sence06
飯田邸宿泊からしばらく経ち暖かい陽射しが眩しい桜が咲く四月となった。その中には不安がっている者、期待している者、そして翔一は…その中には不安がっている者、期待している者、そして翔一は…AM11:49
「ダァーッ!遅刻だぁー!!」
春休みの怠慢な生活を改善することが出来ずに高校生活初日から寝坊して自転車を必死にこいでいる。
PM12:02
「あ。美咲ちゃん!おはよう」
愛は丁度校門の前に立つ美咲を発見した。
「愛ちゃん。おはよ。いよいよ今日からだね。…って翔一君は?一緒に来たんじゃないの?」
本当は愛も翔一と来るつもりだったのだが翔一を起こしに行ったのだが起きようとしないので呆れて先に来たのだった。
「あはは…一応起こしに行ったんだけどさ、起きないから先に来ちゃった」
愛がそう言うと美咲はクスクスと笑った。
「まぁ中学の時も授業終わって休み時間もずっと寝てたもんね」
と美咲は言った。実は愛は小学校の3〜4年生の頃しか翔一と同じクラスではなかったのだ。
だから中学の時翔一がどのように過ごして居たかわからない。正直の所不満だった。だからこそこの高校こそは同じクラスになりたいのだ。
「あ。唯ちゃんも来たよ!おーい。唯ちゃーん」
と美咲が唯も発見し、しばらく話をした後、クラス分けの紙が張り出された所を見に行く事になった。
(翔ちゃんと一緒かな…一緒になりますように…)
愛は心の中でそう呟きクラス分けの表へと足を進めた。
PM12:20
「ふ〜…危ない危ない…っと、オレとしたことが高校初日から遅刻するところだったぜ」
と、やって来たのは優である。優はたくさんの人だかりの中に愛達を見付け足を向けた。
「みんなおはよう」
と優は三人に声を掛けたがその場の空気が凍っている。さすがの優も返事がないと少しばかり切なくなり、とりあえずクラス分けの表を見るとこにした。
(楠木優…楠木…っとあったあった。お、オレの下は黒鳥…翔も同じクラスか)
1年2組
黒鳥翔一
楠木優
(他に知り合いは……特に居ないな…って…そういうことか)
自分は翔一と同じクラスであるが他に知り合いの名前が無いことからこの娘達は違うクラスになったのか。と、理解し、とりあえずこの女の子達のクラスを見てみることにした。
(木村…木村…木村愛…あった。3組か、隣じゃん。唯ちゃんの名字ってなんだっけか…えーと…大…とりあえず大……大宮唯!あった。4組ね。最後は美咲ちゃん……飯田美咲ちゃんは5組…と)
翔一のことよりもみんなが違うクラスになったから悲しげなのかと優は更に理解し、静かにそこを離れようと一歩横に動き玄関に入ろうとした。が、誰かの肩が優の肩に当たった。
「っと…すまんな」
優は謝ったもののその誰かは優を見もせずに足早に玄関から消えて行った。
(ったく…近頃の若ぇヤツは…)
…優も若者である。
そしてPM12:25、集合五分前のチャイムがなりゾロゾロと人々は各教室へと向かった。
PM12:28
「やっと…着いた…」
翔一は自転車を全速力で走らせ学校に到着した。
息を荒らしたまま自転車小屋に自転車を停め、玄関へと急ぐ翔一。
(クラスは…?)
しばらく紙を見つめた後自分のクラスが二組だと言うことが解り、また脱兎の如く駆け出した。
(早くしないと遅刻だ)
そう思いながら内履を鞄から出そうとするも急いでいる時はなかなかうまくいかないものである。翔一は靴の片方を落とし、もう片方を投げるといわゆるスリッパ履きのまま階段を駆け上がった。
(確か…4階だったかな?)
