9-2
次の日の朝。
ずるで休んだ昨日に比べ、ヒロミンの顔色はまるで花が咲いたように明るかった。
それに比べ、他の男三人は死んだ魚のようにどよんと沈んだ面持ちだ。フローリングの床の上に、濁った眼をしてどろんと横たわっている。
もう自分たちの出来ることは何もない――とでも思っているかのようである。
「ちょっとぉ、あんたたち、いつまでそこでぐだぐだしてんのよ――。うちは、動物園じゃないんだからさ」
「動物園だってさ。面白いよねえ、キツネそっくりのタケシ君」
「ホント、上手いこと云うよねえ、ゴリラのようなアツシ君」
「全くだ! ねえ、ナマケモノそのもののヒデヒロ君」
なんだとお、おどりゃあ!
やるのか、おらっ!
じょうとうだ、こらぁ!
和やかな雰囲気から一変、三人のニートの、取っ組み合いが始まった。
ダメだこりゃ――
ヒロミンが、上目使いに両腕を肩まで上げた。
「とにかくさあ……。私は会社に行ってくるから、御見送りでもしなさいよ」
その言葉を聞き、取っ組み合いをやめて、突如敬礼を始めた、三人。
「はっ! 御見送りさせていただきます、リーダー」
畏まる、あっちゃん。女王様の威厳を纏い、目前を通り過ぎようとするヒロミンに、ヒデヒロが声を掛ける。
「……本当に、あの書類を暴露する気か? お前の会社、潰れちまうかもしれないんだぞ」
ヒロミンが、ちらりとヒデヒロに視線を向ける。
「そんなこと解ってる。でも、今まで戦隊活動をしてきたのは、そのためなんだからねっ」
「――そうか。リーダーがそう決めたのなら、仕方ないな」
軽い身のこなしで玄関を出た、女隊長。
その背中に向かって、むさくるしい男三人が、恭しくお辞儀をする。新参者のタケシが、見送りの言葉を送った。
「それでは、いってらっしゃいませ」
「うむ。じゃ、留守を頼んだわよ」
「ラジャー」
声を揃え、再びの敬礼をした男たちは、そのあまりの勇ましい女っぷりにうっとり見惚れた。
と、その様子を目撃した御近所の奥さまたち三人が、辺りの御宅すべてに聞こえるような大声で、噂話を始めたのだった。
「ちょっと奥さん、見ました、今の?」
「見ましたわよ、奥さん。朝から男三人を侍らせて、豪勢だこと」
「本当に、派手な交際よねえ。羨ましいこと!」
「きっとあれが、今風のお付き合いの仕方なのよ」
「んまあ、世も末ですわね!」
当然、当の本人の耳にもそれは届いている。
だがヒロミンは、呆れたようにその目線をほんの少し上げただけだった。落ち着いたものだ。
「あんなの放っておけばいいわ。じゃ、行ってくる」
「ブラボー!さすが、我らがリーダーだ。肝が据わってらっしゃる」
面白がる、あっちゃん。
三人のニート男子が、彼女の女っぷりに増々惚れこんだ瞬間だった。