第一章(3)
このお話には、北欧神話・ギリシャ神話などの神々が登場します。
ですが、小説に出るキャラクターとして描いておりますので、作者の想像による容姿、性格、生い立ちをしており、正規の神話に出てくる神々とはかけ離れております。
『あの神様はこんなんじゃない!』と思われる方もおられるとは思いますが、何卒、寛大な目で見ていただけますよう、お願い申し上げます。
金髪の男の横を、天馬の引く馬車が泥を跳ね上げながら通りすぎる。泥も雨も、なぜか彼の周りで跳ね返されていた。
長いローブのような物を着ているが、その裾も一切汚れていない。
あっちこっち跳ねているのに、なぜか全体的には整って見える金髪。深い青の目は悪戯っぽく輝き、馬車を見送る顔は薄い笑みを湛えている。
その容姿は、どんな言葉を用いても上手く説明できないだろう。それほどの美しさだ。
あえて言うなら一言。『綺麗』という言葉が無難なところ。
「……何をしに来た、ロキ。帰れ、消え失せろ」
「ひっどいなぁ、ヘイムダル。そういう言い方はないんじゃない?」
ロキと呼ばれた男は、門の外側にひょこりと顔を出し、そこに立っていたもう一人の男、ヘイムダルを見て皮肉げに笑った。
外側で雨に打たれながら、槍を持って直立不動の体制をとる男。全身真っ黒のマントで覆われ、その肩口まで伸びた髪も黒。伸びすぎた前髪に目が隠れ、一見すればむく犬だ。
雨に濡れているせいだろう。ぺったりと髪が顔に張りつき、非常にみすぼらしく見える。
「あのさ。君、何で濡れてるの?」
「雨だからに決まっているだろう」
当然だ、という風に返された言葉に、ロキはガクッと肩を落とす。
「あのねぇ、どうして魔法で防がないの。わざわざ濡れる必要ないでしょうが」
「無駄な魔力を使ってどうする。お前じゃあるまいし」
「うわ、ムカつく」
口ではそう言うものの、ロキはケタケタと笑った。こんなやり取りが日常だ。
ロキは指をパチンと一つ鳴らし、門の壁についていた葉っぱを巨大化させてちぎった。そのままヘイムダルの上に差し出してみる。
「これでいいんじゃない? あ、でも何か日本の北方にいる精霊……コロポックルだっけ? に似てるよね。図体が違いすぎて怖いし可愛げさっぱりで気持ち悪いけど」
「……黙れ」
手を弾かれ葉っぱが落ちる。こちらを向いた髪の隙間から、睨む銀の目が見えた。
「それで、本当に何をしに来たんだ」
ヘイムダルの言葉に、ロキは肩をすくめた。
「分かってるでしょ。『従者の迎えは主自ら』って、回覧板で回ってきたじゃん」
「なら、なぜこちらに来る。ヴァラスキャルヴは逆方向だぞ」
「君のことだから、迎えに来なきゃ門から離れないんじゃないかって思ったんだよ」
『クソ真面目だからね、君は』と言ってロキはさっさと歩き出す。
ヘイムダルは溜息を吐くと、槍を壁に立てかけあとに続いてきた。
「ヴァラスキャルヴに入る前にちゃんと乾かしなよ。フッラがうるさいし、ずぶ濡れだと君の従者が驚いちゃうよ。僕も近づきたくないしね。」
「お前に近づいてもらおうとは思わないが……嫌ならお前が乾かしたらどうだ」
「無駄な魔力は使わないんで」
「お前の無駄の基準は分からん」
視界の端で、雨を防ぎながら服を乾かすヘイムダルを認め、ロキはニッと悪戯小僧のように笑った。
そして小さく、雨音に消されるほど小さく、綺麗な形の唇で呟く。
「やっと、会える」
「……何か言ったか?」
「べっつに~」
いぶかしむヘイムダルの視線をかわし、ロキは遠くに見える馬車の姿を追った。そこから感じる、なつかしい気配に目をすがめて。
ようやく、話の中心に関わる二人の登場です。
北欧神話をご存じの方なら誰もが知っているロキとヘイムダル。
片や神々の終焉を起こし、片やそれを神々に知らせる対極の役目を持つ神様。
んでもって、最終決戦もこの二人は戦ってますしね~。
よく神話の本で見る絵は、ちょっとおじさんかおじいさんに見えたりもしますが(そしてかなり筋骨隆々ですが)これは小説ですから、妄想入ってますから!
二十代半ばの美形姿で推して参りたいと思います!!