運命と呼ぶには残酷で、奇跡と呼ぶには皮肉な(1)
ロキとセルリアの出会い。ロキ視点の過去編です。
このお話には、北欧神話・ギリシャ神話などの神々が登場します。
ですが、小説に出るキャラクターとして描いておりますので、作者の想像による容姿、性格、生い立ちをしており、正規の神話に出てくる神々とはかけ離れております。
『あの神様はこんなんじゃない!』と思われる方もおられるとは思いますが、何卒、寛大な目で見ていただけますよう、お願い申し上げます。
月明かりが窓から差し込む。
白い顔と金の髪を照らす清浄の光。ロキはその眩しさにすっと目を開いた。
大分傾いた月は、夜と呼ぶには遅すぎて、朝と呼ぶには早すぎる時刻を告げている。
けだるげな体を起こし、身を纏っていた滑らかなシーツを剥ぎ取る。手近に放り投げていた服を拾って、ロキは月明かりを頼りにそれを着始めた。
「……ん、ロキ?」
彼の気配に気づいたのか、隣で眠っていた女性が身を起こした。
するりと落ちたシーツから、乳白色の肌が恥じらいもなく見える。その肌に絡みつくブロンドも月明かりを受け、見事な光を放っていた。
まだどこか焦点の合っていない青い瞳は、無意識ながらも艶めいた色を含んでいる。きっと数々の男はこれに誘われ、今までの行動を巻き戻すだろう。
だがロキは、彼女に視線を向けただけだった。特にその容姿に動かされた、というわけでもなさそうだ。何せ彼も負けず劣らずの容貌だ。見慣れている。
例えば、ここにもし別の者がいて、『彼女と彼とどちらが美しい?』と聞けば、十人中九人はお世辞で『彼女』と。残りの正直者が『彼』と答え、お世辞を言った九人は心の中で頷くだろう。ロキはそういう容姿だ。
ちらりと視線を向け、もうほとんど着終わっていた服をきっちりと着込む。
「ロキ、どこに行くの?」
「帰るよ」
「え?」
女性は驚きいっぱいに目を見開いた。
確かにこういった男女の逢瀬は、夜が明けるぐらいに去るものだが、今の時刻はまだ早すぎる。夜とはいえないが、まだ月の光が映える闇の空だ。
「ちょ、ちょっと」
右肩にマントをかけ、さっさと出て行こうとする彼に女性は服の端を持って引き止める。
「まって、もう少しぐらい良いじゃない」
「あまり長居して、君の伴侶に会いたくないんでね」
「で、でも」
ロキは噂多き神だ。それこそ『プレイボーイ』と言われるほどに。彼と噂にならなかった女神の方が少ない。時として彼との逢瀬はステータスにもなるのだから。 だがこのように、日が昇る前に去られるなど初耳だ。
「あ、でも、あの……」
どこか焦ったような女性に、ロキは聞こえぬよう辟易の溜息をついた。
「安心しなよ、これから別の子のとこに行こうなんて思ってない。君が明け方までに帰られた、なんて噂はたちやしないよ」
「なっ!」
皮肉られた女性はプライドが傷つけられ激昂する。それでもロキの表情は変わらない。ただ視線を向けるだけ。
「じゃあね」
まったく名残などない様で、彼は部屋の扉に手をかけた。
「貴方……最近変わったわ。こういう時、昔はもっと優しくしてくれたのに」
こんな扱いは心外だ、と言わんばかりの表情で女神はロキを睨みつけた。その言葉にロキは鼻で笑う。
「『最近』だと思ってるなら、それは君の目がおかしいんだ。僕は昔から……」
彼女を見る目は、既に昨日の面影を残していない。夕べはもっと甘く、優しい色をしていた彼の目は、まるで氷か何かのように冷たい。
「退屈なものは嫌いなんだよ」
そう言ってロキは扉をすり抜け出ていった。数瞬後、自分が『退屈だった』といわれたことに気づいた女性は、懇親の力をこめて枕を扉に投げつけた。




