ショコラ=ド=ムーア ~メイドカフェにようこそ!~ 【シナリオ形式】
■
本当においしいお茶は、悲んでる人をも幸せな気分にしてしまいますね…(涙)…というお話。
32ページ想定ですが、僕のいつもの形式は好まないという方の絵柄でイメージ(笑)してしまったこともあって、スタイルを変え、ページ指定等はない形式でしあげました。構成も、ちょっと自然主義風。たまにはこんなシナリオも書きますが、どないだしょう?(汗)
■あらすじ
メイドカフェ「ショコラ=ド=ムーア」では、2月14日にチョコレートサービスを行いました。メイドの仕事は「ご主人さま」を癒すこと……新人メイドの理奈は、初めて会うお客さんにも一生懸命にご奉仕しています。でも、彼女自身は……?
コスチュームは、伝統的なメイド姿を推奨ではありますけど、たとえばチャイナメイドとか猫耳メイドとか絵師さんの描きたいスタイルでもOKです(極度の違和感がなければ;)。
■人物
理奈:成田理奈。ちょっとお調子者。主人公メイド(笑)風。困ると
「はうう」とつぶやいてしまう癖がある。
若枝:江川若枝。三人のうちのリーダー格。お姉さん?メイド風。
瞳:水戸瞳。無表情で醒めた雰囲気、ヤンデレメイド風。
弥美子:小宮山弥美子、調理係。
客たち
達哉:(たつや)。暗い雰囲気の客。仮名です。呼び名が多いとまぎらわしくなるため、
物語中に名前は出ません。暗い感じの二枚目にお願いします。
彰則:(あきのり)。若い店長。同じく仮名、物語中に名前は出ません。こっちは明るい
男にお願いします。
○従業員口
バタバタ……と店に駆け込んでくる、コート姿の理奈。胸に、はなやかな模様で
リボンのついた紙袋を抱いている。
理奈「ぎっ、ぎりぎりセーフっ!?」
○更衣室
振り向いた若枝、メイド姿で、3人の中では仕切り役。すでにスタンバイ中。
名札に「江川若枝」の文字。
若枝「成田里奈さん、遅刻!」
理奈、時計を見て
理奈「はうう……でも開店時間にはまだ少し……」
若枝「じゃ、30秒で着替えなさい! 開店前にも準備ってものがあるのよ!」
若枝、立ち去りながらぶつぶつ
若枝「ったく、店長が休みだからって……」
理奈(心の声)「え!」
理奈、ためいき。
理奈(心の声)「そっか……やっぱり休みなんだ」
T (題名)
○店内、開店前
若枝「さて、本日は2月14日……」
若枝は、瞳と理奈を前にあらたまった態度。それぞれメイド服で名札を付けて
いる。「成田理奈」と「水戸瞳」。
若枝「お客様におしぼりをお出しする時、これを一個ずつサービスしてください」
「何か尋かれたら「聖バレンタインデーおめでとうございます」と」
若枝の示すテーブルに山盛りの、リボンをかけられた小さな義理チョコの山。
その横で弥美子がせっせと包みを作っている。調理服で名札は「小宮山弥美子」。
理奈(唖然と観ながら)「サービス、ですか……」
瞳(冷静に)「で、若枝さんの本音は?」
若枝(夢見る表情で)「カレシ持ちはそろって休み。私たちだって、気分だけでも……」
(振り向き)「……って、何 言わすんじゃ!」
瞳(理奈に小声)「うまくすれば一人くらい釣れるかも、って?」
若枝「ちがう! メイドカフェはお客様に癒されていただいくためのお店でしょ!」
理奈「わぁ、若枝さんてば、プロ意識!」
若枝、理奈のこめかみを拳でグリグリ押し込みながら
若枝「給金を貰ってる以上、あ・ん・た・も・プ・ロ・なの#」
理奈(涙)「は、はうう……」
声「ともあれ、ショコラ=ド=ムーア(荒野のチョコレート)、本日も開店!」
○店の出入り口、営業中
カラン、とドアベルの音がして、客A+B+Cが入ってくる
理奈「お帰りなさいませご主人さま~☆」
○店内、営業中
おしぼりを使う客たちの前に理奈、小さな包みを置く。
客A「ん? これは?」
理奈「聖バレンタインデーおめでとうございます☆」
客A+B+C、どよっ!?