翔一は紙に一年生は4階と書いてあった気がして更にスピードを上げて階段を上がった。
しかし階段を上がり廊下に出ると、誰もいない状態で、一組の隣の二組へと息を整えながら軽く走った。
「すみません!!遅れました」
そう言って扉を開けると色々な人の目線が翔一に突き刺さる。翔一は下を向いたまま教室に入り、キョロキョロと自分の席を探すが全て席が埋まっている。
するとこのクラスの担任と思われる人物が翔一に話しかけた。
「あ〜…一年生だよね?ここは二年の教室だよ?」
「へっ?」
廊下に一度出て上を見ると確かに二年二組と書いてある。
「失礼しました〜!!」
と、後ろを向いて言うと一気に加速し、階段を上がった。もちろんその時先程のクラスから大きな笑い声が聞こえ、更に翔一は顔を紅く染め、早く行こうと加速した。階段を登りきり、今度はクラスを確認し、翔一は教室の扉を開けた。
「すみません遅れました」
「ん…黒鳥君だね?」
担任と思われる人物が翔一に問う。もちろん、
「はい」
としか言うことができない。
「俺の席はどこですか?」
ずっと下を向いたままだった翔一はこのままだと失礼と思いしっかりと先生の目を見て聞いた。
(……)
「あ…」
「この列の一番丁度真ん中だね。あと、これ……はい。いろいろ書くのあるから忘れないようにね」
「…はい…木村…先生…」
見間違うはずがない。
ショートカットで切り揃えられた髪の毛。そして幼馴染みと良く似た顔。向の家のお母さん。愛の母親だった。
翔一がゆっくりと自分の席に足を向けた時、木村先生は翔一に声を掛けた。
「じゃあ…このホームルーム終わったら体育館行くんだけど、その前にもう一回私の所来てくれるかな?」
「はい…」
翔一としてもいろいろと聞きたい事があり、願ってもない事だった。
ゆっくりと席に着き、荷物を置くと、後ろから誰かが背中をチョンチョンと叩いた。
「優か?」
「せいか〜い。良くわかったな」
翔一は顔を机に突っ伏し、優は顎を手に乗せ、二人とも口を最小限の動きで話す。
「中学のクラス替えした後一日目も同じ事しただろ」
「…お前…記憶力良いな…」
「はい。喋らない!!」
二人が気付くと木村先生は二人の真横に立ち眺め下ろしていた。
「は、はい」
さすがに気配も何も感じれなかった翔一はびっくりし、体を跳ね上げ返事をした。優はあまり関心が無さげに時間を少し開けて、
「は〜い」
と言う。するとまたゆっくりと喋りながら先生は教壇へと戻って行った。
それからしばらく時間が経ち生徒達は廊下に名簿順に並ぶように言われゾロゾロと教室から出た。
そんな中木村先生と翔一は軽く話しているわけだが…
「あまり時間無いから質問は後にしてね」
「は、はぁ…」
「一応私教員だから、あまり…その知り合いだからって、親しくできないのよ。それで、翔一君にもちょっとよそよそしい態度をとるけどあまり気にしてないでね。って言いたかったの」
木村先生は先程の態度とは違う…いつも翔一が見ていた木村さんに戻り翔一に言った。
「でも……」
「はい。じゃあみんな待ってるから急いで並んで!」
そう言うと木村先生はそそくさと教室を後にし、廊下に並んだ生徒達の先頭に立った。
「はぁ〜…」
溜め息を一回漏らすと翔一も列へと足を進めた。
「へぇ〜…そうなんだ。知らなかったなぁ…」
「でもまさか翔ちゃんと優君がお母さんのクラスだったなんて…」
入学式を無事終え、その後解散となった二人は愛と美咲と唯を呼び学校の近くのお菓子屋(優がどこからか聞き付けた)に向かった。しかし美咲は用事があるらしく、唯は塾で三人でそのお菓子屋へと向かっているのである。
「本当に焦った…顔見た時は心臓が止まると思ったし…そういえばなんで愛は教えてくれなかったんだ?愛の母さんがこの学校勤めてるって…」
「え?あ〜…母さんって家じゃあまり仕事の事話さないの…去年までは中学の先生やってたの。翔ちゃんわかるでしょ?それで…学校変わるけど引越しは大丈夫。ってそれだけしか言わなかったから私も全然…」
