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価値ある歌を

ファンタジーからの誘い読んだ方なら気づくかな。この話に出てくる歌は中学から書きためた作者オリジナル臭が素晴らしいよ



 飛び降りる前に

 精算だけはつけといて

 生きてきた時間の値段

 一体いくらだったのか

 いくらなら手放せるか

 君一人ならまだ良い

 でも君の命って

 みんなのもの

 一体いくらだったのか

 いくらなら手放せるか


 日が暮れたら安心

 意味のないため息

 それが一日の終わり?

 味気ないけど現実

 でも満足してるかな

 だって生きてたから

 笑って泣けたから

 まだ生きてたから


 飛び降りる前に

 確認だけは済ませといて

 満ちていた世界の夢幻

 一体いくつだったのか

 いくつだけ見られたのか

 君一人ならまだ良い

 でも人の世界って

 みんなのもの飛び降りる前に

 精算だけはつけといて

 生きてきた時間の値段

 一体いくらだったのか

 いくらなら手放せるか

 君一人ならまだ良い

 でも君の命って

 みんなのもの

 一体いくらだったのか

 いくらなら手放せるか


  「麻那ー? それ誰の歌?」

 「襟菜…立ち聞きか?」

 弦宮麻那は長い髪を押さえながら振り向いた。昼休み、突然行きたくなった屋上の、偶然空いていた鍵のお陰で、たまたま歌いたくなって歌った。

 それだけのことを、人に目撃されたと知れば、なにか気恥ずかしくなる。

 「分かった。ラヴァーズでしょ? ボーカル超カッコいいもんねー。拓様! インディーズの歌?」

 麻那はため息をついてフェンスにもたれかかる。全寮制の学校が巡り合わせたルームメイト、襟菜は軽やかに走り寄ってくる。学校中が暗黙の了解で許しているミニスカートが、ふわふわと揺れる。

 「違う」

 「え?」

 麻那はもう一度繰り返した。

 「違うよ。誰の歌でもない。駄作だよ、あたしの」

 遺伝子の掛け合わせで金が混ざる自分の髪をすきながら、襟菜を見た。2人の身長差は10センチ。若干見下ろす形となった。

 「え、ええ? ナニソレ、じゃあ麻那の作品ってこと! 凄いカッコいいっ。聴かせて」

 マシンガンのように話す彼女を制して、麻那は微笑んだ。細く長い指が揃う手で止められ、襟菜はそれを見つめた。

 「命っていくらだと思う?」

 あまりに手をじっと見つめていたので、襟菜は手が喋ったのかとすら感じた。それほどシュールな質問だったから。

 「五千億」

 「…高く出たね」

 麻那は呆れて笑った。今まで何人かに訊いたが、大抵一億が関の山で、後は茶を濁すくらいだ。だから、襟菜の堂々とした答えに拍子抜けした。

  「昔ね、映画の中で無茶苦茶な人が言ってたの。"人に価値をつけるな。その瞬間自分を見失う"って。本当は値段なんてつけらんないけど、五千億なら、偉そうな言い分でもないでしょ? あれ、なんて言おうとしたんだっけ」

 やはり彼女らしい。麻那は内側に丸くカールした襟菜の髪を撫でた。あんまり愛おしげに撫でるものだから、襟菜は赤面してしまった。

 払いのけられた手を、握られたときは麻那も驚いた。

 「麻那の手はね、綺麗なものしか触っちゃダメ!」

 自分でわかるほどに、麻那は目を見開いた。同時に強い風が2人の髪を弄び、去っていった。

 「なんだそれ…」

 苦笑してしまった。すると襟菜の顔はみるみる赤くなり、麻那の手を離すとドアに向かって駆け出した。

 パタパタたなびくスカートまでも、彼女と同じで恥ずかしくて堪らないといった様子だ。鉄の扉に手をかけてから、襟菜は言った。

 「また、聴かせてよね!」 グッと手を挙げると、彼女は花が咲くように笑ってドアに消えた。トテトテと、足音が木霊する。

 握った拳を太陽に向ける。秋の空、高い雲の下血管の浮き上がる手は色がないようで。空の前では、自分は無価値だ。

 「

 日が暮れたら安心

 意味のないため息

 それが一日の終わり?

 味気ないけど現実

 でも満足してるかな

 だって生きてたから

 笑って泣けたから

 まだ生きてたから


 飛び降りる前に

 確認だけは済ませといて

 満ちていた世界の夢幻

 一体いくつだったのか

 いくつだけ見られたのか

 君一人ならまだ良い

 でも人の世界って

 みんなのもの………」

 チャイムが鳴って、声も止まった。麻那はまた、未完成の歌を頭に抱えて、午後の授業を受けなければならなくなった。

 「一体いくつだったのか…いくつだったんだろ。まだ日本を出たこともないし、海も見てない」

 歌のフレーズを口ずさみ、呟いた。ドアに手をかけ、秋の空を見上げる。金の髪が舞うフレームの中、雲が流れてゆく。

 「五千億…か」

 悲しげに笑うと、麻那はドアを閉じた。授業は放棄だ。歌を歌おう。空に聴かせてやるんだ。五千億の価値ある歌を。

 

  始業のチャイムが鳴る。窓際の席で襟菜は頬杖をついていた。午後の始めに数学とは、ついてない。演習プリントを裏返しながら、襟菜は外に耳を傾けていた。

 何故かいない、友の歌声によく似た音が降ってきたから。

 

栗の変化が終わったら魂抜けそうだから、新作繋ぐ! 瑠衣も誠哉もでてくるよ、ねー

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