客C(半泣き)「おおっ、理奈ちゃんに義理チョコ貰えるとは!」
客B「しかも微妙に手作りっぽくね!?」
客A「一生、宝物にする!」
理奈(汗笑)「いえ、食べてください、賞味期限のうちに」
後ろでは、別のテーブルに瞳が無表情で
瞳「ご主人さま、野菜ピラフでござりやがります」
書き文字(客D):「やがります!?」
書き文字(客E):「でも瞳ちゃんはそこがいい」
○調理場
理奈、空きトレーを手に戻って来て
理奈「小宮山さんの手作りチョコ、評判いい感じですよ」
弥美子、無視して「業務用カレー」と書かれたレトルトパウチを皿にぶちまけ
弥美子「5番さんの「ひと手間かけたメイドさんカレー」です」
瞳、トレーに載せたカレーを見つめながら
瞳「…これが「ひと手間かけたカレー」ってのは、どうも納得いかない」
弥美子「かけてますよ? 温めて袋を開けた後、粉チーズやコリアンダーを振ってる
もん」「「手作り」とまでは言ってないし」
理奈(汗笑)「気分だけ出せれば、ってこと?」
(瞳はすでに出ていってこの場に居ない)
若枝「どこでもやってることよ」「シティホテルのレストランだって、実は缶詰や
レトルトを温めて皿に並べただけってところもあるんだから」
うしろで、電子レンジがチン!と音を立てる。
理奈「でも……せめて」
戸惑い顔を見せた理奈に、
若枝は腕を組んで詰め寄り
若枝「ほう……チョコレートの湯煎でさえ悲惨な結果となるあなたに、業務用より
美味しいカレー粉の調合ができると?」
理奈(汗)「はうう……ごめんなさい」
理奈、ごまかすようにちらりと横目して
理奈「ま、食べ物はイイカゲンでも……」
コーヒーポット、サイフォン、エスプレッソマシン、和急須、洋風茶器、
ミキサーなどさまざまな器具と、山のような果物や野菜が。
理奈「飲み物には異様に凝ってますよね、このお店」(汗)
若枝、塩昆布の大袋とトマトを手に
若枝「店長の方針でね」「ティーバッグや既製品を徹底排除というこだわりは、ホント
凄いと思う」(汗)
書き文字:昆布茶やトマトジュースまで……
後ろでは棚にも、さまざまなラベルのお茶やコーヒーの缶が。
理奈、なんとなく嬉しそう。
若枝の後ろでは瞳が空きトレーと伝票を手に戻って来て
瞳「5番のご主人さま。ダージリン・いち、モカブレ・いち、シュークリーム・に」
○店内、営業中
カランカラン、と音。
理奈、空きカップや皿をトレーに載せて運びながら振り向いて
理奈(ちょっと疲れてきてるけど笑顔)「お帰りなさいませ~☆」
店内はなかなかの盛況になっている。
○調理場
弥美子、調理しながらカウンターごしに、かなり減ってきたチョコレートの
テーブルを横目で見て
弥美子「義理チョコ、足りるかな?」
声「行ってらっしゃいませご主人さま~」「お帰りなさいませ~」
ドアベルの音もしてる。(環境描写)
○店内、営業中
席についてメニューを見てるのは達哉(仮名)。なんとなく暗い表情。
理奈、おしぼりと義理チョコを置く。
達哉「ちょっと」
達哉、メニューを指差しながら
達哉「なに、この「宇治茶 \1000(税込)」って」「緑茶だろ、ボリすぎじゃないか?」
理奈(胸を張り)「それはですね」(書き文字:「え~と」)「きょ、京都の農家直送の、
特選の玉露を使った、手間をかけた緑茶でして」(書き文字:「棒読み」)
達哉(馬鹿にしたような表情でメニュー見ながら)「ふ~ん」「じゃ、それ、貰おうか」
理奈の声「2番のご主人さま、宇治茶・いち~」
○調理場
瞳「玉露を1杯だけ入れるのは難しいんだってば……」
弥美子「多めに作らないと失敗するから…けっきょく無駄になっちゃうのよね」
瞳、温度計を手に、ショットグラスのような小さなカップと急須をボウルに入れ
瞳「とりあえず3杯分」「まず小さめの器と素焼きの急須を、50℃のお湯に漬けて温め」
