sence01
春がゆっくりと近付く季節のある日に男の子と女の子二人は歩いていた。
「ったく…寒いのになんで俺があの野郎の家に行かなきゃ行けないんだ?間違ってるだろ。」
普通の人から見ればまずかっこいいと言われる様な男の子はそうぼやいた。
「またぁ…そうやっていつも文句言う。翔ちゃんの悪い癖だよ?」
そのぼやきに対して女の子はしっかりと言い放った。
「翔ちゃんって言うなよ…恥ずかしいから。」「良いじゃんか。昔からこうだしさ」
この翔ちゃんこと、黒鳥翔一は一緒に歩いている木村愛と幼馴染みであり家はちょうど向かえにある。翔一は一応愛にとかしなさいとは言われているのだがいつも寝癖のままである。愛の髪型はセミロングでしっかりとしたストレートでやはり誰が見てもかわいい。と言う。
「でもよ…こんなクソ寒いのになんでわざわざ出向かなきゃ行けないんだ?愛だって寒い苦手だろ?」
「寒いの苦手なのは翔ちゃんでしょう?あっ。ほら。バス来たから急がなきゃだよ!」そう言って愛はテンテンと駆け出した。
「あっ。ちょっと待てよ!」
そう言って翔一も駆け出した。
シューという音がなり、バスの扉が閉じ発車した。
「はぁ…危なかったね翔ちゃん」
「確かにな…もう少し時間にゆとりを持って来なきゃだな」
「翔ちゃんが寒いから暖まるって遅かったからでしょ!?」
「すみません…」
「分かればよろしい」
「そう言えば優の家に行くんだったらどこで降りるんだ?」
「ん〜…あと二回留まったらその次だね」
「そんな近いならやっぱり自転車で行けば…」
「だから翔ちゃんが寒いからバスが良いって行ったんでしょ!!」
と愛が言った瞬間に周りの目が急に集まり愛は顔を赤くしてうつ向いた。
「ほら。お前の声デカイから…イデデデデデッ!」
翔一が愛に追い討ちをかけようとした時後ろから翔一のお尻を女の子がつねり、さらに翔一の目を隠してこう言った。
「愛ちゃんのピンチを助けた美少女はだ〜れだ?」
「………美少女?俺の知り合いにそんな人居たっけなぁ?」
と、翔一がとぼけると、
「へ〜…翔一君はそんなにおしりをつねられるのが好きなんだ?」
「……愛、悪かったよ」
「うん。良いよ」
「そうじゃなくてアタシは?」
「美咲には関係無いだろ?……痛い痛い!って愛!!」
先程から美咲が目隠しをしているので、今度おしりをつねる事が出来るのは愛だけである。
ちなみに最初にお尻をつねった女の子…飯田美咲はこの市の市長の娘である。髪型はショートである。
プシューと音がなり目的地に着いたバス。
「さっ。愛ちゃん。こんな男は置いてさっさっと行きましょう」
「う、うん」
そう言って美咲は愛の腕を抱いてバスから降りていった。
「ちょっと待てって!!」
そう言ってトボトボと降りようとしたとき運転手が翔一に声をかけた。
「女の子達の連れさんだよね?女の子達の分も払ってね」「はぁ〜…」
そう言って翔一は三人分のバス代を払い肩を落としてバスから降りた。
「それでさぁ〜その時アイツね」
美咲と愛がいる間を翔一は歩いている。それには理由が有るのだが…
「おい…美咲」
「何?話の鼻を折らないでくれる?」
「なんで俺の腕を組んでるんだ?」
「だって…寒いでしょ?」
「寒いけど…」
「それにアタシ達カップルじゃない」
「いつから…」
「だからね。愛ちゃん。アタシはその時言ってやったのよ。」
美咲には何を言っても無駄と翔一は確信したのであった。
そうこうしているうちに
「あの野郎」
の家に到着した一行。やはり美咲は翔一に腕を組んでいるが…
「おーい。来たわよー!」
美咲がインターホンを押して言った。
機械から
「あいあい。待ってました」
と、声がして間もなく扉が開いた。「おー。来たか。待ってたぞ」
「待ってたじゃねぇだろ!寒い。お茶出せ」
「あいあい。まぁ上がって。女性お二人は?」
「アタシもお茶〜」
「私もお茶が良いわ」
「フー生き返った」
「翔はオヤジか?」
「それよりも優?なんだ?話って?大事な話って言うから来てやったんだからな?妙な話だったら…」
「わ〜ってるて!」
そもそも呼び出したこの優と言う人物。名前は楠木優大柄な体格で体格が表すように生活は大雑把で明るいし、女性に対しては優しい、誰にでも愛されるタイプである。
「で?まーくん?もったいつけないで早く言ってよ!アタシ帰るわよ?」
「まぁまぁ美咲ちゃん。そう言わないで。もうすぐ中学最後の春休みだろ?だからこの四人で旅行しよう。って言おうと思ってね。」
「確かに時間は有り余ってるけど…」
「そうだよ愛ちゃん!せっかく時間が有るんだ。もっと有効活用しなきゃ!」
「だからって…旅行って言ってもどこに?お金の問題とかも…」
「そうだぞ優!無理だ」
「う…」計画は持ち出したがやはりそこで止まってしまうのが中学生である。が…
「じゃあアタシの家に泊まるってのは?」
「へ?み、美咲!変な事言うな!」
翔一が言うのが早いか優の目がキラキラと輝きだした。
「アタシのウチ結構デカイしさぁ」
「でもうるさくて迷惑なったりしないか?」
「離れの家ですれば大丈夫じゃない?」
「決定!!」
翔一の必死の反抗も虚しく散り、待ってましたとでも言うかの様に優が手を挙げて言った。そこで愛が口を開いた。
「でも…美咲ちゃんの親許してくれるの?」
「そっ、そうだ!ダメなんじゃないか?」
愛の質問に翔一が便乗する。が…
「ダイジョーブダイジョーブ。親にならなんとでも言えるわ」
「じゃあいつにする?」
「「はぁ…」」
翔一と愛が溜め息を漏らすなか優と美咲で話は進められた。
「ところで皆…あの娘も呼んで良い?」
着々と話が進む中愛が口を開いた。
「アノ娘って?」
「ほら。唯ちゃん。おとなしい人だからね。私達と同じ高校行くのよ?覚えてる?」
「良くわからないけどオレは何人増えても良いぞ〜」
優はノリノリで言うが…
「唯…誰だそれ?本気で知らないぞ?」
「翔ちゃん。失礼だよ」
「人数増えても大丈夫よ!じゃあ唯ちゃんの連絡もよろしくネ!」
「うん!!」
唯一の味方だった愛でさえ敵になってしまったと、翔一は更にガックリと肩を降ろした。