表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Myth  作者: 詞葉
Myth 本編
5/83

第一章(4)

このお話には、北欧神話・ギリシャ神話などの神々が登場します。

ですが、小説に出るキャラクターとして描いておりますので、作者の想像による容姿、性格、生い立ちをしており、正規の神話に出てくる神々とはかけ離れております。

『あの神様はこんなんじゃない!』と思われる方もおられるとは思いますが、何卒、寛大な目で見ていただけますよう、お願い申し上げます。


 馬車が辿り着いた建物は、驚くというよりも唖然とする物だった。


「銀……」

「銀だね……」


 雨の降る曇天の下だというのに、その建物は光り輝いていた。ヴァラスキャルヴという主神オーディンの屋敷だそうだ。

 だが、屋敷よりは宮殿に近い。

 外観はすべて銀。施されているレリーフは繊細ながらも目を見張る美しさで、銀一色の屋敷に威厳と貫禄を与えていた。まさしく、神々の頂点に立つ者が住まうに相応しい場所。


 セルリアはセロシアと共に、フッラに続いて中に入った。

 中も銀一色かと想像していたが、意外にも石造りだった。それでも床は大理石だろうし、飾られている備品も、扉や石の一つもおそらく値の張る物だ。


「セ、セルリア……他のお屋敷もこんな感じかな? あたし、何か壊すんじゃないかと怖くて屋敷内歩けないよ……」

「そ、そうだよね」


 妹の恐々した台詞に、セルリアも生唾を飲み込みながら頷いた。

 生前のセルリア達の暮らしは、できる限り節約、できる限りリサイクル品だった。孤児院に入っていたため、服などは上の人達からのお下がりで済まし、足りない物はリサイクルショップや百円均一のお店で購入する。

 双子だから共用の物も多く、高級品といえば美術館などで見るのが関の山。時々食べるお菓子ですら、お特用百円パックで我慢していたぐらいだ。


 そんな双子にしてみれば、この屋敷にある物品は、触れるのも見るのも感嘆を通り越して恐怖を覚えさせる。


「安心なさいな。貴女達が行く屋敷はここまで凄くないわ。別の意味で怖いだろうけど」

「フッラ先生、フォローになってません! 安心できませんよ!」


 前を歩くフッラがコロコロ笑いながら言うが、セルリアも安心はできない。


(やっぱり、神様の価値観って人間とちょっと違うよね……)


 従者養成学校に入った直後、セルリア達はこう教えられた。

 この世界における『神』とは、『人間』という名と同じ、種族の名前なのだと。違う種族だからこそ生まれが違い、寿命が違い、持って生まれた力が違い、常識が違う。けれど、絶対者ではなく、ただの別種の生物だと。


