sence07
桜の花びらも散り始めた四月の中旬…台所でせっせと弁当を作る三人の女の子がいる。そもそもの始まりは先日のお菓子屋での優のこの一言から…
「今度みんなで花見しようぜ。オレは場所取りするから…よし。翔一は材料の買い出し」
「唐突だな…」
もちろん前置きなしに言われれば誰でも驚くのだが…
「じゃあ私と…あと誰呼ぶ?」
「ん〜…美咲ちゃんと唯ちゃん呼ぼうよ。たくさんいる方が楽しいし。じゃあ私達はお弁当作って来るね」
何故か乗り気の愛を尻目にやる気のない翔一。しかし後日しぶしぶ買い出しに言ったのである。
もちろんこの後会話に加わった圭介も参加することとなった。(優は反対したが…)
「これで良し。と…唯ちゃん…?」
愛の方は弁当は完成した。だが…
「あ。愛ちゃんは出来ましたか?私は…少し失敗してしまいました…」
あくまでも唯にとっては
「少し」
だろうがそれは誰が見ても大失敗の出来である。例えばだし巻き卵は見事なまでにくろこげで、おにぎりはもはやおにぎりとは呼べない形となっている。
「…愛ちゃん…やっぱり不味いかしら…」
「うーん…味が良ければ大丈夫だと思うよ…」
「ですよね。じゃあ包みましょう」
味見をせずにふろしきに包む唯を見て愛は少し苦笑いを浮かべながら今度は美咲の方を見た。
「……」
「愛ちゃん!!どう?アタシ結構料理練習したんだ!」
確かに前に美咲の家に泊まった時よりも見た目がずいぶんと良くなっている。
唯とは違い途中で味見をしていたのを愛は見たので美咲は大丈夫だなと愛は確信した。
場所は変わって飯田邸の庭先である。
「……」
「………」
「おい…」
「なんだい?」
「なんだい?じゃないだろ!なんでお前がここにいるんだ!?」
飯田邸の庭先の桜の木が並ぶ所に男の子二人がいる。
しかし何やら様子がおかしい…
「俺も呼ばれて来たんだよ?何かおかしい事をしたかな?」
「お前がここにいる事が!!それが一番おかしいし、不思議なんだよ」
「ふぅ〜…まったく…」
一週間程前のお菓子屋での一件もあり、二人の仲は最悪である。
そこに一人の男の子がやってきた。
「お〜。圭介、優、今日は天気が良くて最高だな」
「お〜、黒鳥そうだね。絶好の花見日和だ」
「桜も丁度散り際だしな……って優?どうした?桜の木に持たれかかって…」
「いや…ちょっとめまいがしただけだ…」
「気を付けろよ?」
「まぁそれなりに…」
しかし翔一にはわかっていた。明らかに優が圭介を嫌がっている事を…
(でもここまで優が圭介の事嫌がる理由がわからねぇなぁ…こいつ、いつもなら誰とでも(フレンドリーじゃなければいかん)とか言うのによ…)
「優…」
ふと翔一が優に話かけた。
「はい?」
「今日は…犬来ないと良いな…」
「まぁこの時点で来てないからな…でも弁当の匂いで来たなんて行ったら話にならねぇよな…」
「まったくだ…」
「犬って?」
もちろんこの話をしらない圭介は二人に犬の事を聞いた。そして二人は先日この家に泊まった時の事を話した。
「そしたらこいつへばって俺が荷物持ったらおもいっきり逃げやがるの!!」
「しゃーねーだろ!?オレは犬が苦手なんだ。…んで、オレが後ろ見たら犬なんていねぇ訳よ…本当はこの家で飼ってるんだけど放して無い時は犬の鳴き声を放送するらしいぞ…」
この話を聞いて圭介の顔が青くなった。
「そ、そうか…」
実は圭介も犬が苦手なのだ。そんな圭介の変化を優は見逃さなかった。
「ほぅ…お前も…犬が苦手なタチか?」