「まぁ〜今年も面白くなりそうだな。翔!」
「…あまり期待しないでおくよ…」
そうこうしているうちに目的の店
「ア・ラモー」
に到着し、三人は中に入った。
店の中は白が基本色で、お菓子やケーキの入ったショーケースがあり、テーブルと座席は木をそのまま使った物であった。
翔一はそんな店の中を観察していると、愛と優はガラスケースの前に立ち、すでに何を食べようかと選んでいる様子だった。
(ったく…女って甘いもん好きって言うけど本当なんだな…)
「私は〜…ショートケーキ…と、コーヒーで」
「じゃあオレは…抹茶プリンと、このイチゴパイっていうのください」
「かしこまりました〜。お客様はどちらに致しますか?」
二人は早速決め、男の白い髭を生やしたパティシエはそれを聞き、翔一に聞いた。
「あ〜………じゃあ…とりあえずコーヒーだけで」
「はい。かしこまりました」
そう言ってショーケースの中からプリンとケーキを取り出し二人に渡すとコーヒーは少しお待ちくださいと言って店の奥へと消えて行った。
三人はあまり人の居ない店内の一番奥の席に座った。
翔一がしばらく二人のケーキを眺めていると優が口を開いた。
「……あ、翔。」
「どうした?」
「欲しいって言ってもあげないからな」
「最初から貰うつもりはないから安心しろ。それに甘いもんはあまり好きじゃないんだ」
「あ〜。翔ってそうだったんだ」
「そうなの。小さい頃からたまにお菓子作って持って行ってあげるのに翔ちゃんってちょっと甘くなると全然食べようとしないんだよ」
「だって…」
「何!?お前という奴は…愛ちゃんのお菓子を残すなんて…許されると思うのか?」
「……」
「まったく…あ、愛ちゃん。今度からオレに作って。オレはどんなに甘くてもどんなに不味くても残さないからさ」
「優君…なんかその言い方嫌…」
「今のは優が悪い」
ここぞと言わんばかりに翔一が口を開き優に反撃を開始した。もちろん優も翔一一人が相手なら問題は無いのだが愛が加わるとまったく相手にならない事をわかっておりすぐに降参した。その後コーヒーが届き、三人は談笑していたのだが…
「すみません!ちょっと煩いんで静かにしてもらえますか?」
三人と同じ制服を来た男子の高校生が三人に注意をした。もちろん愛と翔一はすまなそうな顔をして、下を向き、
「すみません」
と、言ったのだが、優はその注意をした人物の顔を見て立ち上がり口を開いた。
「お前…お前!!今朝オレと肩ぶつかったけど謝りもしなかった奴だろ!?人にそんな事言えるのかぁ?」
「……あ〜。それは君も謝っていないんじゃないのかい?そもそもあんな所に立ち止まって当たるな。なんて言えないよ。普通。」
「当たるな。なんて言ってねぇよ。当たったら謝るのが常識だろうがよ。オレは後ろ向いて謝ったんだぞ」
そんな会話を聞いて訳も解らず聞き入っていた翔一と愛の二人だが、ここでこの会話が一番迷惑だと気付き止めに入った。
「お前ら。静かにしろ。一番うるさくなってるぞ」
「そうだよ。周りの人の迷惑になってるよ…」
もちろん他の席の人は見て見ぬふりだが……
「なんなら君とは場所を変えて話し合いたいものだねぇ…」
「おぉ。オレも同感だ。今から行くか?」
この瞬間愛の中で何かが弾け、静かに口を開いた。
「ちょっと…二人共?」
「大体お前があの時謝れば…」
「もともとここでうるさくしてたのは君達だ!」
「良い加減にしなさい。二人共。優君。席に座る。貴方も。」
「「…」」
優はゆっくりと席に腰を下ろした。もちろん青年を睨み着けたままである。青年も優を睨み着けたまま愛に言われた所に座った。
「あのね。二人共。ここはどこ?」
「お菓子屋」
青年が答えた。
「そうでしょう?じゃあ貴方達はそのお菓子屋で何をしていたの?」
「口喧嘩」
今度はノロノロと優が答えた。
(あ〜あ…愛を怒らした訳だ…でも意外とこの二人合うんじゃねぇか?)