 人間が神を崇めるのは、気まぐれな神々が昔、人間より強い力を使って助けたりしたのが始まりらしい。そういった神に出会った人々が神話を作り、今に至るのだそうだ。


 同じ世界のちょっとずれた次元で生きる生物。それは人間と獣や、獣と鳥などにも通じる言葉かもしれない。

 生きているという意味では変わらない二つの種族。それでもセルリアは、やはり神と人間は違うのでは、という考えが頭から消えなかった。


「さ、着いたわ。ここよ」


 フッラの声に顔を上げれば、目の前に巨大な扉が鎮座していた。

 壮麗な宮殿の中では違和感のある冷たい石色。数人が押した程度では開きそうにもない、大きく、圧迫感のある扉だった。


「開けるわよ」


 事もなげにフッラが扉に手を触れた。途端に重苦しい音をたてながらゆっくりと開いていく。どういう構造かは分からないが、セルリアは姿勢を正した。

 この中に主神がいる。そう思うと、自然に体が動いたのだ。


「失礼いたします、オーディン様」


 フッラの声に形式的な重みがのった。一際大きな音をたてて開ききった扉。その向こう側の景色に息を呑む。


 そこは、銀に覆われた煌びやかな外観からは考えられない程、冷たく寂しい灰色の世界だった。

 広い部屋だ。カツンと音を鳴らす石の床。音は高い天井に届き、どこまでも長く、長く反響する。

 扉を中心とした両側には、二人でやっと抱えられるぐらいの太い柱が、幾本も整然と並んでいた。

 壁、床、柱、天井、各々に彫られているレリーフはとても美しい物だが、雨天である今日は、窓から見えるどんよりとした雰囲気と相まって、ずいぶんとおどろおどろしい。


 そして広間の奥。十段ほどの階段の上に一人の男がいる。部屋の雰囲気と同じ、冷たく重厚な造りの椅子。ポツンと置かれたそれに、彼は頬杖をついた状態で座っていた。


「お待たせいたしました。こちらが今回、北欧神界に入った二名の神人でございます」


 片膝をつくフッラに習い、二人も同じ所作をする。これも養成学校で習った作法の一つだ。

 セルリアは頭を垂れる瞬間、少しだけ階段上の男性を盗み見た。

 長い白髪と、灰色がかった髭を見るに老人の姿のようだ。鍔の広い帽子を被っているせいで顔までは分からない。

 そんな彼の姿を脳に留めながら、セルリア達は主神である彼の言葉を待った。


「………………」


 冷たい床、日の入らぬ部屋の冷気が体温を奪っていく。緊張している自分の鼓動が妙に気になって、セルリアは拳を握った。隣にいるセロシアも、唇を噛んで耐えている。


(まだ、かな?)


 フッラが声をかけてから、一分は過ぎたはずだ。なぜ主神は何も言葉をかけてくれないのか。もしかしたら、自分達はあまり歓迎されていないのか、と一抹の不安がよぎる。


 その時、バサリという羽音が耳に入った。

 反射的に顔を上げれば、一つ開いた天窓から二羽の烏が主神の元へと舞い下りてきている。

 天井から主神へと目を移し、セルリアはハッとした。


(どうしようっ)


 まだ許可もされていないのに顔を上げてしまった。まずいと思ったのもつかの間、前にいたフッラもまた顔を上げていることに気づいた。そして、彼女は裾を持って颯爽と立ち上がる。


「あ、あの……」


 遠慮がちに声をかけたセルリアに、フッラはにっこりと微笑んだ。そのまま無作法にも、大きな足音を鳴らしながら主神へと近づいていく。

 反響する音は大きく、耳の奥にまで木霊するのに主神は未だピクリとも動かない。それを見て、ある結論が導き出された。


「も、もしかして……」


 階段を上り、主神の横にたどり着くフッラ。二羽のカラスが彼女を見るが、特に気にした風もなく手を主神の前で振って見せた。やはり彼はそれにも無反応。

 セルリアとセロシアと視線を合わせ、『まさか』と引きつった笑みを見せ合う。

 フッラはオーディンの横で大きく息を吸い込んだ。


「おはよう・ご・ざ・い・ま・すっ、オーディン様ぁ!」


 ぁ・ぁ、と凄まじい絶叫に二人は耳を押さえた。反響が良すぎるのも考えものだ。

 その絶叫の対象である主神はというと。


「ぅぉっ、何者だ!」


 この北欧神界全てを統治する主神オーディン。彼は片耳を押さえ椅子からずり落ちる、という何とも情けない格好のまま勢いよくフッラを振り返った。


オーディン様がこんなんですみません(汗)

そして、この話に書いてある『神』の定義ですが、これはあくまで私がこの小説を書く上で作ったものにすぎません。

様々な宗教と信仰の形があるのは知っておりますし、それぞれ歴史があり、在り方も、その信仰と神様も、そしてそれを大切にされている方々を否定するものでもありません。

ご不快になられた方がいたら申し訳ありませんが、この中の『神』の定義は、フィクションであり、創作の上でこうなったのだとご理解いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