6-2
「うっひゃあ」
どっしりと腰を据えたピンクヒロインとは対照的に、緑色のヒーローはびびって後ろ向きで屈みこみ、頭を抱えこむ。
がらごろ――
耳の奥にまで響く様な硬く大きな音をたてて袋の中から出てきたのは、様々な色で塗られたいくつかのゴルフボールだった。
黒、赤、緑、黄、青、桃の六色、それぞれが一個づつ。
ボールが机の上で小刻みに弾みながら、転がり出す。
赤と緑と黒のボールは机の上に辛うじて残ったが、残り三つのボールは、短毛の灰色絨毯で敷き詰められた床に落下した。
「あらら、落ちちゃった」
落ちたボールを、慌てて拾い上げる。すると、それぞれのボールに一つづつ、番号が振られていることにヒロミンが気付いた。
黒 1
赤 2
緑 3
黄 4
青 5
桃 6
「私、そう云えば聞いたことあるわね。この支店長室には、支店長しか開けられない金庫があるって。そして、その暗証番号は代々の支店長しか知らないって――」
「それなら、このボールは金庫の暗証番号のヒントなのかもしれない……。でもさ、こんなにわかりやすいヒントを置いておくなんて、めっちゃ怪しいじゃん。罠に決まってるよ。帰ろうぜ」
ビビるヒデヒロを無視し、ヒロミンが支店長室の壁をあちこち、探り出す。
「ほら、あった!」
意識を持って見ないと判らない程度の、壁の不自然な切れ目。
それを見つけた彼女が、その隅をちょん、と突く。
すると、何も書かれていないノートのページを開くかのように白く薄い壁がはらりとめくれ、奥に二十センチ四方の金庫が現れた。その頑丈そうな金属扉の前面には、ギザギザの付いた回転ツマミ式の五桁のダイヤル鍵が、まるで二人を待ち詫びたかのように、でんと居座っている。
自分の苦言が全く聞き入れられず、コスチュームで全く見えないが憮然とした表情を浮かべていたヒデヒロだったが、急に何かに気付いたらしく、沈黙を破った。
「あれ? このボールが鍵番号のヒントなら、どうして数が合わないんだろう」
「うるっさいわね。私も今、それを考えていたところよ」
「あ、そう……」
更に沈黙が、十分ほど続く。
今度もそれを破ったのは、ヒデヒロだった。
「六つの番号のうち一つは必要ない、ってことじゃないのかな」
「アンタ、馬鹿ぁ? そんなことは誰だってわかるわよ! 問題は、それがどの番号か、ってことに決まってるじゃない」
「あ、そう……ふうん」
呆れ気味で棘のあるヒロミンの言葉に、普段ならしゅんと萎れるヒデヒロが、今度ばかりは怯まなかった。
「ねえ。君んところの支店長、何歳くらい?」
――へっ?
あまりに不意を突かれた質問に、つい素直に答えてしまった彼女。
「たしか、四十代の後半よ」
「そうか、なるほどな――」
一人勝手に納得し、何度も頷くヒデヒロに、二人だけの戦隊とはいえ隊長の立場にあるヒロミンが、ぷんぷんと怒り出す。
「何、どういうこと? 一人勝手に納得してないで、リーダーの私に説明しなさいッ!」
「簡単なことさ。支店長の年代には、黒色のヒーローはいなかったということだよ」
命令口調のピンクリーダーに、芝生色の使いっぱしりヒーローが、淡々と答えた。
「そうか。なるほどね!」
ヘルメットの下のヒロミンの眼が、輝いた。
確かに、今や伝説となった元祖戦隊ヒーローには黒い戦士はいなかった。その世代の支店長にとってそれは、当たり前のことと認識している可能性が高いのだ。
「会社に戦隊ヒーローキャラの被り物で現れるオレたちに対し、支店長はある意味わかりやすいというか、挑戦的なヒントを置いていったのさ」