ティースプーンに山盛りの葉を急須に。
瞳の声「お茶っ葉は8g……このスプーンだと3杯」「ちなみに、8gで仕入原価\400」
声「レギュラーコーヒーの20倍~!?(汗)」
瞳「その代わり、7~8回入れられるけども」書き文字:「プライベート用なら」
ティーポットにお湯を注ぐ。
瞳「お湯は40℃以上50℃未満、分量はきっかり60cc」「外気に触れて温度が下がるから
計算して用意すること」「なお無農薬でない場合、一番茶は洗浄と割り切って捨て、
二回目以降を飲む」「後のものほど温度を高くする」
瞳、目を近づけて急須を凝視。
瞳「ひたひたになるくらいにお湯を入れて、葉っぱが開くまでおよそ2分30秒」
瞳の後ろ姿、急須をジッとみつめながらぶつぶつと。
側で弥美子がバナナの皮を剥いてる。
瞳(違うフォントで)「…子供たちに呼びかけ、『私たちが笛を吹いたのにあなたたちは
踊ってくれなかった、弔いの歌を歌ったのに泣いてくれなかった』と、言うのに似て
いる。なぜならパプテスマのヨハネが……」
理奈(汗)「水戸さん……呪文ですか?」
弥美子(ミキサーに氷をぶちまけながら)「2分半を測るのに聖書の一節を暗誦してるの」
書き文字:「マタイ11だかルカ7だか」
理奈「み、みなさんもやってるんですか?」
ガガガッと、弥美子が操作するミキサーにクラッシュ音。
弥美子(ミキサーを操作しながら)「私は歌。店長は歌舞伎のセリフをつぶやいてた」
書き文字:「京の生ダラ奈良生マナガツオ、お茶立ちょ茶立ちょ、ちゃっと立ちょ
茶立ちょ…」
理奈「現代人なんだから時計で測ってくださいッ!」
弥美子(冷静に)「はい、3番さんのバナナシェイク」
○店内、営業中
理奈「お待たせしました、ご主人さま☆」
達哉(不機嫌)「緑茶一杯に、ずいぶん待たせるな」
達哉、理奈がテーブルに置いた小さなカップを観て
達哉「なにこの小っさい湯飲み? これで\1000?」
理奈(愛想笑い)「玉露はこのくらいの器がいちばん美味しい……んだそうです」
若枝、理奈たちの様子にふと気がついて、
心配そうに理奈を押しのけ
若枝「ご主人さま、玉露の味わい方をご存知ですか?」「まず半分ほど口に含んで、
舌の上で転がすように……」
達哉「茶ァくらい好きに飲ませろ!」
イッキしてしまう。
が、達哉、カップを見つめながら、何か考えこむように溜息。
達哉「…………」
それから理奈の方を向き、
達哉「……おかわりしたらまた\1000?」
理奈(愛想笑い)「いえ」「玉露はいちどに3杯ずつ作らざるをえないので、3杯目
までおかわり無料なんです♪」
○カウンター内、営業中
理奈「2番のご主人さま、宇治茶おかわり~」
弥美子「はーい」
とぽっ、とぽっ、とぽっ、……と、かなり低いところで、少しずつ注いでいる。
理奈「急須ってさ、高いところから注ぐんじゃないの?」
弥美子「それは、熱湯で入れて注ぎながら冷ます烏龍茶などの場合です」「玉露は
最初からぬるく入れるから」
最後の一滴が器に落ちる。
弥美子「はい、あがり」
理奈「あ、最後の一滴ですね♪」
若枝(理奈に)「なんだかんだかんだ言って、成田さんも憶えてきたわね」
理奈「そりゃ、毎日、お茶を出してれば……」
若枝「心を込めた美味しいお茶をご主人さまに出すのはメイドの基本、プロの心得!」
理奈、カップを載せたトレーを前に持ちながら
理奈(半泣き)「うう……将来、わたしはプロのメイドにならいといけないんでしょ
うか?」
書き文字:ただのバイトなのに
○店内、営業中
理奈「お待たせしました、ご主人さま☆」
達哉「…………。」
達哉、湯飲みを手にして見つめてながら、
達哉「……」「半分を舌の上で転がすんだっけ?」
理奈「え?」
理奈、あわてて説明。