そんな二人を見て翔一は顔には出さずにそんな事を考えている。
もちろん愛は止まらない。
「なんで私が止めた時やめなかったの?」
「そ、それは…」
「「だってこいつが!!」」
(ハモってるし…)
「こいつが…じゃないでしょ!?良い加減にしないと…」
「ごめん…」
「悪かった」
愛の剣幕に青年が謝る。それに続いて優も無愛想な表情を浮かべたまま謝った。
「じゃあ二人共握手して」
「はっ?愛ちゃん?そんな事はしなくても…」
もちろんそんな事はしなくない優は首を左右に振り拒否をする。が…
「握手しないと…」
「しないと?」
「もう口聞かない!!」
優は静かに青年の方を向くと右手を静かに出した。
(愛って優を使うの上手いな…)
翔一は心からそう思った。
優と青年は握手を交わし一見落着。と思われたが…
「…」
青年は黙って愛を見ている。
「どうかしましたか?」
先程の剣幕が嘘の様な笑顔をで愛は青年に話し掛けた。
(おいおい…今更敬語を使っても…)
確かに先程あれだけ怒って今更敬語を使っても印象は変わらないだろう…
「い、いや…その…一緒に…」
「えっ?」
「一緒に座って良いですか?」
「はぁっ!?」
もちろんその青年の言葉に優はさも嫌そうな顔を作り嫌そうな声を出す。
しかし青年はそれが聞こえなかったかの様に振る舞い自分の皿を持って来て、そのまま愛と翔一の間に腰を下ろした。
「…」
優は静かに目を閉じている。
(あ〜…出たよ…優のストレス解消法…)
優は嫌な事が有ると愛の前に居るときは静かに目を閉じるのだ。翔一と居るときは愚痴を溢すのだが…
「あの…貴方の名前は…?」
おもむろに愛が口を開く。
「あっ!!すみません。俺の名は山形圭介。圭介でも山形でもお好きに呼んでください」
この青年。山形圭介は髪の毛は坊主頭をそのまま伸ばした様な感じで、凛とした眉毛とその顔立ちは昔の日本人、侍の様な感じだ。
そして何より背が低い…
先程優と圭介が並んで立っていた時は優の体格のせいもあるだろうがとにかく小さく見え、翔一は自分も並んで立つとこんな風になるのかなぁ。と少し自信がなくなった。
それほど小さいのだ。
「私は1年3組の木村愛よ。じゃあ山形君って呼ばせてもらうね」
「あ、じゃあクラス隣だね。俺は二組なんだ。よろしく」
「二組」
の部分で優の眉毛がピクリと動いたのを翔一は見逃さなかった。
「お前が二組だと?オレは信じないぞ」
「よもや…貴様も二組か?」
「ハハハハ。奇遇だな。圭介。優。俺達同じクラスらしいぞ」
このシチュエーションに堪えられずに翔一は笑い口を開く。
「あ。俺は黒鳥翔一だ。って朝遅刻したからわかるかな…とりあえずよろしく」
「あぁ。よろしく」
と、難無く翔一と圭介は握手をするもやはり優は苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
しかし30秒後愛の鋭い眼光により優は作り笑顔を作らなければなかった。
その後優と圭介の間に何か壁のようなものを感じながらも何事も無くこの場は解散された。
まだ日の短い春の夕焼けの中、帰り道がもちろん同じの翔一と愛は自転車に乗り話していた。
「ふ〜…一時はどうなるかと思ったよ…」
「そうだね。あの二人いきなり喧嘩しちゃうんだもん」
クスクスと笑いながら言う愛に翔一は
「愛が一番危なかった」
と言いそうになったが踏みとどまり苦笑いを溢した。
「まぁ…明日からもっと楽しくなるな」
「…」
翔一が笑顔で言うと愛は急に押し黙った。
「愛?どうした?」
「また翔ちゃんと違うクラスだったなぁ…ってさ」
「まぁそういう事もあるって。来年はきっと一緒だろ」
暗く言う愛に対して翔一は笑いながら言った。
「そうだよね。じゃあ……どっちが先に家に着くか勝負!!」
「はっ?あっ。おい愛!!ずるいだろ。待てって!!」
こうして高校生活が始まった。