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そんな二人の幼馴染みの感動的な再会の夜も、容赦なく更けていく。
「アンタはこっちで寝てよね」
ヒロミンが指で示したのは、アパートの入口に近いダイニングだった。
フローリング――横文字で云うとカッコいいが、寝るには少々固くて冷たい、板の上の狭い空間である。
ぴしゃりっ。
部屋の主が、今日やって来たニート男の目の前で、キッチンと居室を仕切る引き戸を目にも止まらぬ速さで、閉めた。
と、思いきや、すっとまた引き戸が開き、パジャマ着の彼女が姿を見せる。
「わかってるわよね? 絶対こっちに来ないでよ。絶対だからねっ!」
ばちんっ!
再び、その戸は盛大な音を立てて、閉じられた。
(……。誰が、お前みたいなオトコオンナに手を出すかよ)
彼女が部屋の奥に消え、俄かに部屋が静まった。
ヒデヒロは、フローリングの床の上に寝そべって、ぼんやりとしていた。
ふと、何も云わずに飛び出してしまった形になった実家のことが――というよりも、きっと今頃、急にいなくなった自分のことを心配しているだろう母親のことが、気になった。徐に携帯電話を取り出し、母親の携帯に電話を掛けてみる。
「ああ、母さん? オレだよ、ヒデヒロ。ちょっと理由があって、しばらく帰れな――」
「なによ、こんなおっそい時間に……。え? 帰れないって? ああ、そう。それなら、これから暫くアンタの顔を見ずに済むんだね? そりゃあ、いいねぇ。清々するわぁ。じゃあ、頑張って生きるんだよ。バイバイ!」
ヒデヒロの言葉を途中で遮り、早々に電話を切ってしまった、母。
バイト先から来るであろう問い合わせの件も、伝えることができぬままだった。
(……)
暫く、母の声のしなくなった携帯電話をじっと見つめ続ける、彼。
「何だよ! これが実の息子に対する仕打ちかよ!」
心の中に、ぐいぐいと怒りが込み上げてくる。
沸々と湧きあがる感情をどうにもできず、隣の部屋に女性が一人寝ていることも考えずに、結構な音量で母親への悪態をつく。
が、横から文句は出なかった。
彼女は既に就寝したらしい。まるで、彼の悪態が深夜のアパートの壁に吸収されてしまったかのように、静まり返っていた。
彼の渾身の母親への悪態も、誰にも相手にされることはなかったのだ。
何も起こらないので、仕方なく近くに置いてあった毛布にくるまって、もう一度固い床の上に横になってみる。だが、やっぱり眠れない。目は冴えるばかりだ。
益々、夜が更けていく。
まるで、ぐんぐんと音を吸い込む掃除機が近くの何処かで忙しく働いているかのようだった。街は、静けさに包まれている。
(世間は、ニートと居候に、ほんっとに冷たいよな)
この世の成り立ちについて、身をもって更に深く学んだ、ヒデヒロ。
夜も白みかけた頃になり、ようやく彼の意識は夢見心地に満たされた。それは、ヒーローの束の間の休息だった。