理奈「あ、はい。まず香りと舌ざわりを楽しんでから、ゆっくりとおあがりください」
達哉、くいっとお茶を口に含む。
達哉「……」
達哉、口に含んだまま驚いた表情。
達哉、目をつぶって。
達哉「う……」(感動してる)
理奈「あの……何か?」
達哉「いや、なんでもない」
達哉、がさがさと包みを開き、
中のチョコレートを口にほうり込む。
達哉「うう……」
達哉、さらに感動し、涙ぐんでいる。
理奈「あの…」
達哉「なんでもないってば!」「3杯まで同額なんだろ、もう一杯くれ」
○カウンター内、営業中
理奈、空のカップを渡しながら
理奈「どうしたんでしょうね、あのご主人?」
若枝「さあ? 一見さんだし、ここには変わった人がよく来るから」
瞳「最古参の店員が変な人だから」
若枝「そうそう、類は友を……」「って、何 言わすんじゃ!」
○店内、営業中
3杯目を飲んでる達哉。
達哉「う……うっ……!」
ボロボロと涙をこぼし出す。
理奈(心配そうに)「あの……」
達哉「何でもない! ほっといてくれ!」
理奈、後ろ髪を引かれるように振り返りながら、トレーを手に離れる。
達哉、前に置いたカップを見つめながら、拳を握り締めて肩を震わせ、
泣いている。
理奈、振り替えっていつまでも見ている。
○レジ
若枝「\1000ちょうどになりまーす☆」
少し赤い顔の達哉、レジに立ってる。ちょうど通りかかった理奈に
達哉「あ……」
理奈、達哉の声に気がつく。
達哉「さっきは悪かった。美味かったよ、お茶……チョコレートも」
理奈、思わず「ぱあっ」と、音がするほどの笑顔。
理奈「ありがとうございます!」
達哉、照れくさそうに軽く手を振って出ていく。
理奈「行ってらっしゃいませ、ご主人さま!」
と、その背中に頭を下げる。
○店内、営業中
理奈「♪」
2番テーブルを片づけてる、上機嫌の理奈。
理奈「あ? 忘れ物……」
床に落ちていたのはひとつの封筒。小さく「遺書」と書いてある。
理奈「!!」Σ(☆o☆;
○店の前
理奈、封筒を握り締めて飛び出す。
ガランガラン、とドアベルが鳴る。
○通り
それなりに人通りのある道。
理奈「いたっ!」「ご主人さまーっ!」
こんどは達哉が「Σ(☆_☆;)」
達哉「さっきの……」書き文字:「町なかでハズカシイッ!」
理奈(息を弾ませて)「わ、忘れ物です」
封筒を差し出す。
達哉「あ……」
理奈、本気で心配し、泣きそうな顔で思わず達哉にしがみつく。
理奈「あ……あの……本気なんですか、これ!?」
達哉「あ……うん」「死ぬ前に、もういちどお茶でも飲んどこうと」
理奈「!」
達哉「でも……」
達哉、封筒を破って
達哉「あのお茶とチョコレートの味が喉の奥に広がって……少しくらい辛いことがあっ
ても、また飲みたいって思った」「できれば、あんたの給仕で」
理奈「はうっ!?」
達哉、照れ笑いして視線を逸らしつつ
達哉「……いいかな?」
里奈も、顔を赤らめながらも笑顔となり
理奈「……はい」「お待ちしてます、ご主人さま!」
○夕方から夜へ
(時間経過)
○店内、営業中
弥美子「チョコ、終っちゃいましたか」
若枝「客足も途絶えたし、早めに閉めちゃおうか?」
弥美子「義理チョコサービス、けっこう盛り上がってましたね」
若枝「成田さんのファンも、着実に増えてきて……」
若枝、言いながら、隅でテーブルを拭いてる理奈に気がつく。少し沈んだ感じ。
その横から、スッとトレーが出てくる。カップが載っている。
若枝「疲れた? ちょっとティーブレイクしない?」書き文字:五番の宇治茶☆
理奈「いただきます」
受け取った理奈は、立ったまますする。
理奈「……」
理奈、思わず涙ぐんでしまう。
理奈「なんだか……感動する味」
若枝「最上の材料で心を込めて丁寧に作った飲み物は、涙腺をゆるくするんだよね。
