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マスト・ヒーロー  作者: 鈴木りん
9 立ち上がれ、ヒロイン戦隊!
27/32

9-2

 次の日の朝。

 ずるで休んだ昨日に比べ、ヒロミンの顔色はまるで花が咲いたように明るかった。

 それに比べ、他の男三人は死んだ魚のようにどよんと沈んだ面持ちだ。フローリングの床の上に、濁った眼をしてどろんと横たわっている。

 もう自分たちの出来ることは何もない――とでも思っているかのようである。


「ちょっとぉ、あんたたち、いつまでそこでぐだぐだしてんのよ――。うちは、動物園じゃないんだからさ」

「動物園だってさ。面白いよねえ、キツネそっくりのタケシ君」

「ホント、上手いこと云うよねえ、ゴリラのようなアツシ君」

「全くだ! ねえ、ナマケモノそのもののヒデヒロ君」


 なんだとお、おどりゃあ!

 やるのか、おらっ!

 じょうとうだ、こらぁ!


 和やかな雰囲気から一変、三人のニートの、取っ組み合いが始まった。

 ダメだこりゃ――

 ヒロミンが、上目使いに両腕を肩まで上げた。


「とにかくさあ……。私は会社に行ってくるから、御見送りでもしなさいよ」


 その言葉を聞き、取っ組み合いをやめて、突如敬礼を始めた、三人。

「はっ! 御見送りさせていただきます、リーダー」

 かしこまる、あっちゃん。女王様の威厳を纏い、目前を通り過ぎようとするヒロミンに、ヒデヒロが声を掛ける。


「……本当に、あの書類を暴露する気か? お前の会社、潰れちまうかもしれないんだぞ」


 ヒロミンが、ちらりとヒデヒロに視線を向ける。


「そんなこと解ってる。でも、今まで戦隊活動をしてきたのは、そのためなんだからねっ」

「――そうか。リーダーがそう決めたのなら、仕方ないな」


 軽い身のこなしで玄関を出た、女隊長。

 その背中に向かって、むさくるしい男三人が、恭しくお辞儀をする。新参者のタケシが、見送りの言葉を送った。


「それでは、いってらっしゃいませ」

「うむ。じゃ、留守を頼んだわよ」

「ラジャー」


 声を揃え、再びの敬礼をした男たちは、そのあまりの勇ましい女っぷりにうっとり見惚れた。

 と、その様子を目撃した御近所の奥さまたち三人が、辺りの御宅すべてに聞こえるような大声で、噂話を始めたのだった。


「ちょっと奥さん、見ました、今の?」

「見ましたわよ、奥さん。朝から男三人をはべらせて、豪勢だこと」

「本当に、派手な交際よねえ。羨ましいこと!」

「きっとあれが、今風のお付き合いの仕方なのよ」

「んまあ、世も末ですわね!」


 当然、当の本人の耳にもそれは届いている。

 だがヒロミンは、呆れたようにその目線をほんの少し上げただけだった。落ち着いたものだ。


「あんなの放っておけばいいわ。じゃ、行ってくる」

「ブラボー!さすが、我らがリーダーだ。肝が据わってらっしゃる」


 面白がる、あっちゃん。

 三人のニート男子が、彼女の女っぷりに増々惚れこんだ瞬間だった。

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