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「おい、ヒロミン……いや、リーダー。お前の……いや、あなた様の会社の事が記事に出てますですよ」
両手で拡げた新聞に見入りながら、ヒデヒロが変な敬語を使う。
「んもう、その変な言葉遣いやめてくれない? 調子が狂うわよ――って、その新聞を見せなさい!」
新聞の一面にデカデカ――という訳ではなかったが、三面に十センチ四方程度の大きさで、その記事は扱われていた。
「業務上横領」の文字とともに、白井課長の実名と会社名、それと、彼と架空取引を行った数社の会社名が載っている。当然、ヒロミンの会社「岡本商事」の名前もあった。さすが、白井課長の会社は名だたる大企業。そこでのスキャンダルは、かなりの反響があるようだ。
一週間。
戦隊のリーダー、ヒロミンがスキャンダルのネタを新聞社にリークしてから、一週間がたっていた。
この間、巣の中でぬくぬくと育てられる蜂の子のように、秘密基地――ヒロミンのアパート――では、いい歳したニート達がごろんごろんと朝から晩まで床の上で転がり続ける日々が、続いていた。
だが外の世界は、そんな彼らとは無関係に大きく動いていた。
白井氏はとっくに逮捕され、損害賠償の民事訴訟も起こされていたのだ。
「で、リーダーの会社の支店長、どうなったの?」
訊ねたのは、青戦士のタケシだった。
まだこの家に居候して日も浅い輩のはずだが、『秘密資料』提供の実績は大きく、なかなかの大きな態度で日々を過ごしている。
先程も、もうすぐ八時になるというのに高イビキで毛布に包まるあっちゃんを、「うるさいッ」と、しこたま蹴り飛ばしたところだ。
「うん、クビになったみたいよ……。私たち一般社員にはあまり詳しい説明は無かったけど、ここ数日、姿を見てないからね――」
「じゃあ、新しい支店長が来るんでございますか?」
ヒデヒロが、またもや、変な敬語を使った。
「うん、そうね。噂では、今日から新しい支店長が赴任するみたい」
もう面倒くさくなったらしく、言葉遣いには口を挟まなくなった、ヒロミン。とそこへ、のこのこと起き出したあっちゃんが、もそっと口を開いた。
「じゃあ、良かったな。これで、円満解決だろ?」
「それがねえ……」
ヒロミンの表情が、曇る。
「それが、そうでもないのよ。苦情や嫌がらせの電話は鳴りやまないし、取引先からは取引中止の連絡が来たり――。このままでは会社の存続も危ないって、誰か云ってたわ」
「おいおい、リーダーもその会社員の一人でございますでしょ? そんなに落ち着いていらっしゃって良いのでござるのか?」
顔を青くしたヒデヒロが、妙な日本語でそう云うと、今度は落ち着き払ったキツネ目のタケシが、きっぱりと云った。
「仕方ないじゃん。あの文書を世に出すってことは、そういうことさ」
「支店長とヒロミンは悪いとしても、他の社員さんは何も悪いことしてないんだから、理不尽だよな」
アツシがこくこく頷きながら、楽しげに口を挟んだ。
それを聞いた戦隊リーダーが、激しく憤慨する。
「どうして私が支店長と同格に悪いのよッ! でも確かにこのままでは、マズイわね……。あ、そうか。わかったわ! ここからが本当のヒーロー、いえ、ヒロイン戦隊の腕の見せ所ってことね!」
「腕の……見せ所?」
三人の手下どもが、一斉に眉をひそめる。
「よっしゃあ! お前らニート三人、まとめて面倒見ちゃる! 明日から、ウチの会社に来いやぁ!」