緑茶でもコーヒーでも、トマトジュースとかでも」
若枝も味わっている。
理奈「い、いえ、なんていうか……」
理奈、涙を拭きながら笑って
理奈「悩みがあったはずなのに、幸せな、希望が湧くような気もしてきて」
若枝「……お客さんにもそういうお茶を出さなきゃね」
と、とつぜん、カランカラン、とドアベル音。
若枝「あっ、お帰りなさ……」
○店の出入り口、夜
入って来たのは店長の彰則(仮名)。長身でちょっとワル?風な雰囲気もある二枚目。
声「店長?」
彰則「や、今日は客だから。彼女を送った帰りに寄ってみただけ」「アールグレイでも
頼む」
理奈、驚いて目を見開き、顔が真っ赤。
○店内、営業中
理奈「お、お帰りなさいませ、ご主人さま」
理奈、変に緊張しながらおしぼりと、紙袋(冒頭で抱いていたもの)を置く。
彰則「?」「これは?」
理奈「せ、聖バレンタインデーですから、お客さんにサービスです」
彰則「……こんなのを全員に!?」
開けると、中身は本命用のチョコレート。
理奈(慌てて)「いえ、お客さんには小さい義理チョコでした」「これは、その……」
理奈、顔を真っ赤にして
理奈「わ、わたっ……」
彰則「?」
目をつぶって思いっきり
理奈「わたっ…わたっ…わたし!」「……ったちから、店長にっ!」
彰則「……そうなんだ。ありがとう!」「それにしてもすっごい豪華……」
理奈、開き直った笑顔。(ただし微妙に引きつってる)
理奈「えへへー。彼女さんに負けないようにって、「みんなで」がんばっちゃいまし
た☆」
彰則「たしかにこっちの方が凄い……こりゃ、来月の14日が恐いな」(苦笑)
理奈「ふふふ☆」
弥美子「理奈ちゃん、アールグレイあがり」
理奈「あ、今行きます」
理奈、離れる。
○調理場
理奈、真っ赤な顔を、抱きしめたトレーで隠してる。はあっ、はあっ、と息が
荒い。「きゃーっ☆」という感じの照れ全開でトレイを抱きしめてる。
と、その後ろから、
声「「わたしたち」ねえ……」
後ろで若枝と弥美子がニヤニヤ。(瞳は無表情)
若枝「私、何も聞いてなかったんですけど?」
弥美子「こっちも初耳」
理奈(真っ赤でパニック)「は、はう、はうう……」
若枝「ま、いっか。渡せただけでもスッキリしたんじゃない?」
理奈「はい……まあ」
若枝「これで、店長の心に成田理奈が1ページ」
弥美子「そして、今の女とトラブったりしたら次は確実に……」
理奈(慌てて)「そ、そんなつもりありませんてば! 店長の不幸を祈ったりなんて、
わたし……」
若枝「でもちょっとは別れて欲しいんじゃ?」
理奈(うっとりした表情)「まあほんのちょっとは……」(怒)「って、何 言わせるんで
すか!!」
弥美子、苦笑いして理奈の頭をくしゃっと撫でて
弥美子「かわいいよね、…理奈ちゃんて」
理奈(赤くなって半泣き)「はうう……」
くすくす笑う、若枝と弥美子。
若枝「聖バレンタインデー、おめでとう」
理奈「あ、はい……」
一瞬驚くけれど、
理奈(笑顔で)「おめでとうございます」
んが、瞳はさめた目で
瞳「……権力者に禁じられた結婚式を強行した司祭の処刑された日で、仏教徒にとっ
ても釈迦牟尼の命日の前日」「それの何がめでたいんでしょう?」
若枝「いいんだってば、お祝いの理由なんか口実で!」「楽しければ、それでいいの!」
理奈、ぷっと吹き出してしまう。
声「じゃ、お先ー。おアイソはこちらに!」
理奈「あ! ありがとうござい……」
○店の出入り口、夜
彰則「お?」
トレーを胸に飛び出してきた理奈と、顔が接近。
理奈「ま…した……」
彰則の腕にはさっきの紙袋が畳まれて抱かれている。
理奈、にっこり笑う。
理奈「行ってらっしゃいませ、ご主人さま~☆」
理奈はトレーを胸に抱いたまま、笑顔で彰則を送り出した。
~~~ 終