでしょうね。



私は、平等の院則からつながる〈自由〉を自ら手放すような真似はやめてほしかったのです。

と、言っても、通じているのかな? 真剣な話なのはわかっているけれど、戸惑いを隠せていないような表情が並んでいます。


弟はひたすら苦笑い。


「まったく、姉さんは厳しいね。僕も耳が痛いな」

「ヴィルはとくに身に覚えがあるんじゃない?」

「僕と彼らは違うよ。僕は少なくとも自覚しているし……それにね、姉さんの願いを叶えてやりたいっていうのは僕自身が望んでいることだよ。そこに姉さんの意志はもちろん無いから」


そりゃそうだ。ヤツは甘ったれのようでいて、結構頭も回るし、我が道を行っている。そうじゃなきゃ、学院中で向けられる白けた視線をものともせずに私の意志を度外視で追い掛け回したりはしまい。そういうヤツなんですよ。


一方のカティア。ぐい、と硬直する軍団をかき分けて私を連れ出し、顔を俯けたまま、ぎゅっと制服の袖を掴みました。手が震え、絞り出す声も震えているようでした。


「フランカ。……わたし。わたしは………他人に自分を明け渡すような生き方をして、いました」


小柄のカティアの顔は見えません。でも一文だけでもすべて通じました。

ただ、プラチナブロンドの頭をポンポン、と撫でます。

過去形で語ったのなら、それで十分なのです。


「ではごめんなさいね、皆様。ごきげんよう」


あとは弟に任せよう。

私の視線に気づいて、ヴィルは頷きました。今回は未熟な策士だったようなので、自分で後始末してもらわないと。

カティアと連れ立って、その場を離れます。

木立の間を通る道には斜に伸びた木々の影が落ちていますが、それ以上に日光は強く私たちの目を射ようとしているみたいです。

あー、傾いた太陽の光が眩しいなー。


これからどうしよっかなー。

……派閥、作れなかったなー。どうしよ。


勢いだけで〈お姉様を愛でる会〉を解散させてしまいました。

やりようによっては心強い味方になってくれただろうに。

せっかく崇めてくれてるっていうのに、わざわざ思考の穴を指摘して、説教臭いこと言って、嫌われるように仕向けて。


本当の馬鹿野郎って、私だなと思う。私の馬鹿野郎め。

ちぇ、と道端の小石を蹴ってみた。コロコロと思うように転がっていって、ちょっと楽しい。

何回も繰り返していたら、横に居たカティアがくすっと笑っています。

よかった、少しだけでも元気になったみたい。

私も弟ばかりを責められませんね。意図しなかったとはいえ、カティアを落ち込ませたのは私なのですから。




ストックがなくなったことと現在別の話を書いているので、この話から不定期更新になると思います。

そう、今まで三日に一度で投稿できていたほうが奇跡だったんです……。


宣伝になりますが、つい先日短編を投稿しましたので、暇つぶしにでもどうぞ。

題名は『気づいたら一目惚れされていました。』という王道恋愛モノです。


よろしくお願いします。

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