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(そういえば、あの頃の私、みんなからヒロミンと呼ばれていたっけ……)
裕美の頭の中で、夏休み中の公園ではしゃぐ、数人の子どもたちが動き出した。
(自分でいうのもなんだけど、相当のオテンバさんだったわ。ケンカもそんじょそこらの男子には負けなかったし……。
あだ名の響きが「ヒロイン」に似ていたから、自分でもまるで正義の味方にでもなった気になってたのよね。男子たちといっつも戦隊モノの遊びばっかりしてた)
ピンク色のスカートをはいた低学年の自分が、真夏の陽射しの中、走り回る。
(クラスの弱ッチイ男子――えーと、名前はなんてったけ、確か、ヒデヒロ君とかいったな――を敵の怪人にして、正義のピンクヒロインよろしく、暴れてたなあ……。
考えてみれば、あの頃が一番楽しかったかもね、うん)
裕美の会社向けの堅い顔が、笑顔で綻ぶ。
(あの頃の私なら、迷わず目の前の敵と闘ったでしょうね……。
なのに今の私ったら、いったい何なの? 悪を目の前にして怖気づいてる……。
正義のピンクヒロイン「ヒロミン」ともあろう、この私が!)
そのときまた、机の上の電話が鳴った。
裕美の白昼夢は、またもやその電子音で、頓挫した。
相変わらず、周りには誰もいない。肩をすくめた裕美が、受話器を持ち上げる。
「はい、岡本商事です」
北国の夏の陽射しが傾くまでには、もう少々時間が必要なようだった。