「ま、まさか…お前みたいな気弱なやつと一緒にするなよ」
「へぇ…後で試してみるか?」
「……」
「まぁまぁ二人共…そこらで辞めとけって…っとと、愛達が来たぞ」
「おーい、愛ちゃん。こっちだよ!!」
圭介に言い勝ち気分が良くなった優が愛達を呼んだ。もっとも言い勝ったと言っても優も犬嫌いなのは変わらない…
「はい、これがお花見弁当ね…あと…お母さんが来ちゃったんだけど…」
と言って愛が目を伏せる。
もちろん翔一と優は顔が青ざめる。
「本当に?」
優が口を開く。
「うん…お母さんが行きたいって聞かなくて…着いて来ちゃった…」
「まぁ…なんとかなるか…」
ここまで暗くなっている三人を見て、圭介が不思議に思い尋ねた。
「ん〜…木村さん?どうして木村さんのお母さんが来ると不味いの?」
「それは…」
愛がそこまで言った所で門から愛の母がやって来た。
その顔を見て圭介の顔も青ざめたのは言うまでも無い。
「みんな、こんにちは」
「「「……」」」
「アハハハ…」
美咲も苦笑を漏らした。
「じ、じゃあお弁当食べよう?美咲ちゃんも唯ちゃんも頑張って来たんだよ」
「そうそう!!はい。翔一くん」
愛の言葉を聞き我に返り我先にと言わんばかりに美咲が翔一の隣に座る。もちろん唯も慌ててそちらへ向かった。
「あらあら…翔君ってもてるのね」
愛の母が口を開く。
ちなみに愛のお母さん、名前は沙織で、まだ33歳、愛の事を17歳の時に産んだ。その後女手ひとつで育てたのだ。が、この話はまた…
「沙織さん!!変な事言わないでくださいよ…」
「まぁまぁ…翔一くん。照れない照れない」
「照れてねぇよ!!」
美咲が翔一をからかい、翔一は熱くなっている。それを楽しむ美咲と唯と沙織…
「…あ、優も圭介もどうぞ」
と愛が弁当の包みをほどき、二人に出す。
「お。さすがは愛ちゃん。いつも通りすばらしい」
「そうだな。高校生にしてはかなりのものだ」
と、先程までの口喧嘩はどこへ行ったのか、圭介と優が口を揃えた。
それほどまでに綺麗な出来の弁当なのだ。
「ねぇーえ…優くーん」
沙織が妙な色気を出しながら優に声をかける。
「…なんすか?木村先生…」
危険な悪感を感じた優は首だけを沙織の方へ向ける。
「お酒…ある?」
「へっ?ま、まさか…高校生は飲んじゃいけませんよ。先生!」
「本当に無いのぉ?内緒にしておくからさ。ね?」
教師がこんなもので良いのだろうか…いや、良いはずがない。
「はい…」
そう言って優は腰を上げリュックサックへと歩き重そうに持つと沙織の横に置いた。
「さっすが〜!!私はわかってたわよ」
「は、はぁ…」
すぐさま日本酒の蓋を開けコップに注ぐ沙織…
一同呆然と見ていると…
「な、何?あなた達も飲むの?」
と、聞くものだから更に開いた口が塞がらない状態になってしまった。
「じゃあ頂きます」
そう言って優は沙織の前に座り酒を注ぎ一気に飲み干した。
「おい…優…」
「へっ?」
何か悪い事をした?とでも言いそうな顔で優は翔一の方へと顔だけを向けた。
「流石にイッキ飲みは不味いぞ…」
「そうじゃないでしょ!!」
と、頭の悪い翔一の言葉に愛が突っ込む。
「…なんで?」
両隣の美咲と唯が抱きついたままであるが、さも居ないかの様な感じであしらう翔一が言う。もちろん、愛が言いたいのは高校生はお酒を飲んじゃだめ。という事だ。当たり前である。
しかしそんな女子高校生をしりめに、沙織と男子高校生はグイグイと飲むのだった。